人の波が右へ左へうごめく中央市場はスリにとって格好の稼ぎ場である。友人や店員、あるいは商品に意識を集中させている者のポケットやバッグから金品を盗み出す作業は素人が思うほど難しくはない。今日も一人のスリが女性のバッグに狙いを定め、手を伸ばしている所だった。
その手を鍛え上げられた別の手がつかみ、ぎりっと握力を加えた。
「ぎゃあ!」
尋常でない握力に彼は悲鳴を上げる。冗談ではなく潰れてしまう。
スリがその手の主を見ると性悪そうな顔に驚きと後悔が浮かんだ。
顔と実力は誰もが知る帝国最強の騎士の一人ニンブル・アーク・デイル・アノックであったからだ。こんな雑踏でなければ必ず気づき、近寄らなかっただろう。
「なんであんたがこんな場所に……!」
スリの質問に美男の騎士は答えず、相応しい言葉を送った。
「クズめ。こいつを連れて行け」
男がそう命じると傍にいたもう一人の男がスリの首根っこを捕まえ、連れて行った。
はあ、と男は息を吐く。
「申し訳ありません。帝都は治安がよいのですが、こういった場所は人が多すぎて騎士の巡回が間に合わないのです」
「構いません」
美しい声がニンブルの鼓膜を揺すった。
その相手は彼が見たどんな女性より美しく、また、妖しい雰囲気をまとっていた。
後ろから見るだけでも凹凸がはっきりした体と黄金のような髪にどんな美女かと確かめたくなるだろう。そして、神々が作り上げたような美貌を見てこの世のどんな男も彼女のためなら財産をすべて投げ出し、人も殺すと誓うはずだ。
「感謝します、ニンブル・アーク・デイル・アノック様」
「アノックで結構ですよ、ソリュシャン・イプシロン様」
彼はソリュシャンとその隣にいるメイド、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータに微笑んだ。
他国からやってきた単なるメイドにフルネームで様付けなどありえないが、相手もその国も普通でないのだから仕方がない。しかも相手がやめるよう言ってこない。
「私如きが貴方の護衛を務めるなど滑稽だと思われるでしょうが、これは陛下から私への厳命です。ご容赦ください」
「私如きなどとご謙遜を。恐縮ですわ」
ソリュシャンは妖艶に微笑んで言った。
(自分が強いことは否定しないか……)
ニンブルは脳内のノートにその事を書き留めた。
4騎士の一人"雷光"バジウッドが言うには、彼がナザリックで出会った時、メイド達からはデスナイト以上の強者の雰囲気を感じたらしい。普通なら一笑に付すことだが、命のやり取りを繰り返した戦士の勘はどんな理屈よりも当てになる。ニンブルはこのメイド達が強いとほぼ断定していた。だが、論理的根拠を得たことで緊張が増す。
「本当にこちらでよろしいのでしょうか?帝国魔法学院や歴史館などをご覧になりたいのでしたら仰ってください。本来は手続きが必要ですが、お二人なら不要です」
「いえ、こちらで結構です」
ソリュシャンは丁重に断った。
手続き省略によって貸しを作ることが嫌なのかと彼は思う。外交官だったら当然警戒することだ。些細なことでも金銭的援助や政治的援助を受けて相手に貸しを作ると後の交渉で「あの時に助けてあげただろう?」と言い出される。
「どこかご覧になりたい物がありますか?宝石類や貴金属を売る店ならご案内します」
ニンブルは聞いてみる。そういう高級品は市場ではなく一見の客など入れない店にあり、たいていは客のほうから商人を呼び付ける、などとは言わない。とにかく二人を中央市場から引き離したいからだ。先ほどのスリもそうだが、雑踏の中では警備が難しい。
「いえ、具体的には。このまま適当に歩くだけでも楽しいですわよ。ねえ、エントマ?」
「はい、楽しいですぅ」
エントマは表情こそ変わらないが楽しそうな声で言った。
ソリュシャンとエントマは優雅に歩き出し、ニンブルとその部下たちは周囲に警戒しながらついてゆく。
(いったい何が目的なんだ?)
彼は周囲を警戒しながらも二人の会話や仕草を真剣に観察する。
ニンブルは必死だった。自分の仕事が護衛というのは建前で、実質的には外交であり諜報であり監視なのだから。魔導国が二人を"観光"に行かせた目的を考えねばならない。
話は1時間ほど遡る。
帝都の検問をしていた騎士たちは余にも美しい美女二人がふらりと徒歩でやってきたことでまず警戒した。最も近い都市からでも徒歩で移動する者などおらず、女性二人というのは尚更ありえない。彼女たちが魔導国から来たことを伝えると一人の魔術師がメッセージの魔法で帝城に連絡し、誤報でないことを証明するために騎士が馬を走らせた。魔導国の関係者やその疑いがある者を見かけたら即刻報告しろと厳命されていたからだ。
帝城では皇帝と側近たちがテーブルを囲み、「観光目的で来ました」と言ってやって来たメイドたちの真の目的について論を交わしていた。
「裏の裏を書いて誰かと会う可能性を忘れるべきでないだろう?」
「それなら密入国しているはずだ。ドラゴンの一件でこの国の防衛機能は通じないと証明されているからな。おっと、皇室空護兵団を批判するわけでないぞ」
「騒ぎを起こしてこちらの責任問題にする可能性は?」
「大いにありうる」
「二人のメイドは陽動で、別働隊がいるかもしれません」
「陽動ならもっと人手のかかる事をするはずだ」
「とにかく監視する者を送りましょう。そのメイドと接触して情報を引き出すべきです。可能なら褒美をちらつかせて勧誘し……」
「それこそが狙いなのでは?こちらに偽情報を送るか二重スパイになるつもりで……」
「ならばなおさらだ。魔導国の情報が少なすぎる。嘘でも分析すればいい」
「同意する。3重スパイに仕立てることも可能だ」
側近たちが論を交わしているのを皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは眺める。
彼が選んだ優秀な部下たちであり、発言にもなかなか意味がある。こちらがメイドに接触することが狙いだという発言を彼は支持する。相手はわざわざ検問で身分を知らせ、自分たちがここに集まって討論することを予想しているはずだ。そして、こちらがそれに気づくことも予想している。では、こちらはその先を予想するか?しかし、相手もその先を予想しているはずで、ならばさらにその先を…………。
切りがない。考えるほどに思考の迷路に入ってゆく。
(揺るぎない事実を踏まえるべきだ。魔導国は帝国と同盟を結んだばかりで、今すぐ滅ぼす気はない。軍事的にも他の観点からもすでに圧倒的に有利なのだからこちらを陥れる必要はない。メイドへの対応を見たいのか?)
