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一日目 一四:三〇 とある鎮守府 埠頭
――艦隊が鎮守府に帰還しました。
「では、貴方は先に上がってください」
「あ、ああ。ではお先に」グラリ
埠頭の階段に足を下ろされ、そのまま立ち上がろうとした上条はバランスが保てずに倒れそうになる。
「危ない。私の肩に手を置いていいですから」
「悪い。じゃあちょっと肩、借りるな?」パキーン
上条の右手が山城の右肩に触れた瞬間、幻想殺しが発動し、山城の身体は水の中に沈んでいった。
「山城さん!?」
「沈んだのです!?」
「うわあああああああっっ、悪い!!」
電が山城の右腕、雷が山城の左腕を引っ張り、引き上げる。上条も右手を離していたので大事には至らなかったが、それでも全身がずぶ濡れの状態で階段に辿り着いた山城は呟いた。
「不幸だわ」
「ほんと、ゴメン」
「びっくりしたのです」
「どうして沈んだのよ?」
「いきなり浮力が無くなってそのままドボン。不幸だわ」
「いきなり艤装が動かなくなったのです?」
「あー、それ、俺のせいです。ごめんなさい」
「どういうことかしら?」
「説明を求めるのです?」
「謎なのです?」
「えーと、俺のこの右手には『幻想殺し』っていう魔法とか超能力とかの異能の力を消し去る能力があって、さっき貴女様の肩に触れたので…」
そこまで説明しながら、上条は目を見開いて山城の肩のあたりを凝視する。
「……小人さんデスカ?」
「砲兵なのです?」
「妖精なのです?」
「喋った!」
「通じたのです?」
「会話できるのです?」
「なんか可愛いな?よーしよし」ナデナデ
「触れられるのです?」フニャ
「これはヤバいのです?」トロン
「あれ、右手でも大丈夫なのか?」ナデナデ
「艤装は動かせないけど大丈夫っぽいのです?」フニャ
「ナデナデ気持ちいいのです?」トロン
(艦娘?も妖精さんも、アイツらとは違って生物として存在しているってことか)ナデナデ
上条は妖精を撫でながら考える。
「…あの、貴方、妖精さんと話して、触れていますか?」
「あ、スマン。駄目だったか?」
「いえ、構いませんが…。とりあえず私たちは入渠ドックに行きますので、貴方は階段を上がったところで妖精さんたちと一緒に待っていてください」
「わかった」
山城たちと一緒に階段を上り、建物の前に置かれたベンチに座って待つように指示されたので素直にそれに従った。
「もっと撫でるのです?」ホヤー
「これはとてもいいものです?」ポー
「うーん。不思議な感じだなあ」ナデナデ
ベンチの上の妖精を撫でながら、上条は笑みを浮かべる。
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一日目 一四:三〇 とある鎮守府 廊下
――艦隊が鎮守府に帰還しました。
第一艦隊が帰還したアナウンスを聞きながら、大淀は入渠ドックへと続く廊下を足早に歩いていた。
(救助者1名――。いったい何者なの?他所の提督とかなら早急にお引き取り頂かないと…)
現在この鎮守府の提督は空席で、大淀が提督代理を務めている。だが、提督代理はあくまでも鎮守府の運営にしか関わることはできず、例えば鎮守府同士の交流や演習の指示は出すことができない。何処の鎮守府も艦娘と同等に扱われることを嫌うのだ。
海軍省軍令部の作戦本部長のように対等に扱ってくれるものは例外なのである。
(みんな入渠させられたし、懲罰房も開けることができた。できればしばらくの間、平穏に過ごしたいのですが…)
入口に近い窓の外にあるベンチに誰かが座っているのが見える。黒い学生服を着ているのを見ると学生のようだが、だとしたら学生がなぜ、戦闘海域にいたのだろうか。
そんな学生服の少年が自分の脇に向かって何かをしているのを、大淀は目を凝らして見つめる。
「…妖精さんを、撫でているの?」
学生服の少年はどうやら妖精さんにせがまれて頭を撫でているようだ。ということは、会話もできているということになる。
そんな上条と妖精たちの様子を見て、大淀は慌てて携帯電話を取り出し電話をかける。その手は小刻みに震えていた。
「とある鎮守府の大淀です。第一艦隊が帰還して、その際にS級提督資格者を保護してきました」
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一日目 一四:三五 海軍省軍令部 元帥執務室
「S級提督資格者だと!?」
「はい。今現在、妖精さんの頭を撫でています」
「わかった。これより私もそちらに向かおう。ヒトゴーサンマルには到着できると思う」
「了解しました。司令室でお待ちしております」
「うむ。では後でな」
受話器を置いて立ち上がると、秘書艦の机にあるマイクのスイッチを押して口を開く。
「元帥だ。軍令部作戦本部付駆逐艦島風、艤装を着け第一埠頭に待機。整備班は第一埠頭に曳航ボートを用意。ヒトヨンヨンゴーに、とある鎮守府に向けて出発する」
「私も同行いたしますか?」
「いや、連れ帰る可能性が高いから、大淀はここで待機してくれ」
「了解しました。お気をつけて」
「うむ。行ってくる」
執務室を出て第一埠頭へ向かう道すがら、元帥はポケットに入れていた白手袋を取り出して装着し、何度か手を握ったり開いたりを繰り返した。
第一埠頭の一番手前にある階段の上で、整備班の工廠員とアッシュブロンドの髪を靡かせる艤装を装備した少女が控えている。
「曳航ボート、第一階段下に係留してあります」
「ご苦労。戻ったら連絡するのでその時に回収に来てくれ」
「了解いたしました」
「ふむ、島風」
「はい」
「調子はどうだ?」
「機関良好です。問題ありません」
「とある鎮守府まで、曳航頼むぞ」ナデナデ
「りょ、了解です」
元帥が頭を撫でると、一瞬だけ無表情だった少女の顔に焦りの色が浮かんだ。だがすぐに無表情に戻る。
(本来は明るい子なのだが、作戦本部付にする前の鎮守府で酷い目にあったのか、心を閉ざしてしまった)
階段を下りると、島風は係留してあった曳航ボードの舫を解き、腰のあたりにあるホルダーに固定して海へと降り立った。それを見てから元帥も曳航ボートに乗り込んで船室に入る。
「では、行こうか」
「了解。島風、抜錨します」