マナケミア テオフラトゥスの娘   作:シャケ@シャム猫亭

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第一章 第一節

 雪が降るような、淡く白い世界のどこかで、オルゴールの音がする

 

 

 

 優しくて、切なくて、懐かしい。

 

 

 

 ………。君は、だれ?

 

 

 

 名前を聞いているのか?

 ………サルファ、だ。

 

 

 

 サルファ………

 君も、一人ぼっちなの?

 

 

 

 ………ああ。お前と同じだ。

 

 

 

 そっか………

 一緒にいてもいいかな?

 

 

 

 ………そうだな。それも、悪くない。

 

 

 

 ありがとう。えっと、僕は………

 

 

 

 ヴェイン、だ。

 あいつがそう呼んでいた。

 

 

 

 ヴェイン………僕の、名前………

 

 

 

 そうだ。

 それと、もう一人紹介したいやつがいる。

 

 

 

 ………その子は?

 

 

 

 ディナチュラレラム………ディナだ

 

 

 

 ディナ………

 よろしく、ディナ………

 

 

 

………………………

…………

…

 

 

 

 深く静かな森の中。

 生い茂った木々たちにより日の光は遮られ、昼間だというのに薄暗い。

 人里から遠く離れたこの森は、全てがあるがままの姿で生きている。

 そんな森の中を進む、一人の男がいた。

 道なき森を、多少覚束無いまでも確かな足取りで進んでいる。

 こういった所を散策する技術を彼は有していた。

 

「村の人の話では、もうそろそろなんだがなぁ………」

 

 この森のどこかにあるという山小屋、そこが彼の目的地である。

 しかし、簡単には見つからない。

 何人もの人から聞き込みをし、おおよそに場所は把握しているが、地図があるわけでもない。

 事実、彼がこの森に入って、すでに数日が経過している。

 普通ならば引き返し、近くの人里で一息つこうと考えるところであるし、彼も一度戻ることを思案していた。

 だが、それから少しして、ようやく彼はその山小屋を見つけることが出来た。

 

「やれやれ、やっと見つけた………」

 

 つる草がまとわりついた山小屋は、一見すると見窄らしい。

 しかし、よく見てみれば痛みは少なく、いや、全くないと言っていい。

 建てられた時期と、森の深くで整備出来ないことを考えると、この山小屋は綺麗すぎる。

 こうした、建築物を経年劣化から保護する術を、彼は知っている。

 

 ふと、彼が自身の思考から呼び戻すように、視線を感じた。

 見れば、山小屋のそばに少年と、一匹の猫がいるではないか。

 それを見て彼は、自身の仕事を思い出した。

 

「ちょっと、いいかな?」

「だ、誰ですか?」

 

 少年は警戒した声で尋ねる。

 見れば、少年の服はボロボロで、浮浪児のような印象を受ける。

 銀というより灰に近い髪はあまり手入れされていないのだろう、ぼさぼさである。

 

「…………」

 

 少年の隣にいた猫が、まるで少年を庇うかのように、彼の前に移動する。

 その鋭い目は、彼を睨みつけ逸らさない。

 だが、そんな状況でも、彼に慌てた様子はなかった。

 

「この子が君のマナかい?」

「マナ……? サルファは、友達です」

 

 少年は、彼を得体の知れないものでも見るように言った。

 その瞳には、怯えの色も混じっている。

 

「おっと、失礼………そんな怯えた目で見ないでほしいな」

 

 彼は柔らかい口調でそう言った。

 

「…………」

 

 少年の前に立ちふさがっていた猫、サルファは彼をじっと見つめる。

 そうして、彼に脅威が見えなかったのか、サルファは警戒を解きゆっくりと少年の横に移動し、腰を下ろした。

 

「えーっと………こんなところに一人……いや、君たち二人で住んでいるのかい?」

「………町に行くと、みんなが怖がりますから………それと、ここにはディナも住んでいます」

「だろうね。この辺の人たちは、錬金術についての知識も乏しいだろうし。君とサルファの力は、得体の知れないものに見えるんだろう………しかし、ディナか。その子も猫なのかい?」

「……ディナは、女の子です」

「おっと、それは失礼。そのディナちゃんとも話がしたいのだけど、今いるかい?」

「…………出かけてます」

「そうか、じゃあ詳しい話はその子が来てからにしよう」

 

 そう言って、彼は近くの倒木に腰掛けた。

 そんな、呑気とも言える様子に、少年、ヴェインは少し警戒を解く。

 そうして、初めてヴェインから口を開いた。

 

「あの………れんきんじゅつって何ですか?」

「おや? 君も錬金術を知らないのかい?」

 

 ヴェインの質問は、彼を少々驚かせたようだ。

 

「この家にはちょっと前まで、有名な錬金術士が住んでいたんだけど………」

「そうなの?」

 

 ヴェインはサルファに訪ねた。

 

(ああ。家に篭もりきりで、やはり町の人間からは気味悪がられていたがな)

「そうだったんだ………」

「君、もしかして………何も知らないのかな?」

「昔のことは、僕もディナも覚えてないんです。おぼろげにしか………」

「なるほど、ね。道理でなかなか見つからなかったわけだ………」

 

 彼は合点がいったと、頷いた。

 そんな彼を見て、サルファが鳴いた。

 

(それで貴様は、こんな所に何の用だ?)

「それで、あなたは何をしに来たんですか? ………ってサルファが聞いています」

「ん? おおっと、失礼。詳しい話の以前に、そもそも用向きを話してなかったね」

 

 すまないね、と彼はかるく謝った後で、言った。

 

「ボクはゼップル・クライバー。アルレビス学園の教師だよ」

「アルレビス………学園?」

 

 聞き覚えのない名前に、ヴェインは首をかしげる。

 

「そう。全世界の錬金術士の卵が集う、錬金術士のための学園………今日はね、君をその学園にスカウトしに来たんだよ!」

「………はい?」

「さっき言った通り、詳しい話はディナちゃんが戻ってきてからしようか。あ、もちろんディナちゃんにも錬金術の才能があるようならスカウトさせてもらうよ」

「はあ………」

 

 ヴェインはその言葉を未だ理解しておらず、気の抜けた声を出した。

 

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