マナケミア テオフラトゥスの娘   作:シャケ@シャム猫亭

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第一章 第九節

「今日は調合学Ⅰ基礎のまとめとして、今までのおさらいと、課題を出すからね。真面目に聞くように」

 

 ゼップル先生の言葉に、クラスが騒めく。

 各授業の最終日に出される課題、これこそが取得単位数を決める一番重要なものである。

 先日、ゼップル先生が私たちに『優』や『可』と告げたが、それはあくまでその課題の出来に過ぎない。

 今回の最終課題の出来は、取得単位と直結し、各々の持つ生徒手帳に記録される。

 『優』なら4単位、『良』は3単位、『可』は2単位となり、『不可』では単位は取得できない。

 学期ごとに決められた単位数を取得できなければ、追試が待ち受けている。

 

「はいはい、静かに。早く授業が終われば、それだけ課題に割ける時間が多くなるんだからね」

 

 その言葉に、すぐに喧騒は収まった。

 みれば、普段は寝ている生徒も真面目にノートを広げている。

 

「さて、何度も言ったけど、調合学とは、モノとモノを組み合わせて新たなアイテムを作る、錬金術士にとって最も基礎で、最も大切なものだ。今日まで、リフュールポットのレシピを使って錬金の基礎を教えたね」

 

 錬金釜の使い方から始まり、後片付けの仕方、各材料の特性や採取できる場所。

 入れる順番の意味や、入れるタイミング、入れた後の混ぜ方。

 これらが及ぼす、エーテル値の変化や、それによる品質の変化。

 後は、材料の保存方法や錬金術の歴史、法律関係までと、本当に幅が広かった。まあ、その分浅かったのですが。

 

「後は、錬金術士の才能についても話したね。そうだな………ティティルミミニケメレさん、錬金術士の才能について簡単に説明してごらん」

「え、うち!?」

 

 突然名指しされたせいで、驚いて立ち上がるニケ。けれど、私としてはゼップル先生がニケのフルネームをスラスラと言えたことが驚きだったし、もっと言えばニケのフルネームなんて全然聞かないせいで一瞬、誰? ってなってしまった。

 

「えーっと、魔力がある人、だっけ?」

「うーん、50点かな。正確には魔力を持ち、マナとの親和性が高い人が錬金術士の才能を有するんだ。確かに、魔力さえあれば、錬金術を使うことは出来る。でも、決して一流の錬金術士には慣れない。何故なら、マナとは自然の意思であり、マナとの親和性はそのまま自然との親和性になるからね」

 

 錬金術は、魔術的に材料の成分を抽出したり、あるいは組み合わせたりする。

 当然それは、材料の持つ魔力も例外ではない。

 龍の鱗や、千年樹の枝などはその材料が持つ魔術的特性こそが重要であり、それを十全に活かすためにはマナとの親和性が重要なのである。

 マナとの親和性が低いものが、龍の鱗を使って錬金しても、鱗としての特性しか活かすことが出来ず、龍である意味が全く無くなる。

 

「だから、魔術士よりも錬金術士の方が貴重なんだ。それに、ボクらは魔術士にもなれるけど、彼らは決して錬金術士にはなれない。各国もそれがわかっているから、引く手数多なわけだし」

 

 だが、重要なポストに付くということは、それだけ身に危険が迫ることがある。

 戦争が始まったとき、真っ先に情報戦で、その国お抱えの錬金術士の居場所が探られる。

 無論、暗殺するためだ。

 調合が簡単なリフュールポットでさえ、戦争では魔術を使えない多くの兵士にとって、重要な回復手段となる。

 錬金術士の戦略的価値はとても重い。

 だからこそ、この学園には戦闘学があり、身を守る術と学ぶのだ。

 

「それじゃ、一通りの復習も終わったし、課題を発表するよ」

 

 課題は、今週末までにゼッテルを作り、そのゼッテルに調合学Ⅰ基礎で学んだことのレポートを書いて先生に提出すること。

 さらに、今回は追加のルールがいくつかある。

 一つ、材料は必ず採取したものを使うこと。他人から買ったり、譲り受けたりしては行けない。

 二つ、採取および調合は必ず自分で行うこと。あくまで、知りたいのは個人の力量である。

 三つ、ゼッテルのエーテル値とレポート、提出した時間で成績を付ける。当然、エーテル値とレポートの内容が良く、提出が早いほうが良い成績となる。

 

「『ゼッテル』のレシピは購買で売ってるから、まだ持ってない人は買うといいよ。それじゃ、解散」

 

 先生が授業の終わりを告げるや否や、生徒の半分以上は購買へと駆けていった。

 残ったのは、それに巻き込まれるのを良しとしなかった者か、もうすでにゼッテルのレシピを入手していた者だ。

 因みに、私たちは後者である。

 フィロが、早く色んな調合を試したいと張り切り、私たちはそれに付き合う形でレシピを集め、時間があるときにアトリエで色々な調合をしていた。

 私としては、ニクロ布の調合もしたかったが、どうしても最後の材料である『ふさふさ』だけ手に入らなかった。

 今週末は本腰を入れて『ふさふさ』を探そうと考えていたので、フィロのお陰で課題のスタートダッシュを切れたのは感謝をしたい。

 

「『ゼッテル』かー、前にフィロが作ってたね」

「うん。材料は『ハウレン草』と『キャロ芋』、『きよ水』だよ。わたし、あの時は『キャロ芋』を食堂で買ったけど、生きし森の畑に植わってるって聞いたよ」

「材料取りに行くのはいいんだけど、うち、調合が不安………」

「僕、レポートって書いたことない………」

「だ、大丈夫、みんなでやれば何とかなるよ!」

 

 そんな風に不安を覚えている最中、私はそれを尻目に早々と筆記用具を片付けて席を立った。

 

「ヴェイン、私はこのまま『生きし森』に向かいます」

「む、無茶だよ。今日は回復薬とか準備して、明日の朝から行くほうがいいよ」

 

 確かに、今から向かっても、途中で日が落ちてしまう。

 モンスターは、その多くが夜に活動的となり、危険度が跳ね上がるため夜の探索はおすすめされていない。

 だから、ヴェインの言葉は至極真っ当で、フィロもニケも同意見のようだ。

 だが、今日中に材料を手に入れれば、明日明後日の休日を『ふさふさ』の入手に費やすことが出来る。

 強引に巻き込まれた問題だが、こうして初めて得た友達とのアトリエを無くしたくはない。

 

「では、ヴェインはそうして下さい。私は行きます」

「ちょ、ちょっとディナ!」

 

 呼び止めるヴェインの声を強引に振り切り、私は教室を後にした。

 

 

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