ジルクニフは考える。普通に考えれば未知の国の内情にそれなりに詳しいであろう人物がやってくれば誰でも接触したがる。相手に軍事力がないなら違法な行為に誘導して逮捕する手さえ考慮するだろう。無論、魔導国にそんな真似はできない。では、何もしなければよいか?それも悪手だ。こちらが臆病者か無能と思われかねない。突然やってきた「餌」に欲張らず恐れず対応できるかをアインズ・ウール・ゴウンは確かめているのかもしれない。ならば、ならば絶妙な加減をとって帝国の有能さを見せるべきだ。有能な駒と思わせれば簡単には捨てられない。
(賓客なら私が対応するのだが……クソ)
ジルクニフは悪態代わりに手を強く握る。相手が外交官の類なら城に招いて接待し、いくつも異性や品を見せて欲を刺激したり、酒を交わしながら密談もできるが、相手はただのメイドだ。しかも観光で来たと言っているので皇帝や側近は出られない。身分を隠して接触するのは露骨すぎて無能を曝すことになる。
かといって、下級役人では話にならない。ナザリックで出会ったメイド、ユリ・アルファと同じくらいの美貌を持つ彼女達もアインズの寵愛を受けている可能性はある。ダークエルフの双子たちや側近ほどの権力はないだろうが、低からぬ立場であるはずだ。人間でないという話だが、近種族か、少なくとも人間に近い思考を持っているのは間違いない(でなければ人間の接客などできない)。十分に話の通じる相手を放っておく手はない。
「接触するのは当然だ。問題は誰がやるかだ」
ジルクニフの発言に周囲は一瞬静かになり、それぞれが候補になりそうな名前をあげる。
しかし、彼は別の名前を呼んだ。
「"激風"。困難な仕事は好きか?」
「はい!私が大好きなものです!」
激風ことニンブル・アーク・デイル・アノックは迷わず応じた。他の部下がいる手前で躊躇や怯えなど見せられない。しかし、内心は動揺していた。自分は戦いだけが取り柄の男ではないが、それでも謀略が格段に上手いわけではない。皇帝の前にいる高官たちのほうが得意だろう。だが、皇帝が彼を呼ぶ以上それが最善手であることを疑わない。
「部下を5人連れてソリュシャン・イプシロン嬢を護衛しろ。騎士4人、魔術師1人だ。もちろんエントマという女性もお守りしろ。どのような性格かわからないが、繊細な人物なら"それに応じた対応"をとれ」
情報を得るのはソリュシャンを優先しろ、ただしエントマが御しやすい性格なら標的を切り替えろという意味だとニンブルは理解した。なるほどと彼は思う。護衛という建前ならあちらも断る理由はないはずだ。断ったら特別な任務があるということで、別の監視手段をとればよい。皇帝を守る4騎士の一人がメイドを護衛するなど本来ありえないが、それだけ魔導国を重要視しているといえば相手も悪い気はしないだろう。
「畏まりました!」
「これを貸してやる」
ジルクニフはジャラリと音を立てて一つの装飾品を投げて寄越した。
「これは……!」
ニンブルが受け取ったのは精神系魔法を無効化するメダルだった。皇帝を守る重要な品であり、誰かに貸し出したことはない。
「よろしいのですか?相手の狙いがそこである可能性も……」
「わかっている」
ジルクニフは忌々しそうに言った。
「だが、なんの危険も冒さない者は何もできない。二人の"護衛"をしっかり頼むぞ」
「は!」
ニンブルは自分に任された仕事を考える。護衛はもちろんだが、二人のメイドからできるかぎり多くの情報を引き出し、貸しを作り、可能ならこちらの陣営に引き込む。そんなところだろう。直接の指示を出さないのは魔法で尋問された時のためだ。皇帝から貸与された首飾りは精神系魔法を無効化するが、力ずくで外されたら終わりである。あのメイド達ならそれが可能なはずだ。
「陛下の護衛は任せろ。そっちもしっかりやれよ」
戦闘以外が不得意な4騎士"雷光"バジウッドが鼓舞する。
「わかっている」
困難な任務だがやるしかないとニンブルは腹をくくった。
「あまり肩に力を入れ過ぎるな」
ジルクニフが忠告する。
「成功するものもしなくなる。一応言っておくが、あのメイドに惚れた惚れられたなどという展開は勘弁してくれよ?私は卒倒するぞ」
その冗談に部屋は軽い笑いに包まれ、少しだけ朗らかな雰囲気になった。
こういう部分も皇帝の素晴らしい能力だとニンブルは思った。だが、同時に彼はジルクニフの冷たい目が告げる裏の意味にも気づいた。あの美人に誘惑されるなという忠告。そして可能なら誘惑しろという命令だ。色はいつでも武器になる。
ニンブルは任務の難易度を最上位に設定した。
"激風"ニンブル・アーク・デイル・アノックは皇帝の忠告を軽んじていたと痛感した。任務の難易度は最上位どころではなかった。二人のメイドは普通の観光客のように店を回っているが、その美貌で周囲の男たちは老人も子供も恍惚状態になってゆく。弦楽器を鳴らして美に関する歌を歌っていた吟遊詩人は彼女たちを見て何も歌えなくなった。女も同じであり、時折、人生でいくつも賞賛を浴びてきただろう普通の美女達が敗北感に打ちのめされる。ニンブルも恍惚になる男たちの一人になる寸前だった。
彼は結婚していない。身分ゆえに美しい花嫁候補は無数にいるし、独身にこだわっているわけではないが、この人こそと思える相手に会えないのだ。そんな男もあれら美の極地を見ていると変な魔法にかかりそうになる。特に、無表情のエントマと違い、ソリュシャンという女は官能的な微笑みが凹凸ある体と相まって男の本能を強烈に刺激している。
(表情豊かなソリュシャンの方が心を読みやすいから彼女を優先しろと陛下は判断されたのだろうな。確かにそうだが、これほど妖艶な女は初めてだ……。いかん!あれらは人間ではないぞ!)
