ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

11 / 16
先に言っておきます。大して物語は動きません。

動きませんが、情報は少し増えます。


第10話 およそつつがなく、初陣は幕を閉じる。

ボスの形態が変化してからしばらく経ったが、ダメージを与えるペースが明らかに遅くなっており、まだHPバーが一本半残っている。唯一の救いは、形態変化後にポップした取り巻き五体を最後に、それ以上の排出がなくなった事だ。

 

「はっ」

 

俺の攻撃がマンティスの急所に入り、力尽きたソレは虚しく砕け散った。

 

「よし、俺たちもボスの所に行くぞ」

 

同じくマンティスに止めを指したキリトの指示で、俺たちのパーティーは六本腕のカマキリ女王のもとへ駆け出した。形態変化によって増えた腕には全てデカい鎌がついており、完全に防ぐには盾持ちが三人は必要なレベルだ。このレイドでまともにタンクができるプレイヤーは11人なので、防げて四本だ。しかし本気でそれをやってしまうと、そろそろ対毒のバフの限界が近いため、結構な頻度で吐いている毒ブレスが来たらタンク隊は致命傷を負うだろう。故に、今までと同様に交代制になるため、結局防げる鎌は二本、良くて三本だ。エギルあたりがいてくれればもう少しタンクが増えたのだが、商人と攻略組の兼業であるあいつは毎回ボス戦に参加しているわけではなく、今回はここにいない。

 

「どうするの?あれだけ鎌を振り回されると、まともに近づけないわよ」

 

「そうだな…まずは機動力を落とそう。みんなに何とか鎌を止めてもらって、その間に俺とアスナが左、オクトとランが右の脚を切り落とす。この勢いでソードスキルを使えば、多少のダメージは食らうかもしれないけど全部落とせるはずだ。ハルトはみんなに鎌受けを頼んでくれ」

 

「分かった」

 

別にハルトが仲間はずれにされたのではない。単純に適材適所というやつだ。キリトが頼むよりハルトが頼んだ方が、連中は聞く耳を持つからな。これも全て、ハルトが攻略会議で他のプレイヤーとフレンドリーに会話を重ねてきた成果だろう。キリトはまあ、アレだ。言わなくてもわかるよな。

 

「みんな!俺たちが奴の脚を切り落とす!少しの間でいい、全員で鎌を防いでくれ!頼む!」

 

どうしていいか分からず停滞していたアタッカー組はハルトの声で戦意を取り戻したようで、各々が力強い表情とともにガードの体勢に入る。すると、丁度よくボスが全体攻撃のモーションに入った。

 

「鎌が全部来るで!根性見せようや!」 

 

キバオウの鼓舞でさらに団結を見せた臨時タンク隊に、六本の鎌が同時に振り下ろされる。金属のぶつかり合う甲高い音が耳を劈くように鳴り響くが、彼らも、俺たちもそれを気にするつもりも余裕もない。

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

「せやぁぁぁぁぁッ!」

「はぁッ!」

「やぁぁぁッ!」

 

キリトとアスナ、ランと俺が、同時に左右から光り輝く剣でカマキリの脚を切り裂く。ダメージ判定があるだけあって、思ったより硬い。だが、そのための二段構え攻撃だ。僅かな差だが、キリトと俺は二人より先に奴に切りかかった。斬撃を受けながらも器用に脚を使って攻撃してくるため、俺たちは少しばかり傷をつけられたが、これは勝利への布石だ。すぐ後ろから続いて来る《リニアー》と《レイジ・スパイク》が、脆くなった脚を的確に削ぎ落とした。カマキリはアタッカーとタンクを襲っていた鎌を大きく振り上げ、痛みから奇声を上げた。ガクン、と大きなその身体を沈ませ、攻撃するわけでもなく鎌を空中でジタバタと振り回す。

 

「よし、今だ!みんなで下から…」

 

