偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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64階層/はじまりの街 偽装

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 グリゼルダさんのお墓から【マーテン】へと戻る。ヨルコさんと合流する。

 現在はまだ深夜、大部分のプレイヤーは寝静まっているはず。ヨルコさんも例外ではないだろう。相手は会ったばかり/友人を亡くしたばかりの女性でもあるので、少なくとも朝にするのがマナーだろう。

 だけど、護衛対象が増えた。シュミットも放ってくことはできない、一箇所に集めておいたほうが不測の事態に対処しやすい。……それにもう、オレ達自身も対象だろう。

 

 幸いなことにダンジョンではないので、ヨルコさんへと《緊急メッセージ》を送った。

 通常メッセージとは違い、着信通知は視界だけでなく鼓膜にも伝達される。浅い眠りなら起こしてくれる仕組みだ。【絆度】が高ければ、首筋皮膚へのバイブレーションも行ってくれる/24時間で一回でもないが、出会ったばかりの《フレンド》ではコレが限界。……あまり褒められたことではないが、危急とのことでアスナも見逃してくれた。

 返事を待っている間に、移動した。【ラーベルグ】の街へと移動する―――

 寸前、気づいた。……気づかざるを得なかった。

 

「……アスナ。馬3匹、連れてきたりは……してないよな?」

 

 ふらつく体で/情けない声で、一縷の望みで尋ねた。……ここが19階層だったことを忘れていた。

 

「キリト君が乗ってきた馬は?」

「乗り捨て用だよ。もう帰ったはず」

 

 《帰還の秘薬》でも使えばいいのだが、敵が転移門前で待ち伏せしていたら奇襲に遭う。レッドが相手では圏内だろうと安全ではない、事実シュミットは見事に誘拐され串刺しにされた。

 かと言って、ここまでなりふり構わず急いで来てくれたはず。そんな余裕などない。望み薄だが……

 

「兄さんが乗ってきた馬は残ってるけど、それだと―――」

「俺は【騎乗】そこそこ鍛えてるから、一人でも平気だ」

「……他人の名義の馬だけど、大丈夫?」

「問題ない。荒っぽいことをするわけじゃないならな」

 

 シュミットの答えに、オレの方が驚いてしまった。……さすがは【軍】の派遣部隊、【騎乗】を鍛えられるだけのお金と手間をかけられる。

 だとすると、ちょっと嫌な/恥ずかしい事実が浮かびあがってしまう。

 

「それじゃ、キリト君は私と《相乗り》ね」

「……アスナも【騎乗】鍛えてたんだ?」

「そこそこね。前線じゃ全く使えないレベルだけど」

 

 強敵が蠢いている前線のフィールドでは、《騎乗戦闘》や《竜騎兵》/騎獣に乗りながらの攻撃ソードスキルができるだけでも足りない。騎獣用の装備を整え、敵の威嚇や攻撃にも怯まない強さを身につけさせなければならない。自分ともう一人分の負担を背負わなければならない。使いこなせれば頼もしいことこの上ないが、己だけに集中した方がレベリングの効率はいい。……攻略組の大半は、後者を選んでいる。

 思わず難しい顔をしてしまったが、致し方ない。ここには知り合いなどいないはずだし、背に腹は代えられない。

 気づかれないよう小さくため息をつくと、アスナが乗ってきた馬に相乗りさせてもらった。

 

 

 

 

 

 行きとは違って急ぐことはなく。かと言ってのんびりするわけでもなく、【ラーベルグ】までたどり着いた。

 

 圏内に入ると、すぐさま降りた。あまりアスナと近すぎるのは心臓に悪い。……それに何より、必然的に触れなければならない状況から逃げたかった。

 内心動揺しまくっているオレと違い、アスナは全く意に返していないとばかり、颯爽と下馬した。シュミットも後ろで続く。

 チラリともう一度確認してみるも、彼女の横顔には全く揺れが/赤面なんてモノは見えなかった。何もなかったかのようにトコトコ歩くだけ。……さすがは【血盟騎士団】の副団長様/攻略の鬼、状況をわきまえて完全に切り替えられるのか。

