黄金の虎   作:ぴよぴよひよこ

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第十四話

 

 

 

「……馬鹿な」

 

 ただ一人残された部隊長が周辺を見回してうろたえる。

 彼女は試作とはいえ新型トリガーを与えられ、最精鋭の部隊をも任されてここに来た。だのに、なんだこの光景は。

 辺り一面は真っ赤に染まり、醜悪な匂いが立ち込めていて吐き気さえ覚える。

 転がっている肉片の中には知己(ちき)の姿もある。同じ釜の飯を食い、国のため、家族のためにと立ち上がった勇敢な部下。

 

「こんな――」

 

 粉々になった街、同じくらいに原型もない仲間たち。

 ここはアクティナ。太陽の国。国内での戦闘は己たちのもっとも得意とするところ。トリオン能力に左右されない高性能なトリガー、弾切れなど起こさない無尽蔵のエネルギー。そうして圧倒的な火力で押し切るのがこの国の戦略だ。

 なのに、なのに――

 

「こんな馬鹿なことがあるかっ!!」

 

 あまりにも違いすぎる"戦力差"。多対一のそれは本来ならばアクティナに傾いて形容されるべき言葉のはず。しかして現状はどうだ。

 兵たちは敵に傷一つ与えることができず、残ったのは己のみ。あまつさえ余力を残しているようにすら見える化け物は自分に狙いを定めている。

 

「ふざ、ふざけるなよ化け物め! よくも、同胞をォ!!」

 

 焦燥に裏返る声。同調するように背中の筒が高音を上げてエネルギーを練り上げる。

 精神的に追い詰められた彼女はトリガーをフルパワーで起動させた。もはや狙いなどつける必要はない。神の裁きを受けるべき相手は、この場に一人しかいない(ヽヽヽヽヽヽヽ)のだから。

 

「『光輝の針(スコーニィ)』ッ!!」

「おっとお」

 

 彼女の怒りを体現したかのような稲妻が迸り、敵のトリガー使いに殺到する。不可避の雷光は並のシールドなど容易く穿ち、全力で放ったならばそれごとトリオン体を破壊する断罪の一撃。

 しかし化け物はあざ笑うかの如くそれを防いだ。六角形の分厚い盾は必殺のはずの攻撃を何事もなかったかのように弾いて音を響かせる。

 

「クソ、クソッ、クソォオオ!!」

 

 撃つ。撃ち続ける。

 感情の発露が不定形のまま攻撃性だけを持って針から射出されていく。

 数十発も放つと被雷した地面や仲間の亡骸だけでなく、トリガー自体からも焦げくさい匂いが漂い始めた。

 

「なに――」

 

 反応しなくなった引き金を何度も絞り、ようやく己の武装の不調を察知する。

 彼女の背中に装着されたトリオン複合装置は悲鳴をあげながらも全力稼働をおこなっていたが、トリオン体ではないコイル部がオーバーヒートの直前で緊急停止を作動させたのだ。いかに強力で完成度が高くとも、このトリガーは『試作型』。まだまだ改良・改善を必要とする次世代の武器なのである。

 

「弾切れか、ラッキーだな」

「ッ、舐めるな!」

 

 これ幸いと突撃してきた敵に向かって盾を展開する。

 『光輝の針(スコーニィ)』に付属されたこの『テトラボルト』は射撃を無効化するだけでなく、接近してきた敵を迎撃することも可能。炸裂し飛び散るトリオン板はそれそのものが刃となる。

 敵性トリオンを検知、迎撃発破稼働。

 ――が、しかし。

 

「っぐぅ!?」

「まずは腕一本」

 

 驚くべきことに野獣のようなトリガー使いは刃の暴風雨を防ごうとすらせずに突っ切って爪を振るい、彼女の左腕を切り飛ばした。

 たしかに一枚一枚はそこまで攻撃力を備えるものではない反射盾の欠けら。しかし直撃すれば腕の一本や二本は吹き飛びかねないはずの威力は持っている。

 なのに腕が飛んだのは彼女だけ。相手は全身にトリオン板を浴びながらなお五体満足で立っていた。

 

 思えば、この化け物は雷の直撃もすでに受けているはず。全力でなかったとはいえその一撃はトリオン体を行動不能に陥らせるには充分なものだった。

 ――どういう仕掛けだ。

 沸騰しかけた頭が少し冷える。祖国を滅ぼしかねない脅威を前に彼女は一周回って冷静になることができた。

 敵の全身には今も薄く光る三角形の刃がそこかしこに突き刺さっている。その浅さに彼女は疑念を覚えた。

 

「手こずらせんな、よっ!」

「ちぃっ!」

 

