育て屋、というものがある。
育て屋は各地方に存在していてその形はそれぞれであるが、このアローラ地方に存在している育て屋は他の育て屋とはかなり違いポケモンの育成に関わらない預かり屋である。
それは――人でいうメンタルケアカウンセラーの様なもので、ポケモンの辛い記憶、悲しい過去、戦いの中でのトラウマを解すために存在する。つまり、ポケモンのメンタルに関するスペシャリスト、という訳だ。
で、何故俺がこんな話をしているかというと。
「ハーネス! こっちのポケモンフーズあっちの子達に上げておいて!」
「うん、わかった」
俺が育て屋に住んでいるからに他ならない。
山のように積み上げられたポケモンフーズを掬って小皿に分けて小分けにする。一つの皿に群がったりすると、皿が割れたり食べられないポケモンができて食べる量にむらが出来る。すると、ポケモンはストレスが溜まる。
人より丈夫な体を持っているが、デリケートなんだポケモンは、人間と同じように。
「あっちの方って言うとみずポケモンの方か……確かこっちの方に……」
ポケモンフーズの味の好みはポケモンによって違う、だからポケモンによってポケモンフーズの味を変えないといけないのだが、無数のポケモンがいる預かり屋は餌の量もまた膨大、そしてその中から目的の餌を運び出すのだからこれまた大変だ。
「ほら、ご飯だよ」
そう言って運んで行くと色んなポケモンがこっちに向かって集まってくる。
ケンタロス、ラッタ、ガーディなど、その種類は多種多様であり見ていて中々飽きないが、見られていると食べられないポケモンもいるので早々に退散することにする。
「ふぅ、やっと終わった」
一つの仕事が終わるごとに一息つく、じゃないと俺は体がもたない。
俺を拾ってくれたお姉さんたちはいつも休む暇がないくらいずっと動いてるのに、情けない……なんて、思っていると不意にトントンっと肩が叩かれたので振り向くと。
「あっ、えーっと……妹さんの方の――パンセさん?」
「ピンポンピンポン、正解」
「すみません、まだ慣れてなくて」
なんたって顔が似てる所か殆ど同じなのだ、二年の間に雰囲気とかで判れと言われても到底無理な話である。因みにわかるように考慮してくれて、帽子に花が付いている方が妹さん、ないほうがお姉さんである。
「ハーネスくん、お疲れさま」
「ハハハ、って言ってもまだ全然何もやってないんですけどね」
何でこんなにも体が弱いんだろうな、といっても仕方がない、皆の同情をを引きたいわけじゃないから口には出さない。けれど
「もう、二年経つんだよね。ハーネスくんがここに来てから」
雰囲気でわかってしまうのか微笑んでそう言われて俺はあの時のことを振り返る。
二年前、あれは雨の降る夏のことだった。
当時の俺は何かから逃げるように体が弱っているにも関わらず、ずっと走って走って走り続けていた。気が付いたらカンタイシティを抜けて、オハラタウンを過ぎたころには体力も付底をついていてふらふらと一歩一歩歩いてでも先に進んでいたのを今でも覚えている。霞む視界と千鳥足のようなふらつき。そして、ついにはぬかるんだ地面に足をとられて前倒れに倒れた。
その時、俺は死んだと思った。急速に感覚のなくなっていく手足、酸欠と雨による体温の低下。そんな時だ、オハラタウンに買出しに行っていたとある姉妹によって保護された。
よく俺は生きていたなと思う。
幸い、オハラ牧場付近のポケモンは温厚で、尚且つ雨だということもありうろついているポケモンが少なかったことも今生きている理由なんだろう。
後から聞いた話によると病衣のような服をきていたらしいが、それは何故だかわからない。
覚えていたのは自分の名前と、途切れ途切れの記憶ぐらいだ。
「休憩終わり! ほら行くよ」
「えっ、ちょっと引っ張らないでくださいよ! 服伸びる服伸びますから!」
命を救われて、ポケモンと触れ合ってそして思ったんだ。