 感心しながら、後に続いた。 

 

 

 

 【転移門】の前の広場にたどり着くと、周囲を警戒。【索敵】で不審な奴や動きがないか探る。……【隠蔽】や隠れんぼの達人相手なら晦まされてしまうが、そこまで身を削った相手なら不意打ちでも怖くない。

 調べた結果は……オールグリーン。杞憂だった。

 そのまま、転移門をくぐろうとする時、もう一つ確かめないといけないことを思い出した。

 

「悪い。【はじまりの街】に寄っていいか? いちおう、ジョニーのことを確認しておきたいんだ」

 

 おそらく生きているだろうが、自分の目で確認したい……。オレの提案に、アスナは了承してくれたが、シュミットが尋ねてきた。

 

「別にいいが……奴の本名はわかってるのか? 【ジョニー】は偽名だろ?」

「いや、本名だ。奴は改名なんてしてない。【生命の碑】は死亡理由について何もかも記録してるからな、殺し過ぎたアイツはどうしたってわかる」

 

 直接のPKは、碑文にハッキリと残ってしまう……。罪は明らかなのに白昼堂々としている、捕まえられないでいる。……虚しい世の中だ。

 オレの説明に納得してくれると、みなで【はじまりの街】へと転移した。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 困ったことになった。

 

(どうしようぉ……)

 

 『閃光』のアスナから貸してもらった二人の傭兵に、ガッチリ守られている現在。安全ではあるのだろうが、身動きがとれない。

 彼らはしっかり自分の仕事をこなしているだけ、何の落ち度もない……。周囲を警戒しながらも、護衛対象である私にはソレを気づかせないよう配慮もしてくれている。プロフェッショナルだけでなく社交性も備わっている。……NPCとは言え、申し訳無さ過ぎてまともに顔を見れない。

 

 一人は、いつもムッスリ顔で無口な両手斧使いの《ハイランダー》の山男/通常人よりも一回り体格が大きく肌の色合いも赤味が強い。もう一人は、気さくに話しかけてくれる狩人風のエルフの紳士。【血盟騎士団】が抱えている有名な傭兵達だ。

 見たことのない/どこのクエストで手に入れられるのかすらわからないキャラ達だったが、一流と感じさせるに足る風格を持ち合わせていた。レベルや装備的にも、二回りは上回られているとわかった。何より、外見と力量とが合致しているからわかりやすい。……プレイヤーではこうはいかない。

 頼りがいがあるボディーガード達だ。さして美人でも強くもお金持ちでもなく/ただのいちプレイヤーでしかない自分が、VIPになったような気分にさせてくれる。……ただし、どちらも熟成された大人の男の魅力ムンムンだと、私がここに居ていいのか不安になってしまうが。

 しかし今、そのような特別扱いはいらなかった。

 

(カインズ、無事かなぁ……)

 

 まだ連絡が取れていない。迂闊には、メニュー画面を展開できない。

 着信通知だけでも分かればいい。だが、それすら来ない。折を見て合流しようとした際、私の危機的な状況を察したのかもしれない。良い判断だけど、不安で仕方がない、これからどうすればいいのか/本当に続けるべきなのかもわからない、修正は各自臨機応変にするしかないだろう。……是非ともこのまま続行したいが、意思疎通できないのは苦しすぎる。

 何かあったのかもしれない……。私に起こったような『不慮の事故』が、彼にも起きたのかもしれない。そうなれば、さすがに計画は全て水の泡だ、玉砕覚悟で真正面から突貫する以外なくなる。

 

(……はぁ。あの人たちが関わらなければ、上手く行く予定だったのになぁ)

 

 この日のために用意していた計画だ。頑張って練り上げた計画だった。半年前の事件の真相を明らかにするには、このチャンス/タイミングを逃せない。なのに実際は……この通りだった。これほど過剰に反応されるとは想定外だった。出鼻からくじかれてしまった。

 気づかれないよう、深くため息をついた。それでも、どうすれば計画を完遂できるか、頭を動かし続けた。

 

 有効そうな打開策が見つからず、落ち込んでいると―――着信がきた。視界に通知が映る。

 

(―――カインズからだ!)

