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一七日目 二三:〇〇 とある鎮守府 来賓用寝室
「…………………どうしてこうなった?」
灰色の寝間着姿で、掛け布団を被ってベッドの上に寝転がり天井を見上げている上条は呟いた。
「テイトクの最終テストデース」
「いや、だからって添い寝することはないんじゃないかと上条さんは思うのですが」
「……テイトク、ちょっとくらいならイイデスヨ?」
そう言うと金剛が上条の右腕に抱き付いてくる。慌てて身を引くと、左腕が柔らかい何かにぶつかった。
「ひゃんっ!」
「わ、わ、わ、悪い!!」
「は、榛名は大丈夫です!」
上条当麻は来賓用寝室のキングサイズのベッドの上で、金剛型戦艦姉妹にサンドイッチされていた。
「俺は大丈夫じゃないんですけど!?」
ベッドのど真ん中で直立不動の姿勢をして、上条は金剛型戦艦姉妹の身体に触れないようにしたのだが、右腕が再び金剛に絡め取られ、そのまま抱き付かれる。
「こ、金剛?離せ、離そう、離しましょう!!」
「ダメデース♪」
「は、榛名。こういうのは良くないと上条さんは思うんだけれど、榛名もそう思うよね!?」
「は、榛名は…」
小さく自分の名前を呟くと、榛名は上条の左腕に抱き付いてから目を閉じた。
「榛名は大丈夫です!」
「なんで抱き付くの!?」
「両手に花デース」
「不幸だあああああああっっ!!」
上条の叫びが来賓用寝室に空しく響き渡るのであった。
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一七日目 二二:〇〇 とある鎮守府 司令室
後はもう就寝時間を待つばかりといった時間に、今朝まで提督代理を務めていた大淀を筆頭に、明石、間宮、夕張、山城、金剛、榛名、蒼龍、神通、長良といったとある鎮守府古参の艦娘たちが顔を突き合わせていた。古参とはいうものの、駆逐艦が集まりから除外されているのは時間等を慮ったからである。
「ということで、とりあえず今夜は私が司令官私室を引き続き使用することになりました」
「ふふ。上条提督には期待してもよさそうですね。少なくとも私は信頼に値する人だと思っていますけれど」
「明石がそこまで信頼する理由を教えてもらえるかな?」
「上条提督は懲罰房を撤去してくださいましたし、なにより作業をした妖精さん達にも分け隔てなく間宮券を与えてくださいました。それだけで私にとっては信頼に値する人です」
「へえ。妖精さんにも間宮券を渡すか。確かに今までの提督とは違うかもしれないね」
「軍令部から一緒に来た摩耶の話では、島風と同衾したとき、指一本触れなかったみたいよ。次の日は寝不足だったらしいけど」
「ふむ。ロリコンではないようですね。でも、私たちは大丈夫でしょうか?」
「私室の件から、上条提督が私たちに伽を命じられることは無いと考えますが」
「甘いデース。それはテイトクのトラップかもしれないネ」
軽口のように瞳の奥に暗い何かを灯して金剛が言うと、何人かは体を震わせて足元に視線を落とした。
「…あの。上条提督は性的な命令をされたら拒否して、憲兵隊に連絡しろと仰いました。それから考えると、罠ということは無いと思うのですが」
「私もそう思うわ。それに先立って以前の提督の命令を破棄してくれたのだから、そういった命令を出すということは考えられないと思うのだけれども」
「制服も露出が多いものは露出を抑えるように改造してくれましたから、あちらから手を出してくるようなことは無いかと思います」
「もちろんデス。だけど、駆逐艦の子たちのことを考えると、チェックはしておいた方がいいデース。大淀、テイトクは今日、ゲストルームデスカ?」
「はい、今日は来賓用の部屋でお休みになっていただきます」
「オーケー。それじゃあワタシと榛名でテイトクに最終テストをするネ」
「は、榛名もですか?」
「二人いれば、テイトクが何かしてきても止められるネ。軍令部からは妹の比叡も一緒に来ているし、その比叡がテイトクのことを信頼しているから、ワタシたちは軽くテストするだけでOKネ」
「えーっと、最終テストって何をするつもり?」
その問いに、金剛は片目を閉じて答える。
「私たち姉妹で、テイトクに添い寝シマス」
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一七日目 二三:三〇 とある鎮守府 来賓用寝室
―――父さん、母さん。艦娘はとても柔らかいです。そしてとてもいい匂いがします。それから、とても力強いです。
「………目を離しちゃ、NO、なんだからネ」ムニャムニャ
「金剛はずいぶんはっきりと寝言を言いやがるなオイ」
「……すみません提督」
「なんで謝っているのかわからないけど、榛名も随分とはっきりとした寝言を言いやがるな」
「あ、榛名は起きています」
「オーケー。とりあえず俺の手を放してくれると嬉しいんだけど」
「お姉さまには内密にしてくださいね。その、提督にしがみついて離れないようにと言われていますので…」
そう囁くと、榛名は上条を自らの戒めから解き放ち身体を離した。
「サンキュ。少しだけそっちにずれてもいい?」
「はい、大丈夫です」
「だーーーっっ。年上の綺麗なお姉さんにサンドイッチされるのは、精神衛生上とてもよろしくないことですよ。だから、榛名が離れてくれて上条さんはとても感謝していますことよ?」
「その、提督は榛名たちの身体を求められないのですね」
「…性的な命令は拒絶しろって言ったよね?にもかかわらずこんな状態になっているってことは、俺が信用されていないってことなんだろうけどさ、俺としては信用してもらえるように努力するしかないんだよね。まあだからこそ、金剛と榛名に添い寝をされても手を出さないってことを証明するためにこうしているんだけど」
榛名に目線を合わせながら上条は言葉を続ける。
「いきなり信じてくれって言ったところで信じてもらえないのは予想していたけれど、まさか金剛と榛名が来るとは思ってなかったから驚いたよ。他の子を守るために二人が身体を張ったってことでいいのかな?」
「以前からここに居る軽巡以上の皆で話し合ってですね、提督を信用しているって意見が多かったんですけれども、金剛お姉さまが最終テストをするといって二人で来ました。他の子、特に駆逐艦を守るために今までも身体を張ってきましたので…」
「優しいんだな。金剛も、榛名も」
「…でも、守り切れませんでした」
「………すまない」
「どうして提督が謝るのですか?」
「まがりなりにも提督という職業に就いたからかな。今の俺ができることは、提督として謝るくらいしかないから」
上条がそう言うと榛名は小さく微笑んで、それから離れていた身体を上条の身体に密着させて抱き着いた。
「なんで抱き着いてくるの!?」
「提督は私たちを傷付けるようなことはしないとわかったからです」
「抱き着く必要はないと思いますけど!?」
「提督は優しいということを榛名に感じさせてください。その、今までのように乱暴な提督ではないということを確かめさせてください」
「………わかった」
上条がかろうじて動かせる左手でゆっくりと榛名の頭を撫でると、榛名は一瞬だけ身体を強張らせて、それから安心したように小さく息を吐いた。
「ふふ。撫でられちゃいました」
「嫌じゃないか?」
「はい。榛名は大丈夫です」
―――今日は徹夜だな。まあ、仕方ないか。
そんなことを考えながら、上条は目を閉じるのであった。