~ノワール 惑星ナベリウス 森林エリア(七年前)~
「じいや!ヴァレット!」
「「はっ!!」」
ヘイルが二人に号令をかけると執事とメイドは目の前の大型エネミーに飛びかかる。
敵は『ファングバンサー』四足歩行で長い鬣(たてがみ)が特長の獣のエネミーだ。
図体のデカさの割に俊敏に動く危険な奴だが、この二人はそれ以上の速さで跳び回りながら撹乱し、尚且つ持っている双機銃でエネミーを削っていく。
しかも二人はかなり息が合っており、戦っているのにエネミーを中心に蝶になって舞っているようにも見える。
不意にエネミーは『グゥ!』と声を漏らして右前足を滑らせてバランスを崩す。
全体的に満遍なくダメージを与えていたようだが、先にそこだけが堪えたようだ。
「そこだな!」
ヘイルは構えていた長槍を距離を一気に詰めながら鋭く突きだす。
槍はエネミーの脇腹に深く刺さり、槍を抜くとエネミーは倒れ、動かなくなった。
「おー!」
後ろで見ていたネージュは目を輝かせて三人の所へ走っていく。
「すごいのじゃみんな!!」
「ふふ、まぁな。ってそうじゃない!ネージュ?お前はフォースなんだから後方支援をしなきゃ駄目だろ?今だって四、五発はテクニックを撃てたぞ?」
「だ、だって、二人の動き早すぎるのじゃ!もし誤射したら危ないじゃろ!?」
「言い訳はするな!他所でそんなだったら、代々アークスやってる者としてみっともないぞ!」
「うぅ・・・!」
ヘイルの厳しい言葉に、ネージュは涙目になって今にも泣きそうになる。
「・・・。」
ヘイルはネージュの頭に手を翳す。
「ッ!」
叩かれると思ったのか、ネージュは身体をビクッとさせて身を縮める。
だが、ヘイルは叩くことはなく、ネージュの頭を撫でる。
「?」
「だが、己の未熟さを弁えた上で仲間を思いやるのは良いことだ。分かっただろ?自分がまだまだ半人前だと。」
「うん・・・。」
「二人の事を思うならもっと強くなるのだ。良いな?」
「分かったのじゃ!わし、もっと強くなるのじゃ!」
「あと言葉遣いな?いつ何処で誰が見ているのか分からぬからな。」
ヘイルは一瞬俺をちらっと見た。
「・・・。」
そーだな、見てるんだよな、今此処で。
「ッ!」
ネージュは即座に口を両手で塞ぐ。
「・・・いや、だから喋るなって事じゃないって・・・。」
「なぁ、こいつ、元からこんなしゃべり方なのか?」
なんとなく気になって俺はヘイルに聞いてみる。
(・・・あまり言いたくないのだがな。)
「?」
(アニメの影響だ・・・。)
「アニメ・・・どんなやつだよ・・・。」
(『プリンセス・エリィ』だ。)
「プリンセス・エリィ・・・あぁ、あれか。」
あやふやだが覚えがある。
『マジカル王女 プリンセス・エリィ』・・・昔あったアニメだ。
確か魔法少女のようなお姫様が主人公の女の子向けアニメだ。
主人公がそんなしゃべり方なんてのは知らなかったけどな。
「はっはっは!いやぁ、相変わらずネージュ様に甘いですなぁヘイル様!やはり実の娘故にですかな?」
じいやが笑いながら手を叩く。
「何を言っているのだじいや!そなたもヴァレットも皆等しく家族だと思っているぞ私は!」
「・・・ブツブツ。」
「・・・。」
まただ。
ヴァレットと呼ばれたメイドは遠目から怒りの籠った眼でその様子を見ていた。
「ん?どうした?ヴァレット?」
ヘイルがヴァレットの様子に気づく。
「・・・なんでもありませんわ。アークスとしての報告もあるでしょうから、先に戻ります。」
そう言ってスカートを摘まみ、礼をすると足早に去っていく。
「・・・。」
ヘイルは黙ってその様子を見ていた。
「・・・おい。」
(なんだ?)
気になって声を掛けるとヘイルはテレパシーで返事をしてくる。
「追いかけなくていいのか?」
(そのことなんだが・・・。)
「?」
(そなたに頼んでも良いか?)