 

 求めていた共犯者/恋人からの連絡。思わず目を輝かせてしまった。

 

「……どうしました、お嬢さん?」

「え!? ……あ!

 えぇと、そのぉ……友人からの《遠話》です」

 

 目ざとくも変化を察せられて慌てるも、無難な対応を返せた。……変な嘘などつく必要はないはず。

 プレイヤー同士では通信で通じるが、NPC/このゲームの住人達には《遠話》と言い直している。太古の昔に忘れ去れられた技術/今ではごく限られた者にしか使えないが、現実の電話と同じような機能を可能にする魔導具と呪いが存在するためだ。プレイヤーは誰でも指に嵌めている《幻書の指輪》、ソレに搭載されている機能だと。

 一年以上前/今でも低階層では驚愕されてしまうが、さすがに攻略組の傭兵達、慣れているのか「そうですか」と簡単に納得してくれた。

 

「もしかして、我らが姫騎士様から、ですかな?」

「姫騎士……? あ! 

 【アスナ】さんじゃないですよ。別の……古くからの友人です」

 

 名前は伏せてしまった……。追求されるかもと恐る恐る見上げるも、あまり踏み込んでもらいたくないプライバシーと捉えてくれた。

 エルフの紳士は「どうぞ」と促すと、注意を逸らしてくれた、無口なハイランダーも周囲に集中してくれている。……気まずいが、仕方がない。

 メニューを展開し、【音声通話】の《プライベートモード》をタップ。そして、片耳に指をあてがうと、口を動かさず声を/脳内音声で話し始めた。

 

『もしもし、カインズ? 今どこにいるの―――』

『やあ、ヨルコ』

 

 電話に出た声は別人だった。

 一瞬呆然としてしまったが、よく知っている声だった。もう一人の共犯者。だから、聞こえてもいい声だったが、今ここではない。

 

『……グリムロックさん、ですか? どうしてカインズの通話で?』

『君と通話をするには、彼経由でないと出来ないからね』

 

 そういえば、そうだった……。もうかつてとは違うんだ。

 ただの【フレンド】では、音声を添付したメールの送受信が限界だ。だけど同じ【ギルド】に所属すれば/メンバー同士なら、リアルタイムの音声通信ができるようになる。かつてはグリムロックともできたことだったが、ギルドは解散した/ここ数ヶ月【フレンド】まで絶っていた。……過ぎてしまった年月が思い出され、やるせ無さがにじんでくる。

 

『計画を少し変更したい。直接会って話したいんだが、いいかな?』

 

 温和ながらも有無も言わさぬ提案。

 驚かされた。こんな人だったかなと首を傾げるも、この計画の大部分を練り上げた人でもある。頼もしそうなのは良いことだ、特に計画が破綻しそうな現状では。……少しだけ、カインズにも見習って欲しい。

 

『……カインズはどうしてるんですか?』

『私の隠れ家にいる。君の周囲にピッタリ張り付いている奴らを見て焦ってたよ。

 彼らには聞かれたくない。ので、どうにかして巻いてもらいたいだが、できそうかな?』

『…………難しい、です』

 

 ハッキリ言えば無理だ。追跡者を巻くなど、映画かゲームの中でしか知らない。……ここはゲームの中だけど、ほとんど現実と変わらない。

 それに、傭兵NPCとは言え、おそらく私よりも総合ステータスは強いはず。強引な手段に出れば雇い主にも伝わってしまう。……打つ手なしだ。

 

『OK。ならば、コレを―――使うといい』

 

