遅咲きの日本人魔法使いはホグワーツの外交官です。 作:音符と黒猫
大広間に着くとすでに先生たちは席に着いていた。
「遅くなってすみません。」
レイラは空いていた席に座る。
「皆今来たところじゃよ。さっ、食べよう。」
ダンブルドアが杖を振ると食事が現れる。
「……豪華ですね。」
レイラは料理を見て言う。ローストビーフ、ミートパイ、マッシュポテト、サラダ、スープ。後の4つはともかく、ローストビーフがメインディッシュとは、随分と豪華である。
「レイラの就職祝いですよ。対魔法界外交官とホグワーツ職員。よろしく頼みますよ。」
マクゴナガルが言う。
「ありがとうございます。いただきます。」
合掌して、レイラは真っ先にローストビーフに手を伸ばす。柔らかなお肉が口の中でほどける。
「美味しい。」
「それは良かった。屋敷しもべ妖精達もさぞ喜ぶじゃろう。」
ダンブルドアが言う。
「部屋の片付けは終わりましたか?」
マクゴナガルが聞く。
「ええ。回線を繋げるのが大変でしたけど。」
レイラは答えた。
「……回線の接続は教職員が担当するはずじゃが。」
ダンブルドアが驚いたようにレイラを見る。
「え?そうなんですか?何も書かれてなかったので自分で接続しましたよ。」
レイラは言った。
「かなり難しかったじゃろうに。よく出来たの。」
「確かに時間はかかりましたけど、そこまで難しくは。図形の描き方さえ知っていればどうにかなりますから。」
「さすがじゃのう。」
ダンブルドアが言う。
「そういえば、教科書などは届きました?」
レイラが聞く。
「届いておるよ。確か、セブルスの部屋に運んだかの。」
「我輩の部屋にある。後で取りに来い。」
「了解しました。……Mr.スネイプの部屋ってどこです?」
レイラが首を傾げる。
「持って行ってあげれば良いじゃろう、セブルス。彼女の部屋は4階じゃ。レイラは明日にでも、校内を探検すれば良いじゃろう。」
ダンブルドアが言った。
夕食を食べ終え、レイラは部屋へと戻る。
程なくして、ドアがノックされた。
「はい。」
ガチャっとドアを開けると、本の山を抱えたスネイプがいた。
「すみません、ありがとうございます。」
レイラは本を受け取る。
「入ってもいいか?」
「どうぞ。」
レイラの部屋に入り、スネイプは部屋を見渡す。
壁は本棚で埋め尽くされ、大きなL字型の机が設置されている。その上には見慣れない機械。
「机の上にあるのは?」
スネイプがレイラに聞く。
「パソコンですよ。マグル界の機械です。」
本を本棚に片付けながらレイラが答える。
「こうしてみると、ザ・仕事部屋という感じですね。」
レイラも部屋を見渡して言う。
「この部屋、機密情報を扱うので今日ぐらいしか人は立ち入り出来ないかもしれません。」
「……そうか。」
「どうかされたんですか?部屋に入ってくるなんて。」
レイラは言った。
「一つ、聞きたいことがあってな。」
「はぁ。何でしょう?」
レイラはスネイプを見る。
スネイプは一回深呼吸して、言った。
「君は私を恨んでないのかね?」
レイラはその問いを聞いて、クスッと笑った。
「聞きたいことってそれですか?答えは、もう今までの態度で示しているでしょう?」
「……非常に不思議なのだ。親族を殺されたにも関わらず、特に責めもしない君が。」
スネイプが言った。
ハァ、とため息をついてレイラは言った。
「今更恨んで何になります?責めて何になります?私がやる気を出せばあなたをアズカバン送りにすることはできますけど、そんなことをしても何も利益がありません。罪を憎んで人を憎まずと言うでしょう。」
スネイプは黙っている。
(まだ、納得してないな……。)
スネイプが黙っているので、もう一度ため息をついて、レイラは続けた。
「それに、あなたも時代の濁流に流された人間です。人間は、弱い。時代に逆らえる強者はごく僅か。ヴォルデモート卿がいなければ、純血主義過激派が力をつけていなければ、おそらく魔法戦争は起こりませんでした。おそらくあなたも死喰い人にならなかったでしょう。そう言うことですよ。だから私は責めません。あなた1人が全て悪い、と言うわけではありませんからね。」
「……そうか。」
やや間があって、スネイプが言った。その表情からは何を思っているのかは読み取れない。
「私はこれから校長に質問があるので校長室に行きます。と言うわけで部屋から出てください。この部屋、私の同伴なしに入ってはいけないので。」
「そうか。邪魔してすまなかったな。」
スネイプとレイラは部屋を出て歩き始める。
「校長室の合言葉はレモンキャンディーだ。」
分かれ道でスネイプが言った。