彼は首を振る。
「どうかなさいましたか?」
ソリュシャンが聞いた。その瞳に彼は吸い込まれそうになる。
「いいえ、なんでもありません。何も買われていないようですが、帝都の品ではお気に召すものはありませんか?より高級な品でしたら店を知っていますが、さすがにゴウン陛下のお屋敷の品々と比べれば石ころのようなものでして……」
彼は全くの真実を言う。帝国のどんな宝物もあれらには及ばない。
「いいえ、この市場も十分に楽しいですわ」
「そうですか。よろしければ、あれらの美術品はどちらで手に入れられたのか教えていただけませんか?」
ニンブルは恐る恐る世間話を兼ねた探りを入れてみる。
「遠いところから、ですわよ」
彼女は微笑みと共に言った。
「そうですか」
(話す気はなしか)
彼は別の話題を投げてみることにした。
「ところで、ロウネ・ヴァリミネンはそちらで上手くやっていますか?」
「あら?ヴァミリネン様ではなかったのですか?」
彼女は不思議そうに言った。
「あっ!申し訳ありません!ヴァリミネンという名前の高官もいまして、よく混同するのです」
彼は恥ずかしそうな顔を作って言った。
「そうですか。ふふ。確かに紛らわしい名前ですわね」
彼女は楽しそうに笑った。
(頭の良いメイドだな……)
ニンブルはそう思った。今、彼はわざと名前を間違えた。皇帝にかつて聞かされた性格分析法だ。相手が知っている事のうち細かな部分をわざと間違え、相手が間違いを訂正すれば記憶力がよく、神経質な性格かもしれない。訂正しなければ記憶力が悪いか、大雑把、あるいは知ったかぶりをする性格だ。
(あの王が馬鹿を寄越すはずがないか。当然だが、これでは情報を引き出すのは難しいな)
「ヴァミリネン様は良い仕事をされていますわ。ご心配なく」
ソリュシャンはそう言ったが、良い仕事の意味を考えてニンブルは陰鬱になった。
彼がその話題を続けるか次の話題に移るか迷っていると、ソリュシャンが先に口を開いた。
「あら、良い匂いがしますわね」
ソリュシャンは美しい鼻梁を少し上げる。姫君が庭園の花を香るような仕草で周囲の男達は恍惚となる。だが、実際には果物とパンの匂い、そして油と肉の焼ける匂いが混ぜこぜになって漂い、かなり胃の腑を刺激するものだった。
「ここからは食料品が多く売られています」
ニンブルの言ったとおり、食料品が多く売られている区画に彼らは入っていた。熟れた果実や野菜、焼かれた肉や魚、焼いたばかりのパン、それを使った惣菜があちこちに並び、売り子や店主が威勢よく呼び込みをしていた。
「いかがでしょう?ナザリック地下大墳墓とは比較になるはずもありませんが、戯れと思ってご賞味されては?」
ニンブルは断るだろうと思ったが誘ってみた。万が一にも興味を持てば儲けものだ。帝国に少しでも好意を覚えてもらいたいし、同じものを食べて胃が満たされれば緊張が緩み、心に隙ができるかもしれない。貴族が行う昼食会や夕食会にはそういう目的がある。酒に酔って口が軽くなれば最高だが、さすがにそこまでは期待しない。
「そうですわね。どれにしようかしら」
ソリュシャンは店を選び出した。
「え、本当に食べるのか?」という驚きが顔に出そうになり、ニンブルは堪える。まさか誘いに乗ってくるとは思わなかった。
「ソリュシャン、私はぁ、あの店がいいなぁ」
エントマが指した先には行列のできた店があり、背の高い男が鉄板の上でひき肉を炒めていた。
「ミミシュですか……」
ひき肉をソースと絡め、薄く延ばして焼いた生地で包む帝国料理の一つだ。
ニンブルは店を観察する。帝国が許可した店しかないので衛生面で問題はないはずだが、たまに無許可営業する不届き者がいる。
「いいわね。美味しそうだわ」
ソリュシャンも同意した。
ここでニンブルは考える。自分が料金を払うのが無礼なのか、それとも払わないのが無礼なのか。後者だと彼は判断する。彼女たちは皇帝の指示により検問で税を免除されており、そこで頑なに払おうとしたという報告はない。
「私が買ってきましょう。お二人はこちらでお待ちください」
ニンブルはなるべく爽やかな雰囲気を出して言った。
「あら、そうですの?お願いしてもよろしいかしら?」
ソリュシャンの微笑にニンブルは呪文抵抗するように耐え、部下達に「お二人を頼むぞ」と目で伝えて店に行った。部下に買いに行かせようかと思ったが、確認したいことがあった。
「店主、営業許可証を確認したのだが?」
行列を無視して現れた"激風"の問いに店主は一瞬ぎょっとなったが慌てて許可証を出した。
「こ、こちらにあります」
「ふむ……、問題ないな。」
彼は店自体にも問題がないか確認する。店主は清潔な身なりであるし、食材は氷の入った箱に保存されており、食中毒の心配はなさそうだ。
何人分を注文しようかニンブルは迷った。二人と同じものを食べれば雰囲気は和むだろうが、料理で手がふさがるのはまずい。
「すまないが、帝国にとって重要な客人がいる。2人分用意してくれ」
「は、はい」
店主は急いで二人分の料理を作り、ニンブルに手渡した。
行列の客たちは怪訝な顔をしたが、その客人らしき美女達を見て恍惚となる。
「お待たせしました」
駆け足で戻った彼はハンカチを敷いて長椅子に座った二人に料理を手渡す。
「ありがとうございます。お幾らでしたか?」
「いえ、どうかここは私に払わせてください。陛下に叱られますので」
ソリュシャンがそう言う横でエントマは口元を隠しながら料理を食べ始めた。こちらのメイドは食欲旺盛と彼は脳内のノートに書き込みながら、切実な顔を作った。
「うーん……」
ソリュシャンが軽く眉をひそめたが、それはすぐ終わった。
「では、皇帝陛下にお礼を申し上げておいて頂けますか?」
「はい、必ず!」
彼は安堵の息をつきたくなった。
「おいしいですぅ」
エントマが口元を隠しながら嬉しそうに言った。
ソリュシャンもミミシュをこれ以上ないというほど優雅に食べる。
彼女の口が動き、唇をちろりと舐める瞬間、周囲の男達は体の奥底が熱くなるのを感じた。
(あれは人間でない)
ニンブルは神官の祈りのように唱える。相手は王国軍を虐殺した魔導王の部下なのだ。彼は魔法の首飾りが純粋な美や淫靡さに対して効果がないことを悔やんだ。
「まあ、これは美味しいですわ」
「それはよかったです」
ここで彼は自分が二人を誘惑することなど可能かを考える。皇帝ほどではないにせよ、彼も女性の扱いは知っている。相手をとにかく褒め、好きな話を振り、共通の話題を見つけて運命を感じさせる。そんなところだが、彼女たちの種族はどうなのだろうか。近種族でもエルフと人間では常識が違ったりする。扱いを間違えれば危険だ。
しかし、皇帝の言葉を思い出す。なんの危険も冒さない者は何もできない。
「ソリュシャン・イプシロン様はご趣味などおありですか?」
彼女は口内のものを飲み込むと楽しげな顔をした。
ひとまず落とし穴は踏まなかったようで彼は安堵する。
「そうですわね……。動物の観察、など好きですわ」
「おお、それは奇遇ですね!私も鳥や小動物が好きなのです」
ニンブルはこれ以上の幸福はないという顔を作って言った。