 隙を見て使ってくれ……。そう言うと、《ギフト》通知が表れた。カインズ経由で何らかのアイテムが渡される。

 私とカインズの【親密度】はかなり深い(MAXまであと少しほど)。なので、おそらく遠方かつ別フロアにいる相手とだろうと、メニュー間同士だけで《トレード》を済ませること/アイテムやお金の受授ができる。今回のような相手側からのみの送信/《ギフト》でも同じだ。ただし受け取ったとしても、実際にオブジェクト化したり使えるのは、速くて三分/遅くて三日後だ。プレイヤーのレベルや【親密度】・モノの相場などで決まってくる。

 《ギフト》をタップ、渡されたアイテムを確認してみると―――目を丸くした。

 

『コレは……何ですか?』

『高レベルの睡眠薬だよ。

 無味無臭で、水にまぜてもすぐに溶けて無色になってくれる。三滴ほどで攻略組も【睡眠】にさせられる。ただ、効果が出るのは早くても3分ほど経ってからだ』

『ほ、本当ですか!? そんな代物とはとても……』

『今はまだ、ただの《混ぜ薬》でしかない。けど、ストレージから取り出せる頃にはそうなっているはずだ』

 

 またまた驚かされた。まさかそんな裏ワザを使ってくるなんて……。

 私のレベルでは、高レベルの睡眠薬など半日はかかってしまう。それでは玉砕コースだ。しかしコレは、わずか5分足らずだ。最低レベルの回復ポーションと同じ扱いを受けている。あえて【識別不能】でラッピングする/ガラクタだと貶すことによって、システムの関門を誤魔化した。

 どうしてこんなアイテムを持っている? 凄腕の調合師の知り合いでもいるの? ……聞きたいことは山々だったが、

 

『気をつけて使ってくれ。……間違っても、君自身で試さないでくれよ』

『やりませんよ、そんなこと。グリムロックさんを信じます』

 

 全て後回しでいいだろう。気にはなるが、この状況を打破すのが先決だ。……コレは間違いなく私の求めていたモノだ。

 

『それじゃ、健闘を祈る。カインズ共々待ってるよ』

 

 簡潔に激励してくると、通話を切った。

 

 改めて一人になると、ゴクリとつばを飲んだ。そして、まだ耳に手を当てたまま/音声通話の最中のフリのままチラリ、護衛達を見た。

 歴戦の戦士たる風格と、油断なく警戒を行き届かせている眼差し。どんな不意打ちがあろうとも/モンスターが襲ってこようとも耐え切り、逆に返り討ちにしてしまう自信がみなぎっていた。……私の付け入る隙など、どこにも無い気がする。それ以上に、この企みまで看破されている気までして怖くなる。

 だけど、やるしかない。

 

(今日で、全ての決着をつける!)

 

 かつての【黄金林檎】の/グリゼルダさんのために―――。

 意を決すると、弱気を叩き出すように―――パチン、自分で頬を張った。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 【転移門】を通り抜く、再び【生命の碑】の前にきた。

 ジョニーの名前を確かめる―――

 

「……やっぱり、死んでないな」

 

 ジョニー・ブラックは生きていた。奴の名前には何の変化も起きていない。……わかっていたことだが、顔をしかめざるを得ない。

 

「本当に、どうやったのかしら? NPCを乗っ取るなんて……」

 

 未知への怖れと、それ以上の怒りで厳しい表情をにじませながら言った。

 確かに、どうやったのか気になる。たまたまジョニーと全く同じ性格/同じ技能を持っていたNPCだった、あるいは熱心なモノマネなわけではない。ジョニーそのものだった。本来与えられていた人格を消し去り、ジョニーを流し込んだかのような所業。洗脳では生ぬるい、憑依か遠隔操縦というしかない。……おぞましいだけでなく、オカルトじみている。

 直前までつけていたあの仮面に、何かヒントがありそうだが……調べようがない。注意を払うだけしかできそうにない。ただ、コウイチとは違いオレ達は、この情報を広めても何の問題もない。

 

「なぁシュミット、お前【鑑定】鍛えてたりするか?」

「……なぜだ?」

「碑文の《人物相関図》を見たいんだよ。読めたりできる?」

 