 なおも追撃してくる黒衣の男に盾を差し向け、迎撃しながら後退していく。

 あの爪は危険だ。盾以外で受ければ即座に終わる。そしてどういうわけか両肩の大砲はしまわれたままらしいが、その危険度は無視できない。意識の隅に置いておかねば。

 落ち着いて見定めつつ、トリガーの調子を確認。

 ――トリオン複合機冷却終了、再稼働開始。

 しかしすぐには撃たない。敵のシールドは固く、トリオン体もまた妙な耐久度を持っている。

 乱射したところで防がれるなら、無駄撃ちを控えて相手の隙を待ち、一気に殺し切るべきだ。

 

「――そこだッ!」

 

 裂帛の気合とともに閃光を放った。盾が敵の爪を弾き、たたらを踏んでバランスを崩したところに叩き込んだ一撃。

 

「あぶねっ」

 

 敵はそれをギリギリで回避した。足の爪を地面に食いこませて無理やり身体を捻ったらしい。憎らしいほどの戦闘勘と反射神経。

 しかし、織り込み済みだ。

 雷は敵を追尾する。近すぎるこの距離では射線を読んで回避できても、その後ろから真っ直ぐ戻ってくる。

 それに合わせるように盾で突撃を敢行、同時に起爆。爪で防がれることはわかっていても意識を逸らせればそれでいい。

 上から押し付けるように盾を叩きつけたところへ、先ほど放った雷が目にも留まらぬ速さで帰ってくる。が、それはさっきも見た防壁で止められた。

 

「効かねーよ!」

 

 ――知っているさ。

 敵の言葉に心の内で返す。

 相手の防御トリガーは固く、スコーニィの全力でさえも傷がつけられない。だがそのぶん分厚く、不透明だ。 

 テトラボルトと自身の盾に挟まれた奴はいま、周りが見えていない。だからこそ警戒しているだろう。

 

「――終わりだ!」

「――――!」

 

 だからこそ(ヽヽヽヽヽ)。真正面から攻撃する。

 テトラボルトを自分で割り、雷の射出口である針を掲げられていた手のひらに突き刺した。

 

 ――()った。

 

 彼女は確信する。

 敵はトリガーの能力もだが、さらにトリオン体の戦闘能力が異常だ。膂力、瞬発力、そして何より耐久性が他とは一線を画している。雷撃も遠距離からでは盾に防がれ、近距離では避けられ、直撃しようと戦闘不能に陥らない不可思議な戦闘体。テトラボルトの鱗片が浅くしか刺さらないことからその強靭さが見て取れる。

 ならば直接(ヽヽ)電撃を流し込んでしまえばいい。どれだけ硬かろうがそれを動かす仕組み(システム)は同じはず。針を突き刺し、伝達系に直接ダメージを与えてしまえば今度こそこいつを焼き尽くせるはずだ。

 

 ――同胞たちの無念、その身で味わえ!

 

 撒き散らすのをやめ、己の内に静かに猛らせてきた怒りを、彼女は今こそ解き放つ。

 意識の中の引き金(トリガー)を引き絞り、トリオン伝達脳からスコーニィへ送られた信号が裁きの雷を――

 

「な――――」

 

 放つことはなかった。

 何度も何度も引き金を引いても、『光輝の針《スコーニィ》』は沈黙したまま動かない。

 

「捕まえた」

 

 手のひらに突き刺していた針を掴み取られ、反射的に退こうとしてようやく彼女は気付いた。

 

「――これ、は……!」

 

 後ずさろうとした彼女を縫い止めている十本のブレード。

 崩壊したテトラボルトの陰で、敵の足から生えた爪が地面に呑み込まれているのが見える。

 

「地中を、通って……!?」

 

 それが背後から突き立って、背中のトリオン複合機、そのトリオンタービンのみを破壊していたのだ。

 

「おまえのトリガーは半分機械(ヽヽ)みたいだからな。大砲じゃ粉々にしちまうし、おまえごと八つ裂きにするわけにもいかねーし、近づいてきてくれて助かったぜ」

「そん、な……」

 

 では、手加減していたというのか。

 大砲を使わないことを不思議には思っていたものの、何度も盾で防がれたことで諦めたと勘違いしていた。何より狙いが『光輝の針(スコーニィ)』自体だったとは。こちらも殺さずに捕縛という枷があったが、敵はさらに細かい条件まで付けて戦っていたのか。

 

「そのトリガーはもらってくぜ。妹にねだられちゃ、兄として期待を裏切るわけにはいかないからな」

「や、やめ――」

 

 言い切る前に右手の爪が彼女の頭部を引き裂いた。

 全身にひびが入り、戦闘体が崩壊していく。

 

「っと、よしよし、無傷のままゲットできたな」

 

 強制解除の白煙が晴れると、そこにはホルダー状に戻った『光輝の針(スコーニィ)』と付属のコイル筒を抱えた敵が立っていた。満足そうにそれを離れた位置に置くと、どこからともなく鳥型のトリオン兵が飛んできてかっさらって行ってしまう。

 