彼は嘘は言っていない。彼の趣味は紅茶探しや茶会だが、どんな話題でも最低限の会話ができるように教育を受けている。文学、歴史、芸術、武術、商売、地理。一般教養として動植物の知識もあるし、それらが嫌いなわけではない。
「鳥の観察ですか?私の屋敷にも帝国雀やヤマワタリが来ますよ。妹もあれらが好きなのです」
「いえ、鳥ではないのですが……」
ソリュシャンは少し言いよどむ。
「というと……?」
ニンブルの問いにソリュシャンはミミシュを口に運ぶ。
「……犬、いえ、豚のようなものでしょうか」
「豚のような?」
彼はつい聞き返してしまった。豚のような生き物ならそれは豚以外にあるのか。
「魔導国に生息する動物ですか?それなら私の知らない生き物なのでしょうね」
「ええ、まあ……」
ソリュシャンが始めて困ったような顔をした。
このまま追求すると機嫌を損ねそうなのでニンブルは話題を変えようとしたが、彼女は別のことを言った。
「この料理のお肉、なんという動物なのですか?」
「え?豚だと思いますが?」
彼は奇妙な質問に面食らった。ミミシュは普通なら豚肉しか使わない。
「ねえ、エントマ。変わった味だと思わない?」
「うん、不思議な味だよねぇ」
ニンブルは眉をひそめた。食べ物に難癖をつけて問題を起こす気だろうかと不安になる。
ソリュシャンは残った料理を食べ終わると屋台のほうへ歩き出した。ニンブルもそれに続く。
彼女は行列を当たり前のように無視して店主の前に立った。
「ご店主、このお肉はなんという動物か聞いてもよろしいかしら?」
「へ?」
店主はなんともいえない表情を取った。
「ぶ、豚ですが……?」
「いえ、そうではないと思いますわ。味がぜんぜん違いますもの」
「ソリュシャン・イプシロン様、あの料理に何か問題がありましたか?」
彼は相手の意図を必死に考えたがわからなかった。
しかし、同時に店主の表情がおかしいと気づく。変化がなさ過ぎる。言いがかりをつけられたなら不安や怒りなどが顔に出るはずだ。やましいことがあって表情に出すまいとしている。そんな感じだ。
「店主、何か心当たりがあるのか?」
「いいえ、まさか!」
店主の顔にやはり不自然さを感じたニンブルは保存用の箱からひき肉を出した。肉屋の知識はないので何かおかしな点がないか調べる。しかし、異物が混ざってるわけでも異臭がするわけでもない。痛んだ肉を使えば罰金と営業停止処分なのだが。
「ねえ、ご店主?」
「はい……?」
ソリュシャンは息がかかるほど顔を近くに寄せる。店主の顔に赤みが差し、次に顔中の筋肉が緩んだ。とろんと。
あんな美貌が目の前に来れば当然だと人々は思ったが、ニンブルだけは違う。
(あれは魅了の魔法にかかった時に似ている……)
「ご店主、何を隠しているのか教えてくださらない?」
ソリュシャンは優しげに言った。
「お、お、おれは……一昨日、女房を殺しました……」
周囲にいくつか女の悲鳴が上がった。
「殺したあとはどうなさったの?」
店主は虚ろな眼をしたまま恐ろしい答えを放った。
「大きくて運べないのでひき肉にしました……」
周囲の者は静かになった。聞こえるのはじゅうじゅうという肉が焼ける音。
「それが今日の料理ということね?」
「はい………」
じゅうじゅう。
じゅうじゅう。
その音と胃の腑を刺激する匂い、そして目の前で焼かれている物の正体を理解し、行列に参加した者達は今度こそ男女問わず悲鳴を上げ、逃げ出した。途中で多くの者が耐え切れず嘔吐する。
ニンブルだけが必死にそれに耐え、自分が手に持った被害者の一部を見た。
彼はほんの少しだけ安堵していた。これを食べていたら自分もあの中の一人だっただろうから。
「申し訳ありませんでした!」
最高級宿の一室でニンブルは謝罪する。あの現場には騎士団を呼び、店主を緊急逮捕した後で自宅の捜索が行われた。彼の証言どおり、解体された妻の遺体の一部が見つかった。
「貴方の責任ではありませんわ」
エントマがベッドで「うーん」と唸ってる横でソリュシャンは穏やかに言ったが、そんなわけにはいかない。魔導国にとんでもない負い目ができたことになる。税金と昼食代を奢った貸しが吹き飛び、巨額の借金ができたようなものだ。
ニンブルはあの事件が魔導国の犯行だと断定していた。少なくとも店主の犯行をあらかじめ知っていたはずだ。あまりにもタイミングが良すぎる。しかし、店主は言い争いから衝動的に妻を殺してしまい、死体を処分するために自分の仕事を利用したと証言している。帝国の魔術師が男を調べたし、皇帝から貸与された首飾りもかけてみたが、魔法で支配されているわけではなかった。
(アインズ・ウール・ゴウンはどういうつもりなんだ?)
ニンブルは必死に相手の狙いを考えた。中央市場の信用を失墜させて彼らに得るものがあるのだろうか。ない。こんなに遠回りで規模の小さい貸しを作ろうとするとも思えない。アンデッドだから生者である自分たちが困り果てるのを見て楽しんでいる。それくらいしか目的を思いつかなかった。
「少し体調は悪いですが、私もエントマも休めば治ります」
「必要なものがありましたらすぐに仰ってください」
彼は誠実さと真剣さが伝わるように言った。どこまでが演技か彼自身にもわからない。
「お優しいのですね」
「は?……いえ、これが私の仕事ですので」
ニンブルは警戒する。好意的反応を得られたなどと思わず、皇帝に忠告されたことを疑ったのだ。
(まさか俺を引き抜こうとしているのか?)
彼は考えた。ロウネ・ヴァミリネンという側近を手に入れ、次は4騎士の一人、そしてじわじわと皇帝の駒を盤上遊戯のように取ってゆく気なのでは。だとしたら絶対に魅入られてはならない。
「それでも、ですわ。皇帝陛下は素晴らしい部下をお持ちですわね」
「恐縮です」
彼は鎧の突起部分に手を押し付け、痛みによって正気を保つ。それでも、相手の美貌に心を乱されそうになる。魔導国の恐ろしさを知り、皇帝の忠告を胸に刻んでもこれなのだ。何も知らない者ならとっくに心を奪われているだろう。
ソリュシャンは自分のベッドに腰をかけて両手をつき、上体を少し後ろへ傾ける。このまま押し倒してしまっていいと告げられているようだった。
彼は本気で精神安定薬を飲もうと思った。ああいう薬は戦闘が始まった時に体の反応が遅れてまずいのだが、このままでは自分の職務が危うい(首飾りは魔法的効果しか防がない)。
「失礼します。部屋の外におりますのでいつでもお声を」
ニンブルは部屋から脱出した。
「さあ、エントマ。仕事よ」
「はーい」
ベッドで唸る演技をやめたエントマは起き上がり、大きな白い布を取り出す。薄く透けたそれを頭にかけるとメッセージで至高の御方に連絡を取った。
布は盗聴を防ぐための防音マジックアイテムである。魔法による透視透聴なら対抗魔法で防いでいるが、ナーベラルのように魔法で聴力を強化した者がいたり、部屋に伝声管が仕掛けられている可能性を考慮した結果だ。
「アインズ様、エントマです」
「おお、エントマ。例の件はどうなった?」
「無事に終了しました。店主は逮捕され、妻の死体も発見されたようです」
「そうか。それは良かった」
満足そうな声がエントマの耳に届く。
「実に回りくどい教え方だが、本当のことを言うわけにはいかないからな……」
アインズは残念そうに言った。