――旅に出たい、と。
そんなある日の事だった。
「ポケモンの卵が卵を持っていたの、何処から持ってきたのか分からないけど、あなたのポケモンが持っていたタマゴ……要ります?」
預かり屋にポケモンを預けたスキンヘッドの男がこの店にやってきた。その男は俺が面倒を見ていたキュウコンを引き取ることになって、ずっと見てきたポケモンだから見送りをしようと付いて来たが……。
「いらねぇ」
「そう……ですか」
「……」
ポケモン、と言うのは人間と同じであると、俺はそう考えている。ポケモンには喜怒哀楽があり、性格があり、好みがあり、そして助け合いがある。そして、裏切られれば当然悲しむ、傷付く。この預かり屋にはそういうポケモンが沢山いる。言い方が悪いが、言い換えればここはポケモン達が傷を舐め合うような場所、そう思われているらしい。
「こんな所で出来たポケモンに期待出来るかよ、タマゴなんて要らねぇよ」
当然、こういうことを言い出す俺からすれば虫唾の走るようなトレーナーだって、この世の中には存在する。
俺はそんな悪意に
「お前が……」
――耐えられそうに無かった。
「ん?」
「お前がそのキュウコンを大切にしないからここに預けられるようになったんだろうが」
「ハーネス!?」
隣から驚く声が聞こえてくるが気にしない。
俺にはあいつの持っているキュウコンが強く、気高くそして美しいと思えるようなそんなポケモンだと接していて思った。だからこそ、俺にはまるでポケモンとトレーナーが釣り合っていない、そう感じられた。
「ポケモンを道具みたいに言うなよ」
「知るかよ、俺のポケモンだ。どうしようが勝手だろ?」
何でだろうか、確かに人のポケモンは人のポケモンだと、俺は心のどこかで諦めて認めてしまっているような所もあった。二年前の俺なら今のようには怒ってない。けど……何故か今は許せなかった。
「じゃあ、お前が一度いらないと言ったこの卵は貰っていいんだよな?」
「好きにしろ」
温かみを感じるこのタマゴを抱きながら俺は目の前のスキンヘッドの男を睨んだ。
「いつか絶対お前を倒してこの子に謝らせてやるよ」
「ふっ、精々頑張るんだな坊主」
そう言ってキュウコンを連れて店を出ていく男に俺は舌打ちをして、この子を卵孵化装置に入れる。
「ハーネス……変わったね」
「えっ?」
怒られるとすら思っていた俺には思わずびっくりして声を上げてしまう。
「昔はそんな風に思っても諦めたような感じだったけど、今はポケモンのためにちゃんと怒れる。うん、ハーネスはいいトレーナーになれるよ」
「怒らないの?」
「怒る? 何で? 私も頭にきてたから寧ろスカッとした! ありがと、言ってくれて」
そう言われたのと同時に店の奥から
「こっちの方までハーネスの怒鳴り声が聴こえてきたから何があったのかと思ったけど……成程、また一つ成長したねハーネス」
「お姉さん……」
「ポケモントレーナーになるんでしょ? 前から旅に出たいと思ってたのはわかってた」
「私達に気を使わず行ってくるといいよ!」
自分は結構わかりやすいタイプなのだろうか、二人には懸念していた事が全部ばれてる……。
「タマゴは大体一月くらいで孵化するから、だから恐らく旅立てるとしたら二ヵ月後くらいね」
「ちゃんと準備しないとね!」
「うん!」
二人の言葉に俺は大きく頷いた。
キャラが原作であまり掘り下げられていなくてストーリーも一回しかやってないから所々うろ覚えな作者です。
ポケモンSMはストーリー性に富んでいて書きやすいだろうな、と思い書いてみた次第。結果は自分の文才に絶望しましたが。
どうも、回想は苦手で……。
因みにお姉さんは兄弟的な距離感を、妹の方は友達のような距離感を意識して書いております。
皆様の認識に合わないな……と、思うようなことがありましたら参考までに教えてくださいお願いします。