黄金の虎   作:ぴよぴよひよこ

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第九話

 

 あれからしばらく歩いた大河たちは警戒区域の外縁部、その先の川の中に位置する玉狛支部へと到着していた。

 二人は迅に案内されるまま三階のダイニングらしき部屋へと足を踏み入れる。

 キョロキョロと興味深そうに部屋を見回す大河とは対照的に、三輪は不機嫌極まりないといった様子でソファに腰を下ろした。ふだんから裏切り者と思っている玉狛に、まさかこのような形で乗り込むとは考えていなかったのだろう。

 

「あ、宇佐美。遊真まだいる?」

「あれ、迅さん。うん、訓練室で三雲くんたちとトリガーいろいろ試してるよ」

「ちょっと呼んできてくんない?」

「んー? まぁいいけど」

 

 迅に呼び止められた宇佐美栞がちら、と彼の背後の二人を見てから頷く。

 大河のことは知らないが、近界民(ネイバー)嫌いの三輪は宇佐美も知るところ。近界民である玉狛の新入隊員を呼ぶということは何かしら問題が起きたのかも、と脳裏に過りつつも、迅がいることで深刻には考えずに訓練室へと駆けていった。

 

「お、これウマいな」

「…………」

 

 出された茶菓子を頬張る大河を見て三輪がため息をつきたくなる。しかし彼は"話"とやらが終わるまで口を開かないことに決めていた。終わり次第、即座に近界民を始末する算段である。

 

「木場さん、わかってるとは思うけど、いきなりドカンはやめてよ?」

「それは近界民次第だな。むぐ、おまえがなんの話をさせようとしてんのか知らねーけど、少しでも妙な真似をしたりなんの益もないと判断したらその時点で殺す」

「その点は大丈夫だと思うんだけど……、まぁ、とにかく最後まで聞いてよ」

「わーったよ」

 

 迅に念押しされて大河が曖昧に頷いた。

 ここまで言うからにはそれなりに意味のあることなのだろうと理解もする。しかし基本的に城戸司令に忠誠を誓っている大河はこの時点では最終的に近界民を始末するものと考えていた。

 何より遠征先では危険を避けるために交戦を禁じられていた黒トリガー使い、その臓腑の匂いが大河の興味を引いている。

 

「おっす迅さん、おかえり」

「おつかれさまです」

「おう遊真、メガネくんも」

 

 宇佐美に呼ばれたのだろう人物がひょこりと扉から顔を出した。白い頭の小さな男子と、その後ろには黒髪の眼鏡少年。作戦立案時に見た情報では白い方が近界民であると説明された大河が、菓子を飲み込んで視線を送る。

 

「お? 重くなる弾のひと……と、こっちは誰だ?」

「三輪先輩……?」

 

 二人の少年が迅に促されて大河の正面に座ると、白い方は口を尖らせながら三輪と大河を見比べ、黒い方は不穏な空気を察したのか冷や汗をかいて固まった。

 

「俺はS級隊員の木場大河だ、よろしくな」

「ほう、S級の」

「迅さんと同じ……! あ、ぼくはB級の三雲修といいます」

「おれはC級の……あれ、まだだったっけ? 玉狛支部に入隊した空閑遊真です、どうぞよろしく」

 

 自己紹介すると存外素直に返される。

 うんうんと頷いた大河は「ん?」と首をひねって空閑と名乗った近界民に尋ねた。

 

「クガユウマ? 日本人か?」

「あーえっと」

「遊真、木場さんは全部知ってるよ」

「そうなのか。おれは生まれも育ちも近界(ネイバーフッド)だよ」

「へえ、近界民にも日本人名のやつがいるんだな」

「親父がこっちにいたからね」

 

 ふーんと鼻を鳴らした大河はとりあえずは納得し、本題の"話"に移行することにした。

 

「それでなんの――」

 

 気の抜けたような空気の中、突如として物騒な音を立て展開されるハイドラ。右肩の砲身が喋っていた途中の空閑の頭部に狙いを定めて固定され、いつでも火を吹ける状態で唸りを上げる。まるで猛獣のような重低音にあてられて、三輪を含むその場の全員が凍り付いた。

 

「なっ、何を……!?」

「座れ」

 