「さてさて、せっかくだしゆっくり楽しむ(ヽヽヽ)とするかな」

「……! わ、私は国の情報は絶対に吐かんぞ」

 

 再び眼前まで戻ってきた男が不穏な言葉を吐く。

 彼女の脳裏に過るのは拷問、陵辱といった言葉の数々。だがその身は腐っても軍人。最新鋭の試作トリガーを奪われてしまったが、国の情報まで売り飛ばしたりはしない。

 

 しかし、男はけらけらと笑って首を振る。

 

「そんなもん要らねーよ。俺が興味あんのは、おまえの中身(ヽヽ)だけだ」

「な、にを……」

「安心しろ、いたぶる趣味はない」

 

 言いながら、冷たい輝きの爪を一本、ゆっくりと伸ばしてくる。

 

「ま、死ぬほど(ヽヽヽヽ)痛いだろうがな」

「ひ――――」

 

 最後に瞳に映ったのはどこまでも無慈悲な鉤爪と残酷な笑み。恐怖に歪んだ視界は、見つめたくない現実を透かして最愛の家族の姿を映し出していく。

 

 

「―――――――――たすけ―――――」

 

 

 胸元に光るタグが千切れて転げ落ちた。

 そのプレートに『カトリナ・レンクウィスト』という()の名が刻まれていることなど、爪立てる獣は気付きもしないし、気にも留めなかった。

 

 だって、ほら。

 

 中身はこんなにも美しい――――

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

《――んん~……、ふう》

 

 敵部隊を殲滅し終えた大河はぐぐっと伸びをして空を見上げた。

 一仕事を終えたあとの気分はいつも爽快だ。なんせ、終わった時には求めていた匂いが辺り一面に広がっているのだから。

 最後の女も彼を存分に楽しませたらしく、他の者であれば胃の内容物が逆流すること必至の地獄の底のような場所で、大河は清々しそうに鼻歌すら飛ばして笑っていた。

 

 そのさまをモニターを通して見つつ、遠征艇の中ではミサキも上機嫌でトリガーを並べていた。

 

「うーん、大量大量♪」

 

 アクティナの技術力が詰まったそれらは、あの雷を射出するトリガーの他にも殲滅した部隊から奪ったものも含まれている。そのほとんどはダブ(ヽヽ)りだったが、科学国家と言うだけあってこれらのテクノロジーはボーダーに多大な力を授けてくれるだろう。

 銃型にはあまり特殊な効果はないようだったが、包囲部隊が装備していたレーザーのような折れないブレードを生成するトリガーや、破片を飛ばして迎撃も可能とするシールド。

 そして何より電気とトリオンを混合する驚異の機構を持った『光輝の針(スコーニィ)』なる試作トリガー。

 

 トリオンを電気代わりにするのはボーダーでも使われているありふれた技術である。

 変換装置によりトリオンを疑似的に電気として扱いレーダーや端末といったものを作動させる普遍的なもの。

 しかしトリオンで発電するのと、トリオンと電気を混ぜるのとでは、意味合いが大きく違ってくる。後者はこれまでにないさまざまな技術の先駆けとなる可能性を秘めているのだ。

 攻撃手段として捉えれば、大河が経験したように雷速に至る射撃を可能とし、一撃当てれば戦闘体を行動不能に陥らせる特殊ダメージまで発生する。

 防衛時には人型近界民(ネイバー)を抑えるのにも使えるし、トラップトリガーとしての運用も相性がいい。

 

 そして一番大きなポイントは、これまで他とは一線を画していた特殊なエネルギーであるトリオンとのハイブリッド、という点である。

 人が持つ『生体エネルギー』であるトリオンはそのままでは目に見えず、また同じトリオン以外では感知すらできない特殊なエネルギー。それと普遍的なエネルギーである電気を複合させられるとなると、その用途は大幅に広がっていく。

 もしこの技術を十全に使いこなせるようになれば一般隊員はトリオンの消費を抑えつつ、さらなる力を望めることになる。今までトリオン不足で採用できなかった人員をも前線に回せるのだ。防衛力の底上げとしてはこれ以上ないだろう。

 

「んっふっふ~」

 

 ミサキは早く基地へ帰って鬼怒田と一緒に解析したいと笑みを深くし、戦利品の山を丁重に箱の中にしまい込んだ。

 

 

 

 




 



2017年初投稿がここになってしまった。
新年にお届けする虐殺ストーリー。
敵から見た主人公はこの通り化け物ですが、今年も『黄金の虎』をよろしくお願い致します。


スコーニィの外部発電機について。
ボーダーでも隊員用端末や遠征艇のコンピュータを動かすのにトリオン変換装置なるものがあって発電できるようですが、
「トリオン→電気」にまるっと変換しているのか「トリオンで発電機を動かして電気を生成」しているのか不明なので、ここでは後者という形にしてあります。
つまりトリオンでできた部品のみでは発電できないので、スコーニィには外部装置が必要である、ということになっています。
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