ポケモンが産まれる瞬間、というものは時に甘美なものにして同時に絶対的な偏見を産むことになる。ポケモンは自分と旅をする、そういった偏見を――。
◇
ピキピキッ……
「ふわぁ……なんだよもう」
俺は何かが割るような音が枕元から響き、耳に届く音は否応なしにも安眠を阻害し俺は起きることを余儀なくされた。そして、音の元凶を見つける為に軽く辺りを見回す。俺の部屋にそんな音がなりそうな物が果たしてあっただろうか。
「あっ……」
先程までは、まだ暗闇に目が慣れていなかったせいか見える事がなかったが、少し目が慣れてきた今なら見える。
「タマゴにヒビが入ってる……」
恐らく、病的な早生まれと言うことはないだろう。と、自分の中で過ぎ去った月日を数えながらそう、結論付た。つまり、ガムテープでタマゴを補強するということはやらなくてもいいと言うことだ。
「ボールボール……」
タマゴから産まれたポケモンを捕まえるためのボール。それはお姉さんから渡されたピンク色を主体として青や肌色を水に浮かべたようなそんな模様をしたボール――ヒールボールと呼ばれる特殊なボールだ。
ピキピキ、パキパキッと徐々にその音は大きくなり直に産まれることを何よりも予感させる。
「早く産まれないかな……」
初めてのポケモン、自分だけのポケモン。その瞬間はどんな高名な人物でさえ、どんな名高いトレーナーだって心踊らせる。
ピキピキッ、パキッ
「目が……!」
暗闇に慣れてきた目には突然の光は毒でしかなく、目の前のそこにいるはずのポケモンを見ることすら出来なかった。
「ろぉこん」
そうして、産まれてきたのは白い毛並みに青い瞳を備えた小さなロコンだった。ただ、一つ疑問なのは……尻尾が一本しかない点だ。
「尻尾が一本……?」
病的か、従来の仕様かそんなことは知識としてロコンは尻尾が六本である、ということしか知らなかった俺にはわからなかった。
「辞書辞書……」
なので、俺はポケモン辞書に頼ることにした。
ポケモン辞書、それはポケモン図鑑によって纏められたデータを書籍化したものでハイテク機能持ちの高価な従来の図鑑を持つことが出来ない人達が持つ非常に取っ付きやすいアイテムの一つである。
「ええっと……ラ行……ロ……あった。ええっと、ロコンは生まれた時は尻尾が一本である、成長とともに尻尾の数が増えてゆき次第に六本に近づくか……」
取り敢えず、病的ではないということはわかった。続きを読んでみよう。
「えーっと、強くなればなるほど毛並みは美しくなる……か」
今は弱くて、親には似ても似つかないようなそんな感じだが強くなればなる程、ロコンは美しく強くなるって訳であり、あのキュウコンはかなりの強さを誇っていた、ということだろう。
「取り敢えず、親登録だけはしとかないと」
そう思い、ボールロコンに当てる。すると、ロコンは光につつまれてボールの中に入っていく。産まれたばかりのポケモンは抵抗する力も弱く、すぐに捕まえる事が出来た。
「よしっ、出てこいロコン」
「こぉーん」
そうして、ロコンが出てきた時ロコンは俺からサッと距離をとった。
「んー……」
ロコンには臆病であり癖があるんだろうな……と、最近ライチさんに習ったことを頭の中で反芻していた。
『――いいかい? ポケモンは一癖も二癖もあるポケモンのほうが強い傾向にある。例えばいじっぱりだったり、ようきだったりひかえめだったり、とにかく人ならあるような前向きなまじめさや、がんばりやなど癖のない性格は扱い易い代わりに能力が凄く標準的なんだよ。その代わり、尖った部分が癖のあるポケモンより少ない。対して、癖のあるポケモンは扱いずらいポケモンである代わりに強いんだ』
恐らくその点で言えば強い……。
「こぉーん!」
パリん。
「おい、ちょっと待てよ!」
そう考えていた時、ロコンは窓を突き破って逃げ出した。その時、反動で机の上に置いていたハンドリングの練習をしていた時のボールが足元まで転がってきた。
「……あっ」
『ポケモンは人と同じ』
前までよく言っていたことだった。バトルに関わるようになって、ポケモンに強さを強要することが多くなってきたことを俺は思い出した。
「追いかけなきゃ……」
初めてあった奴に価値を決められるような見方をされれば誰だって気分が悪くなる。そんなこともわからなくなってるようじゃ駄目だ。
「謝ろう、ロコンに」
そして、俺は外に出ていったロコンを追いかけた。
◇
「――よかった、いた」
幸い、ここら辺の地面は柔らかくロコンのような軽いポケモンでも足跡が残っていた為追いかけることが出来た。
真ん丸な綺麗な満月だった。俺がロコンを見付けた時、ロコンは丘の上で月の方を見ると同時にその目はどこか遠くを見ていた。俺にはその姿に昔の俺のようなどこか芯の出来上がっていなくて心細さに震える小さな子供の姿を幻視した。
「そっか……お前には母親の場所がわかるのか?」
「――こぉおおおおん」
高く、響く遠吠えとともに空からきらりと光る何かが降り注いできた。その正体は、あられだ。月の光に反射して輝くあられは幻想的で常夏のアローラではそうそう見られない光景だった。
「……俺はお前のトレーナーに相応しくなかったのかもしれないな」
ロコンが強いかどうか、バトルで使えるかどうか、そんな風にしかロコンを見えてなかった。
「ごめんな。けど、改めて……ロコン俺と一緒に旅をしてくれないか?」
「?」
こてっと、首を傾げるロコンに俺は言葉を続ける。
「絶対じゃないさ、頼めばお姉さんやパンセさんなら別のポケモンを用意してくれるだろうし。でも、俺は――お前と一緒に旅がしたいんだ」
そう、俺は心のどこかで仲良くなるなんて思いつつもこの子と旅に出るのは確定事項である。そんな風に話を進めている節があった。けど、気付いたんだ。別にロコンに旅に出ることを強いる意味はないんだって。
「もう一度聞くけど、俺と一緒に旅をしてくれるか?」
そう言って手を差し出した。
「こぉん♪」
ロコンはその尋ねに答えるように俺の手に、ポンっと手を重ねた。
「よっし、じゃあこれからお前の名前は│雪華《せっか》だ!」
こうして、俺は始めてのポケモンを本当の意味でゲットした。