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一七日目 一〇:〇〇 とある鎮守府 司令室
「ではただいまヒトマルマルマルをもって、大淀提督代理から上条特務少佐にとある鎮守府の司令官権限を委譲します」
「上条特務少佐、ただいまよりとある鎮守府の司令官に着任します」
『了解。上条特務少佐のとある鎮守府司令官への着任を認める』
上条が元帥からの認証を受けると、海軍省軍令部からの通信が切れる。上条は小さく息を吐いてから提督の席から離れた大淀に声をかけた。
「大淀さん、秘書艦をお願いしてもいいですか?」
「了解しました。あと、私たちは提督の麾下ですから呼び捨てでお呼びください。他の鎮守府の艦娘に敬称を付けるのは構いません」
「わかった。ではよろしく。大淀」
「はい」
「今日の哨戒任務の方は?」
「神通、長良、皐月、白雪、電、雷の第一艦隊が哨戒任務にあたっています。帰港予定はヒトヨンマルマルです」
「その6人には帰港したら改めて挨拶をしよう。とりあえずヒトマルイチゴーにその6人以外の艦娘を食堂に集めてもらえる?」
「了解しました。大淀より鎮守府内の全艦娘へ。ヒトマルイチゴーまでに食堂に集合してください」
大淀がマイクのスイッチを離すのを確認してから、上条は帽子を取って机の上に置くと口を開いた。
「じゃあみんな、食堂に行こうか」
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一七日目 一〇:一五 とある鎮守府 食堂
「本日、ヒトマルマルマルよりとある鎮守府の司令官を拝命した上条特務少佐です。それでこちらが本日付でとある鎮守府に配属になる戦艦比叡、重巡洋艦摩耶、駆逐艦島風です。よろしくお願いします」
そう言って上条が頭を下げると、比叡、摩耶、島風もそれに倣う。それを見たとある鎮守府の艦娘たちが驚きの表情を浮かべているのを、上条は見逃さなかった。
「本日哨戒に出ている6名には帰港後に改めて挨拶をするし、取り決め事も伝えるから心配しないで欲しい。ということで、まず一つ目。制服は基本的に建造時のものと同等の物を着用すること。ただし、露出が激しいものはこちらの摩耶や島風みたいに露出を控えた制服に改造するから、今着ている制服で露出が多いもの、えーっと、夕張はシャツを長くするの決定してるからよろしくな」
「え?私ですか?」
いきなり指名された夕張は自分を指さして声を上げる。
「軍令部の工廠の夕張さんと約束したんだよ。配属された鎮守府に夕張が居たら制服を改造するってな」
「はあ、そうですか」
「まあ後で工廠行くからその時に詳しい話をしよう。それで、二つ目。鎮守府の施設利用の基準は大井鎮守府に準ずるものとする」
その言葉を聞いた艦娘たちがざわつき始める。
「大井鎮守府に準ずるってことは、食事のとき、空母盛もいただけるということよね?素晴らしいですね」
「戦艦盛が食べられるのデース」
「間宮券でデザートが食べられるのね!」
「ちゃんとした食事を作ることができるのね。腕が鳴るわ」
「大浴場に入り放題で、制服や寝間着の予備も貰えるということかしら?」
「軽微な損傷でも
おおむね好意的に受け取られているのを感じて、上条はほっとする。
「三つ目。過去の提督からの命令は現時刻をもってすべて破棄する」
その言葉を聞いた瞬間、食堂内が静まり返った。
「大淀、上条さん変なこと言ったか?」
「いえ、そうではありません。その三つ目の命令は上条提督より前の提督が出した命令をすべて破棄するというもので間違いないでしょうか?」
「ああ、それで間違いない。ここに居る比叡が鎮守府を移動しても前の提督の命令を頑なに守っていたからさ、もしかしたらここもそういうのがあるんじゃないかと思って……、って、なんで泣いてるの!?」
大淀の他にも食堂に居る何人かの艦娘が涙を流していた。上条は一緒に配属になった三人と顔を見合わせ、どうしたものかと頭を掻く。
「…秘書艦や艦隊旗艦、食堂の間宮、酒保の明石、工廠の夕張などは提督への奉仕が仕事内容に組み込まれていましたので、それから解放されるという安堵感から涙が…」
「元帥からある程度は聞いていたけれども、俺が思っていたよりも酷い状態だったんだな。その、悪かった」
そう言って上条が頭を下げると、艦娘たちが驚きの声を上げる。
「どうして提督が頭を下げるのですか?」
「前の提督とはいえ、提督って奴がしでかしたことだからな。同じ提督としてはけじめとして謝っておきたいとでもいいますか…」
「ふふ、変な司令官だね。期待してもいいのかな?」
「…まだ気を許すのは早いわよ」
二人の少女が何か話しているのを気に留めながら、上条は大きく深呼吸をしてから言葉を続ける。
「それで、四つ目。これは三つ目で過去の提督の命令を破棄したのと矛盾するかもしれないけど、最重要事項として覚えておいて欲しい。もしも俺が居なくなって新しい提督の麾下になっても、三つ目のように過去の提督の命令を破棄されない限りは守って欲しい。正直に言えば俺みたいに過去の提督の命令を破棄する奴が出てくるとは思わないから、今後の生き方の基本として欲しい」
再び食堂内が静まり返る。上条は全ての艦娘に視線を送り、それからおもむろに口を開いた。
「前置きが長くなったが、四つ目。提督からの性的ハラスメントな命令や理不尽な命令は拒絶すること。また、そういった命令をされたときは、速やかに憲兵隊へ報告すること」
先ほど話していた二人の少女の片割れが真っ直ぐに上条を見据えて言う。
「…司令官、信じていいのね?」
「信じてもらえるように頑張るよ」
上条が答えると、少女は小さく口元を綻ばせた。
「暁型駆逐艦一番艦、暁よ。よろしくね。司令官」
「私は暁型駆逐艦二番艦、響だ。よろしく。司令官」
二人が言うと、他の艦娘も次々と自己紹介を始める。それを受けながら、上条は自分が好意的に受け入れられたことに安堵するのであった。
ちょっと強引な着任模様でした。
上条さんも結構いろいろ考えてるんです。