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一日目 一七:一五 海軍省軍令部 元帥執務室
「さて、上条君。君に艦娘について説明をしようと思う」
「…その前に一つ聞いても?」
「何かな?」
「島風が制服というのは知ってますが、その、隣のお姉さんも制服なんでしょうか?目のやり場に困るのですが」
島風の隣の艦娘に視線を向けないようにしてそう尋ねる上条に、元帥は目を細めてからその艦娘に顔を向ける。
「比叡、説明を」
「はい。内勤時はこれが私の制服になります!」
「ねえ何考えてるの日本海軍!まともに見れない格好を制服にするなんて!」
「上条君、最初に言っておくがこれは軍令部で指定した制服ではない。比叡は前にいた鎮守府で命令され、未だにそれを守っているのだよ」
「今はアンタの部下でしょ?それでも着させているってことはアンタが命令してるんじゃないの?」
「いや、そんなことはないが…」
「えーっと、比叡さん?」
「はい。何でしょうか?」
「比叡さんは提督の命令でそういう格好をしているのですよね?」
「はい」
「ほらやっぱり!」
上条はそう言うと、素早く比叡から視線を逸らして提案する。
「とりあえず比叡さんに命令してよ。内勤時も艦娘の制服を着用しなさいって。上条さんには綺麗なお姉さんのスケスケネグリジェ姿は刺激的すぎますことよ」
「…戦艦比叡、本日ヒトナナイチゴーをもって内勤時も艦娘の制服を着用することを命ず」
「はい。比叡、了解しました。…あの、それでは着替えに戻ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。着替え終わったらまた執務室に戻ってきてくれ」
「はい。失礼します」
比叡が一礼して執務室を出ていくのを、元帥と大淀は愕然とした様子で見送った。今まで何を言っても内勤時の制服だと言って着替えようとしなかった比叡が、あっさりと着替えることを了解したからである。
「大淀、私は一体何をしていたのだろうね」
「いえ、私も驚いています」
「艦娘さんたちって提督ってやつに従順すぎるんじゃね?なんていうか、狂信者みたいな感じするんだよな」(なんかローマ正教の奴らみたいな)
「ふむ。狂信者か。言いえて妙だな」
元帥はそう呟いてから上条に向き直る。
「上条君。艦娘は過去の軍艦の魂を宿した女性たちであり、艤装を装着し海上を自在に航行して深海棲艦と戦う戦闘兵器でもある。それ故に提督の命令に従順なのだよ。たとえそれが理不尽なことでも、命令ならば大抵のことには従う」
「それって、洗脳でもしてるの?」
「そういうわけではないのだが。兵器の矜持、とでも言えばいいのか、艦艇として提督の命令には最優先で従うようになってしまっている。中には反抗的な艦娘もいるが、そういった艦娘も根本的には同じだ」
「えーっと、艦娘さんは妖精さんたちと同じようなものって考えればいいのか?なんていうか、軍艦の精霊が艦娘さんみたいな?クローンという可能性もありそうだけど」(妹達も個性があったし)
「軍艦の精霊…。そういう見方をしたことはなかったが、そう考えれば同型の艦娘がいることも不思議ではない、か?」
「そして、艦娘さんたちは基本的に提督の命令に忠実で、比叡さんみたいな格好をさせていたってことは、もしかしてあんなことやこんなことも!?」
「まあ、仮にだが、提督として私が命令すれば従う。例えば、大淀、上衣を脱げ」
「はい」
元帥が言うと、大淀はためらう様子もなく返事をしてセーラー服を脱ぎ、ネクタイを緩めてワイシャツのボタンに手をかける。
「大淀、服を着ろ」
「はい」
元帥が言うと、大淀は何事もなかったかのように返事をしてネクタイを締め、セーラー服を着る。
「とまあ、こんな感じだ」
「これってただの仕込みじゃないの?やけにスムーズだし。島風も同じなの?」
「ふむ、じゃあこうしよう。島風、今日は上条君と一緒に眠りなさい」
「了解」
「いやいやいや、何言っちゃってんの!?それに島風もなんで了解しちゃってるの!?」
「え?命令だし、了解するよ」
不思議そうに島風が言うと、上条は元帥を見る。
「冗談ですよね?」
「比叡か大淀が相手の方がいいかね?」
「………島風でいいです」(奇麗なお姉さんに添い寝されるなんて、上条さんまだ死にたくありませんことよ)
上条はがっくりと肩を落とすと、ソファーに身体を預けるのであった。
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七拾八日前 二三:三〇 ラバウル鎮守府 大浴場
身体を洗い終わり、シャワーでしっかりと洗い流してから浴槽に入り身体を沈め、そのまま身体を滑らせて仰向けの状態でお湯に浮かぶ。胸の一部と顔だけが湯面に出ている状態で比叡はぼんやりと天井を眺めていた。
(一人目のお客様が部屋にいるときに二人目のお客様が来るなんて予想外だった)
しかもご奉仕しようとしたら拒絶され、工廠に追いやられてしまった。そして工廠妖精さんに替えの制服等を渡されたので、大浴場で汚れを落とすことになったのである。
(私、駄目な子です)
お客様を満足させることができなかったと思い込み、比叡は大きなため息をつく。両耳は湯面下に沈んでいるため、周波数の低い雑音のようなものしか聞こえてこない。
(司令も褒めてくれないし、お姉さまも声をかけてくれなくなった。私は役立たずです)
実際にはラバウル提督は初めから比叡を商品としてしか見ていないため、褒めるなどするはずもない。金剛は比叡に負い目を感じて話しかけられなくなっているだけなのである。
「はぁ…」
幾度目かのため息の後、比叡はゆっくりと身体を起こして立ち上がり、浴槽から出てシャワーのしきりにかけておいたバスタオルを取って身体を拭いてから浴室を出て脱衣所に入ったところで、金剛の声を耳にした。
「戦艦比叡は司令室に来てクダサイ」
金剛提督代理の最初の命令を比叡は聞いていません。浴槽に浮いていました。