皇帝たちが聞けばどう思うだろうか。アインズは帝都を魔法で覗き、たまたま男が人間の死体でミンチを作るところを目撃してしまった。しかもその男は肉を料理に使うことで証拠隠滅を図っていた。同盟国のよしみもあり、こんな猟奇的事件を放置するのは流石にまずいだろうと思ったアインズだが、帝国に教えるとどうやってそれを発見したのか説明しなくてはならない。そこで偶然を装って犯行を露見させることにしたのだ。
「それともう一つ報告がございます。4騎士の1人、ニンブル・アーク・デイル・アノックが私たちに接触してきました」
「おお、残りの一人か。お前たちから見てどうだった?」
アインズは興味深そうに聞いた。
「単なる雑魚かと」
エントマは躊躇なく言った。
「そうか……」
「何か懸念されることがおありでしょうか……?」
エントマは恐る恐る聞いた。
「いや、他の3人より遥かに強い帝国の切り札みたいな存在だったらまずいと思ってな。4騎士のうち一人はマーレが殺して、二人はデスナイトに怯えていたらしいから単なる雑魚と思ったが、皇帝がニンブルという男だけ我々の前に出さないのが少し気になったのだ……。いや、お前たち、ご苦労だったな。もう帰ってもよいが、帝都を見学したいならもうしばらくいても良いぞ?」
「畏まりました。ソリュシャンと相談した上で決定致します」
そう言ってエントマは魔法を終了した。
エントマはソリュシャンを薄布の中に招いて密談を始めた。
「……そう、あの人間にアインズ様が警戒を」
ソリュシャンが不思議そうに言った。
「強そうな感じがしないよねぇ。あっ、アインズ様が街に興味がないならもう帰ってもいいと仰ってるけどぉ、どうするぅ?」
「まあ、いいのかしら。エントマ、私は一人で街をこっそり回ってみたいの。誰か来たら貴女が対応してくれないかしら?魔法で私の幻を作れるでしょう?」
「いいけどぉ、ソリュシャンってこの街が気にいったのぉ?」
「まあね……」
ソリュシャンは妖しく笑った。
宿にはニンブルとその部下、そして皇帝が指示した騎士や魔術師がネズミ一匹漏らさぬ監視体制を敷いていたが、ソリュシャンは誰にも気づかれずにあっさりそこを抜け出した。
彼女は他人の陰に潜みながら街を観察する。そこらじゅうを美味しそうな"食料"が歩いており、ソリュシャンの欲を刺激する。若々しい女、筋肉をつけた男、手を繋いで歩くカップル、子供を連れた母親、どれも元気で希望に満ちた目をしており、彼女は賞賛したくなる。
素晴らしい家畜小屋だと。
エントマは人間を単なる食料としか見ていないが、彼女は違う。人間は食べられる娯楽品だ。彼らが肉体や精神に苦痛を感じている時ほど面白いものはない。あの市場の人間たちなどなかなか良かった。料理を投げ捨て、嘔吐する男女。子供の口に指を入れ、必死に吐かせようとしている両親。口角が上がらないようにするのが大変だった。
とはいえ、見るより溶かす方がずっと楽しい。味と感触、悲鳴と悶えを同時に感じられる。その対象が無垢な者ならこの上ない喜びだ。いずれナザリック地下大墳墓が世界征服を進める過程で良い働きを見せれば、再び人間を与えて頂けるだろう。仕事の結果次第では無垢な者たちでさえ……。
ソリュシャンはその時に備えて今から品定めをしておきたかった。
(あのニンブルという男は活きが良さそうね……)
ソリュシャンはあの騎士について少し考える。無垢な赤子こそ最高だが、彼らの欠点は長く遊べないことだ。すぐ死んでしまう。まっすぐな瞳と丈夫そうな肉体を持つあれなら長く遊べるのではないか。帝都に入って以来、ニンブルより強そうな人間には出会っていない。騎士や冒険者などとすれ違うが、どれも弱そうだった。
(あら、この男は……)
彼女は影から影に移っている間に一人の面白い男を見つけた。
年齢は40歳ほどだろう。容姿ははっきり言えば良くない。石を叩きつけられてつぶれたカエルのような顔だ。だが、発達した筋肉、腰に下げた長剣と数本の短剣は非常に様になっているし、歩き方と気配から長い実戦経験を感じさせた。
ニンブルと同じくらいの強さ。ソリュシャンはそう判断し、彼の影に忍び込んだ。男は歩道を何分か歩き、一つの建物に入っていく。そこは酒と香水の香りが店内に満ち、男女の淫猥な声と音が小さく聞こえてくる。娼館だった。
「いらっしゃい」
「ドロワーはいるか?」
対応した店員に男は料金を払いながら聞いた。
「はい、一番奥の部屋です」
男は店内を歩く。通り過ぎるいくつかの部屋はドアがなく、中ではそれぞれの娼婦が仕事の真っ最中であるため声と音が筒抜けだった。何の仕切りもないのは娼婦の身の安全のためだというのはソリュシャンの知らないことだ。
それらを通り抜けるとドアのついた部屋があり、男はそこへ入った。
「遅かったわね、ダリューシャ」
濃い化粧をし、紫のドレスを着た女は酒の入ったグラスを傾けながら言った。ドレスは非常に薄く、その下に何も身につけていないことがわかる。
「もっと早く来たかったが、市場で騒ぎがあったせいで騎士たちが増えてた。誰かが人肉を混ぜた料理を売ってたらしい」
「貴方が来る日に限って事件?」
ドロワーという女は怪訝な顔をした。
「何か気づかれてるんじゃないの?」
「大丈夫だ。それより銀行は?」
「一番左手の一番奥にいる男。時刻は2時よ」
はあ、と男はため息をついた。
「それを知るためにずいぶん待たされたぞ」
「私だって大変だったのよ?」
ドロワーは憤慨した。
「私が何人の男におべっか言って足を開いたと思ってるの?感謝してよ。それで、いつやるの?」
「今日だ」
女は目を点にした。
「今日?え……?今日やるの?」
「時間が延びるほど予想外の事が起きる。市場に騎士が多いなら銀行周囲は少ないかもしれないしな。お前もこれが終わったらすぐに準備しろ」
男は服を脱ぎだした。
「え?ちょっと。今から私とする気?銀行を襲うんでしょ?」
「時間はある。お前に会うために金も払ってるんだ。やらなきゃ勿体無いだろう」
男はそう言ってドロワーの服を脱がせにかかった。
「ああ、もう。男ってのは。ちょっと待って。灯りを消すから」
「おいおい。そんなに顔を見るのが嫌か」
「文句言わないでよ。そのぶんサービスしてあげるから」
部屋の照明が消えるとやがて他の部屋と同じ淫猥な声が響き始めた。
「アインズ様、ご報告したいことがございます」
「む?ソリュシャンか」
アインズは予定にいない報告に少し戸惑った。
「お許しください。ご報告するに値するかわかりかねましたが、念のためにお伝えしようと思いました。帝都を見学中にたまたま銀行強盗の計画をする者達の話が耳に入ったのですが、いかが致しましょうか?」
「ん……?」
アインズは少しの間答えに窮した。銀行強盗。別にナザリックは正義の使者でも警察でもないのだから犯罪が起きるたびに帝国に教える義務はない。中央市場はあまりに特殊な事件だったから教えてやっただけで、ただの殺人なら見なかったことにしただろう。銀行強盗はそこまで特殊とはいえない。
しかし、ソリュシャンは続けた。
「アインズ様、私が見つけた男は人間の中でそれなりの強者のようです。これを操ってニンブルの力量を確かめてみてはどうかと愚考致しました」
