マナケミア テオフラトゥスの娘   作:シャケ@シャム猫亭

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第一章 第二節

 アルレビス学園。

 古くから数多くの著名な錬金術士を排出してきた、錬金術の最高学府。

 その学び舎は空高く浮かぶ島にあり、錬金術の才能がなき者は、学び舎の門をくぐることすら叶わない。

 そんな僅かな人しか訪れることが出来ない学園に、一年でもっとも人が訪れる時期がある。

 そう、桜が舞う四月。

 今年もまた、新入生がこのアルレビス学園へとやってきたのだ。

 

「ここが、アルレビス学園…………錬金術を、教えてくれるところ………」

「お父さんも、ここで勉強したんですよ、ね………」

 

 校門を見上げるように立ち尽くす、少年と少女、それと黒猫がいた。

 二人共、灰に近い銀色の髪をしており、目元や顔立ちが似ている。

 少女の髪がショートのせいもあるだろう、ひと目で姉弟と分かってしまう。

 

(ヴェイン、ディナ、立ち止まってないで行くぞ)

「さ、サルファ、そうはいっても私、緊張してしまいまして………」

「ぼ、僕も………」

(情けない………さっさと慣れろ)

 

 黒猫、サルファはため息を吐くと、すたすたと校門をくぐって行ってしまった。

 置いてきぼりをくらいそうになった二人、ヴェインとディナは、慌てて彼の後を追いかける様にして校門をくぐった。

 

 

 

……………………

…………

 

 

 

 ディナチュラレラム=アウレオルス

 それが、私の名前だ。

 ヴェインやサルファは私の事をディナと呼ぶ。

 長いし呼びにくいしで、どうしてお父さんがこんな名前にしたのか不思議で仕方がない。

 と、思ったが、お父さんの名前もテオフラトゥス=アウレオルスと長い事を考えると、案外これが普通なんのかもしれない。

 でも、私もヴェインみたいに短くて、それでいて可愛い名前だったら良かったのにとは思う。

 ………この話は今あまり関係無いな。

 今、私とヴェインはアルレビス学園の講堂で、校長先生の話を聞いている。

 森の奥でひっそりと暮らしていたのに、何故こんな所に来ているのか。

 それは、約1ヶ月前に遡る。

 

 

 

 あの日、私はいつも通りに野草や山菜を取りに家を出ていたのだが、帰ってきたらヴェインと共に見知らぬ男がいた。

 彼は自らを、アルレビス学園の教師と名乗ると、ヴェインを学園にスカウトしたのだ。

 始め、私は警戒心バリバリで彼の話を聞こうとはしなかったが、サルファからゼップルはそう危険な人ではないと嗜められ、一先家に上げることにした。

 ゼップルは、「これが、かの有名なテオフラトゥスのアトリエか」なんて、興味津々な様子を隠そうとはしなかった。

 ヴェインは私たちの家に他人が居ることなんてなかったので、とても居心地が悪そうにしている。

 そんな二人を尻目に、私は来客のためにお茶を入れる。

 来客なんて初めての事だけど、私はそうするべきだということを知っている。

 まあ、お茶っ葉なんて物はここにはないから、野草茶になるんだけど。

 

「………どうぞ」

「お、ありがとう………何て言うか、特徴的な味だね」

 

 一口クチをつけてから、それ以降飲まない辺り、ゼップルさんの口には合わなかったようだ。

 試しに私も飲んでみるが………うん、マズイ。

 

「それで、ゼップルさん、詳しいお話を聞かせて欲しいのですが」

「そうだね、順を追って話そうか。ディナちゃんだっけ? 君は錬金術を知ってるかな?」

「知っています」

 

 この答えに、ゼップルさんは少々驚いたようだ。

 聞けば、ヴェインは錬金術のことを知らなかったから、私も知らないと思っていたようだ。

 私はヴェインが錬金術を知らないことに驚いたよ。

 

「ヴェイン、私がどうやって小麦粉作ってるか知っていますね?」

「うん、あそこの釜に材料入れて、かき混ぜて作ってるよね」

「それが錬金術です」

「そうなの?」

「そうです」

 

 どうやらヴェインは、私がアトリエの釜で色々作ってるのは知ってるが、それが『錬金術』という名前だとは知らなかったようだ。

 

「………君は、錬金術が出来るのかい?」

「出来ます。ヴェインもきっと出来ると思います」

「そうか、決まりだね。ディナチュラレラムさん、君もアルレビス学園へスカウトするよ」

「………先程から言ってるアルレビス学園とは何ですか?」

「アルレビス学園はね、錬金術を学ぶ学校なんだ」

 

 アルレビス学園。

 錬金術の最高学府で、全世界から錬金術の才能を持つ者ならば種族を問わず学ぶことが出来る学校。

 ここを卒業した人たちには数多くの著名人がおり、各国で引く手数多となる。

 聞けば、私たちのお父さん、テオフラトゥス=アウレオルスもここの卒業生で、その腕前は歴代最高。

 錬金術の世界では有名人だそうだ。

 

「どうだい君たち、アルレビス学園で学ぶ気はないかい?」

 

