なぜ、満たされないのだろう。
倦怠期、はたまた更年期というやつなのだろうか。いや、にしては早すぎる。
とにもかくにも、最近『満足できない』のだ。夫は私をとても愛してくれているし、9歳の娘も非常によくなついてくれている。仕事で問題がないわけではないが、この程度の面倒事は時計塔に来てから常に付きまとっているわけで、さして気にするほどのことでもない。悩み事なんて、このほかにはこれっぽっちもありゃしないのだ。
だというのに、何なのだろうこの欲求不満は。
いや、薄々勘付いてはいるのだ。あの“戦争”から17年、私の人生にはこれといって大きな出来事もなかった。あったとすれば、結婚と出産、そして“戦争”の後処理程度。それ以外は、何事もなく平穏に暮らしてきたわけだ。
その平和が、おそらくこの退屈の種なのだろう。17年前の“戦争”……あれは、あまりにも濃すぎた。自らの願いを叶えるために(その他にも目的はいくつかあるのだが)、7人の魔術師が命を賭して戦ったあの戦い。幾人かは命を落とし、幾人かは生き延びた。そして、私の一生に大きく影響を与える、『二人の彼』と出会った。
私の人生のピークは、あの数週間だったのではないかと思う。封印指定執行者でもない限り、この時計塔にあって、命の危険があるような仕事などそうそう存在しない。あの瞬間、確かに私は命を振り絞って生きている実感があった。一族の悲願成就、ただそのためだけに。
結果、あの戦争に勝者は生まれなかった。いや……いたにはいたが、『
最終的にあの戦争は、勝者を一人も出さずに、私の手によってその歴史に幕を下ろした。創始者であるマキリ、アインツベルン、遠坂の三家の、
終わってよかった。そう、あの戦争は、もとより間違っていたのだ。それが私の人生を変えたとはいえ、アレは最初から存在してはならなかったのだ。
だというのに……「あの頃に戻れたら」と思うのはなぜだろう。あんな凄惨な戦い、もう二度と繰り返してはならないのに。だから私の手で終わらせたのに。いけない、正気に戻れ。
そう、何度自分を諭しても、禁断の願いはふつふつと私の裡に湧き上がってくる。あまりにも鮮烈過ぎたあの日々を、もう一度味わいたいと心が疼く。欲望が私を取り込もうとする。
まだまだ私も未熟者だということなのだろうか。欲望が枯れるほどに老いていくのは事実だ。そう考えると、欲望があるだけ、精神的な健康の意味ではまともなのではないか。
適当に理由をつけて、一旦は忘れる。しかし、夜、ベッドの中で脳裏に蘇る。ひとしきり考えているうちに眠る。朝には忘れている。ふとした時に思い出す。また忘れる。
この輪廻の環から、私は何時抜け出せるのだろうか。思い悩んで、悶々として、今日も私は眠りについた。