 泡を食ったように立ち上がった三雲に大河が低い声で命令する。左の砲塔を突き付けられ、しかし彼は両手を上げつつも反駁した。

 

「で、でも!」

「メガネくん、落ち着け」

「迅さん……!」

 

 空閑を挟んだ向こうに座る迅になだめられ、納得がいかない顔をしつつもようやく三雲がソファに座り直した。当の空閑は向けられた砲口に一瞥もくれずじぃっと大河の瞳を見つめている。

 

「……でだ、近界民(ネイバー)。俺は城戸司令からおまえを抹殺するよう命令を受けているわけだが」

「ふむ。でもこうして席についてるってことは交渉の余地があるってことか?」

「迅がしつこいんでな。まあ、交渉するかどうかはまだ決めてない。話を聞いた結果、敵性と判断したらその場で殺す」

「……なるほど。本気みたいだな」

「それって……」

 

 空閑の言葉に三雲の冷や汗が大粒になる。空閑のサイドエフェクトは嘘を見抜く能力。その空閑が本気と言っているからには目の前の凶悪な武器を向ける男はそうなのだろう。

 どこか現実味すら薄れさせる絵面に、三雲はとてもではないがついていける気がしなかった。

 

 対して凍てつく部屋を作り上げた張本人である大河は極めて冷静でいた。

 ハイドラの引き金(トリガー)に意識を置きながら、白髪の近界民の動きを注視し続ける。少しでも妙な動きをすれば迷いなく撃ち放す腹積もりだ。そこには空閑以外への配慮は全くない。一応、近界民の背後がボーダー本部基地の方角であることだけは認識していたが。

 大河にとって近界民との対話とはそれすなわち尋問である。赴いた国の情報を吐かせるために適当に捕らえた者を極限状態に追い込んで"話"を聞くのが彼のやり方だ。

 

「待ってください、ここでそんなもの撃ったら……!」

 

 明らかに大火力を備えていると見て取れる武装に、三雲が声を荒げて再三制止する。この支部には自分たち以外にも人間がいる。己もまた危機に晒されているがそれよりも非戦闘員の宇佐美や幼い子どもだっているのだ。この場で戦闘になったらどうなるかなど考えたくもない。

 しかし残忍な輝きを湛えるトリオン製の大筒は揺らぎもせずに、今も狙いを定め続けていた。

 

「こいつが敵性近界民と判明したら即座に殲滅を開始する。その場合、匿っていた玉狛支部の人間も同様だ。まあ、表向きには『必要な犠牲だった』ってことになるけどな」

「な……っ!?」

 

 あまりの過激さに言葉も出ない。

 しかし焦った三雲がちらと迅に視線をやっても、落ち着けと膝の上でハンドサインを送ってくるだけだ。

 玉狛支部ごと消滅させるようなことを言った大河には三輪もさすがに驚いたようで、空閑に対し穴が開くほど睨んでいた目を丸くして隣の危険人物に視線を移していた。

 しんと静まり返った室内。静寂に包まれた中で、おもむろに大河が問いを投げかけ始める。

 

「嘘は通じないと思え。仮に嘘でなくても俺がそう思ったら殺す。……まずは一つ目。なんのために"こっちの世界"へ来た?」

「死んだ親父が『オレが死んだら日本に行け、オレの知り合いがボーダーっていう組織にいるはずだ』って言ってたからだな」

「その知り合いってのは?」

「モガミソウイチ。迅さんの黒トリガーになった人だよ」

「そうか」

 

 大河が無感動に頷くも、向けている大砲が動くことは一ミリたりともない。

 敵は未知の近界民で、しかも黒トリガー使い。油断させることはしても己が油断することは間違ってもあってはならない。それが遠征にもおける心得である大河にとって、「いつでも殺せる」というのは対話のための最低条件でもあった。

 張りつめる空気の中での対談、続けての質問が飛ぶ。

 

「おまえは黒トリガー使いだって話だが、その能力は」

「んー……わかりやすく言うと解析したトリガーの能力を追加していける能力、って感じかな。(いん)にして重ねて発動もできて、解析元よりも強力にできたりする」

「ほお、今はどんな能力がある?」

「力を強くしたり、盾を出したり、跳ねたり鎖で相手を捕まえたりとか。この前はそっちのミワって人の重くなる弾をコピーした」

 

