遅咲きの日本人魔法使いはホグワーツの外交官です。 作:音符と黒猫
朝6時。
少女ー水無月怜良(以下:レイラ)は目を覚ました。グゥーッと伸びをすると起き上がり、パソコンの電源を入れる。
新着メールが数通。無駄なダイレクトメールを処理し、組織ー国際魔法使い連盟所属対魔法界外交課からのメールを開く。
『レイラ・ミナヅキ
本日午前9時、ホグワーツより担当者が迎えに来る。場所はヒースロー空港ロビー。その後、イギリス魔法省に移動し、入学のための措置を行う。そこから先、対魔法界外交課は関与しない。全てホグワーツの指示に従うこと。以上。対魔法界外交課課長 アニー・モンペリエ』
(魔法省で何をされるのやら……。)
メールを読んでレイラはため息をつく。昨日届いたメールと情報量は大差ない。魔法省に行くことがわかっただけだ。しかも、そこから先は全てホグワーツの指示に従えとのこと。対魔法界外交課が関与しないということは、もう誰もマグル界からは手が出せない。魔法界に引き渡されるということだ。囚われると言ってもいい。
(本当に、何でこうなったんだろう。)
レイラはハァ、とため息をつきそして、ここまでの経緯を思い出しながら、ホテルを発つ準備を始めた。
【回想】
今から約2ヶ月前のことだった。一人暮らしをしていたアパートの部屋のベランダの窓に、何かが激突する音が聞こえた。時刻は午前5時。こんな時間から裏の空き地で野球をする馬鹿がいるのかと、やや呆れながら窓の様子を見に行った。というのも以前からベランダに打球が飛んで来ることが多々あったため、今回もその類だろうと思ったのだ。
ベランダへと続く窓のカーテンを開けると、そこにはフクロウが立っていた。
(フクロウ?どこかから脱走してきたの?)
窓を開けてもフクロウは逃げない。相当人馴れしているらしい。レイラはしゃがみ、フクロウと目の高さをできるだけ合わせた。そして、フクロウの足に括り付けられた手紙を発見した。
紐をほどき、手紙の宛名を見る。
『××県××市△△▽丁目◇◇-□(**荘2階3号室)水無月怜良様 ホグワーツ魔法魔術学校』
(ホグワーツってイギリスの魔法学校よね……。私に何の用かしら?)
「ホグワーツからわざわざご苦労様。水でも飲んで帰る?」
レイラは疑問に思いつつも、フクロウに言う。
飛び立たないところを見れば、多分水が飲みたいのだろう。
小鉢に水を汲み、フクロウに差し出す。
フクロウはピチャピチャと満足そうに水を飲み、そして飛び立った。
レイラは小鉢を片付け、100均のマグカップに朝のコーヒーを淹れる。コーヒーを飲みながら、レイラは手紙を読む。
『ホグワーツ魔法魔術学校 校長 アルバス・ダンブルドア
親愛なる水無月殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。
貴方には少々事情がございますので、6月13日の夕方、校長が直々にご説明に向かいます。貴方の元を訪ねることは、貴方の両親から許可を頂きました。予定を空けて待っていてください。
なお、入学するか否かの意思は、その際校長に直接お伝えください。
敬具 副校長 ミネルバ・マグゴナガル 』
(私が、ホグワーツに入学?私はもう17歳。6年も過ぎてるし、それに……魔女じゃないはずだし。)
レイラは純粋マグル……のはずだ。だが、思い当たることがないわけではない。しかも、つい最近だ。
(もし、私があの時魔力を有していたなら……。)
昨年の11月、16歳の時、レイラは魔力を有したのではないかと思うような出来事があった。諸用で高層ビル内のオフィスに立ち寄った際、記念にと展望台から景色を眺めていた。ガラス張りなので普通に考えると落ちるはずはない。しかし、ある時ガラスが《《消えた》》。別にレイラが何かしたわけではない。ひとりでに消えたのだ。そして、1人の外国人男性がレイラの肩を
その後、レイラは放心状態のまま家へと帰り、すぐに寝た。何かの間違い、ただの悪夢だと思いたかった。
だが、翌日の新聞でレイラに声をかけた外国人男性がビルから落下して亡くなったことを報じていた。悪夢ではなく、現実だったのだ。レイラのことは何一つ書いてなかった。レイラも一緒に落下していたはずなのに、だ。なぜガラスが消えたのか、落下していた自分が気が付いた時には公園のベンチに座っていたのか、原因はわからない。ただ、魔法界と繋がりがある彼女は魔力を持つ者がたまにこういった経験をすることを知っている。もちろん、レイラは魔女ではない。魔力と結びつけて考えたのも、レイラがたまたま魔法界というもう一つの文明世界を知っているからのことであって、きっと何かの原因で超常現象が起きたのだろうと考えることにした。対魔法界外交課からは何が起きたのか調査するように指示が出た。今、正規の外交官ではない未成年のレイラをも使用しないといけないほどに人手不足なのだ。レイラはガラスが消えたこと、それによって男性がバランスを崩してビルから落下したのだという調査結果を報告した。ガラスが消えた原因はわからないが、近くに魔法使いはいなかっただろう、とも。魔法が関わっているかどうかは明記しなかった。レイラが魔力を持っていると証明する証拠はないからだ。
