マナケミア テオフラトゥスの娘   作:シャケ@シャム猫亭

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第一章 第七節

「ごめん、待った?」

 

 私たちが『生きし森』に到着するのと、ほぼ同時にニケが追いついて来た。

 道中走って来たからか、顔にはうっすらと汗が浮いている。

 

「ううん、わたしたちも今着いたところ……うわ、ニケちゃんの武器、大きいね」

「クラックハンマーっていうんだ。うちのお気に入り」

 

 2メートル近い柄に、石で出来た大きな玉が二つ付いて大槌となっている。

 実はこの玉、柄と鎖で繋がっており、飛ばして鞭のように使うことも出来るそうだ。

 まるで巨大なケン玉だ。

 それにしても、相当な重量であろうそれを軽々と持つニケの腕力には驚いた。

 獣人は力が強いとは知っていたが、あの細い腕のどこにそんな力が秘められているのだろう?

 

「ねね、ディナの武器って、その短剣?」

「いけませんか?」

「や、ダメじゃないよ。ただ、高そうだなーって」

 

 そう言われれば、そうかもしれない。

 鍔や鞘、握りにまで彫刻が施されているし、柄頭には大粒の紅玉が填められている。

 そもそも、この短剣は最も魔力伝導度の高いアルテナ聖銀で出来ているのだから、素材の価値だけでも相当高い。

 ニケが興味津々だったので、渡してあげる。

 

「この短剣は杖としても使えるので、とても便利なのです」

「へえ………あ、刃に何か書いてある。えっと………あぞっと?」

「銘ですね。サルファが言うには、お父さんが作ったそうです」

「そうなんだ……ありがとね」

 

 ニケが短剣を丁寧に鞘に収めて返してくれた。

 一応、大事なものなので、そういう心遣いは嬉しい。

 

「さて、それじゃそろそろ素材を集めますか」

「そうだねニケちゃん。確か、青い花びらとハウレン草、だよね?」

「はい、両方ともその辺に生えているようなものですので、草刈でもすればそのうちに手に入ります」

「よしヴェイン、あの辺を刈るんだ!」

「う、うん……」

 

 ヴェインはニケに言われた通り、採取用のナイフで草を刈っていく。

 すると、ほどなくして、

 

「これ……だよね?」

 

 ヴェインの手には4枚の青い花びらがあった。

 私はそれを1枚受け取り、観察する。

 

「はい、間違いなく『青い花びら』です」

「やったね、ヴェインくん!」

「後はハウレン草だけだし、楽勝だね! 早く他の素材も集めちゃお」

 

 イエーイっとハイタッチを交わすニケとフィロ。

 もちろん、私たちも巻き込まれ、私とヴェインはおずおずとハイタッチした。

 それから、ヴェインがニケとフィロに『青い花びら』を渡す。

 全員がそれぞれのカバンに仕舞っているとき、ガサガサと音がした。

 それに最初に気がついたのはヴェインだ。

 訝しげに木々を見ていたので、みんなでそちらを見ていると、木にしがみつく獣がいた。

 

「うわあ、かわいい!」

 

 フィロが無警戒に近づいていこうとするが、慌ててニケがその肩を掴んで止める。

 

「フィロ、近づいちゃダメ。あれモンスターよ!」

「ええ!? そ、そうなの?」

 

 あんなに可愛いのに…とフィロは呟くが、私としては、あんなに牙を剥いて威嚇しているモノは可愛いとは思えない。

 

「あれは、キノアラですね。動物系のモンスターです」

「も、モンスターって………どうすればいいの?」

 

 フィロは困ったように言うが、その答えは一つしかない。

 

「そりゃ、倒すしかないでしょ!」

 

 言葉とともに、ニケは大槌を構えて戦闘体勢に入る。

 キノアラの数は、3体。

 ニケが、準備はいいかと問いてくる。

 

「わ、わたしは一応……爆弾とか、色々持ってきたし」

「サルファ、いけるよね?」

(無論だとも)

「前衛はニケさんとヴェインに任せます。フィロさんは後衛から特にニケさんの援護を。私はヴェインの援護をします」

 

 差し出がましいかもしれないが、私は指示を出した。

 それを機に、私はヴェインにアイコンタクトを送る。

 ヴェインはそれに、頷きで返した。

 

「サルファ、お願い」

(ああ、気を付けろよ)

 