 空閑は嘘偽りなく、己の黒トリガーの情報を詳らかにして答えていく。

 本気の殺意で大砲を向けられた状態なのもあるが、嘘やごまかしが通じないというのが嘘ではないと感じ取れたのも大きい。

 そして何より、この場で戦闘になればたとえ自分だけが逃げ切れたとしても、それ以外の人間が全員死ぬと確信していた。空閑は近界(ネイバーフッド)を、戦場を渡り歩いてきた経験を持つ。潜り抜けてきた修羅場の数に裏打ちされたそれが警鐘を鳴らしているのだ、この男は危険だと。

 入隊したばかりで、しかも正式でもなかったが、空閑はもう三雲のチームメイトとしての自覚を持っている。不興を買って戦闘になってしまったら応戦はするつもりでも、できる限り穏便にすませる腹積もりでいた。

 

「へえ……。おまえ今トリオン体だろ、それが黒トリガーか?」

「少し違うかな。トリガーから供給されるトリオンでできてるけど、能力じゃない。どっちかっていうと『機能』ってとこか? 本当のおれの身体は壊れかけてて、黒トリガーの中に封印されてるんだ。半分、常時発動型って言えばいいのかな」

「なるほどな、どうりで……」

 

 大河が顎に手をやって納得した様子を見せる。

 彼が気になっていたのは空閑のトリオン体の匂い(ヽヽ)。その身体は死にかけの傷病人のような匂いを発していたのだ。黒トリガーらしき指輪からはまた別の匂いがすることからして、本体が壊れかけているという弁に頷いた。

 

「指輪が本体か。ちっと見せてみろ」

「これを外すのはちょっと……」

「別に壊しゃ……ああ、そういうことか。じゃあ手ェ伸ばせ」

「ほい」

 

 差し出された手を取った大河はそのまま鼻を近づけた。

 すん、と鳴らしてトリオンの匂いを確認する。

 

 ――空閑のトリオン体のとは似ているが少し違う匂い。肉親のものか。中身(ヽヽ)はたしかに死にかけているらしき感じもする。

 

 黒トリガーは人間が命と全トリオンをつぎ込んで作り上げるもの。その人間のトリオン能力が(のこ)って使用者に力を授け続けるのである。ゆえに匂い(ヽヽ)もまた他とは根本から異なる。

 大河曰く、「量産品は薄くて無機質」らしい。黒トリガーは遺した人物のトリオン能力を有しているため、製作者の匂いも色濃く残る。トリオンを嗅ぎ分ける大河はそれを感じ取ることができ、空閑のものは間違いなく黒トリガーであると見定めた。

 

「これ、おまえの親父さんか」

「そうだけど……なんでわかったの?」

「そういう匂いがした」

 

 死んだ親父が、とは言っても黒トリガーになったとは言っていない空閑は不思議そうな顔をして「匂い……?」と自分でも指輪型をしたそれに鼻を近づけてみたが、さっぱりわからなかったらしい。

 砲塔を向けられながらも呑気そうにしていた彼は、大河の「次で最後な」との言葉に頷いてその質問を待つ。

 

「なぜボーダーに入隊した?」

「オサムに誘われたんだ。チカっていう仲間が近界民にさらわれた兄さんと友達を探しに行くのを手伝ってくれって」

「そうか。それが今の目的か?」

「うん」

 

 迷いなく頷く空閑を、大河はしばらくの間凝視し続けた。

 

 ――汗の匂い。見た目は淡々としているが多少の緊張はしているらしい。それを隠せるだけの度量と経験があるということか。だが嘘を吐いているような感じはしない。黒トリガーの能力は異例ではあるものの、己とは相性がいい。殺すならいつでも殺せる。

 

 三雲の汗が二滴ほど垂れ落ちたころ、大河はようやく身体を反らしてソファの背もたれに寄り掛かった。照準も外され、砲塔がトリオンの粒子になって消えていく。

 ほっと息を吐いた三雲がちらりと視線をやると、空閑を挟んだ向こうで迅もまた胸をなで下ろしていた。

 

「ふーん、おまえ変なやつだな」

「ひどい言われよう……。質問は終わりか?」

「"話"は終わりだ。こっからは"交渉"だな」

 

