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二日目 一一:〇〇 海軍省軍令部 元帥執務室
「上条君。昨日はよく眠れたかね?」
「…いえ、眠れませんでした」
「それは何故?」
「島風がしがみ付いてきたから気になって眠れませんでした!」
「はっはっは。正直でよろしい」
高らかに笑うと、元帥はゆっくりと立ち上がり、上条の前に歩いてくる。
「上条君。君はこの先、行くところはあるのかね?」
「……いえ。この世界には俺の行けるところはありませんし、かといって元の世界に戻ることも不可能だと思います」
「では、その力を、我々に貸してくれるかね?」
「ずぶの素人ですよ?」
「提督なんてものは誰しも最初は素人じゃよ。それに君の今までの艦娘や妖精達への対応は、我々にとって大変好ましい対応だった」
上条が執務室の中に居る艦娘達に視線を向けると、大淀は静かに頷き、島風は小さく微笑み、摩耶は面白そうに口角を上げ、比叡は小さくガッツポーズを作っていた。
「色々教えてもらわなければならないと思うけど、それでも良ければ」
「ありがとう」
元帥は上条の両肩を叩き、自分の席へと戻り、机の引き出しを開けて書類を取り出すと、万年筆で何かを書き込んでから朱印を押した。
それから小さな四角い箱とともにその書類を黒塗りの賞状盆にのせ、大淀に持たせて再び上条の前に立つ。
「上条当麻。本日ヒトヒトマルマルを持って貴君を海軍省軍令部作戦本部付特務少佐に任命する。これが辞令で、これは階級章だ。階級章はこの後、工廠で制服を作ってもらってから詰襟に着けたまえ」
「はい」
「同じく本日ヒトヒトマルマルを持って作戦本部付戦艦比叡、重巡洋艦摩耶、駆逐艦島風は上条特務少佐の麾下に入るものとする」
「比叡了解しました。司令。よろしくお願いします」
「摩耶了解。提督。よろしくな」
「島風了解。てーとく、よろしくね」
「……司令や提督って、もしかして俺のこと?」
「うむ。上条君の麾下の艦娘にとっては、唯一の司令官だからな。とはいえ、いきなり麾下の艦娘ができても何をしていいかはわからないだろう。今のところは待機命令を出しておくのが無難じゃな」
「麾下って、部下みたいなものですか?」
「うむ。その認識で問題ない」
「じゃあとりあえず、三人とも待機で」
「比叡了解しました」
「摩耶了解」
「島風了解」
「では、上条君は工廠へ向かいたまえ」
「わかりました」
三人の艦娘と一緒に元帥執務室を出て、上条が工廠に向かおうとすると、島風が左腕に抱きついてきた。
「てーとく、私も一緒に行っていい?」
「いきなり抱き着くんじゃありません。一緒に行くのは別に構わないけど」
「にひひ。てーとくの制服姿、楽しみだなー」
「あの白いやつを上条さんが着るのか…似合わねーなきっと」
「そんなことないって」
楽しそうな島風の背中を、摩耶は足を止めて見送った。
「島風さんがあんなに楽しそうに…。きっと司令は良い人なのでしょうね」
比叡が摩耶と同じように上条と島風を見送りながら呟く。
「…そうだといいな」
「そうですね。摩耶さん、改めてよろしくお願いします」
「ああ。よろしく。それとアタシのことは呼び捨てで構わないぜ。そのかわり、アタシも呼び捨てにさせてもらう」
「わかりました。よろしくお願いします。摩耶」
「ああ。よろしくな。比叡」
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二日目 一一:一五 海軍省軍令部 工廠
上条が工廠を訪れると、射撃演習の時に顔を合わせた夕張が居たので声をかける。
「あの~、夕張さん」
「あら、上条さん。どうしましたか?」
「えーと、先ほど作戦本部付特務少佐に任命されたので、工廠で制服を作ってもらえと言われて来たのですけど」
「ああ。新しい提督って上条さん…んんっ、失礼しました。上条提督のことだったのですね。では、採寸をしますのでこちらに来ていただけますか?」
「あ、はい。どうも」
言われるままに夕張の近くへと移動すると、作業机の上に三体の妖精が現れた。
「両手を水平に開くのです?」
「背筋を伸ばして立つのです?」
「身長を測るのです?」
「頭囲を測るのです?」
「胸囲を測るのです?」
「腰囲を測るのです?」
「腕の長さを測るのです?」
「股下を測るのです?」
「足の大きさを測るのです?」
「はい、では一五分ほどお待ちいただけますか?」
「速いなおい!」
あっという間に採寸が終わり、制服の完成待ち状態になった上条は、工廠の中をぷらぷらと歩いている島風を見て、何かを思い出したかのように口を開く。
「夕張さん、島風の制服なんだけど、露出を減らすことできない?」
「島風ちゃんが上条提督の麾下であれば、お好みの制服を着させることは可能ですよ」
「じゃあ問題ないな。上は普通のセーラー服にして、スカートも夕張さんくらいの長さにして、パンツも普通のやつにしてやってくれないか?」
「島風ちゃんをここに呼んでもらっても?」
「おい、島風。ちょっと来てくれ」
「はーい」
駆け寄ってきた島風が抱き着いてきたので、上条は冷静に島風を受け止めるとくるりと一回転してから自分の横に立たせる。
「じゃあ島風ちゃん、そのまま立っててね」
夕張はそう言うと、タブレット端末のカメラで島風の姿を画面上に取り込み、タッチペンで島風の上に服を描き足していく。
「袖有りセーラー…長手袋は袖に留めるようにして、プリーツスカート…と、上条提督、こんな感じでどうでしょうか?」
「お、いいと思う。島風、こんな感じの制服はどうだ?」
「え?てーとく、私の制服も変えてくれるの?」
「島風が良ければだけど。こんな感じならそんなに恥ずかしくないだろ」
「うん。嬉しいよ。てーとく!」
嬉しそうに笑う島風を見て、上条も笑顔を浮かべる。
「じゃあ夕張さん、島風の制服はそんな感じにしてください」
「了解しました。上条提督の島風型駆逐艦島風の制服はこのような形にさせていただきます。データベースの更新に一〇分ほどかかりますが、その後に入渠すれば新しい制服に変更されますからね。予備の制服も順次作り直されます」
「よし、それじゃあ島風は一五分後に入渠してくること」
「島風了解!」
笑顔で返事をする島風の頭を撫でると、上条は夕張に視線を向けて呟いた。
「うん。俺が夕張さんの提督だったら、セーラー服を普通の長さにする。寒くないのそれ?」
「特に寒さとかは感じませんけど。上条提督は優しいですね」
「いや、普通だと思うけど」
「艦娘の服装まで気にするのは、私が知っている提督では上条提督が初めてですよ」
「そんなものですかね」
「ええ。…ですから上条提督にはちょっとだけ期待させていただきます」
「え?」
「上条提督がどこかの鎮守府付になったとき、そこの夕張の服装を直してあげてくださいね」ニコ
「ああ、わかった。約束する」
「はい。お願いします」