「今日は調合学Ⅰ基礎のまとめとして、今までのおさらいと、課題を出すからね。真面目に聞くように」
ゼップル先生の言葉に、クラスが騒めく。
各授業の最終日に出される課題、これこそが取得単位数を決める一番重要なものである。
先日、ゼップル先生が私たちに『優』や『可』と告げたが、それはあくまでその課題の出来に過ぎない。
今回の最終課題の出来は、取得単位と直結し、各々の持つ生徒手帳に記録される。
『優』なら4単位、『良』は3単位、『可』は2単位となり、『不可』では単位は取得できない。
学期ごとに決められた単位数を取得できなければ、追試が待ち受けている。
「はいはい、静かに。早く授業が終われば、それだけ課題に割ける時間が多くなるんだからね」
その言葉に、すぐに喧騒は収まった。
みれば、普段は寝ている生徒も真面目にノートを広げている。
「さて、何度も言ったけど、調合学とは、モノとモノを組み合わせて新たなアイテムを作る、錬金術士にとって最も基礎で、最も大切なものだ。今日まで、リフュールポットのレシピを使って錬金の基礎を教えたね」
錬金釜の使い方から始まり、後片付けの仕方、各材料の特性や採取できる場所。
入れる順番の意味や、入れるタイミング、入れた後の混ぜ方。
これらが及ぼす、エーテル値の変化や、それによる品質の変化。
後は、材料の保存方法や錬金術の歴史、法律関係までと、本当に幅が広かった。まあ、その分浅かったのですが。
「後は、錬金術士の才能についても話したね。そうだな………ティティルミミニケメレさん、錬金術士の才能について簡単に説明してごらん」
「え、うち!?」
突然名指しされたせいで、驚いて立ち上がるニケ。けれど、私としてはゼップル先生がニケのフルネームをスラスラと言えたことが驚きだったし、もっと言えばニケのフルネームなんて全然聞かないせいで一瞬、誰? ってなってしまった。
「えーっと、魔力がある人、だっけ?」
「うーん、50点かな。正確には魔力を持ち、マナとの親和性が高い人が錬金術士の才能を有するんだ。確かに、魔力さえあれば、錬金術を使うことは出来る。でも、決して一流の錬金術士には慣れない。何故なら、マナとは自然の意思であり、マナとの親和性はそのまま自然との親和性になるからね」
錬金術は、魔術的に材料の成分を抽出したり、あるいは組み合わせたりする。
当然それは、材料の持つ魔力も例外ではない。
龍の鱗や、千年樹の枝などはその材料が持つ魔術的特性こそが重要であり、それを十全に活かすためにはマナとの親和性が重要なのである。
マナとの親和性が低いものが、龍の鱗を使って錬金しても、鱗としての特性しか活かすことが出来ず、龍である意味が全く無くなる。
「だから、魔術士よりも錬金術士の方が貴重なんだ。それに、ボクらは魔術士にもなれるけど、彼らは決して錬金術士にはなれない。各国もそれがわかっているから、引く手数多なわけだし」
だが、重要なポストに付くということは、それだけ身に危険が迫ることがある。
戦争が始まったとき、真っ先に情報戦で、その国お抱えの錬金術士の居場所が探られる。
無論、暗殺するためだ。
調合が簡単なリフュールポットでさえ、戦争では魔術を使えない多くの兵士にとって、重要な回復手段となる。
錬金術士の戦略的価値はとても重い。
だからこそ、この学園には戦闘学があり、身を守る術と学ぶのだ。
「それじゃ、一通りの復習も終わったし、課題を発表するよ」
課題は、今週末までにゼッテルを作り、そのゼッテルに調合学Ⅰ基礎で学んだことのレポートを書いて先生に提出すること。
さらに、今回は追加のルールがいくつかある。
一つ、材料は必ず採取したものを使うこと。他人から買ったり、譲り受けたりしては行けない。
二つ、採取および調合は必ず自分で行うこと。あくまで、知りたいのは個人の力量である。
三つ、ゼッテルのエーテル値とレポート、提出した時間で成績を付ける。当然、エーテル値とレポートの内容が良く、提出が早いほうが良い成績となる。
「『ゼッテル』のレシピは購買で売ってるから、まだ持ってない人は買うといいよ。それじゃ、解散」
先生が授業の終わりを告げるや否や、生徒の半分以上は購買へと駆けていった。
残ったのは、それに巻き込まれるのを良しとしなかった者か、もうすでにゼッテルのレシピを入手していた者だ。
因みに、私たちは後者である。
フィロが、早く色んな調合を試したいと張り切り、私たちはそれに付き合う形でレシピを集め、時間があるときにアトリエで色々な調合をしていた。
私としては、ニクロ布の調合もしたかったが、どうしても最後の材料である『ふさふさ』だけ手に入らなかった。
今週末は本腰を入れて『ふさふさ』を探そうと考えていたので、フィロのお陰で課題のスタートダッシュを切れたのは感謝をしたい。
「『ゼッテル』かー、前にフィロが作ってたね」
「うん。材料は『ハウレン草』と『キャロ芋』、『きよ水』だよ。わたし、あの時は『キャロ芋』を食堂で買ったけど、生きし森の畑に植わってるって聞いたよ」
「材料取りに行くのはいいんだけど、うち、調合が不安………」
「僕、レポートって書いたことない………」
「だ、大丈夫、みんなでやれば何とかなるよ!」
そんな風に不安を覚えている最中、私はそれを尻目に早々と筆記用具を片付けて席を立った。
「ヴェイン、私はこのまま『生きし森』に向かいます」
「む、無茶だよ。今日は回復薬とか準備して、明日の朝から行くほうがいいよ」
確かに、今から向かっても、途中で日が落ちてしまう。
モンスターは、その多くが夜に活動的となり、危険度が跳ね上がるため夜の探索はおすすめされていない。
だから、ヴェインの言葉は至極真っ当で、フィロもニケも同意見のようだ。
だが、今日中に材料を手に入れれば、明日明後日の休日を『ふさふさ』の入手に費やすことが出来る。
強引に巻き込まれた問題だが、こうして初めて得た友達とのアトリエを無くしたくはない。
「では、ヴェインはそうして下さい。私は行きます」
「ちょ、ちょっとディナ!」
呼び止めるヴェインの声を強引に振り切り、私は教室を後にした。