それなのに、ホグワーツ魔法魔術学校から入学の案内が届いた。それはレイラは魔女であるということの証明である。
(私は、あの時魔力を有した?ガラスが消えたのも、落下していたはずなのにベンチに座っていたのも魔力の暴走?だとしたら、私は……。)
人を1人《《殺した》》ことになるわ、とレイラは呟いた。
そして、6月13日の夕方、ホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス・ダンブルドアは玄関にいきなり現れた。
「はじめまして、Ms.ミナヅキ。わしがホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス・ダンブルドアじゃ。ここは、土足厳禁かの?」
「ええ。靴を脱いでお上がりください。すみませんが、スリッパは用意してないので。」
「いや、構わぬよ。」
床の上を靴を履かずに歩くのは新鮮じゃな、などと言いながらダンブルドアはレイラに案内されるまま、部屋の中央のテーブルセットまで歩いた。
レイラは紅茶を淹れ、ダンブルドアと向き合って座った。
「はて、君は一人暮らしかね?」
ダンブルドアは柔らかな口調で言った。
「ええ。15歳から。父と母は国を転々としてますよ。」
今は多分ソ連にいます、とレイラは言った。
「そうか。ご両親は忙しいのぅ。」
「ええ。どうやらソ連で大きな動きがあるようで。」
「ふむ。水無月家が動くのじゃから、確かに大きな動きがあるのじゃろうな。」
そう言うと、ダンブルドアは紅茶を啜った。
「さて、本題に入ろう。君はホグワーツ魔法魔術学校の入学案内を受け取った。確かじゃな。」
「ええ。ここにあります。」
レイラは入学案内をダンブルドアに見せた。
「うむ。君は今17歳。魔法界ならば成人じゃ。普通なら入学は考えられない。じゃが、わしは君にはホグワーツに入って欲しいと思っておる。」
「なぜですか?」
「君の魔力は並みの魔法使い以上、とても強力だからだ。確かに、魔法界には通信講座もある。君はとても優秀だと聞いておる。通信講座でも充分力はつけられるじゃろう。じゃが、君には生きた授業を聞いて生きた勉強をしてほしい。」
「はぁ。でも、私は本当に魔女なのでしょうか?」
「どういうことかね?」
「どうして私が魔女だとわかるのですか?わたしは11歳になるまでに魔力を有したわけではありません。それなのに、どうして私が魔女だとわかるのですか?」
「君は、昨年の11月に魔力を有した。そう、あの事故じゃ。報告書を読んだ時、不思議に思った。この報告書を書いた人間は、なんとなくじゃが真相を知っているような気がしての。書いた人間を調べると君の名前が出てきた。そこで、ちとカマをかけてみたのじゃ。」
「じゃあ、あの入学案内は……。」
「わしが君に接触するための口実じゃ。もちろん、君の両親には既に君が魔女の可能性があるという憶測を話した。」
「父と母はなんと?」
「君が魔女ならば、それはそれで喜ばしいことだと言っておった。君が魔法界で暮らしたいのならそうすれば良い、とも。」
「そうですか。」
レイラはホッとした表情になって言った。
「うむ。理解のある両親で良かったのぅ。」
ダンブルドアが微笑む。そして、真剣な顔になっで言った。
「あの事故のこと、包み隠さず話してくれないか?」
レイラは事故のことを話した。なぜか展望台のガラスが消えたこと、外国人男性がレイラに声をかける時に肩を突いたこと、レイラがバランスを崩して落下し、男性も同じくバランスを崩して落下したこと、そしてレイラは近くの公園のベンチにいつの間にか移動しており、男性だけが亡くなったこと。
「私は、ある意味人殺しです。」
話し終えてレイラがボソッと呟く。
「いいや、レイラ。君は人殺しではない。あれは事故じゃ。」
「でも、人が死にました。」
「うむ。確かに死んだ。今後、このような事故を起こさぬ為にも、君は魔法を学ばねばならん。」
ダンブルドアは言った。
「でも、私は今でも魔力を有しているのでしょうか?あの日以来、私は一度も魔力の暴走を起こしていません。今の私にも魔力はあるのでしょうか?」