 ゼップルさんの言葉に、私とヴェインは顔を見合わせる。

 正直言えば、私は行ってみたい。

 その理由は、お父さんが学んでいた学園ならば、何かお父さんのことが分かるかもしれないと思ったからだ。

 私とヴェインにお父さんと過ごした記憶はない。

 二人共、気づいたらサルファと三人でここに住んでいた。

 サルファが言うには、お父さんはもう死んでしまったらしい。

 私の知っているお父さんは、テオフラトゥス=アウレオルス著の数冊の本と、研究ノートだけである。

 だから私は、前々からもっとお父さんの事を知りたいと思っていた。

 今回の話は、渡りに舟と言ってもいいのかもしれない。

 

「けど………私たち、お金がありません」

「それは心配しなくていい。アルレビス学園は、授業料やその他諸々を全て学園が負担しているんだ」

 

 それは、嬉しい。

 私たちは町とは関わらない生活をしてるせいで、お金はほとんど持っていないのだ。

 すると、後はヴェインが行くか否かだ。

 

「ヴェイン、私はヴェインが行くなら行くし、行かないなら行きません。ヴェインの好きにしていいです」

「ディナ………」

 

 ヴェインは昔、町に行った際に人々に酷い目に合わされ、それ以来、他人が苦手になった。

 今もゼップルさんと対面して、緊張しているのが分かる。

 アルレビス学園は全寮制で、当然ながら沢山の人と関わらなくてはならない。

 果たして、ヴェインがそれを受け入れられるかが問題だった。

 ………よく考えたら、私も他人が苦手だった。

 あれ? やっていけるのか?

 

「…………僕は」

 

 ヴェインがゆっくりと口を開いた。

 

 

 

……………………

…………

 

 

 

「………さて、皆さんも退屈してきたようですので、そろそろ終わりにしましょう」

 

 壇上の校長先生の言葉で、私は現実に戻された。

 そうだ、今は入学式の途中だった。

 校長先生の話、ほとんど聞いてなかったけど大丈夫だろうか?

 

「最後にもう一度。皆さん入学おめでとう」

 

 その言葉で校長の話は締めくくられ、拍手がわき上がる。

 拍手にヴェインが驚いて、ビクッとしたのを私は見逃さなかった。

 

「以上で入学式は終了です。生徒は速やかに、各自の教室へ移動なさい」

 

 青髪を後ろで纏めた教頭先生が、私たち新入生を先へと促す。

 その鋭い顔つきと冷たい口調も相まって、とても厳しそうな印象を受けた。

 それを他の生徒も感じ取ったのだろう。

 文句を言うこともなく、生徒は準々に講堂から出て行く。

 私もそれに続こうとしたが、ヴェインが動こうとはしなかった。

 どうやら緊張で、さっきの言葉が耳に入ってなかったようだ。

 

「ちょっと、邪魔よ。どいて」

 

 私たちの後ろに居た女子生徒が、いつまでも進まない私たちに痺れを切らした。

 

「「あ、ご、ごめんなさい………」」

 

 その声に弾かれるように、ヴェインと私は横へとズレる。

 女子生徒はそのままスタスタと行ってしまった。

 

(おい、しっかりしろ)

「ご、ごめん。こんなに人がいるところ初めてだから………」

「わ、私も………」

 

 二人してサルファに怒られしょんぼりする。

 

「はっはっは。ずいぶん緊張しているみたいだね」

「「わわわっ!!」」

 

 突然、後ろから話しかけられ、私たちは驚いてしまった。

 慌てて振り向けば、ゼップルさんがにこやかな笑顔を浮かべ立っていた。

 

「やあ、二人ともよく来たね。1ヶ月ぶりくらいかな」

「あ………お久しぶりです。えっと………」

「ゼップル=クライバーさん」

 

 ヴェインに耳打ちして、ゼップルさんの名前を教える。

 

「ゼップル………さん」

「うん、久しぶり。そうそう、今日からボクは君たちの担任になったからね。尊敬の念を込めてゼップル先生と呼ぶように」

 

 ゼップル先生は冗談めかして胸を張りながらそう言った。

 

「そ、そうなんですか? その、すみません………」

「………ヴェイン。今のは多分、冗談です」

「そう冗談。だから、そんなに硬くならないでほしいな」

 

 ヴェインの様子に、ゼップル先生は苦笑する。

 それを見たヴェインが、また謝ろうとするので、ゼップル先生は話題を変えてくれた。

 

「そろそろ教室へ行こうか。場所は分かるかい?」

 

 この問にヴェインも私も揃って首を横に振った。

 今日、初めて来たのだから知る由もない。

 実は、この学園は1ヶ月前から新入生の受け入れをしており、ほとんどの人はすでに寮生活を初めて居て、大体の地理は把握しているらしい。

 

「それじゃ、一緒に行こうか。入学初日から迷子になられても困るしね」

「「はい」」

 

 そうして私たちはゼップル先生の後に続いて歩き出した。

 ふと、振り返れば、サルファは考え事をしていたのだろうか、未だにその場に留まっている。

 

「どうしたのですか、サルファ?」

(いや……何でもない)

 

 私の問いに頭を振るかのようにして、サルファも移動を始めるのであった。

 

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