 今度は前のめりにして膝の上で手を組んだ大河。

 隣で三輪が目を見開いて驚いていた。話は終わったのに始末しないのか、と言外に語る彼を片手で制して進める。

 

「ひとまずおまえが敵意のない近界民だってことは理解した。でも黒トリガーを持った近界民を放っておくことはできない。ましてや、玉狛に入るとなればな」

「むう……」

 

 空閑が難しい問題に口を尖らせる。

 

「なんで玉狛だとダメなの?」

「簡単に言うと、本部の『近界民はブッ殺すべき』って派閥と、玉狛の『話し合えばわかるんじゃね?』って派閥があるからだな。おまえが玉狛に入ると、迅とおまえで黒トリガー持ちが二人になる。本部より支部の方が強くなるといろいろ面倒が起きるんだよ」

「そういうもんなのか……」

「おまえのその黒トリガーは解除できないのもわかった。できれば本部の管理下に置きたいわけだが……」

「それはムリ。おれは玉狛支部に入隊したからな。っていうか本部じゃ近界民の入隊なんて認めないんじゃないの?」

「だろうな。それでだ、交渉ってのはそこだ」

 

 人差指を立てた大河は、その指先を見つめる空閑に条件を示す。

 

「おまえを玉狛に入れてもいいって思わせるほどの有用性を示したら、俺からも城戸司令に口を利いてやってもいい」

「木場さん、それは……!」

 

 黙っていられなくなった三輪がついに食って掛かった。城戸司令の命令は近界民の抹殺だったはず。直属隊員である自分たちがそれに逆らうことがどういう意味なのか、わからないなんてことはないだろうに。

 しかし秘匿通信で返された言葉に三輪は黙り込むこととなる。

 

「《もう少し見てろ。迅が言う、こいつの持ってるものがショボければ結局は同じことだ》」

 

 大河の中ではまだ空閑を殺すことは選択肢に入っているらしい。そのことに一先ずは安心したらしい三輪が静まるのを確認してから、大河が空閑を促した。

 

「どうだ?」

「ゆーよーせー、って言われてもなー?」

「おまえがボーダーに入隊したらお得だって思わせるようなことだよ。近界民の技術、情報……なんでもいい、言ってみろ」

「それならレプリカに聞いた方が早いな」

『心得た』

 

 空閑の服の裾からにょろりと伸びてきた黒いモノ。ぐにぐにと形を変えたそれは、黒い炊飯器に長く尖ったアンテナが二本伸びたような不思議な形をとって大河たちに話しかけてきた。

 

『初めまして、タイガ。私の名はレプリカ、ユーマのお目付け役だ』

「喋るトリオン兵とは、面白いもん持ってんな」

「トリオン兵……!?」

 

 剣呑な響きににわかに三輪の警戒度が上がる。しかし大河は物珍しそうにするだけで再びカノン砲を向けるようなことはしなかった。数々の国を渡ってきた彼にとって、トリオン兵の多様性は過去に知るところである。

 

『タイガの言う近界民……いや近界(ネイバーフッド)の情報ならば、およそ六十ヶ国以上のものを有している。それぞれの国に滞在したのは何年か前なので、最新のものとは言えないが』

「六十……、そりゃすごい」

 

 大河が静かに驚嘆の声をもらす。他の隊員に比べて突出した遠征経験を持ち、かつ渡った国の数もそれなりにある彼をして、六十という数字は舌を巻くにあたう数だ。それらの国々の情報であれば、有用性という点ではなかなかの説得力を持つ。

 

「これはけっこうな掘り出しもんかもしれないな」

「本気ですか、木場さん」

 

 じとりとした目つきで問う三輪に、再び秘匿通信で大河が話しかける。

 

「《目の前の獲物(えさ)に釣られすぎるなよ、三輪。こいつの持ってる情報が確かなら、これからの遠征はもっと具体的な策を取れる。ここで一匹の近界民を殺すより、近界(むこう)でもっとたくさん殺した方がいいだろ?》」

 

 細かな情報があれば渡った国の内情をその国の近界民からいちいち引き出す必要がない。特に大国を避け、玄界(ミデン)と関わりのない国を選別しなければならない特殊な遠征では際立って役に立つ。