 そう言うとサルファはヴェインの右手に飛びついた。

 すると、すぐにサルファの輪郭が崩れ、赤い結晶の付いた黒い手甲となる。

 ヴェインがそれを顔の前で構えると、手甲からは黒い布のようなものが飛び出し、ヴェインを殻のように包み込む。

 だが、それも一瞬のことで、黒い布は手甲に戻り、ヴェインは姿を現す。

 しかし、先ほどとは違い、ヴェインの左腕には1メートル程のブレードが取り付けられ、右手の手甲は親指を除く四本の指に、まるで爪のように30センチ程のブレードが装備されていた。

 これこそが、ヴェインとサルファの戦闘スタイル。

 

「わ、サルファくんが変身した!」

「おー、かっこいいじゃん。ヴェイン」

「そ、そうかな……?」

 

 初めてこの姿を見た二人は驚いたようだ

 ニケの称賛に、ヴェインは少し照れたように見える。

 

(照れてる場合か。油断するな!)

 

 案の定、サルファに怒られた。

 

「ご、ごめん……それじゃ、行くよ!」

 

 こうして、学園に来て初めての戦闘の火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

……………………

…………

 

 

 

「行くよ、サルファ!」

(任せろ!)

 

 ヴェインの言葉にサルファが答えると、手甲の赤い結晶が呼応するかのように輝いた。

 ヴェインは一番近くにいたキノアラに駆け寄ると、左腕の刃を上段に振りかぶる。

 その瞬間、細身であった刃が身の丈を超える、幅広の大剣となった。

 左腕を振り抜けば、ただ一刀の下でキノアラを、そのしがみついていた樹木ごと両断していた。

 

「やるじゃん、ヴェイン!」

「すっごーい!」

 

 フィロとニケが歓声を上げる。

 だが、あの技の真価はそれではない。

 

(分かったぞ、火が弱点だ)

「ディナ、炎だ!」

 

 そう、あの大剣で切られたモノをサルファは解析することができ、弱点や耐性が瞬時に分かるのだ。

 

「フレイムゲイズ!」

 

 短剣アゾットを増幅器として、私は炎の魔術を構築。

 ヴェインに襲いかかろうとしていたキノアラに向かって放つ。

 魔術によって地面から噴出した炎の柱をまともに食らったキノアラは、焼き尽くされて動かなくなる。

 

「最後の一体はうちらが貰うよ!」

「え、えーい!」

 

 フィロが片手に収まるほどの爆弾を投げつけると同時、ニケは地面すれすれの前屈姿勢で飛び出した。

 フィロの爆弾はキノアラに直撃こそしなかったものの、その衝撃で木から落とすことに成功する。

 そこに、飛び上がったニケが大槌を振り下ろした。

 ズゴンッという重い音がし、キノアラを押しつぶした大槌は、その勢いのまま地面を凹ませた。

 当然、一撃である。

 

「ふう……勝てた」

 

 ヴェインが額の汗を袖で拭いながら言った。

 勝てたも何も、圧勝。

 相手に何もさせなかった。

 

「三人ともやるじゃん!」

「ヴェインくんとディナちゃん、すごかったね。コンビネーション抜群って感じ」

「ずっと一緒に暮らしていましたし、あのくらいのモンスターなら、たまに遭遇しましたから」

「そっか、二人はモンスターと戦うのが初めてじゃないんだね」

「ええ。私たちは人里離れた森の奥に暮らしていましたから」

「そうなんだ……ところで、ヴェインくん。わたしもサルファくん着てみたいな!」

「あ、うちもうちもー!」

 

 二人がキラキラした目でヴェインを見る。

 わかるよ、その気持ち。

 カッコイイもんね。

 でも、ね。

 

「サ、サルファ。ああ言ってるけど……」

(……無理だな。お前以外の人間と一緒に戦う気はない)

「無理……だって」

 

 そう、サルファは頑固なのだ。

 前に私が頼み込んだ時も、ガンとして首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「えー、つまんないの」

「ちぇー。ヴェインのけちんぼー!」

「そ、そんな……」

 

 何故かヴェインが悪者になっていた。

 取り敢えず、助け舟を出しておくか。

 

「三人とも、そろそろハウレン草を探しましょう」

 

 日没まではまだ時間があるが、早く終わるに越したことはない。

 それから程なくして、私たちはハウレン草を集めることができた。

 この時、少し多めに採取しておいた。

 だって、ニクロ布の材料の一つでもあるのだから。

 フィロとニケは、一石二鳥だったねと笑っていた。

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