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一七日目 一八:五〇 とある鎮守府 工廠
「鳳翔型軽空母一番艦、鳳翔です。提督。よろしくお願いします」
「千歳型水上機母艦一番艦、千歳。提督。よろしくお願いします」
「ウチは龍驤型軽空母一番艦、龍驤や。キミ。よろしゅう頼むな」
「球磨型軽巡洋艦二番艦、多摩にゃ。提督。よろしくにゃ」
―――なんかキャラが濃いのが二人ほどいるなあ。
そんなことを考えながら上条はお決まりとなりつつある口上を口にする。
「とある鎮守府へようこそ。司令官の上条特務少佐です。よろしくお願いします。えーっと、とりあえずこの鎮守府での取り決め事を。一つ目、制服は基本的に建造時のものと同等の物を着用すること。ただし、露出が激しいものは露出を控えた制服に改造することも可能です。というわけで、多摩の制服は露出が高いので改造させてもらいます」
「多磨は別にこのままでも構わないにゃ」
「お腹冷えちゃうでしょ!却下。提督命令だから」
「命令ならしょうがないにゃ」
「聞き入れてくれてありがとう。では二つ目、提督からの性的ハラスメントな命令や理不尽な命令は拒絶すること。また、そういった命令をされたときは、速やかに憲兵隊へ報告すること。以上」
「制服の改造は理不尽な命令じゃないのかにゃ?」
「え、多磨って露出狂なの?」
「そんなことないにゃ」
「じゃあ改造した方がいいでしょ?」
「わかったにゃ」
多磨をあっさりと言い負かしてから、上条は龍驤を見て首を傾げる。
「空母?」
「キミ、小さいとか失礼なこと考えてないか?」
「いや、空母っていうのに弓を持っていないから」
「ああ、そういうこと。ウチは陰陽師タイプやからなー。巻物式の航空甲板に式神符で艦載機を飛ばすんやで」
「陰陽師ってことは、魔術だよな?」
「魔術っていうか陰陽術やな。まあ似たようなもんやけど」
「上条さんの右手には幻想殺しってやつが宿っていて、魔術や超能力を打ち消しちまうから、巻物や式神には触らないようにしないと」
「なんやキミ、面白いことゆうてんなあ。ちと試してみよか」ポワ
そう言うと龍驤は右手に式神符を顕現させ、式神符のまま上条の方へとふわふわと移動させる。
「その幻想殺しとやらで触れてみい」
「これでいいか?」パキーン
「うおっ、ホンマに消えた。艦載機も消えるんか?」
「弾は防げないから、艦載機も駄目だと思うけど」
「モノは試しや。攻撃はしないから触ってみ?」ブーン
龍驤は式神符を艦載機に変化させ、上条の方へと飛ばす。
「プロペラには触らないようにして…と」パキーン
「機関停止です?」プスン
「おっと、妖精さんを驚かせちゃったかな」
上条は右手で胴体に触れたため機関停止した艦載機を慌てて両手で受け止める。
「艦載機は式神符みたいにはならないんやね。妖精さんのおかげかねえ?」
「どうなんだろう?触れると艤装も動かなくなるけど、式神符みたいに消えたりしないから妖精さんの能力だけ止めるみたいな感じかな」
「艤装も動かなくなるって、キミ、何したん?」
「右手で山城の肩に触ったら山城が海の中に沈んだ。電と雷が引き上げてくれたけど山城には悪いことをした」
「そりゃ、山城さんも災難やったなあ。わかった。キミの右手に触れないように注意するわ」
「そうしてもらえると助かる。みんなもよろしく」
「なんか面白い提督だにゃ」
「ふふ。でも最初に教えていただけてよかったです」
「そうね。好感が持てるわ」
「夕張、多摩の制服なんだけど」
「はいはい、多摩さん、写真撮りますね~。……と、こんな感じですかね?」
夕張は慣れた手つきでタブレットを操作して、それからおもむろにタブレットを上条に向ける。
「多摩、こんな感じにするけど大丈夫か?」
「大丈夫にゃ」
「それではデータベースの更新に十分ほどいただきますね」
「了解。じゃあ大淀、彼女たちに鎮守府を案内してもらえるか?案内の後はそのまま解散。多摩は入渠してもらう。その後は各自夕食をとってくれ」
「了解しました。ではみなさん、私に着いてきてください」
大淀が四人を連れていくのを見送った後、上条は工廠内に声をかける。
「明石、夕張、妖精さん達もお疲れ様。今日はこれで解散。明日また建造をするからよろしく」
「提督、建造なら今やっておいても大丈夫ですよ。建造ドック内の艦娘は待機状態、つまりは休眠状態になりますから」
「それじゃあ軽巡狙いでお願いしようかな」
「一号から四号ドック、軽巡狙いで資材投入します」
「一号ドック、建造時間一時間です?」
「二号ドック、建造時間一時間です?」
「三号ドック、建造時間一時間三十分です?」
「四号ドック、建造時間一時間ニ十分です?」
「一号、二号ドックが軽巡か重巡、三号ドックが重巡の最上型か利根型、四号ドックが重巡の妙高型ですね」
明石の説明に小さく頷くと、上条は言った。
「じゃあみんな、本当にお疲れさまでした。工廠はこれにて本日店じまいということで以上、解散」
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一七日目 二〇:三〇 とある鎮守府 司令官私室
「……………ええと、ここが上条さんの私室でいいんですよね?」
「はい。そうですが」
「どう見てもこれ、大淀の私室だよね?」
「今朝までは私、大淀が提督でしたのでこちらの部屋を使わせていただいておりましたから、私の私物がまだ置かれている状態ですけれど、提督が使用していただいて構いません。明日には私物を引き上げさせていただきますが」
「うん。ということは現在は大淀の私室状態ってことでいいよね?色々と問題があるので、今日のところはゲストルームを使うということで良くないでしょうか?」
「問題、と言いますと?」
右頬に手を当てて大淀が首を傾げる。それを見て大きなため息を一つ漏らすと、上条はまくし立てた。
「まず、大淀の私物がそこかしこにあるということ。クローゼットや箪笥の中にも大淀の着るものが入っているだろうこと。そしてなにより問題なのが、昨日まで大淀が使っていたベッドや布団がそのままということ。そんな状況の部屋で過ごすなんてこと、上条さんにはできません!」
「つまり、大淀臭いからこの部屋では過ごせないと?」
「いや、そうじゃなくて、女性の生活感が満載の部屋を使うのが無理ってこと」
「はあ?女性の生活感、ですか?」
「上条さんみたいな男子高校生から見ると大淀は綺麗な女性であってだな、そんな人が使っていた部屋をそのまま使うことなんて無理。てか今日のところはここは大淀が使ってくれ。ゲストルームがないなら俺は司令室で寝るから」
「提督は潔癖症でしょうか?」
「いやいやいやいや、普通はいきなり異性の部屋に放り込まれて暮らすことなんてできないでしょ」
「私は前提督の使用していた部屋をそのまま引き継ぎましたが。艦娘寮の部屋もそのまま残っていますのでそちらに戻ればいいだけですし」
「そうなんだ。うん、じゃあまあ、艦娘寮の部屋に戻ってもらってもいいけど、俺がこのままここを使うのは無理だから、ゲストルームある?」
「来賓用の部屋はあります。では本日、提督はそちらでお休みになるということでよろしいでしょうか?」
「うん、そうしてもらえると助かる」
「了解しました。ではご案内させていただきます」
(よかった。本当によかった)
内心で胸を撫でおろしながら、大淀の後をついていく上条であった。