「は?なに言ってんだよ、俺は透明人間なんだろ?引き留めることなんざ・・・。」
(いや、様子を見に来てくれるだけで良いのだ。)
「なんでそんなまどろっこしいことを・・・。」
(理由は聞かないでくれ、そなたにしか頼めんことなのだ。)
「ハァ・・・分かったよ、行けばいいんだろ行けば・・・。」
渋々ヴァレットを追いかけることにした・・・。
暫く後を追っていると見つけた。
やはり報告には行っておらず、木々の間の小道で立ち止まっていた。
「・・・ブツブツ。」
また何かブツブツ行っている。
「ったく・・・何が不満なんだか。」
どうせ見えやしないし聞こえもしないんだ。
だったら近くで聞いてみるか。
「嘘・・・絶対嘘ですわ・・・!いつも・・・どうしてなんですの・・・なんで・・・ヘイル様・・・酷いですわ・・・!」
「・・・。」
どうやら・・・というかやっぱりな話だが、ヘイルに何か不満があるようだ。
「ッ!」
「あ!おい!」
ヴァレットは突然走り出した。
思わず声をかけてしまったが、聞こえているわけもなく、ヴァレットは立ち止まることなく走り去って行った。
「・・・。」
それにしてもあのメイドに関して引っ掛かる事がある。
名前だ。
『ヴァレット』・・・【従者】と同じ読みだが、何か関係があるのか・・・?
「ちっ・・・考えても仕方ないな。」
とりあえずヘイルの元へ戻ることにした。
元いた場所に戻ると、ヘイルは一人で俺を待っていた。
聞くと、どうやらじいやには『知人に会う約束をしている』と誤魔化したようだ。
何にしてもありがたい。
ヘイルはテレパシーで会話をしていても顔色ひとつ変えないから、本当に俺との会話が成立しているのか不安になるくらいだからな。
「そうか。」
俺からの報告を聞くと、ヘイルは顔色を曇らせる。
「あいつに何かしたのか?」
「いや・・・『しなかったから』こそ、不満なのだろう。」
「・・・?」
まるで意味が分からないが、どうやら何か知っているようだ。
しかし、こう周りくどく言うには何やら話したくない事もある気がする。
深く追及するのは野暮だろうし、興味もない。
しかし、色々と引っ掛かる。
神託のフォトンが意思を持って俺を過去に飛ばしたのには理由がある。
意味の無いことはしないとは聞いたが、今のところ、何て事のない、ただの他人の生活を覗いているだけだ。
これの何処に意味があるんだ?
俺はさっさと元の時代に戻ってやらなきゃいけない事があるんだ。
いつまでもこんな呑気な状況を見せられてられないってのに・・・。
「さて、此処でそなたに色々と話を聞きたいが、今日は特別な日でな、早く戻らないとならないのだ。」
「何かあるのか?」
「ふふ、来れば分かるぞ。それにそなたは透明人間だ。特等席で拝ませてやる。」
「?」
ヘイルは楽しそうに話すが、意味が分からなかった。
~ラパン アークスシップ ショップエリア(七年前)~
「すごいな!やっぱりマリアさんって!」
「だから大したことはしてないよ!」
ルナールはマリアさんの話を聞いて目を輝かせていた。
私はと言うと・・・。
「・・・。」
本当なら楽しくて仕方ない時間のはずなんだけど楽しめない。
「どうした、ラパン?話がつまらなかったかい?」
「ううん、そんなことない!あのね・・・マリアさん・・・。」
言わなきゃいけない、何を言われてもマリアさんにだけは・・・。
「私・・・アークスになろうと思う。」
言った。
このあとどんな事が起きるかなんて分かりきっているけどやっぱり怖い・・・!
「そうかい・・・。」
マリアさんは目を細める。
きっとおかしな事を考えてるとか思われてる・・・!
「いいんじゃないか?」
「・・・!!?」
え?
なんて言ったの?
「マリア・・・さん・・・?」
あり得ない言葉だった。
てっきり『何をバカなことを言ってるんだ!』とか怒られると思ってたのに・・・!
「あたしが怒るとでも思ったのかい?」
「う・・・!」
図星だった。
「あんたがなんの覚悟もなしにそんな事を口走るとは思っちゃいないさ。大方、何か理由でもあるんだろ?」
「私・・・。」
「言いたくないなら別に聞きはしないよ・・・。」
「・・・。」
なんか、叱られないと余計申し訳なくなってくる。
「ついてきな。」
「え?何処に・・・?」
「知り合いにアークスの教官がいる。そいつの伝で訓練校に入れるように手配してやるよ。」
「えぇ!?」
予想してた事より全く逆過ぎて訳が分からない!