「了解しました。教えてくださってありがとうございます。良い夜を、Mr.スネイプ。」
レイラは角を曲がり、校長室へと向かった。
校長室前のガーゴイル像に教えてもらった合言葉を唱える。
ピョコンと像が動き、扉が現れた。
「失礼します。」
「おお、レイラ。どうかしたかね?よく合言葉を知っておったの。」
「先ほどMr.スネイプが教えてくれたので。」
レイラは言う。
「ほぅ、セブルスが。まぁ、座りなさい。」
ダンブルドアが紅茶を出して言う。
「一つ、聞きたいことがありまして。」
レイラは話を切り出した。
「ほう、何かね?」
「なぜ、賢者の石がこの学校にあるのでしょうか?」
単刀直入にレイラは聞いた。
「なぜ、そのことを知っておる?」
ダンブルドアは驚く。
「国際魔法使い連盟が、賢者の石などという重要な物の在り処を把握してないとお思いですか?グリンゴッツに強盗が入ったとも聞きました。幸い、713金庫はからだったようですが。」
レイラが言った。
「Mr.ダンブルドア。あなたは国際魔法使い連盟の会員ですから個人金庫を持っているはずです。公に知られていない場所にありますからそちらに預ける方が安全なはず。それなのになぜ、公の場のホグワーツに?」
レイラが聞いた。
「なるほどなるほど。確かに国際魔法使い連盟が知っておってもおかしくないの。わしが個人金庫に預けなかったのは、ホグワーツが公の場であるからじゃ。今、賢者の石を狙っておるものがおる。誰かわかるかの?」
ダンブルドアがレイラに聞いた。
「今、賢者の石を狙う?」
(今、と言ったことはここ最近狙い始めたということ。これからイギリス魔法界で大きなニュースとなるのは……生き残った男の子、ハリー・ポッターの魔法界への帰還。ハリー・ポッターに関わりが深い人物?となれば真っ先に思いつくのはヴォルデモート卿だけど、でも彼は死んだはず。……いや待て、死体は確認されてない。つまり死んだとは断定できない?生きてたら確かに大きなダメージを負ってるだろうし。)
「もしかして、ヴォルデモート卿ですか?」
レイラは聞いた。
「そうじゃ。ヴォルデモート卿が肉体を取り戻すために賢者の石を狙う。奴が今どういう状況かはわからぬが……。」
「肉体を取り戻すため、と言った時点で肉体がないって状況がつかめてますよ。」
レイラはツッコミを入れた。
「そうじゃの。わしの憶測であっても君には話すべきかもしれんの。ここから先、話すことは口外禁止じゃ。」
「承知しました。」
レイラは頷いた。
「わしは、ヴォルデモート卿が死んでないと思っておる。何かしらの方法で死を免れたと思っておる。」
ダンブルドアが言った。
「ハリー・ポッターが生き残った男の子であることは知っておるな?彼は母親の命を犠牲にした護りによって生き残った。だから、わしは彼に施された護りを強固なものにするために、ハリーの母、ー君が調べれば一発で名前が出でくるじゃろうから、あえて名前を出そうーリリーの姉妹であるペチュニアの家、ダーズリー家にハリーを預けた。リリーの血縁者の彼女の家にいる間はハリーは安全じゃ。わしもダーズリー家には保護魔法をかけておるしの。しかし、ホグワーツに来るとなると、ダーズリー家から出ることとなる。ヴォルデモート卿も接触可能なわけじゃ。だからわしはヴォルデモート卿が肉体を取り戻すために賢者の石を狙っておると考える。」
「なるほど。」
レイラは相槌を打つ。
「そう考えると、グリンゴッツに賢者の石を隠すのは危険じゃと思った。今までにも強盗が何度か入ったことがあったからの。」
「待ってください。肉体を持たないヴォルデモート卿が強盗に入ると?」
「彼には多くの信者がおった。彼らを使えば良いじゃろう?」
「ああ、なるほど……。」
「グリンゴッツは危険だとわしは判断し、ホグワーツへと持ってきた。もちろん、一つの手段として個人金庫に預けることも考えた。じゃが、それよりも公の場であるホグワーツに隠す方が、安全じゃと考えた。なぜか、聡い君ならわかるじゃろう?」
「……大勢の目があるから。ホグワーツにいる人全員で監視することとなる、ということですか?」
「そうじゃ。だからわしはホグワーツに隠す判断をした。レイラにはどこに隠しておるか伝えよう。4階の右側の廊下じゃ。そこの隠し扉の下の空間に隠しておる。寮監の先生方と闇の魔術に対する防衛術の先生とハグリッドとわしで罠を張って賢者の石を守る計画じゃ。君の部屋は4階じゃから、できる限り見張ってほしい。」
「わかりました。……ハグリッドってあのルビウス・ハグリッド?」
(彼、一時期アズカバンにいたよね?)
