マナケミア テオフラトゥスの娘   作:シャケ@シャム猫亭

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第一章 第五節

 グンナル先輩に連れられてやってきたのは、教室棟から少し離れた棟の1階にある一室だった。

 

「さ、入れ」

「おじゃましまーす」

 

 フィロは律儀に礼を述べてから部屋へと入る。

 先に入ったグンナル先輩は部屋の中央まで行き、そこで私たちを待っていた。

 傍らには、私たちと同じ色の制服を着た女子生徒が一人いる。

 オレンジ色の髪のショートカット。

 くせっ毛なのか髪の一房が頭頂で跳ねている。

 そして何よりも特徴的なのは、オレンジと白の縞模様の尻尾。

 どうやら彼女は獣人のようだ。

 

「あ。グンちゃん、おかえりー」

「おう、戻ったぞ」

「その子たちが新しい被害者?」

「被害者ではない! 同志だ!」

 

 グンナル先輩が力いっぱい否定する。

 でも、私は彼女が被害者と言うのを聞き、ああ、この先輩がハチャメチャなのはいつものことなのかと思ってしまった。

 ところで、私はそんな彼らのやり取りを見ていたが、ヴェインとフィロはどうしていたかというと、

 

「わあ……アトリエだ……」

「すごい……」

(ふむ……広いし、良い器具が置いてある。家のアトリエより立派だな)

 

 興味津々で辺りを眺めていた。

 って、サルファまで。

 その様子に、グンナル先輩は満足そうにしていた。

 

「驚いているようだな。ここは俺様のアトリエ………そう、『グンナルのアトリエ』だ!」

「えー。その名前はイヤかも」

 

 フィ、フィロ……ハッキリ言うね。

 

「なにを言う! これ以上ふさわしい名前はあるまい!!」

 

 否定されたグンナル先輩は大声で反論するが、

 

「なんですか。騒がしい」

 

 それを止めるかのように、アトリエに新たな人物が現れた。

 見覚えがある。

 確か、入学式の時に校長先生の横に居た……

 

「おお、エルメントラウト女史。丁度いいところへ来たな」

「教頭先生と呼びなさい。何度言ったら理解できるのですか」

「敬意をこめて、女史と呼んでいるではないか」

 

 グンナル先輩は相手が教頭先生にも関わらず、あの調子。

 教頭先生は呆れ果てているようだ。

 

「それより見ろ。四人の新人だ。俺様を含めて五人、これで問題なかろう」

「おや……しかし見たところ、全員一年生のようですね」

「うむ。期待の新戦力だ」

 

 その様子に、教頭先生は深い不安を覚え、ため息を吐く。

 

「あなたに一年生を預けるのは不安ね。この子たちの将来が台無しになってしまう」

「失敬な。俺様の下につくほど幸せなことはあるまい」

 

 あのグンナル先輩の自信は一体どこから来るのだろう?

 教頭先生は少し考えた後、グンナル先輩に言った。

 

「……やはりこれは、認めるわけにはいきませんね」

「それでは約束が違うではないか!?」

 

 その言葉にグンナル先輩は激昂する。

 その喧嘩腰の態度に、ヴェインは二人を止めた方がいいのではないかと提案するが、

 

「わたしはフィロ。あなたも一年生?」

「うん。うちはティティルミミニケメレ、ニケって呼んで。獣人は珍しいからーって連れてこられたの」

「尻尾かわいいなぁ………さわってもいい?」

「いいよー。くすぐったくしないでね」

「やったあ! ありがとう」

 

 フィロとニケはグンナルたちを完全に放置して、お喋りをしていた。

 そして、私の方はといえば、

 

「サルファ、これは何ですか?」

(それは蒸留器。酒から水とアルコールを分注したりするものだ)

「では、これは?」

(デシケーターだな。水分に弱い試薬とかを入れておく容器だ)

「色々ありますね。私たちの家には錬金釜とフラスコくらいしかありませんでしたのに」

(あれは、テオフラトゥスが死ぬ前に処分したんだ。危険な道具とか試薬があったからな)

 

 サルファと一緒にアトリエを見て回っていた。

 だって、面倒な雰囲気がするのだから、出来れば関わりたくない。

 

「あの、ちょっと、三人とも………」

 

 ヴェインが助けて欲しそうな声を上げるが、それはヒートアップしたグンナル先輩の声にかき消された。

 

