あれから三人で学園を歩き回った。
学生課や購買、保健室なんかではちょっとしたこともあったが、おおむね全てを回ることが出来ただろう。
三人は今、教室棟に戻ってきていた。
「あー。歩き回って疲れちゃった」
でも、楽しかったとフィロは笑う。
それにヴェインと私も肯いた。
日はだいぶ傾いており、廊下は赤く染まり始めている。
「そろそろ寮に戻らないといけないのかな」
ヴェインの言葉に、私は懐から銀の懐中時計を取り出して時間を確認する。
確かに、もうそろそろ夕食の時間だ。
そうして三人は寮へを足を向けようとしたとき、
「おい」
三人を呼び止める声がした。
ぶっきらぼうな男の声だ。
見れば、ポケットの中に手を突っ込んだまま、ガラの悪い赤毛の男子生徒が近づいてきた。
後には、金髪の女子生徒も続いてやってくる。
彼らは私たちのブルーの制服を違って、モスグリーンの制服を着ていた。
ということは、確か二年生のはずだ。
「お前がヴェイン=アウレオルスか?」
「そうですけど………」
「んで、こっちの銀髪の女がディナチ……ディナチュレ……ええい、言いづれえ。ディナ=アウレオルスだな?」
「うっわ、言えてないし。はっずかしー」
「うっせ、黙ってろ!」
金髪の先輩に煽られ、赤毛の先輩は舌打ちする。
「二人とも、知ってる人?」
「ううん、知らない人……」
私もヴェインと一緒に頭を振る。
自慢ではないが、私もヴェインも知り合いはとても少ない。
学園外には0だし、学園内だってフィロと一緒に学園を回ったときに会った人くらいだ。
だから、知り合いかどうかはすぐにわかる。
「ホントにこの子たちなの? 何だか暗いし、冴えない顔してるけど」
金髪の先輩の言葉が私の心にグサグサと刺さる。
………うぅ。
「知るか。名前が同じなんだから、そうなんだろうさ」
「ふーん。まあいいわ。さっさと連れて行きましょ」
「あの……何の用ですか?」
「私たち、そろそろ寮に戻らなきゃいけないのですが……」
「お前たちを連れて来るように言われてるんだ。ほら、さっさと来い」
「ひゃ!」
突然、赤毛の先輩に腕を掴まれ引っ張られた私は、よろめいてしまう。
フィロとは違って乱暴で、私は怖くなってしまい、振りほどけないでいた。
「ちょ、ちょっと!」
見かねたフィロが、声を荒げて制止する。
ヴェインも、サルファをそばに呼び、臨戦態勢に入った。
一発触発な雰囲気になったとき、
「待てーーーーい!!」
突如その場に大柄な男が乱入してきた。
彼は改造した制服の背にマントをたなびかせ、仁王立ちで立ちふさがった。
180センチを超える体格に、鍛え上げらてた腕と背中に背負う大きな機械剣。
その威風堂々たる姿から、確かな実力と自信を感じる。
そんな彼を、赤毛の先輩は忌々しそうに睨む。
「グンナルか……今はお前に付き合ってるヒマはない」
「ジャマしないでよ。早く帰りたいんだからさ」
金髪の先輩が面倒くさそうに言う。
「貴様らこそ、俺様のジャマをしないでもらおうか。おい、そこの二人! それとトニに捕まってるお前!」
「……わたしたち、ですか?」
フィロが答えれば、グンナルは大きく肯いた。
「他に誰がいる。お前たちは、すでにこの俺様が予約済みだ」
「予約って…いつの間に……」
「ヴェインの言う通りです。そもそも私たち、初対面ですよね?」
「勿論だとも!」
すごい、このグンナルって人。
話をしているのに、まったく話をしていない。
意味が分からない。
「ふざけるな! 後からしゃしゃり出てきて勝手なことを」
「勝手なこと? ならばここは男らしく、体で決着をつけるか?」
「望むところだ!」
なんか、勝手に話が進んでいる。
当事者のはずなのに置いてきぼりである。
因みに、赤毛の先輩が臨戦態勢を取った際に、離してもらえたので、私はヴェイン達のもとまで下がった。
「やめとけば? アンタじゃ勝てないでしょ」
「お前も手伝え! 二人がかりならどうにでもなる!」
「やーよ。塗ったばっかのマニキュアはがれちゃうもん」
「お前なぁ……」
金髪の先輩の言葉に、赤毛の先輩はがっくりとする。
そんな様子を見て、フィロが呟いた。
「……わたしたち関係なしに話が進んでるね」
「うん………どうしたらいいかな………」
「私に聞かれましても……」
いや、ホント。
私もヴェインと同じくらいのコミュ力しかないんだよ?
「さあ、さあ! どこからでもかかって来い!」
グンナルは楽しそうに、それでいて覇気を込めて声を当てる。
その様子に、勝てないことが分かったのだろう。
赤毛の先輩は忌々しそうに臨戦態勢を解いた。
「……くそっ! 覚えてろよ!」
そう捨て台詞を吐くと、二人はそそくさとその場を去っていった。
何て言うか、三下っぽさがスゴイ。
「戦わずして逃げたか………賢明な判断だな」
グンナルがそう呟くのを私は耳にした。
私もそう思う。
だって、このグンナルって人、明らかに戦いたくてうずうずしていたし、絶対実力があるから、戦ったら勝つにしろ負けるにしろ無事ではすまないだろう。
「ジャマ者は消えた。さあ、ついて来い」
「えと……状況がよくわからないんですけど」
フィロが困惑したように言う。
もちろん、私もヴェインもわかってない
「あの二人、赤毛の男がトニ=アイスラー、金髪の女がレーネ=キア。ま、わかりやすく言うと、悪の手先だな」
悪の……手先?
あの二人が?
まあ、確かに三下っぽかったけども。
「危うく攫われるところを、このグンナル様が助けてやったというわけだ」
「は、はあ。ありがとうございまし……た?」
攫われそうになったというのは、多分、私のことだろう。
一応、私はお礼の言葉と共に、頭を下げておく。
何だか釈然としないが。
「それで、わたしたちどこに行けばいいんですか?」
「それは行ってからのお楽しみだ。さあ、行くぞ!」
そう言ってグンナルは行ってしまう。
「どうしよう………?」
「私、トニって先輩の時と状況は変わってない気がするのですが……」
「でも、トニ先輩は怖かったけど、グンナルって人の方は面白そうだよ。ねね、行ってみようよ」
確かに、トニ先輩よりはマシな気がするけど……五十歩百歩じゃない?
ああ、でもフィロは行く気マンマンだ。
妙なことにならなければいいなぁ。