下から総攻撃。そう全体に支持が出されようとしたとき、カマキリがより一層大きな奇声を上げ、怒り狂ったような目つきでこちらを睨むと、先程までより範囲の広い毒ブレスを吐いた。

 

「なに…ッ!?」

 

「まずい、下がれ!」

 

毒煙はボスの足下を埋め尽くすように広がり、容易に近づくことができなくなった。ここで毒を恐れずに突っ込むには、ボスの残りHPは多すぎる。

 

「毒煙が晴れたら突っ込むぞ!」

 

リーダーの指示を受け、毒煙越しにボスを囲むプレイヤーたちは武器を構え直した。それから数秒して、ボスの足下があらわになった。それを確認した各々が攻撃態勢に入るが、そこで皆が異変に気づいた。

 

「おいちょっと待て!アイツ、脚が再生してるぞ!」

 

どうやら毒煙に囲まれている間に再生したようだ。単なる部位欠損の回復にしては時間が短すぎる。つまり、あれはボス固有の特性なのだろう。

 

「これじゃ、さっきまでと何も変わらないじゃないですかぁ」

 

「だな。またジワジワと削っていくしかないか…。でもさっき脚を切り落とした事でそこそこのダメージは与えられたんだ。さっきの作戦は無駄にはなってないぞ」

 

ランが少しがっくりとしていたからプラス方面で返しておいたが、実際俺も僅かにショックを受けている。正直さっき一斉攻撃が成功していたら終わりだと思っていたから、まだまだ終わりそうにないボス戦に精神が削られて行く。

 

「…どうしたもんかね…」

 

一気に大ダメージを与えられる方法はないだろうか。おそらくこの長期戦に疲れきっているのは俺だけじゃない。このままでは、いずれ事態が悪化するかもしれない。

 

ボスの方を見ると、案の定突っ込んでいったアタッカーが鎌のパリィに失敗し、浅いようだが、身体を切り裂かれる。あの程度なら死にはしないが、今まであんなミスはなかった。しかも最悪なことに、その鎌はそのまま振り下ろされ、別の鎌を防いでいるタンクの背後に迫っていた。

 

まずい…! 

 

「タンク、伏せろ!」

 

なんとか叫んで忠告できたが、少し遅かった。鎌の標的にされた盾持ちプレイヤーは急いで身をかがめたが、鎌の先が背中を浅く抉る。HPがレッドゾーンまで達した。このままでは…

 

しかしどうしたものか、悲痛な叫びを上げたのはそのプレイヤーだけではなかった。ボスまでがややうずくまって奇声を上げている。

 

「あ…アイツ、アホやで!自分の鎌で自分の身体突き刺しよった!」

 

キバオウが拍子抜けしたように言った。なんだそれ、マジでアホだな。ボスのHPを見ると、残りは一本弱。仕方がない、一か八かの作戦だ。俺はアイテムストレージから素早く最後の対毒POTと、回復用のポーションを取り出し、前者をランにひょいっと投げた。

 

「ラン、今すぐそれを飲め。たぶん十秒くらいなら毒を浴び続けても大丈夫なはずだ。とりあえず質問はなし。急げ」

 

「え…はいっ」

 

ランが勢いよくグイッとPOTを飲むのを横目で確認しつつ、俺も急いでポーションを飲み干す。そして、反対側にいるパーティーメンバー二人に聞こえるように大声で叫んだ。

 

「キリト!アスナ!もう一回脚を落とすぞ!俺がカウントするから合わせてくれ!」

 

「なんでよ!あれをやっても毒が…!」

 

アスナが反論してきたが、躊躇していてはいつ犠牲が出るか分からない。ここは、あれを言うしかないらしい。照井刑事、セリフ借りるぜ…!

