そして、2018年明けましておめでとうございます。
お久しぶりですね。
私が生きし森に着いた時は、すでに日が登りきっていた。
キャロ芋が生えている畑までは、どんなに急いでも六時間はかかる。今から森に入れば、途中で確実に日が暮れてしまうだろう。
それでも、私は生きし森へ入った。危険性は十分に承知の上だ。
モンスターの多くは夜行性であり、夕暮れから夜の間は非常に活発になる。
速さだけでなく力やその特性までもが向上するため、昼間なら楽勝なモンスターが、夜では勝てないことなどザラにある。
けれど、そんなことで諦めることなんて出来ない。
今日キャロ芋を手に入れることができれば、週末をニクロ布の調合に専念できる。
失敗したくない。
調合出来なければ、グンナルのアトリエは解散だ。
嫌だ。
もう、あのアトリエはヴェインにとって、私にとって、大事な物。
だって、初めての友達が出来たのだから。
走って、走って、走って。
たまに見かけるモンスターは無視するか、一撃を入れて怯んだスキに逃げた。
いくらキノアラといっても、今の私は一人っきり。
勝てないことはないだろうが、戦っていては時間がかかりすぎる。
そうしてただひたすらに森の奥にある畑を目指していたのだが、流石にずっと走り続けられるわけがない。
頭は急げ急げと急かすが、いい加減身体がついて来なくなった。そろそろ小休憩を入れなければ。
ちょうど良い倒木を見つけて、腰掛けた。
ポーチから水筒を取り出して口に含もうとするも、上がった息のせいでなかなか飲み下せない。
ようやっと落ち着いてきてから飲んだ水は、火照った身体を内側から冷ましてくれる。あまりの気持ちよさに二口三口と続けて飲んでしまった。
水筒が一気に軽くなる。
「………あと、どのくらい、だろう」
持ち歩いているポーチから、学園で支給された地図を開く。
これによれば、現在地点は生きし森の入口から畑までの、丁度半分。
空を見上げれば、もう日はだいぶ傾いていた。日没まで二時間もないだろう。
やはり、畑に着く頃には日が落ちてしまう。
「モンスターが活発になるのは夕方から……」
それまでに出来るだけ距離を稼いで、残りの道のりは慎重に進まなければならない。
たぶん、モンスターが活発になったらキノアラでも厳しい戦いになる。
それほど昼と夜のモンスターの強さは異なるのだ。
私は、まだ休みたいと主張する身体にムチを入れて、再び走り出した。
生きし森は、私たちが暮らしていた森よりも浅い。
畑までの道は整備されていて道が引かれているし、空は開けていて陽の光がしっかりと差し込む。
私たちの暮らしていた森は、草が自由放任に生えているせいで道なんてなかったし、木はこれでもかというほど枝葉を広げていたため、昼間でも光が差し込まず薄暗かった。
生きし森は暮らしていた森よりもずっと視界が開けていて、だから、たとえ日が落ちて、光源が月明かりだけな中でも魔物は見つけやすく、迂回は楽なものだった。
「あと、ちょっと………」
実に半日、およそ六時間ほどかかって、ついに小川が見えてきた。
月明かりを反射してきらきらと輝いており、時折ぱしゃんと何かが跳ねる音がする。
この川はとても澄んでいて、学園の水道よりも質の良い水を汲むことが出来る。
こだわる人は、ここまで汲みに来るそうだけど、今回は必要ない。
月が映り込む水面を尻目に、私はがくがくと笑う膝にムチを入れる。ここまで来れば学園の管理する畑は目と鼻の先だ。
踏み出した足が、小枝を踏み折りペキリと音を立てた。
「ガアアッ!」
小枝を踏んだ音を立てた直後、咆哮が上がった。
慌てて振り向けば、十メートルもない距離にベアが立ち上がり、こちらを威嚇している。
「っ、いつの間に!?」
ベアはこの生きし森の中でもかなり危険な魔物だ。
キノアラくらいなら夜に遭遇しても何とかなったかもしれないが、ベアはマズイ。
だが、そんな私の驚きを余所に、ベアは勢いよく飛びかかって来た。
畑の近くまで来たという気の緩みと、何よりも疲労によって反応が遅れた。身を捻らせて爪を
ベアの大柄な体躯は相応に力も強く、私の身体は簡単に吹き飛んだ。
地面を何度かバウンドするように転がる。
「っ、フレイムゲイズ!」
無理な体勢から撃ったためベアには当たらず、その手前に着弾し火柱を上げる。ベアはその火柱をもろともせず、こちらへと突っ込んで来る。
立ち上がることすら出来ていなかった私は、ただ目を閉じることしか出来なかった。
「ディナ!!」
目を閉じていた私には、その瞬間を見ることはなかった。
ただ、私を呼ぶ声がして、目を開いたら私の前にはヴェインが立っていた。
「………ヴェイン?」
「うん」
サルファを身に纏いベアと対峙するヴェインは、私の言葉に振り向かず返事をした。