「ほう、何か考えがあるのだな。面白そうだ。聞こうではないか」
ソリュシャンは自分の計画を話し始めた。
「私はぁ、趣味とかないですねぇ」
エントマはテーブルを挟んでニンブルに言った。
「そうですか」
彼は可能な限り爽やかな印象を持てるよう表情と声を調節した。飲み物を持ってきたという口実で再びメイドたちの部屋に入ったニンブルはソリュシャンがベッドで眠っているのを見てやはり体調が悪くなったのかと心配した。代わりに起きていたエントマが心配ないというので彼は今度は彼女から情報収集を試みることにしたのだが、ソリュシャンとは別の意味で苦労していた。
(このメイド、表情がまったく変わらないぞ……)
彼はそれなりに貴族社会で揉まれ、自分の表情を操り、相手の表情に気をつける習慣がついている。特に重要な表情は喜びと恐れだ。その2つで相手の欲と弱点がわかり、倒したいならそこを執拗に突けばよい。しかし、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータというメイドは眉や目どころか腹話術でもしてるかのように口さえ動かない。マジックアイテムを使っている可能性を彼は疑う。
「では、お休みの日は何をなさるのですか?」
ニンブルは軽く質問をする。ソリュシャンには動物が好きと言ってあるが、エントマの答え次第ではそちらも好きと豪語するつもりだ。趣味が一つであるなどと言った覚えはない。
「お休みですかぁ?そんなのありませんよぉ」
エントマは声だけ不思議そうにして言った。
「ない?休日がないのですか?」
「そうですよぉ」
「一度も、ですか?」
「そうですぅ」
エントマは口元を隠して飲み物を飲む。
それはずいぶんハードな勤務だなとニンブルは思った。帝国では労働者に休日や休憩時間を与えるよう定めた法律がある。絶対に遵守されているわけではないが、それでも休日がない仕事などありえない。そんな激務なら不満を持っている者が必ずいて、帝国の陣営に組み込めるのではないかと彼は期待した。
「それはとても大変ではありませんか?」
「なんでですかぁ?ご主人様のために働けるんですよぉ。幸せに決まってますぅ」
「幸せに決まってる……」
彼はそれが本心かを疑った。確かにニンブルも自分の職務に誇りを持っているし、皇帝と帝国のために死ぬ覚悟もある。しかし、それは主人が自分の人生や家族のことを考えてくれるからこそ尽くせるわけで、何も与えられないのでは奴隷と一緒だ。
「それでは、主人から意味のない危険な任務を与えられても構わないのですか?」
それはさすがに、とエントマが返すと彼は思っていた。
しかし、彼女は何の躊躇もなく言った。
「当たり前じゃないですかぁ」
その声は演技と思えなかった。一瞬の迷いもなかったからだ。まるで物が上から下へ落ちるような、夜が過ぎれば朝が来るような、まさに当たり前の事という響きがあり、ニンブルの方こそ間違っているのではないかと一瞬思ってしまった。
(そこまでの忠誠心があるというのか……)
ニンブルは動揺を覚え、このまま相手のペースに引き込まれることを恐れて別の話題を出すことにした。
「なるほど……。そういえば、その紅茶はどうです?ヒュロラという品種なのですが、お口に会いましたか?」
「実を言うとぉ、あんまり美味しくないですぅ」
エントマは彼自慢の一品に対して遠慮なく言った。
「そうですか……」
彼はエントマの性格に「遠慮がない」と付け加えた。
これなら重症覚悟でソリュシャンと話したほうがよいかもしれない。彼が暗澹たる気分になっていると後ろから声がかかった。
「アノック様」
彼は一瞬驚いたが、すぐに気分を切り替えた。
「ソリュシャン・イプシロン様、ご気分はいかがですか?」
彼は立ち上がって光り輝く美貌に声をかける。
「ええ、もう大丈夫です。寝顔を見られてしまいましたわね。恥ずかしいです」
ソリュシャンは眉を僅かにひそめ、恥じらいの表情をとる。どんな男も落とせるものだが、皇帝の許可を得て精神安定薬を飲んでいるニンブルはわずかな揺らぎで済んだ。
「いいえ、今日ほどこの職に就いて良かったと思う日はありません」
「まあ、意地悪な御方ですわ」
互いの演技を終えるとソリュシャンは一つのお願いをした。
「アノック様、できましたらもう一度帝都を案内していただけますか?」
「はい、どこへでもご案内します」
ニンブルは微笑みつつ、一つの不安を抱いていた。
まさか薬を飲むことさえ計算のうちではないだろうな、という不安だった。
帝国銀行は正面に二人の重武装した騎士がおり、敬礼した彼らの横を通り過ぎると清潔な空間が出迎えた。
「あれで換気をしていますのね」
ソリュシャンは天井を見上げていった。
「はい、ご賢察の通りです」
ニンブルは武芸大会の優勝者を褒めるように言った。
銀行内は石の床が鏡のように磨かれ、白亜の壁や柱は清潔感と高級感を提供していた。天井には5つの魔法のシャンデリアが輝き、その照明の根元では羽根が回転して換気を行っている。田舎者がこの銀行に来ると羽根の意味がわからず、それを銀行員達に聞けば喜んで説明してくれるのだが、今日来た者達はそんなことをしない。
(なぜここに……?)
ニンブルが帝都案内をしてると急に二人が帝国銀行を見たいと言い出し、目的はわからなかったが了承した。予め言っていれば他の騎士に連絡して先回りさせるのだが、提案が突然だったために間に合っていない。
何人かの職員がぎょっとし、近づこうとするのを彼は手で制した。
「帝都内の商売は全てここで生まれると言っても過言ではありません。有望な商人や商会がいればむこうが資金を求める前にこちらから貸付に行きますから」
ニンブルは自分が運営しているかのように誇り高く言ったが、メイド達に特に反応はない。
「この部屋に警備の方がいらっしゃらないようですが、正面にいたお二人だけなのですか?」
この問いにニンブルは微笑んだ。
「まさか。警備の都合上詳しくは申せませんが、様々な対策が取られています」
銀行内には魔法的な警報が仕掛けられ、別の騎士達も待機部屋におり、銀行員の一人が魔術師であると彼は聞いていたが、そんなことを二人には言わない。魔導国が銀行強盗などという小さな企みをするとは思っていないが、相手に与える情報は少なければ少ないほど良い。
「特に金庫室はあらゆる対策が取られています」
「強盗は難しいということですわね?」
「もちろんです」
やけにこの話題に食いつくなとニンブルは思った。せっかくなので同じ話題を振ってみることにする。
「ナザリック地下大墳墓にもそういった部屋があると思いますが、万全の警備がとられているのではありませんか?」
「ええ、確かにそうですわね……」
ソリュシャンはそれ以上しゃべらない。
「金庫室をご覧になりますか?本来なら賓客であろうと許可することは難しいですが、お二人ならば可能です」
貸しを大きくするためにニンブルは難しいことを強調する(実際には中央市場で背負った大借金の返済なのだが)。
「いいえ、結構ですわ。二階は何をされるところかしら?」
「商談と事務的な仕事です。ご覧になりますか?」
「ええ、是非とも」
「私も見たいですぅ」
(金庫室ではなく……?)