 

「…俺に質問するな!!三!二!一!トライアル!」

 

三方向から「はぁ!?」と聞こえた。うん、確かに何言ってるか分からないよね。それでもしっかり合わせてくれたようで、マキシマムドライブもといソードスキルで全ての脚を切り落した。

 

「アタッカー、タンク!さっきの毒ブレスが来るから引け!」

 

そろそろ声が枯れそうな気がするが、またしても俺は叫んで指示を出す。プレイヤーたちが素早く引き下がって空になった空間に、広範囲毒ブレスが放たれた。

 

ここだ。俺は隣にいるランに顔を向けずに声をかける。

 

「ラン、今だ。突っ込むぞ」

 

「え!?でもオクトさんPOTは…」

 

「少し前に飲んだから大丈夫だ。いいから突っ込んで硬直が少ないソードスキル使いまくるぞ」

 

バフをつけたのは嘘だが、状態異常になってもしばらくは死なないように回復はしてある。抜け出してから解毒結晶を使えば問題ない。意を決して毒煙に突っ込むと、ランはしっかりと着いてきた。よし、それでいい。

 

視界がハッキリしないが、ボスの影を見つけてそこに《ホリゾンタル》を三回ほど発動したところで毒煙が晴れた。ランもそれなりにダメージを与えられたようで、脚削ぎの分も合わせてボスのHPは結構減っていた。

 

「よし、タンクもアタッカーも全員前に出てくれ!総攻撃だ!」

 

リーダーの男がボスに剣を向けると、その背後から雄叫びをあげる剣士たちが駆け抜けて行く。タンクが総出で壁を作ったおかげで、鎌は四本防げる。さすがにラストスパートで気合が入っているようで、残り二本の鎌へのパリィの失敗もない。ボスの体力は、残り僅か。

 

「スイッチだ!俺が決める!」

   

よほどLAを決めたいのか、を先程まで後方で指揮をとっていた男──"リンド"が前に出てきた。しかし、その指示が下る前に既に鎌は弾かれており、別パーティーの中でスイッチが完了しようとしていた。

 

「え…!?」

 

いきなりのスイッチ要求に戸惑ったそのプレイヤーが空中で体勢を崩した。直後、その隙を狙って弾かれていた鎌が振り払われる。

 

「ぐあぁッ! 」

「うぁッ!」

 

見事に鎌の餌食になったそいつはリンドに直撃し、二人とも地面に叩きつけられた。そこに追撃が来ようとしていたが、鎌が振り下ろされる前にキリトが間に入り込む。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

そして攻撃が行われる前に、ボスにソードスキルを打ち込む。きしゃぁぁぁぁぁぁぁ、という叫びとともに、カマキリの女王は青白い光の欠片となって砕け散った。絶望がお前のゴールだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、またアイツに…!」

 

リンドが悔しさの滲む声を出した。今までのボス戦もそうだったが、こいつが頭をはるギルド《ドラゴンナイツ・ブリゲード》は、レアアイテムの獲得に目が無い。リンド本人も多分に漏れずだ。団体の統合には優れている分、攻略組内でのリンドの評価は賛否両論だが。

 

「LAにばっか目が行くからジブンはいっつも失敗するんや。あのタイミングでスイッチは無理やろが」

 

「う、うるさい!」

 

キバオウがニヤニヤしながら言うと、リンドは居心地が悪いようで、ギルドメンバーを率いてそそくさと十六層の転移門をアクティベートをせんと消えていった。その様子を見送った俺のもとに、ランが近寄ってくる。

 

「お疲れ様でした。オクトさん」

 

「おう、お疲れさん。悪かったな、いきなり毒ん中突っ込めなんて言って」

 

「いえいえ、お陰様でわ・た・しは!ダメージ喰らいませんでしたから」

 

うーん、なんで「私」をそんなに強調するのかな?ハチマンヨクワカンナイ。

 

「そうかー、それは良かった」

 

「良くないです!オクトさん嘘ついたじゃないですか!死んじゃったらどうするんですか!」

 

「さて、帰ってメシ食うかー」

 

「誤魔化さないでくださいよ!オクトさんのHPゲージに毒状態の表示が出た時の私の身にもなってください!心配したんですよ!」

 

「あー…その、すまん。次から気をつけます…」

 