「ならば我々が十分にやれるということを、証明してやろうではないか!」

「そうですね。無理だとわかれば、あなたも諦めがつくでしょう。二週間差し上げます。その間にニクロ布を作って見せなさい」

「ニクロ布だな。いいだろう。後で吠え面かくなよ!」

「ダメだった時は、このアトリエの使用許可は取り消します。それまでは自由に使いなさい。すぐ後に使う人が困らないよう頼みますよ」

 

 話は終わりだと、教頭先生はアトリエから出ていこうとして、ふとヴェインの前で立ち止まる。

 

「あなたがヴェイン………ですね」

「はい」

「そして、あちらにいるのがディナチュラレラムですね」

「そうですけど………」

 

 教頭先生はヴェインと私のことをじっと見つめる。

 何だろうか、私もヴェインも、まだ何もしていないと思うのだけど。

 

「…………ふん」

 

 教頭先生の中で何かがまとまったのだろう。

 それ以上言うこともなく、アトリエを出て行った。

 

「なんだったんだろう?」

「さあ?」

 

 二人して首を捻る。

 そんな私たちを尻目に、グンナル先輩は憤る。

 

「聞いたなお前たち! これは明らかに我々に対する挑戦だ!」

「グンちゃんがケンカ売ったようにも見えたけどね」

「ケンカは買うものではない! 売るものだ!」

 

 いや、しないのが一番だと思う。

 

「そういうわけで、ニクロ布の調合はお前たちに任せる」

「え? そんな、いきなり言われても………」

 

 フィロが困惑の声を上げるが、グンナル先輩はお構いなしだ。

 

「俺様は、やらねばならぬことがあるのでな。では!」

 

 そう言うと、グンナル先輩はアトリエから勢いよく飛び出していった。

 ヴェインが静止の声を上げるが届かず、その背中はあっという間に見えなくなる。

 

「行っちゃった………」

「なんなの、一体……」

「ニケさん、でしたか。何か聞いていませんか?」

「んっと、フィロたちは、全然話を聞いてないの?」

 

 ニケの言葉に、三人は頷く。

 

「うん、わたしたちは、まったく」

「いきなり先輩が現れて予約とかなんとか言って………」

「何だかよく分からないまま、連れて来られました」

「そっか………んっとね、この学校では四人以上の生徒がいれば、共同でアトリエを借りられるの。で、グンちゃんは去年までここを使っていたんだけど、先輩が卒業しちゃって。今年から一人になったから追い出されそうになったんだってさ」

「それで、僕たちを?」

「そうみたい。うちを入れて五人、申請には十分だよね」

「でも、さっきの話だと、二週間後までにニクロ布を作れないと………」

「追い出される、というわけですね」

 

 そんな条件を出された原因は、目下のところ行方不明である。

 

「僕たちだけでできるのかな………」

「あははは。グンちゃん、どっか行っちゃったしね」

「笑い事じゃないよ。錬金術なんて、まだ全然分からないのに………」

「わたし、結構得意だよ! 錬金術」

「そうなの?」

 

 フィロが得意げに言い、ヴェインは軽く驚く。

 これには、私も手を上げる。

 

「ヴェイン、私も錬金術が出来ることを忘れていませんか?」

「あ……そうだった」

 

 ………ちょっと酷くないですか?

 私、結構色々な物を錬金術で作っていたのですが。

 

「わあ、ディナちゃんも錬金術得意なの?」

「得意というか、それで生活してましたから」

「やった、これなら大丈夫だよ。まだ二週間もあるし」

「そう、かな……」

 

 未だ、ヴェインは不安そうだ。

 

「私が知っている中で、一番入手が簡単なニクロ布の材料は、ハウレン草に、ふさふさ、それときよ水ですね」

「なんだ、材料分かってるなら後は集めるだけじゃん。今週末にでも作ることにして、今日はもう帰ろっか」

 

 窓の外を見てみれば、もう日はほとんど沈んでいる。

 時計を確認してみれば、もう夕食の時間である。

 

「いけない、急ごうニケちゃん、ディナちゃん!」

 

 フィロに急かされ、私たちは駆け足で寮へ向かった。

 そんな中、未だに不安そうにしているヴェインに、サルファはもっと学園生活を楽しめと言う。

 ヴェインはその言葉を反芻しながら、三人に続いて寮に向かうのであった。

 

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