ソリュシャンとエントマの楽しげな声に彼は困惑しつつ、二人を案内した。
二階でいくつかの部屋の前で立ち止まって説明しながらニンブルはソリュシャンの表情を窺う。興味深そうな顔で、時折、質問をはさんでいるが、彼にはそれが本気であるように思えなかった。銀行の経営や財政について細かなことを聞いてこないからだ。明らかにそちらの専門家ではない。
(何が狙いなんだ?まるで時間を稼いでいるような)
ニンブルがそう思った時、1階から悲鳴が上がった。続いて剣戟の音。
それが聞こえた瞬間、ニンブルと4人の騎士は剣を抜く。
「各員警戒!エルネオ、魔法で騎士団へ応援要請を!ホルンスト、1階を見てこい!」
ニンブルに命じられた部下達はすぐに行動を開始した。
「何があったのかしら?」
「わかりかねます」
のほほんと聞いたソリュシャンにニンブルは苛立ちを隠しながら言った。1階の悲鳴には間違いなく二人が関わってると感じた。
「敵4人!」
1階へ降りた部下が情報を大声で伝え、続いて剣が打ち合う音が一度聞こえた。
その直後、階段を上がってきたのは血に塗れた剣を持ったカエルのような男。そして部下らしき2名。1名は金庫室に行ってるとニンブルは推測した。
ニンブルたちは知らない。2時にこの銀行にかけている警報の魔法が一度切れ、魔術師がかけなおすことを。その隙を狙って強盗4名が建物内に入り、その魔術師をナイフの投擲で殺したことを。
「む?」
リーダーの男と部下たちは廊下で剣を構える5人の騎士に眉をひそめた。
「計画が漏れた……いや、その表情だと違うな。よほど運が悪かったか」
「兄貴、どうする!?」
「あいつ、"激風"ニンブルだ!やばいぜ!」
部下たちは慌てたがリーダーは冷静なままだ。
「お前たちはそこにいろ。俺があいつらを斬る」
「お二人を守れ。飛び道具に警戒。エルネオ、強化魔法を」
ニンブルの決断は迅速だった。部下との剣戟の音は一度しか聞こえず、敵が階段を上がってきたのはすぐだった。その根拠とは別に彼の勘が「あれは強い」と教えてくれた。
(おそらく互角……)
ニンブルは敵の力量を自分と互角に設定した。実際、それに近いはずであり、わずかに上ならそれを意識しないほうが良い。怯んだら勝てるものも勝てなくなる。精神安定薬のせいで動きが鈍っていることは思考から排除する。
「俺ばかり見ていいのか?女が危ないぞ」
わかりやすい誘導に彼はかからない。
男はそれを嬉しそうに見て、一気に距離を詰めた。
「はあっ!」
上段からの一撃。しかも神速の。
(受けるのはまずい!)
ニンブルは剣を押し下げられヘルムごと頭部を叩き割られる未来を予感し、斜めに構えて受け流す。
「むんっ!」
受け流した敵の剣は夢だったかのように消え、真横からの二撃目が受け流しで空いた脇に迫る。
武技:即応反射を相手が使ったことにニンブルは驚かず、自分も同じ武技で体勢を強制的に戻して攻撃を受け止めた。
「ほう」
男は再び距離を取り、「面白い」という顔をした。
「さすがは"激風"か。」
「お前はダリューシャだな?顔は違うが」
ニンブルは相手の太刀筋から手配書に書かれている一人の犯罪者の名前を言った。実は半分カマをかけたのだが、相手がにやりと笑ったので正解だと確信する。
「この男が!?」
「あの騎士の面汚しですか!?」
部下たちが嫌悪と怖気をこめて叫んだ。
「初手の上段攻撃が得意だったと聞いたが、武技で進歩したか。だが、ここで引導を渡してやる」
ニンブルのこめかみに青筋が立っている。
ダリューシャ・ケノン。かつて騎士団で「なかなかの腕」と評価されていた男が隠れて物資の横流しをしていたことに先代の皇帝が気づき、騎士10人が捕縛にかかった。彼はその10人のうち6人を斬り殺して逃亡に成功するという離れ業をやってのけ、当時の皇帝は「その実力を見せていれば昇給したものを!」と叫んだ。
「やれやれ。せっかく骨を潰して顔を変えたというのに。今より不細工にならなきゃいかん」
笑ったカエルがそこにいた。
「兄貴、長引くとまずいぜ」
「おっと、そうだった。本当はもっとやりたいんだが……」
ダリューシャは名残惜しそうな顔をしたが、あごをしゃくり、部下の一人が黒い球体を床へ投げつけた。煙幕だった。
「まずい!風を起こせ!」
ニンブルは即座に部下の魔術師に指示した。相手が逃亡してくれるならいい。自分達の任務は護衛なのだから。だが、ダリューシャの顔に逃げる意志が見えなかった。むこうに煙幕を可視化できる手段があるなら一方的な勝負になる。
ひゅっと空気を何かが切る音がした。
ニンブルは首と顔を守るが、その何かは真横をかすめ、「ぎゃあ!」とニンブルの背後で魔術師の悲鳴が上がる。
その直後、殺気が目の前に迫った。勘を信じて上段からの一撃に対応する。
勘は当たった。しかし、軽い感触。
上段は囮。
そう理解した瞬間、頭部に強い衝撃が加わった。
ダリューシャが放ったのは回し蹴りだった。ぎりぎりで武技:要塞を使ったが相手も何らかの武技も使ったらしく、ニンブルの体が吹き飛ぶ。生身なら首が折れていただろう。
意識が朦朧とする中で彼の耳に部下たちの悲鳴が聞こえた。
(あの二人は!?)
ニンブルはメイド達が殺されるとは思わなかったが、何かあれば帝国と4騎士の威光が失われると思った。
「きゃあ」
「あーれー」
メイド達の声が聞こえた。
「お二人とも!?」
「ははは、良い女だな。"あの人"が喜ぶだろう。頂いていくぞ」
ダリューシャの勝ち誇った声が遠ざかってゆく。
ニンブルは立ち上がろうとしたが、足がもつれて再び倒れた。
混濁する意識の中で彼は考えた。
魔導国はいったい何がしたいのだろうか。
帝国銀行からは金貨二千枚が強奪された。門番の二名と待機部屋の二名、そして所属の魔術師が殺され、銀行員が魅了で操られてしまったからだ。この事件は帝国銀行の歴史上最大の汚点となった。
実際には犯人たちは地下下水道を歩き、帝都を脱出していた。
「遅かったじゃないの。ちょっと……そいつらは誰よ?」
ダリューシャに情報を提供した娼婦、ドロワーは地下下水道から出てきた知らない女たちを見て怪訝な顔をした。
「仕方ないだろ。超のつく美人がいればさらってこいと"あの人"に言われてる」
ダリューシャは当然のように言った。
「あの人?」
彼女は意味がわからなかった。この危険な儲け話はダリューシャの発案であり、部下は3人だけのはずだ。
「誰のことを言ってるの?」
「あの人だよ。なあ?」
ダリューシャは仲間たちに言った。
「ああ、あの人だよ。あの……」
「ほら……えーと、名前はなんだっけ?」
「そういや名前を知らないな……」
異常な会話だった。
「あのぉ、気にしないでいいですよぉ」
シニョンの髪形をした女が言った。ドロワーが嫉妬から顔を切り裂いてやりたいと思うほどの美人だ。
「貴方達の役目はここまでね」
今度は金髪の美女がそう言うと男たちの首に順番に指を当てて言った。
指を当てられた男たちはビクッと体が痙攣し、手を放した後の杖のように地面に倒れた。
(この女たち……なんなの……?)