 【鑑定】を使いこなせれば、この【生命の碑】を見るだけでPKの犯人が誰か一発でわかる。場所も何フロアかだけでなく、街やダンジョン名はては座標までピンポイントでわかる。情報の質が高くなり、捜査も簡単になる。……迅速かつできるだけ秘密裏に解決することにこだわらなかったら、ここで事件は解決できたかもしれない。

 カインズが直接PKで殺されたのなら、ジョニーが殺したことになる。ここで確認しておきたい……。その意図を察してくれたのか、少し悩まれるも話してくれた。

 

「スキルは鍛えてないが、代用品がある」

「本当? 《相関図》を読めるとなると、相当な【鑑定】レベルが必要なはずだけど……」

「もしかして、《識別の解晶石》か!?」

 

 最高レベルの【鑑定】を発現させることができる結晶アイテム。ストレージに収まっている全《識別不能》や誤魔化しを一括で/他人名義の建物の記録すらも解読してしまえる、最高の暴露アイテムだ。通常【鑑定】や【索敵】などの情報検索ツールは、【偽造】や【隠蔽】などの暗号処置よりも弱い、追いかける側よりも逃げる側の方が有利に設定されている。疑り深くなれば、どうしても偽物の疑惑を拭いとれない。しかしこの結晶は、ソレを唯一解消してくれる。……ただし一回限り。それも/ゆえにか、ドロップでしか手に入らない。

 超激レアなアイテムだ。体格の良さに似合わずケチそうなイメージを被せてしまったが、改めなければならない。

 

「いや、そんなご大層なものじゃない。【軍】が抱えている鑑定士に書き写させたモノを見るだけだ。ギルドの共有ライブラリに保存してあるから、専用のアイテムを持っているメンバーなら誰でも見られる」

 

 説明されると、別の驚きがあった。思わずアスナと顔を見合わせた。……【軍】の奴ら、そんな記録作業までしてたのか。

 確かに、信頼できる高レベルの鑑定士が情報を公開してくれたのなら、自分で【鑑定】を鍛える必要性はほとんどない。密な連携を取れなかったり、互いに自分の情報を秘匿する習慣、騙されたほうが悪い/無知は罪であるとの状況を是とした結果、生まれるものだ。……効率を重視していたはずなのに、全くもって非効率極まりない。【軍】のスゴイところだ。

 

「書面としてか? それだと、探すのがかなり面倒そうなんだけど」

「安心しろ。拡張現実っぽく碑文の上に貼り付けてある。この―――レンズ越しで見れば、わかる」

 

 そう言って、シュミットがストレージの奥から取り出したのは、手のひら大の透明なレンズ。摘めるほどの取っ手が付いているので虫眼鏡だろうか。プレイヤーメイドの《鑑定レンズ》だ。既製品とほぼ変わらないが、取っ手の対角線上に縫い針程度のアンテナらしきものが取り付けられているのが違う。

 

「昨日の事件後の状況だけど……見れるの?」

「毎日18時あたりが観測時で、翌日のちょうど0時に更新されてる。担当している鑑定士の観測結果も含めてな」

 

 このレンズで見れるのは、鑑定士たちが互の観測結果をすり合わせて編集した、現状最高レベルの【鑑定】結果。ただ、ライブラリには一次情報が保管されている。

 カインズのことも載っているはずだ……。頼もしすぎて、感心するしかない。

 

「使わせてもらっていいか?」

 

 助けてやった対価として……。暗にそう含ませてねだると、渋い顔を見せるが、

 

「……誰にも言うなよ」

「もちろん」

 

 いい笑顔で答えた。……オレは約束を守る男だよ。

 アスナも見せて欲しそうな顔を向けてくるも、ぐっと自制していた。彼女の頑張りを無駄にしないように無視して、ウキウキ気分で覗き込んだ。

 

「おぉ! すげぇ……確かに見える。よく作ったもんだ!」

 

 レンズから見える映像は、碑文に刻まれた全プレイヤーの名前がほんの少し前方の空中に浮かんでいる。基本設定なのか、誰がどのギルドに所属してるか、糸で繋がり網目状になっている/ギルド別に色分けもされている。まるで、もう一つアクリル板の碑文があるかのような錯覚を覚える。