「もう…夕飯奢ってもらいますからね?」

 

「分かったよ…」

 

まあ、ランの初ボス戦って事だから最初からそのつもりだったんだけどね。

 

「そうだな。女の子を心配させた罪は重いぞオクト」

 

「ええ、重罪ね」

 

「悪いな、ご馳走になるよ」

 

上から順にハルト、アスナ、キリト。ちょっと待て、なんでお前らの分まで俺が払うんだ…。情報屋にも報酬払わなきゃ行けないのに、俺の財布大丈夫かな…。何食べようかー、なんて話している女性二人組の後ろで経済的な不安を感じる俺の両肩に、キリトとハルトの手がぽんっと置かれた。こいつら、デスゲームじゃなかったら殺す。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ランちゃんの初陣を祝して、かんぱーい!」

 

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯…」

 

乾杯…でいいのか?確かに凄い活躍だったが、攻略に参加させたくなかった身としてはやや複雑だ。あ、毒煙に突っ込ませた奴が言うなって話ですよね、すみません。

 

「えへへ…えっと、ありがとうございます」

 

お誕生日席に座ったランが照れくさそうに微笑んだ。あの笑顔の持ち主を毒に包ませたのだと思うと、今更ながら恐ろしい事をしたものだ。本当に申し訳ありませんでした。

 

「これからしばらくはこのパーティーで行動になりそうだね。女の子が増えてくれて嬉しいよー」

 

「そうだな。ようやく人数的にもまともなパーティーになってきたし、そろそろボスの担当にも回してほしいぜ」

 

「何言ってんだキリト。お前は担当がどこだろうと最後はボスの相手してるだろうが」

 

「そういえば、今日のLAも君だったな」

 

「ははは…、まあ、確かに…」

 

二回に一回くらいのペースでLAとってるもんなコイツ。まあ、ボーナスのレアアイテムは、自分で使えそうなもの以外はエギルの店に売り飛ばしているらしいが。

 

「今回のLAボーナスは使えそうか?」

 

「うーん、まあ、ステータス的には便利なんだけどな…。持続的な対毒効果のあるネックレスだったよ。身につけていれば毒の効果を受けないらしい」

 

キリトはウィンドウを操作して、そのアイテムをオブジェクト化した。アメジストのような紫色の結晶が埋め込まれた白銀縁のペンダントで、それなりに装飾が多い。

 

「これ、俺が付けても似合わなくないか?」

 

「あれ、以外だね?キリトくんはステータスだけで装備決めてるんだと思ってたんだけど」

 

「いや、確かにそうかもしれないけど、さすがに身につけていて笑われそうな物は装備しないさ」

 

俺も結構そんな感じだが、確かにあのペンダントは男が装備するにはデザインが可愛すぎると思う。可愛いと言っても、大人っぽい上品な可愛さだが。防具や服などは性別によって仕様が変わるようになっているが、指輪やペンダントなどはそうではない。

 

「そうだ。これ、ランにあげるよ。俺が持っててもしょうがないし、初陣記念って事で」

 

「え、いいんですか?」

 

「それがいいよ!ランちゃん似合いそう!」

 

キリトがトレードウィンドウを開き、そのペンダントをランに送った。いや、贈ったという方が正しいな。

 

「ありがとうございます。えっと、じゃあ早速付けてみますね」

 

そう言ってランは装備メニューを開き、ペンダントを装備した。改めて思うけどこの世界の装備変更って楽だよな。ボタン操作だけで一瞬で終わるんだもの。まあ、衣服を全て変更する場合は少しの間だけ着ているものが消えるんだけどな。前に一度だけランがそれを知らずに俺の目の前で全装備変更して下着姿になったことがあった。そのときはシステム障壁が反応するくらいの勢いで引っぱたかれたなぁ…。待って、俺悪くないよね?