ドロワーは後ずさる。
「さて、エントマはこの女がいいでしょう?」
自分を指され、彼女はびくりとする。
「あー、やっぱりわかるぅ?」
エントマと呼ばれた女がくすくすと笑った。
「女の肉は久しぶりでしょうからね。私はこの男よ。丈夫だから長く遊べそうだもの」
金髪の女が目をうっとりさせてダリューシャを見た。
(なに?なんの話をしてるの?)
彼女は背筋が寒くなった。目の前の女たちは自分が想像もつかない恐ろしい話をしている。そんな感じがした。
「残りの3人はどうするぅ?3人じゃ半分こできないけどぉ」
「あら、できるじゃない?上と下で半分に分けましょう」
「あー、そっかぁ。さすがソリュシャン。姉妹だからやっぱり分け合わないとねぇ」
「ええ、そうね。姉妹ですもの」
二人はフフフと笑った後、一緒にドロワーを見た。
2対の目。それは卸す前の家畜を見るような目だった。
逃げないと殺される。そう確信した彼女は用意した馬車に走った。仲間が盗んできた金貨のことなど考えもしなかった。
その首にチクリと何かが刺さり、彼女は地面に倒れる。
動けない。意識はあるのに指一本動かせない。
「それではぁ、いただきまー……」
「こら!血が出ちゃうでしょう。食べるのは仕事が終わってからよ」
「あ……そうだったぁ」
体が麻痺した中でドロワーは「食べる」という言葉の意味を考え、文字通りの意味だという結論を必死に否定した。そんなわけがない。あの女たちが私を食べるなんて嘘だ。私は娼館でひたすら男たちに媚びて足を開いてきた。もっと報われていいはずだ。この犯罪で損をするのはクソッタレな金持ち連中だけ。ダリューシャに抱かれながらそう言われた時、この話に乗ろうと決めた。
そうだ。私はもっと報われていい。あいつらはもっと割を食っていい。人生は平等であるべきだ。
「いいや、生物の世界とはこういうものなんだよ」と彼女に教えるように、ドロワーの目の前で一匹の蜂のような虫が毒で麻痺させた獲物を巣穴へ運んでいった。
帝都の外で不審な馬車を発見したという
「魔法の罠は?」
彼は荷車の傍に降り立つと周囲を包囲している部隊の一人に聞いた。
「ありません。ですが、これも陽動かもしれません。ご注意を」
魔術師が言った。
ニンブルは幌を握り、物理的な罠がないかを確かめると一気に引き払った。
「これは……」
荷台にはロープでグルグル巻きにされたソリュシャンとエントマが座っており、その隣には金貨二千枚を詰めた複数の袋が置かれていた。
「ソリュシャン・イプシロン様……?」
彼はいぶかしんだがとりあえず彼女の拘束を解いた。
「ああ!恐ろしかったですわ!」
彼女はロープが解かれるなりニンブルの胸に抱きついた。
「うっ」と彼は身構えそうになる。
周囲の者は羨望と恍惚の混じった目をしているが、ニンブル自身は決していい気分ではなかった。彼女たちは間違いなくあの強盗団と関わりがあり、誘拐されたなど演技に決まっている。しかし、それでもなお美貌と演技に「この人は関係ないのでは」と思いたがる自分がいるとわかり、恐ろしくなったのだ。
「ソリュシャン・イプシロン様、犯人はどうなったのですか?」
「あの方々は
「……そうですか」
「きっと貴方方が魔法で連絡したせいで計画が崩れたのでしょう」
「……なるほど」
彼は少しも信じていなかった。
「本当にどうなることかと思いましたわ。けれど、貴方が助けに来てくれると信じていました」
妖しい微笑み。
「そ、そうですか」
彼は目をそらす。
「あ、そうでしたわ。私たちは帝国銀行まで見せてもらいましたのでもう満足です。今日の観光はこれで終わりにしようと思います」
「は?」
「帰りは転移で帰りますのでお気になさらず。エントマ、行きましょう」
「了解ですぅ」
二人はそう言うとさっさと転移の準備に入る。
「いや……あの……事件についてできれば聴取を……」
「あら?私たち、ひょっとして帰れませんの?」
ソリュシャンの悲しそうな目。
「いいえ!そのようなことはありません!」
帝国が難癖をつけてメイド達を拘束した。そう言って攻め込まれたら終わりだとニンブルは思った。彼は帝国のために死ぬ勇気こそあったが帝国を滅ぼした男になる勇気はなかった。
「よかったですわ」
ソリュシャンは一転して花のように笑った。
「それでは、皆様、またいつの日かお会いしましょう。あっ、一つ忘れていました」
ソリュシャンはニンブルの前に立つ。
上体を少し前に出し、そして離れた。
「今日のお礼ですわ」
彼女はそう言うとエントマと共に帰っていった。
「いったい……何がしたかったんだ……」
それはニンブルのセリフであり、後のジルクニフのセリフでもあった。
「そうか。銀行と騎士団に死者が出たか……」
アインズは少し残念そうに言った。
「はい。しかし、銀行の死者は初めから予定されておりましたし、奪われるはずだったお金は戻ってきたのですから、皇帝は感謝こそすれど不満など持つべきではないかと」
ソリュシャンは跪きながら意見を述べた。
「うむ……そうだな……。ニンブルが単なる雑魚という事も判明した」
(まあ、強盗団がいた事は事実なんだし、たまたま鉢合わせしたってことでいいよな?盗まれるはずだった金が返ってきたんだし、そこで許してもらおう……)
アインズはジルクニフが真相に気づかないことを祈った。
「ところで、褒美はあれらでよかったのか?」
連れて帰った強盗団のことだ。
「もちろんでございます!2.5人ずつ人間を拝領し、私もエントマも感無量でございます」
ソリュシャンは心からの感謝の言葉を述べた。
「2.5人……まあ、良かったな」
下がるがよい、という言葉を得て彼女は退室した。
「ソリュシャン、どうだったぁ?」
エントマが口をシャキシャキと言わせながら聞いた。
「アインズ様はご満足なさっていたわ。私も大満足よ」
「私もぉ、久しぶりの女の肉だから味わって食べたよぉ」
「貴女、あっという間だったじゃない……。もっと味わってほしいわね。私なんて今も」
ソリュシャンはそう言うと微笑みながらお腹をさすった。
「ふふ、元気に動いてる……」
「なんかぁ、知らない人が聞いたら勘違いしそうなセリフぅ」
「そうね」
彼女は笑う。
「でも、悪人は言うことが決まっててそこが退屈ね。許してくれとかごめんなさいとか。善良な人間ならいろいろと面白いことを言うのよ」
彼女はニンブルという男を思い出し、あれもいつか褒美に頂こうと決めた。ツバは付けておいたのだから。