「そうじゃ。……ああ、そうか、君なら彼がアズカバンに送られたことを知っておってもおかしくないの。彼の件はおそらく冤罪じゃ。彼のことは信用して良いぞ。」
「はぁ。わかりました。」
(まぁ、ダンブルドアが言うんだし。)
レイラは頷いた。
「実はレイラにも罠を考えてもらおうと思ったのじゃが……。」
ダンブルドアが言う。
「はい?私、魔法使えませんけど。」
レイラはダンブルドアの爆弾発言に驚く。
「いや、魔法を使わぬ罠を張ってもらおうとも思ったのじゃが、君は職員でもあるが同時に生徒でもあるからの。まぁ、とりあえずは廊下に入ろうとする人がいないか注視してもらうことにしたのじゃ。」
「……もしかして、そのためだけに私の部屋を4階にしたんですか?」
「……いや?」
(間があったよ。絶対怪しい……。)
レイラは訝しげにダンブルドアを見る。
「まぁ、よろしく頼むぞ、レイラ。」
ダンブルドアは言った。
その後少し雑談する。
「お邪魔しました。良い夜を。」
「レイラも良い夜を。」
レイラは校長室を出て、自室へと帰った。
部屋に帰ったレイラは報告書を書く。
『To:国際魔法使い連盟連絡受理局
From:レイラ・K・ミナヅキ・HW
件名:報告
賢者の石がホグワーツにあるのは大勢の目で監視することで賢者の石を守るためであることが判明した。
ダンブルドアはヴォルデモート卿が賢者の石を狙っていると考えている模様。
寮監の先生方(教科は変身術、薬草学、呪文学、魔法薬学)と闇の魔術に対する防衛術の先生、ハグリッドとダンブルドアで罠を張って守るとのこと。
また、何かわかれば報告します。』
送信した後、レイラはシャワーを浴び、ベッドへダイブする。
「はぁ、疲れた……。」
全く盛り沢山な1日である。
(それにしても、Mr.スネイプがわざわざ恨んでないか聞いてきたことには驚いた。)
彼はかなり義理堅い人間のようだ。あの答えでちゃんと納得してくれたかわからないが……。何度も言うが、レイラはスネイプを特に恨む気はない。対魔法界外交官の数が減ったせいで人手不足になり仕事量が増えたが、実際レイラにとっての影響はそれくらいである。確かに、親族が殺される場面を見ると言うのは怖い経験である。が、その後も人が死ぬ場面には何度も遭遇しているし、実際逃亡中は自分も命を狙われる側だった。いつの間にか経験の一つに組み込まれ、トラウマにもPTSDにもなっていない。冷たい人間と言われればそれまでだが……。
(ダンブルドアも考えるなぁ。ホグワーツ全員で監視するとは。)
賢者の石がホグワーツにある目的がすぐにわかってよかった、とレイラは思った。
どうやら、ダンブルドアはレイラを職員として見ている傾向が強そうだ。ならば、こちらもそのつもりで過ごさなければならない。
(ヴォルデモート卿……。彼だけは許せないわ。)
全ての元凶はこの人とも言える。昔の話や資料を見るとグリンデルバルドにも手を焼いたらしいが、彼は理由なく虐殺することはなかった。……だからって罪人であることには変わりがないが、ヴォルデモート卿の方がはるかに理不尽に命を奪っている。
(純血主義は特にイギリス魔法界には根強く残ってるし……。イギリスはマグル界でも階級を重視する傾向がある仕方がないとはいえど、それにしても酷いからなぁ。)
任務中に命を落とした対魔法界外交官は純血主義過激派によって殺された。マグルのくせに魔法界に関わってくるなんて生意気だ、と言うことらしい。対魔法界外交官がいなければもっと早くに魔法界の存在が露呈し、マグル界と全面戦争になっていると言うのに。対魔法界外交官がいることでこの世界は保たれていると言うのに。
(これ以上考えると眠れなくなりそう……。)
レイラは考えるのをやめ、目を閉じ眠りについた。
もうそろそろ本編に入りたい……。
次回、一気に時を飛ばして9/1です。