「そ、そんな、悪いよ!マリアさん!」
「別にあたしは構わないよ?それとも、あんたがアークスになりたい理由ってのは、他人の都合を優先してまで大したことじゃないのかい?」
「・・・!」
それは絶対に無いことだ。
まだ生きてるかもしれない先生を探すことは、私にとっては何より願ってる事だ。
「・・・お願い、します。」
「いい返事だ。さ、おいで。そこのおチビさんもだ。」
「え、私!?」
突如呼ばれてルナールは目を丸くする。
「どうせこの子の行くとこ以外、行く宛もないんだろ?だったらあんたも傍で支えてやるんだよ。」
「・・・!うん!」
ルナールは目を輝かせてついてくる。
「マリアさん・・・。」
「うん?」
「ありがと・・・。」
「礼ならアークスになれたあとに言いな。うちの知り合いは厳しいからね。」
「う、うん!」
厳しくてもやるって決めた。
絶対にアークスになるって決めた。
先生、待ってて・・・絶対に私、見つけるから!
~ノワール アルクトゥス 屋敷(七年前)~
「よくお似合いです、ヘイル様!ネージュ様!」
じいやはヘイルとネージュの姿を見て満面の笑みを浮かべる。
「ふふ、そうかそうか!」
ヘイルとネージュの服、それは白を基調とした袖の大きな服で、花と葉が川に流れていくような柄が全体にあしらわれ、その姿は、古い文献の東の国のお姫様のような服だ。
髪は正装のためか、ネージュはいつものツインテールではなく、降ろしている。
「誉めても何も出ないのじゃ!」
「私は正直に申し上げているだけで御座います!」
「ふふ、じいやは相変わらず口が達者だな!」
誰もが笑っている光景。
しかし、その状況に笑えない人間がいる。
「・・・。」
俺だ。
(どうだ?似合っているか?)
「なぁ・・・今日って何月何日だ・・・。」
(? 八月十五日だが?)
「・・・!」
やっぱりだ。
間違いない。
『あの日』だ!!!
「おい、ーーーー!!ーーーーーーーーーー!!!」
(? ノイズ、そなた、何か伝えたい事があるのか?)
「・・・くそッ!」
『ヤバイことが起きる!!すぐにシップ内の全員を避難させろ!!!』と言ったが、ノイズに阻まれた。
そう、俺はこの日が何の日か知っている。
この日は『選定祭』と呼ばれる祭りが執り行われた日だ。
そして、この日こそが、アルクトゥスがダーカーによって滅ぼされた日だ!
「・・・。」
なんとなく分かってきた。
神託のフォトンが、俺をこの時代に飛ばしてきた理由・・・。
この日に俺にやらせたいことがあるのは確かだ。
まさか、この時代のダーカーの襲撃を阻止しろって事なのか!?
でも、どうすれば・・・。
ーーー数時間後
シャン
シャン
鈴の音が一定の感覚で鳴り響く。
街中の道路をシップ内の全ての人間が取り囲む様に並び、狐の面を被って鈴を鳴らす。
その囲んでいる道を、俺を交えたヘイル達が同じように狐の面を被って歩いていた。
この時、恐らくは管制の奴等ですら祭りに参加しているので、端末を開いて危機を呼び掛けようとしたが、無理だった。
俺は見えないどころか、この世界の物には触れなかった。
そんな俺が端末を操作できる筈もなく、このまま時が過ぎていった。
「ーーーー!!ーーーー!!!(すぐに祭りをやめろ!!みんな死ぬぞ!!!)」
諦めずヘイルに呼び掛けるが、やはりノイズに阻まれる。
(その様子・・・何やら起きるのだな?)
「・・・!」
必死さが通じたのか、ヘイルからテレパシーが送られる。
「そ、そうだ・・・!」
(焦る気持ちは分かるが、少し待って貰えないだろうか。)
「は?」
予想外の返事が返ってきた。
「なに言ってんだよ!事態は一刻を争うんだよ!!」
(そなたの様子を見れば分かる・・・だが、少し見守ってくれないだろうか。)
「・・・くそ、ふざけんなよッ!!」
(すまない・・・。)
今にもダーカーがすぐそこまで迫っているのに・・・!