レイラはダンブルドアに聞いた。
「わしは君から魔力を感じる。しかも、かなり強力な魔力だ。」
「では、どうして強力な魔力を持つにも関わらず、私は魔力の暴走を《《起こさない》》のですか?」
レイラの質問を聞いて、ダンブルドアは首を傾げる。
「《《起こさない》》。そう言った時点で君には答えがわかっておるはずじゃ。」
「え?」
今度はレイラが首を傾げる。
「君が魔力の暴走を《《起こさない》》のは君の精神が安定しておるからじゃ。恐怖などを感じ、精神の安定が崩れた時に魔力は暴走を起こす。君は精神の不安定が魔力の暴走の原因だと気づいておるようじゃ。そうでなければ、なぜ魔力の暴走が《《起きない》》のですか?とわしは質問すると思うのじゃが。」
「あぁ。なるほど……。」
ダンブルドアの言葉にレイラは納得する。
「君は君自身が把握しておるよりもっと多くのことをわかっておるよ。」
ダンブルドアは微笑んだ。
「もう一杯、紅茶をいただけるかの?」
「ええ。もちろんです。」
レイラは紅茶を淹れる。
「君の両親は、君が魔女なら是非ホグワーツに入学して欲しいと言っておった。」
「どうしてですか?」
「君に学生生活を送って欲しいから、と言っておった。彼らも学生でいた時間は短かったが、君の場合は0に等しいようじゃの。」
「まぁ、毎月のように国をあちこち動いてましたからね。続けて通えないから学ぶこともまちまちだし、友達もできないし。やっと打ち解けてきた、と思った頃に移動ですから。かと言って両親以外の親族はいないのでついていくしかないし。学校の編入手続きも面倒で、もう11歳から先は全て独学です。それまでも、放課後は自習してたんです。正直、小学校で習うことは既に学習済みでしたから、授業に出る時間が無駄に感じられて。ならば全て自習の時間にしてしまえば良いと思って。」
「なるほどのぅ。だから君のご両親は君に楽しい学生生活を送って欲しいのじゃな。君は、ホグワーツに来てくれるかい?」
「……是非、お願いします。」
少し迷った末、レイラは頭を下げた。
【回想・完】
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とまぁ、こんな経緯を得てレイラはホグワーツに入学することとなった。
しかし、どうして魔力を有するようになったのかはいまだ疑問である。
レイラは高所恐怖症ではないから、展望台にいて恐怖など感じることはない。落下しながら別の場所に移ったことなら、恐怖による精神の不安定で説明できるが、ガラスが消えたことに関しては説明できないのだ。
(本当に、どうして魔力なんか有したんだろう……。)
レイラは両親と同じ道を歩くはずだった。マグル界と魔法界を繋ぐ対魔法界外交官は水無月家の家業である。対魔法界外交官についてもう少し詳しく説明すると、魔法界とマグル界の間のトラブルなどを解決するのが主な仕事で、極秘の存在であり、魔法界でもマグル界でも知る人は少ない。世界中のわずか15家系に代々受け継がれる職であり、誰でもなれるわけではない。水無月家に産まれた時からその職に就くことはほぼほぼ決まっていたレイラだが、レイラ自身その決定に異議はないし、むしろ対魔法界外交官となることに積極的だった。3年後、20歳になったら最前線に出て働くつもりだった。
それなのに、魔力を有したことで学校に通わなくてはならない。しかも、入学年齢を大幅に超えて、だ。正直、あの事件で死者が出なかったらレイラは入学を断って通信講座を受ける選択をしただろう。これ以上、自分の魔力の犠牲者を出したくなかったし、魔法が使えれば魔法界での仕事の際、自分の身を守ることができる。
レイラはホグワーツ入学に同意した後、両親を介してクイックスペル(魔法速習通信講座)を入手し、一通りの魔法の基礎を学習した。杖は持っていないので、考えた末、代替品として新しい箸(木製)を買って振り方を練習した。というのも、レイラは魔法界には数回出入りしているため慣習などは理解しているが、魔法そのものに関してはほとんど何も知らない。もちろん学んで行く必要はないのだが、レイラは自分の魔力を危険視しているため、基礎的な知識は知っておいたほうがいいと判断したのだ。魔法法辞典(イギリス版)やイギリス魔法省組織図なども入手し、イギリスの法律や組織図を頭に叩き込んだ。
そして今日、イギリス魔法界に魔女として足を踏み入れる。
(さて、行こうか。)
準備を終えたレイラはスーツケースとショルダーバッグを持ち、部屋を出た。ホテルのチェックアウトを済ます。
そして、空港行きのバスに乗り、ヒースロー空港へと向かった。
12/26に一部改変。