ベアは新手に警戒しているのか、突っ込んでは来ず牙を剥いて威嚇している。
「スキあり!!」
声と同時に茂みから岩の大玉がベアの横っ面へ突き刺さった。
強烈な奇襲に、ベアは怯んで後退する。
「わたしもいるよー!」
追撃としてベアに色々なものが飛んでいく。そのうちの一つが爆発を起こし、ベアは尻餅をつくような形で倒れた。
「いくよ、サルファ」
(任せておけ)
ヴェインが振り上げた左腕が瞬時に巨大な剣となり、ベアを両断する。
私が成すすべなかったベアが、あっという間に退治されてしまった。
ニケとフィロも姿を現し、私は三人に囲まれる。
「ディナ、大丈夫?」
「わわ、怪我してる! ちょっと待ってね、カバンにリフュールポットが…………あれ、どこだろ?」
「立てる? うちの肩貸そうか?」
(まったく、後で説教だな)
ごめんなさい、四人(?)でした。
「あ、あの………」
「話は後で。ヴェイン、イカロスの翼を使って」
「うん」
ニケの言葉にヴェインは首から下げた翼のアクセサリーを天に掲げる。
私たちの身体が淡い光に包まれ、ぐいっと何かに引っ張られるような感じがした。
そして、気づいた時には学園の中庭に降り立っていた。
「あ、あったあった。はい、リフュールポット」
「ありがとう、ございます」
フィロから受け取ったリフュールポットに口をつければ、たちまちに傷の痛みが引いた。
制服の袖をめくれば、ベアに吹き飛ばされた時に負った擦り傷が消えている。
改めて、錬金術ってスゴいと思った。
(さて、傷も癒えたようだし、これで遠慮はいらないな?)
「うぐっ……お手柔らかにお願いします」
(ほう、少しは自分が悪いことをしたと分かっているようだな)
座れというサルファの言葉に、私はその場で正座した。
石畳は冷たくて硬くて足が痛いけれど、多分サルファはそれを見越して言ってる。
(そもそも、お前は…………)
サルファは怒鳴り散らして怒るのではなく、こうして理詰めで説教をする。
長い長い説教が始まった。
「ヴェ、ヴェインくん、サルファくんは何て言ってるの?」
「えっと……ディナに説教してる」
「うち、猫に説教される人初めて見た」
今が夜で良かったと心から思う。
昼間の中庭は人通りが多い。きっと好奇な視線に晒されたことだろう。
(聞いているのか、ディナ?)
「はい、聞いています」
(大体、昔からお前は物事を深刻に捉える癖がある。今回の件だって、例えニクロ布が調合出来なかったとしても、あのグンナルとかいう男のアトリエが潰れるだけだ)
「でも、みんなのアトリエ……」
(アトリエ申請条件を忘れたか? 四人以上いればいいんだから、お前にヴェイン、フィロにニケで四人だ。新たに申請すればいい。どうせ、あのグンナルがアトリエを持つということに教頭は不安なだけだ)
この四人なら申請は通るだろうというサルファの言葉に、私の目からウロコが落ちた。
そうか、その手があったのか。
(夜も遅い。今回はこの辺にしておくか)
「はい、すみませんでした」
(謝る相手が違うだろう)
その言葉に、私はヴェイン達に向き直り、座ったまま深く頭を下げた。
「ニクロ布のことで焦って、無茶をしました。三人が来てくれなければ、きっと大怪我してたと思います。心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「わわ、頭を上げてディナちゃん!」
「そうだよ、それを言ったらニクロ布のこともっと真面目にならなかったうちらも悪いんだし」
「うん。明日みんなでキャロ芋採りに行って、課題終わらせよう。それで、明後日にふさふさを採りに行けば良いよ」
三人の言葉に、私の目頭が熱くなる。
手で拭えば、数滴の雫が手の甲に落ちていた。
「さ、ディナ立って。もう寮に戻って休もう」
ヴェインに言われ、私は立ち上がろうと足を動かし、気づいた。
「……ニケさん、肩を貸していただけませんか?」
「うち? も、もしかして何処か痛むの!? 保健室行く!?」
「いえ、その、お恥ずかしながら…………足がしびれてしまって」
まずは、御礼を。
一年以上更新しなかったのに、お気に入りを解除せずに待っていただいた16人の方々。
ありがとうございます。
また、活動報告で待ってるよと言って頂いた方。
アナタのお言葉が力になりました。
最後に、スペシャルサンクスを鋼夜様に。
ディナの絵、ありがとうございます。PCのディスクトップにしてます。
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過去話を見直し修正しつつ、ぼちぼち進めていきますので、これからもよろしくお願いします。