 

「どうでしょうか…?」

 

「うん、やっぱり似合ってるよ!ね?オクトくん」

 

「え?俺?」 

 

ふむ。もともとランが年の割に落ち着きがあって大人っぽい雰囲気を出しているから、確かに似合うと思う。こう、なんていうか、控えめだけど主張があって絶妙な加減でランの容姿とマッチしている。

 

「ん、まあ、いいんじゃねぇの?似合ってるぞ」

 

「…ッ!……あ、ありがとうございます」

 

よほど似合ってたのが嬉しかったのか、ランの顔が少し紅潮して見える 。良かったな。

 

 

その後もしばらく、宴は続いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

すっかり疲れてしまったのか寝てしまったランをおぶって帰路につく。無理もない。初のボス戦であれだけ動いて、さらに祝勝会をやったのだ。明日はゆっくり休ませた方がいいだろう。

 

 

宿屋につきランをベットに寝かすと、俺は自分の部屋に戻った。部屋に入ると、そこには葉山がいた。別にいきなり現れたのではない。俺が呼んだのだ。

 

「…それで、俺に話っていうのはなんだ?」

 

「ああ、ちょっと前から気になってたことがあってな。確実な情報が入ったから、お前には言っておこうと思う」

 

祝勝会の最中、アルゴからメッセージが届いていたのだ。一度席を離れて内容を確認したのだが、どうやら本物らしい。この世界に、雪ノ下雪乃が来てしまっている。あいつの性格ならとっくに攻略組入りしていそうだが、活動拠点からして準攻略組レベルのようだ。序盤で道にでも迷っていたのだろうか。

 

とにかく、俺はこの旨を葉山に伝えた。そうなるだろうとは思ったが、驚きを隠せないようだ。

 

「そんな…馬鹿な…」

 

「…俺だって信じたくなかったよ、色々とな。だがこれで、人違いだ何だって言ってられなくなった。間違いなく雪ノ下本人だ」

 

「…やっぱり、陽乃さんか…」

 

「十中八九そんな感じだろうな。あいつが自分からオンラインゲームなんてやるとは思えん」

 

陽乃さん…今回ばかりはやり過ぎですよ。いや、デスゲームが宣告されたのはサービス開始後だから、あの人に全ての罪がのしかかる訳ではないか。…あ、そういえば……

 

「…なぁハルト、もしかしてお前も…」

 

「……ああ。もともとは親の知り合いがくれたものだったんだ。最初は別にやろうとは思わなかったよ。ただ、どこからか陽乃さんに情報が漏れて、色々言われてこうしてログインするハメになったんだよ。まあ、その結果デスゲームに巻き込まれたって事に対して責めてはいないけどね。そんな事より、あの時どうして自分の意思を貫き通す事ができなかったのかって、自分自身を呪ってるよ」

 

「…そうか」

  

やっぱり真意が読めないよなぁ、あの人。なぜコイツの事をわざわざSAOに来させるように仕向けたのだろうか。ただの面白半分なのか、はたまた深い意味を持った行いなのか。いずれにせよ、自分が送り込んだ二人がデスゲームに囚われて、彼女は今どう感じているのだろうか。

 

「それで、探すのか?」

 

「いや。最初はそのつもりだったんだけどな… 」

 

アルゴからのメッセージには、接触するまで少し時間が欲しい、といった事が書かれていた。もちろん、雪ノ下からの伝言だ。準備期間がどれほどの長さになるかは分からないが、会うという選択肢を彼女が選んだのであれば、ひとまず俺は要求を飲もう。

 

「そうか…俺にできることがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「…おう」

 

どこかで協力を頼むかもしれないので、一応返事をしておく。だが、勝手かもしれないが、これは俺と雪ノ下との戦いなのだ。最後の最後で頼れるのは、自分しかいない。

 

「しかし、会った後はどうするんだ?君たちは…」

 

「ああ。俺があいつに会う一番の理由はそれだ。あれから、ろくに話してなかったからな。ちゃんとぶつかれって、ランに言われたんだよ。本当にアイツには頭が上がんねぇわ」

 

