遅咲きの日本人魔法使いはホグワーツの外交官です。 作:音符と黒猫
午前8時過ぎ。
レイラはヒースロー空港ロビーに到着した。1時間近く早くヒースロー空港に到着したのは朝食を摂るためである。
カフェに入り、レイラは朝食セットを注文した。出て来たのはトーストとベーコンエッグ、サラダにスープ、紅茶である。典型的なイングリッシュブレックファーストだが、昨夜の夕食がフィッシュ&チップスだけだったレイラにはご馳走にも思えた。
15分後、朝食セットを食べ終えたレイラは会計を済ませ、ロビーのソファーに座った。特にすることがないので、パソコンを取り出しメールをチェックする。両親がいる上海は今午後3時過ぎだ。午後3時頃は比較的時間に余裕があるらしく、大抵この時間にメールが届く。 案の定、両親からのメールが届いていた。まずは父からのメールを開く。
『レイラ・ミナヅキ
先ほどモンペリエからメールが届いた。
今日が魔法界入りだそうだな。
水無月の姓を名乗るものとして恥ずかしくない対応をするように。
忘れてないとは思うが、魔法界ではレイラ・K・ミナヅキと名乗ること。
魔法省での措置以降はマグル界側からは接触が持てないらしい。
イギリス魔法界に行く機会があれば是非レイラに会いにホグワーツを訪ねる予定だが、上海の後はソ連に戻ることになっているから早々訪ねる機会はなさそうだ。次に連絡を取るまで1年以上間が空くかもしれない。
体に気をつけて、ホグワーツで頑張れ!』
(……父さん、ふくろう便の存在忘れてない?)
ホグワーツではパソコンが使えないだろうが、ふくろう便があるのだから連絡を取る方法はあるはずだが……。まぁ、気にしないでおこう。
次に母からのメールを開く。
『レイラ・ミナヅキ
先ほどモンペリエからメールが届いたわ。
今日からイギリス魔法界に仲間入りするのね。
女子なのだから、身の回りには気をつけるのよ。
魔法省での措置の後、私たちはレイラに接触することはできないわ。だから、困ったことがあったら必ず先生に言うのよ。
まぁ、あなたが困ることはそうそうないでしょうけれど……。
楽しい学生生活を過ごしてね。』
(母さん、買いかぶり過ぎ。私だって困ることはある……多分。)
身の回りに気をつけろ、と言うのは尤もな忠告なのでレイラはしっかり心に刻んだ。
そして両親へ返信する。
『ケント・ミナヅキ
メールをありがとう。
魔法省では水無月としての自覚を持って対応するのでご心配なく。
入学したらふくろう便を送るつもりです。
ソ連の方は今ゴタゴタが続いているみたいですね。
父さんこそ、怪我なく、体調を崩すことなく、仕事を頑張ってください。ホグワーツで楽しい学生生活を送れるよう、私も頑張ります。』
『カエデ・ミナヅキ
メールをありがとう。
しっかり身の回りには気をつけてホグワーツ生活を送ろうと思います。
学生生活は楽しみです。
入学したらふくろう便を送ります。
母さんも仕事頑張ってください。』
レイラはメールを打つ時、誰彼構わず敬語で打ってしまう。両親に宛ててだというのに、何とも他人行儀な感じの文面になってしまったが、まぁそれも個性ということにしてもらおう。
メールを送信し終えたレイラは、パソコンをしまいクイックスペルを取り出す。ブックカバーがかけてあるので魔法界の本とはだれもおもわないだろう。魔法界は主に羊皮紙を使うため触った時の質感がマグル界の本とは違う。正直、紙の方が安くて印刷もしやすいと思うのだが、魔法界では勝手が違うのだろうか。
クイックスペルの巻末用語集を読みながら待つこと十数分。レイラは何となく視線を感じて辺りを見回すと、1人の男性が目に入り、ギョッとする。
(何で死喰い人がいるんだ……。)
死喰い人。闇の帝王ことヴォルデモート卿の作ったグループ。1981年にハリー・ポッターがリーダーであるヴォルデモート卿を破ったことで今は衰退しているが、今も密かに手下たちが活動しているという報告が上がっている。マグルにも関わらず、少なからず魔法界に影響を及ぼす対魔法界外交官たちは目障りな存在だったのだろう。当時イギリスにいなかった対魔法界外交官も執拗に付け狙われ、15家系、50人以上いた対魔法界外交官は今や5家系、16人まで減ってしまった。主にバディーを組んで動くので現在動いているのは8組である。その中での一番の古株が課長、アリーの率いるモンペリエ家。次に続くのが水無月家である。日本には水無月家と神無月家の2つの家系があり、父は水無月家、母は神無月家の出身だ。現在、水無月家も神無月家も父と母、レイラ以外の人間は残っておらず(この3人以外は皆殺しである)、母は父と結婚して姓も水無月となっているので事実上神無月家は消滅している。水無月、神無月、両方の血を引くのがレイラである。ちなみに、レイラのミドルネームのKは神無月の略である。
レイラも産まれてからハリー・ポッターがヴォルデモート卿を破る7歳まで死喰い人からの逃亡生活を送り、5歳の時には親族が殺されるところを見ている。アイルランドで水無月家、神無月家両家の生き残りが空き家に集まって対策を練っている時、死喰い人に襲撃された。父と母は死喰い人が空き家に入るのと入れ替わりに外に出て、間一髪で逃げた。逃げる際、父と母はレイラの手を引いていたのだが、レイラがこけたため、手が離れてしまった。立ち止まると待っているのは死なので、両親はそのまま外に逃げた。逃げ遅れたレイラはたまたま見つけた隠し壁収納の中に隠れた。他の逃げ遅れた親族は1人残らず緑色の光線を受けて死亡。収納の扉がマジックミラーだったため、レイラは親族が殺されていく様子を見ることとなった。死喰い人は親族を殺し尽くした後、満足そうに仮面を取り何やら話し始めた。この時、レイラは死喰い人の顔をはっきりと見ている。死喰い人たちは腕を出し、何やら儀式的なことを行なった後、空き家から消えていった。そして、空き家に戻った両親と合流。レイラを死んだ者だと思っていた両親は泣きながら喜んだ。その後もレイラたちは国を転々として死喰い人からの襲撃を避け続けた。
レイラはアイルランドで襲撃してきた死喰い人たちの顔を未だ覚えている。人によっては声も覚えている。その時いた死喰い人の1人が、空港のロビーにいるのである。レイラがギョッとするのは当然なのだ。否、ギョッとするだけで済んでいるレイラは特殊だ。普通なら卒倒してもおかしくない。レイラがホグワーツに行くのを迷った理由の一つに死喰い人に狙われることがあった。それでも、ダンブルドアの庇護下に入れば問題ないからと、ホグワーツ入学に承諾したのだ。もちろん、ホグワーツに入学するまでに死喰い人に会うという最悪なケースも想定はしていたため、対応は考えているのだが。
レイラは男に見つからないことを願って気配を消した。そして、杖代わりの箸をすぐに握れるよう、ショルダーバッグの外側のポケットに装備した。
もう、誰が迎えに来たかわかりますよね?