無情にも時は過ぎていく。
ヘイル達は街中を隈無く歩いていく。
これは宮司の神子が全ての街を見渡し、全てを見納めて次の代に神託のフォトンを引き継ぐという習わしだ。
途中で取り囲む人間の列が途切れる。
これは神のみが知る道とされ、宮司の一族以外は進むことは出来ない道である。
道の先に聖地であるテンプルエリアがあるとされるが、その道は宮司の一族しか知らない。
つまりは、宮司の一族というのは、アルクトゥスの人間ですら、誰なのか分からないのである。
人間の列が途切れると、ヘイル達は真っ直ぐ自分達の屋敷に向かう。
そして向かった先は中庭だ。
そこでヘイルは全員の中の真ん中に立ち、両手を広げ、天を仰ぎ見る。
「彼の御光を継ぎし者、此処に有り、我が意を叶え、彼の地へ我等を導きたまえ!」
ヘイルが呪文の様に言葉を読み上げると、辺りが震える様に揺れ始める。
「・・・!」
目の前の地面に黒い穴が現れた。
それは段々と広がり、人が数人はいれそうな空間が出来た。
そしてそうなる頃に、中の光景がハッキリと見える。
「階段・・・!」
(そうだ。これがテンプルエリアに続く道だ。)
「・・・成る程、こりゃ宮司の一族以外入れない訳だ。」
(そうだとも、場所も分からない上に合言葉も必要、それに異空間であるとは誰もが思うまい。)
「・・・なぁ。」
(なんだ?)
「まだ見守れって言うのか?」
(すまないな。もう少しだけだ。)
「・・・なんなんだよ。」
(すまない。)
「・・・。」
皆は階段を降りる。
道を進むと道の脇に、何体もの像があり、その像は、刀を掲げ、まるで道をゲートになって囲むように立っていた。
その道もまた長い。
まるでダンジョンの様に入り組んでいた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
俺達ならまだしも、まだ子供のネージュには体力的にキツそうだ。
「頑張れ、あと少しだ。」
「うん・・・!」
ヘイルに励まされ、ネージュはなんとか気を張る。
「・・・着いたぞ。」
目の前には祭壇があり、その天辺には、透明な九尾の狐の像が建っていた。
噂に名高い、『選定の神狐』だ。
この像に選ばれた者が、神託のフォトンを受け継ぐことが出来るらしいが、どの様に儀式を執り行うのだろうか。
「さて、『選定の儀』を始める。」
「・・・。」
儀式が始まる・・・。
「・・・が、その前に。」
ヘイルは何故か槍を手元まで転送させる。
「・・・ヘイル様?」
着いてきていたメイドのヴァレットがヘイルの様子に驚く。
「そうですな。そろそろ終わりにするべきですな、お互いに猿芝居は・・・。」
じいやも銃を転送させる。
「「ヴァレット!!」」
ヘイルは突きを放ち、じいやも銃弾を放つ。
「ッ!!?」
ヴァレットは思わず思いがけない行動に出る。
霧状になって消え、すぐに後方に出現する。
「!?」
見たことがある・・・!
これはあの時、俺とエスカが【従者】にやられたような、幻術にそっくりだ。
「まさか・・・!」
こいつが・・・!
「くく・・・くふふふ・・・ふふふふふふ・・・あは・・・はははは・・・ははははははははははははははは!!!」
ヴァレットは突然笑い出す。
「全て知った上でわたくしを謀っていたんですの!?悪趣味にも程がありますわッ!!!」
「・・・。」
ヘイルはなにも言わない。
「大方この時を待っていたのだろう。最後の目的を目の前にして油断した方が尻尾を掴みやすかったのでな。」
じいやはヘイルに変わって言葉を返す。
「貴様の野望もここで終わりだ、ダークファルス!!」
じいやは一層鋭い目付きで銃を構える。
「・・・成る程、最初から知ってたわけか。通りで俺の忠告を無視したわけだ。」
(ああ・・・。)
「・・・?」
なんだが生返事だ。
「ふふ、もう取り繕っても無駄ですわね。」
ヴァレットは狂喜染みた笑みを浮かべると、黒いオーラに包まれる。
すると髪が真っ赤に染まり、眼も同じように赤く染まる。
「この姿では、はじめまして・・・ですわね。」
「ヴァレット・・・それがそなたの正体か・・・。」
「では改めまして自己紹介を・・・。」
ヴァレットはスカートを摘まんで一礼する。
「我が名は【従者(ヴァレット)】・・・ダークファルス【従者】!!我が根源の願いは、『我が主への絶対なる忠誠』!!」
「・・・そうか、ならば私もそれに応えよう。」
槍を高々と掲げる。
すると身体が光に包まれ、狐の耳に九尾の尾、そして戦をするかのような甲冑に身を包んでいた。
「我が名はヘイル!!聖地アルクトゥスの守護者にして、『絆の番人』!!いざ、参る!!」
ヘイルと【従者】は互いにぶつかり合った。