「…君は強いな。……あの時はすまなかった」

 

「は?」

 

あの時、とは、修学旅行の件だろう。確かにこいつらのややこしい依頼が事の発端ではあった。今でもあの時の行動はあれしかなかったと思っている。だが、なぜ俺はわざわざ馴れ合いに手を貸したのだろうか。

 

「…謝るんじゃねぇよ」

 

こいつにだけは謝られたくない。こいつは、俺のやり方を知っていて頼ってしまったのだ。そうするしか、手段が残されていなかったから。それはそれで仕方がない。だが、だったら謝罪などいらない。してはいけない。

 

「…まあ、要件は以上だ。また何かあったら連絡入れると思う」

 

「ああ…、分かったよ」

 

呟くようにそう言って、葉山は部屋から出ていった。

 

それからしばらくして、溜まった疲れを癒すべく、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

この家に住み着いて何日になっただろう。二週間くらいかな。深い森の中にあるこの小さな家に来たのは、安全だと思ったから。デスゲームが開始されて二ヶ月くらい経った日に入り込んだ森で、MPK──モンスタープレイヤーキル──によって死にかけた時の事は、今でもたまに夢に見る。あの時モンスターをこっち向かわせたのは、リアルで同級生だったいじめっ子の男の子三人だった。フィールドに出るか迷っていたところで偶然再会し、現実世界にいた頃からは考えられないような優しい言葉にまんまと誘われて、パーティーを組んだのがいけなかったんだ、と、自分の安直さを呪った。何とか生き延びることができたけど、その後も街で会うたびに無理やり《圏外》へ連れていかれそうになった。そんな事が続いたため、いつからか街に足を踏み入れる事はほとんどなくなって、大抵フィールドにあるNPCの家などに勝手に住み着いていた。

 

今いる家もそうで、住んでいるのはNPCの少女ただ一人。しかも基本はベッドに横になっている。高難易度クエストの一貫で立ち寄る家だから、人が来る事は少ない。どうやらこのクエストは同時スタート以外での複数参加を認めていないらしく、その目的以外でここに足を踏み入れる理由はさほどない。だから、人が来ないんだ。

 

小さな家と言っても、三人家族が満足に暮らせるくらいの大きさだった。なのに住んでいるのが少女一人だって事に、最初は疑問があった。でも、それはすぐに解決した。その少女の話だと、元々は本当に三人家族で住んでいたらしい。だけど、両親は数年前に病で他界。少女は何とか一人で生きてきたけど、自分も重い病気に倒れてしまった。そんな彼女のために、この森のどこかにいるとても強い怪物が持っている薬を取ってくる、というのがこのクエストの内容らしい。一層の森でも似たようなのがあったけど、あれより過酷な気がする。

 

この少女が置かれた状況に、自分を重ねずにいられなかった。何とかして助けてあげたい。でも、今のレベルでは到底敵いそうにない。その辺にいる妙に強いMobを一対一で倒すのがやっとだ。そんなこんなで地道にレベルを上げながら、ずっとこの家に住み込んでいるが、まだ少女を助けることはできていない。普段だったら週に一、二度はフードを被って街の近くまで行くんだけど、今回はそれすらもしてないのに、なかなか先が見えない。

 

 

「…ごめん、姉ちゃん。ボク、まだ会いに行けそうにないや」

 

 

窓から見える月を眺めながら呟いた。姉ちゃんはボクみたいに襲われたりしてないかな。まあ、姉ちゃんは強いから返り討ちにしちゃいそうだけど。いつかちゃんと探しに行くから、無事でいてね。

 

 

 




というわけで、もう一人登場です。直接の名前は出しませんでしたが、言わなくても分かりますよね?

出したのはいいですけど、次からは八幡と雪乃がメインになると思いますので、またしばらくお待ちください。

余談です。物語終盤でのユキノの衣装を考えて絵を描いてみたのですが、画力がないので恐ろしく下手な絵になってしまいました。誰か画力をください。無理か。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。