 一人の名前に焦点を合わせると、ギルドの網目は消え他のプレイヤー名が薄くなった。代わりに、明細情報の網目へと変貌した。死人となったプレイヤーの情報も見ることができ、死亡原因がPKの場合は、殺人犯へと糸が伸びている。

 

 試しに/確かめたいこともあって、Sの行にいる少女を調べた。【軍】がどれほど把握しているのか探る。

 結果は―――安堵。ちゃんと【偽造】されていた。【軍】の鑑定士よりも高いレベルの偽装処置が施されていた、さすが天下の【聖騎士連合】だ。……これなら、次の66階層まで持ちそうだ。

 ほっと一息つくと、注意されないうちにKの行へと目を向けた。

 

「おい、他所見するな! 【カインズ】はそっちじゃないぞ」

「? 失敬な、ちゃんと調べてるよ」

「本当か? 【カインズ】はCの行だぞ」

 

 ジト目とともに指摘された言葉に、目を丸くしてしまった。

 オレの困惑を、アスナが代弁してくれた。

 

「……Kの行じゃないの?」

「? アイツの綴りはCから始まってるはずだが?」

 

 綴り違い……。呆れてしまう、気付かなかった。

 首をかしげるシュミットを他所に、改めてCの【カインズ】を探すも―――

 

「……コレ、壊れてたりしてないよな?」

「ストレージに入れっぱなしの無機物が、壊れる訳無いだろ」

「碑文に刻まれてる文章と、このレンズの映像が一致しないのにか?」

 

 今度はオレからの指摘に、シュミットが困惑顔をみせてきた。

 レンズを帰し確認させてみると、

 

「……どうなってるんだ? PKされたはずなのに、相手が映っていない……」

「システムが間違えた、わけはないよな」

 

 何か仕掛けがある……。アスナにもCの【カインズ】の現状を見せると、驚き顔を浮かべていた。

 

 考え込むと途端、気づいた。

 その直感のまま、おもむろに愛剣を抜くと、伸ばした鋒で【カインズ】の上を小突いた。カリカリともしてみる。

 すると―――ビリぃ、破れた。硬い黒曜石に刻まれていたはずの文字が歪みペロリ、剥がれる。

 

「「なッ!?」」

 

 アスナとシュミットが同時に驚愕した。

 剥がれた何かは、そのままポロリ、石碑に貼り付いていられずに落ちた。

 地面に落ちたモノを拾い上げると、苦笑した。

 

「……シールを貼っただけ、か」

 

 こんな単純な仕掛けに気付かなかったなんて……。お粗末な偽装処置だ、なんて子供だましに引っかかったんだ。

 いや、逆だろうか。墓標ではあるが公共物でもある石碑を、わざわざ触ろとするプレイヤーなんていない。システムが絶対とも保証しているので【鑑定】を使うことも稀。見た目さえ同じ模様に仕立てればごまかせてしまえる。【偽造】のコストすら払わずに、あからさまに嘘を通してみせた。

 犯罪者たちの飽くなき挑戦に、大きくため息をつくと、改めて確認した。レンズ越しでなくてもわかる。

 そこには、【カインズ】の正体があった。

 

「……カインズさん、死んでないらしいぞ」

 

 暴かれた正体に、シュミットはあんぐりとしていた。

 形は全く違えど、死んだはずのプレイヤーが生きていた。殺人など起こってはいない、まして圏内PKなども、さらには事件ですらなかったのかもしれない。……オレ達の一人相撲でしかなかった。

 

「こりゃ是非とも、ヨルコさんに話を聞かないとならないな」

「……そうね」

 

 互いに、頭を抱えそうになるのをグッとこらえながら、難しい顔を浮かべた。

 彼女も被害者なのか、それとも嘘つきだったのか? 何を隠したくてうそをついたのか、何を企んでいるのか? ……決めつけるのは速い。明らかにしなければならないことは、まだ残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 長々とご視聴、ありがとうございました。

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