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一日目 二三:〇〇 海軍省軍令部 宿舎の一室
「…………………どうしてこうなった?」
灰色の寝間着姿で、掛け布団を被ってベッドの上に寝転がり天井を見上げている上条は呟いた。
彼の左側には大きな膨らみがあり、よく見ると顔の横にアッシュブロンドの頭がのぞいている。
「すう、すう…」
規則正しい寝息が聞こえてくる。その寝息の主―水色の寝間着姿の島風―は、上条の左腕を抱き枕にして眠っていた。
上腕は両腕に絡めとられ、掌は太腿に挟まれている。
(これ、完全にいけないところに当たってると思うんだけどおおおおおおお!!)
上腕部は何か柔らかいモノが押し付けられているし、太腿に挟まれている左手を少しでも動かそうものならば、
「んっ…」ピクン
と、小さな身じろぎとともに何とも言えない吐息が聞こえてくる始末である。
「はぁ、不幸だ」
お決まりの言葉を口にすると、上条は瞼を閉じて現実逃避を試みるのであった。
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一日目 一七:〇〇 海軍省軍令部 元帥執務室
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
「うむ。上条君はそこに座ってくれたまえ」
「あ、失礼します…って!?大淀さん!?とある鎮守府の提督さんじゃなかったですっけ!?」
「ああ、それは別の大淀じゃ。この大淀は私の秘書艦の大淀だよ」
「大淀さん何人もいるの!?」(…御坂妹みたいなもんかな)
「大淀に限らず、艦娘は同型がおるものだよ。特に大淀と明石は各鎮守府に配備されるから数は多いかな」
「鎮守府の数はどのくらい?」
「鎮守府は二十二ある。しかし、維持するのも難しい鎮守府が多い。先ほどのとある鎮守府も危ないところだったが…」
そう言うと元帥は執務机に備えられている椅子に腰を下ろし、真っ直ぐに上条を見た。
「今日、鎮守府近海に入ってきた深海棲艦を撃退したから、しばらくは大丈夫じゃな。あくまでも、とある鎮守府に関してはだが」
「他の鎮守府は?」
「この大井ととある、横須賀・佐世保・呉・大湊・舞鶴・鹿屋は問題ない。佐伯湾・幌筵・トラック・ラバウル・ブイン・パラオ・タウイタウイは提督が変わったばかりで不安定、岩川・桂島・宿毛湾・単冠湾・ブルネイ・リンガ・ショートランドの鎮守府は危険じゃな」
「それって、結構ヤバい状態だったりしません?」
「うむ。結構どころか、かなりヤバい状態じゃな」
「そんな状態なのに、海軍の偉い人が俺なんかと話していていいの?」
「そんな状態なればこそ、こうして上条君と話しているわけなのだが」
「……それって、どういうこと?」
上条が首を傾げるのを横目に、元帥は大淀に向かって声をかける。
「艤装妖精はいるかな?」
「呼んだのです?」ポン
「元帥さんはお話しできないのです?」ポン
呼びかけに応えて妖精が元帥の机の上に現れた。
「上条君、妖精は何と言っている?」
「え?一人は貴方の方を向いて『呼んだのです?』と言っていて、もう一人は大淀さんの方を向いて『元帥さんはお話しできないのです?』と言ってます」
「…完全にその通りです」
「話せる人なのです?」
「告げ口したのです?」
「人聞きの悪い!俺は質問に答えただけだ!」
「怒ったのです?」ポン
「逃げるのです?」ポン
上条が突っ込みを入れたら、妖精たちは姿をくらませた。
「逃げやがった!」
「まあまあ、勘弁してやってくれ。で、だ。今、君は、妖精さんの声を聞いて、話をしたわけだが」
「ええ、まあ」
「提督になるには条件があってね、なかなか資格を持つものを見出せないのだよ」
「はあ………」
「その条件というのが、最低でも『妖精を見ることができる』なのだよ。私はこの最低条件に当てはまったから、こうして大井の提督をしている」
「……………」
冷汗が上条の背中を伝い落ちる。
「それで、条件だがB級で『妖精の姿をはっきりと見ることができる』、A級で『妖精と話すことができる』、S級で『妖精に触れることができる』となるわけだ」
「それ…は…」
「上条君、とある鎮守府で妖精さんに触れていたよね?」
「まあ、はい」
「ということで、上条君はS級資格者ってことになるのだが」
「いや、俺、軍隊とか全然わからない、どちらかというと落ちこぼれな高校生ですよ!?」
「落ち着きたまえ。S級資格者だからとはいえ、無条件で提督にはしないから」
「……あ、そうなの?」
「うむ。…大淀、島風と比叡を呼んでくれ」
「了解しました。…元帥執務室です。作戦本部付駆逐艦島風並びに作戦本部付戦艦比叡は元帥執務室に来てください」
大淀がマイクのスイッチを離したのを確認して、元帥が大淀に声をかける。
「二人が来たら試〇一〇二を行う。…良いか?」
「…了解です」
「なんだったら大淀は席を外しても良いぞ?」
「いえ、私は大丈夫です」
「…そうか」
「はい。二人が来るまでに多少時間がありますから、お茶を淹れますね」
「…よろしく頼む」