 関連性がわかれば攻め入れるか否か。技術がわかれば奪う価値があるかどうか。そして国力を知れば殲滅できるかどうかまで計算に入れられる。

 近界民を尋問するのも有意義(ヽヽヽ)ではあるのだが、別に嬲ることが趣味ではない大河にとってはやはり面倒な時もある。正確な情報を得るには数が必要不可欠。最後に心臓を抉り出すという楽しみがあっても、時間的な問題が大きい。

 

 さすがにそこまでは知らない三輪はやはり反論した。

 命令は始末と奪取。そこを違えてはならない。

 

「《……! ですが、城戸司令が許すとは》」

「《黒トリガー自体は問題ない。この能力なら俺だけで充分殺し切れる。コピー元より強くなるってのはたしかに便利で強力だが、俺の武装は調整されてるだけで突き詰めればなんの特殊性もない武器だ。出力勝負なら負ける気がしないからな》」

 

 それにはたしかに頷けた。

 コピーする能力。それは相手が未知のトリガーを使っていなければなんの意味もない能力である。そして大河の扱うトリガーは特殊な改造を受けているとはいえ、その破壊力は彼のトリオン能力があってこそのもの。仮に大砲を丸々再現したところで発射できるかどうかは定かではない。

 いつでも殺せるという言葉にほんの少し安心感を得た三輪は、大河の次のセリフに片眉を上げた。

 

「《――それに何より、こいつはもう死にかけてる》」

「《それは、どういう……?》」

「《あの黒トリガーは死にかけのこいつのために造られた延命装置みたいなもんだ。こいつの命はそう長くない。だったらその前に有効活用したほうがお得ってもんだろ?》」

「《しかし……》」

 

 遠くない未来にいずれ死ぬというのなら情報を吐かせておくのも一つの手だろう。

 もし暴れたらその場で始末できるし、仮に勝手に死に絶えたらそれはそれで黒トリガーは残る。僅かな期間でも玉狛とのパワーバランスが崩れることに目を瞑れば納得できないこともない。

 しかし、三輪にとって近界民とはただ殺す相手。損か得かで考えるものではない。

 "殺さねばならない"。それはボーダーにとっての存在意義であり、義務であり、三輪の根幹に根付いた原理そのもの。

 

「…………」

 

 それでも数多くの近界民を手にかけてきた大河の存在がその信念を揺るがした。実際に近界へ赴いて牙を剥く彼の考えは、三輪にとっても軽々しく断ずることのできないものであったのだ。

 

「レプリカっつったな。国の情報はどの程度まで詳細にわかる?」

『今は変わっているかもしれないという前提はあるが、長く居着いた国ならばトリオン兵やトリガーの特色まで。短くともその国の国力、文化や風土、生活様式は記録されている』

「へえ、いいね。さすがにトリオン兵にはサイドエフェクトも働かねーから聞くけど、嘘じゃないという証拠は?」

『本部のトリガーで私を解析すれば、惑星国家の配置図と国の特色が映像付きで確認できるだろう』

「なるほどな。……よしわかった」

 

 大河がぱしんと膝を叩き、三雲がびくりと震えた。

 

「とりあえずおまえらを本部に連れていこう。そこで今の話をもう一度城戸さんにしてもらう。"交渉"(   )の続きはそこでだな」

「ふむ?」

「大丈夫だ遊真、おれもついていくから」

「ぼ、ぼくも同席していいでしょうか……?」

「いいんじゃね? んじゃ夜も遅いし、早めに行こうぜ」

 

 思い立ったがとばかりに立ち上がる大河に、玉狛の人間がぞろぞろと続いていく。その最後尾につきながら、三輪は今もまだ迷い続けていた。

 近界民は全て敵、殺すべき相手……。しかし利用価値があれば別なのか? ボーダーに入隊するなどという世迷いごとを許すほどの?

 ふるふると頭を振り思考を放棄して玉狛支部を後にする。

 強すぎる憎悪から近界民に対して多角的に物事を見れない三輪は、しかしそれでも大河に従ってみようと思い始めていた。

 

 

 

 





とりまる:バイト中
レイジ:防衛任務中
うさみ:レイジのサポート
こなみ:一人訓練室で遊真の帰りを待っていたら夜が明けた


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