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二日目 一〇:三〇 海軍省軍令部 演習場沿岸
「お前が島風の言っていた、おにーさんかい?」
射撃演習を見終わり、そのまま海岸沿いでぼーっとしていると後ろから声をかけられた。
「アンタは?」
「アタシは島風と同じ作戦本部付の重巡洋艦、摩耶だ」
「上条と申します」
「堅苦しい喋り方しないで、普通に話してくれればいいぜ」
「わかった」
上条の返事に、摩耶は満足そうに頷く。
「その切り替えの早さ、アタシは嫌いじゃないぜ」
「そんなに歳も違わないだろうし、まあ、同級生と話してると思えばいいだけだしな」
「艦娘を学校の同級生扱いか。ははっ、面白い奴だな」
「いや、同じくらいの歳の奴ってそういうものじゃね?」
上条の問いかけに、摩耶は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「アタシって重巡洋艦としてなら一九三〇年生まれだけど」
「…………は?」(一九三〇年って八〇年以上前だよな…)
「艦娘としてだと三歳かな。島風とアタシは幌筵で艦娘として建造されたから」
「どういうこと?誕生日が二つあるの?」
「アタシたち艦娘は日本海軍の艦船の記憶を持って生まれた艦娘だから、生年月日は日本海軍の艦船として進水した日ってことになる、って言えばわかる?」
「…まあ、なんとなく。それで、艦娘さんって生まれたときはもう今の姿なの?」(摩耶さんって、見た感じは高校生っぽいけどな)
「ああ。外見は基本的に変わらないな。まあ、改装されれば見た目が変わるみたいだけど」
「改装?」
「アタシ達の熟練度がある程度上がると性能向上の改造ができるようになる。それが改装。艦娘によってどう変わるかはまちまちだし、アタシは多分、改装した艦娘を見たことない」
「改装のことを知っているのはどうして?」
「兵装の話をしてると自然にそういう情報は入ってくるんだよ。アタシたちの命にも関わることだしな。っと、これって一般人に話していいことじゃないな」
そこで話を切ると、真面目な表情になって上条を見つめる。
「軍事機密ってわかるよな?さっきの改装のことはそれに該当するんだ。アタシも口添えするけど、お前は憲兵の世話になるかもしれない。悪い、軽率だった。謝っとく」
「いや、艦娘さんの存在自体が軍事機密だから。俺は元帥さんのおかげで鎮守府内を自由に動けるみたいだから、話しても大丈夫だと思うけど」
「うーん、そうなのか?いや、それならそれでアタシも助かるけど」
「多分大丈夫。さっきまで比叡さんの射撃演習を見てたけど、夕張さんがいろいろ教えてくれたし」
「お前、アタシが考えていたよりもずっと深く関わってるな。…逃げられないぞ」
小さく摩耶が呟くと、上条は苦笑いを浮かべる。
「わかってるよ。っていうか、S級資格者なんて言われた時点で軍からは逃げられなくなったと上条さんは考えているのですが」
「まあ、そうだろうな」
「ですよねー。ところで摩耶さんや、ずぶの素人の高校生でもS級資格者なら提督になれるものなのかね?」
「S級資格者って時点でほぼ無条件で提督になれる。一応、試験はあるけれど」
「そっか。じゃあ俺、提督になれるんだな。その、試験さえ通れば」
お世辞にも成績が良いとは言えない上条は、試験と聞いて落胆していた。
「…昨日、島風と一緒に寝たんだろ」
「おかげで寝不足ですけどね」(だってあの子、しがみついてくるんだもん)
「…同衾した艦娘に手を出さなかった。その時点でお前は合格だよ」
「え?あれが試験なの!?」(何考えてるの!?日本海軍!)
「まあ、下種野郎を炙り出す試験だ」
「ああ、なるほど」
「……お前なら、他の提督よりはまし、だろうな」
「艦娘さんからそう言ってもらえると、少しは安心できるな」
そんな上条の言葉を聞いて、摩耶は小さく微笑んだ。
「作戦指揮や鎮守府の運営については、ここの提督が基本を教えてくれるだろう。あとはお前が配属される鎮守府の艦娘が手伝ってくれる」
「それなんだけど、戦闘に関しては艦娘さんに教えてもらうことも可能なのか?」
「ん?どういうことだ?」
「鎮守府の運営の基本は元帥さんに教えてもらうとして、戦闘に関しては実働部隊の艦娘さんに教えてもらうのが無難だと思うけど」
「部下に教えを乞うのか?ははっ。面白い奴だな」
「いやいや、実際に戦うのは艦娘さんでしょ?実際に戦う人に聞いた方が効率的だと思うけど」
「まあ、そこら辺のこともここの提督と相談すればいいんじゃないか?確かに艦娘は戦闘に詳しいけど、作戦や指揮に関しては提督が決めなくてはいけないこともあるからな」
「そうか。わかった。ありがとう摩耶さん」
「おう。じゃ、頑張れ。…ってアタシが言うのも変か?」
「いや、そんなことないと思うけど」
「ははっ、そうか。じゃあ、頑張れ。上条提督」
「いや、まだ決まったわけじゃないですからね?」
「いや、もう決まってると思うぜ」
摩耶はそう言って笑うと、建物の方へ視線を向け、それから上条の肩を軽く叩いた。
「お迎えが来たみたいだぜ」
「ん?あれは大淀さんか?なんでここに居るのがわかったんだ?」
「大淀はここの秘書艦だからな。工廠かどこかで夕張に聞いたんだろう」
「上条さん、摩耶さん、元帥がお呼びです。元帥執務室まで同行願います」
「大淀、アタシも呼ばれたってことは、島風も元帥執務室に居るのか?」
「ええ。島風ちゃんと比叡さんも元帥執務室に居りますよ」
それを聞いて、摩耶は小さく微笑んだ。
「ちょっとは面白くなりそうだね」