ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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日昇です…

またまた更新遅れまして申し訳ありません<(_ _)>
途中放棄はしないように努力していますが、書くタイミングがなかなか…

そういえば、いつの間にかお気に入り登録者数がが200を越えていました!嬉しい限りです。

それでは、13話どうぞお読みください。


第13話 新たな道への、短く大きな第一歩。

~side Kirito~

 

第二十五層迷宮区。トカゲ型のモンスター群を相手に、俺は剣を振り続ける。上段から振り下ろし、それを戻しつつ水平に斬撃。さらに体に染み付いたステップを踏んで、一回転してもう一振り。仰け反った三体のモンスターに、俺の後ろから目にも止まらぬ速さの突き攻撃が炸裂した。今日は少しブレているようにも思えるが、それでも相変わらず的確に急所を狙っており、少ない手間でモンスターたちを片付けることができた。砕け散る光の欠片に何を思うわけでもなく、ただ呆然とその様を見つめる。もう、よく見慣れた光景だ。

 

「…ふぅ…」

 

「なによ、もう疲れたの?」

 

カキン、と軽めの音を立ててレイピアを鞘に納めた少女、アスナが近寄ってきた。第一層以来のコンビで、今日までこうして迷宮区の攻略を共にしてきた。ボス戦ではこの世界で長い付き合いの三人を加えたパーティーを組むが、基本はこの女との行動が多かったりする。

 

「いや、別に疲れは大して無いんだけどさ。なんて言うか…張り合いがないなって」

 

「それは『俺強い』とかそういう話?もしかして私に喧嘩売ってるの?」

 

「いや、違う違う!決してそんな事は無いぞ!アスナ…さんにはいつも助けてもらってます!」

 

美人なんだが、たまに喧嘩っ早くなるのが玉に瑕だ。まあ、それも魅力なのかもしれないけど。俺は何を言ってるんだろうか。

 

「……冗談よ。今日は妙に迷宮区に挑むプレイヤーが少ないから競争相手がいなくてつまらない、でしょ?」

 

「分かってるなら最初からそう言えよ…焦り損じゃないか」

 

俺の文句に対して、返事はない。このようなやり取りが今までにも結構あった。この女の性根が悪いのか、俺が学習していないのか、どっちなのだろう。たぶん、後者。案外前者もあるかもしれない。

 

「話を戻すけど、実際張り合いが無いだろ?追いつこうと思う先駆者もいないし、追いつかれたくないと思う後続者もいない。ただ湧いてくるモンスターを手近な目標無しに狩り続けるって、つまらなくないか?」

 

「まあ、気持ちは分かるわ。ずっと同じ事の繰り返しだから、マンネリ化してくるよね」

 

「何かこう、一気にやる気が起きる方法ないかなぁ」

 

とは言うものの、これはもう何をしてもやる気が出ない人間の言葉だ。今日はもう帰ってもいいかもしれない。

 

「…ふうん、手近な目標ね…それで一気にやる気……あっ」

 

ぽんっと手を打ち、何か思いついたらしいアスナは笑みを浮かべた。悪い人の。

 

「キリト君、《爬虫の鱗》いくつ落とした?」

 

「え?えっと…二十四個だな」

 

《爬虫の鱗》とは、例のトカゲ型モンスターを倒した時にランダムでドロップするアイテムで、武器強化の素材になる。さっきから倒しまくっていたので、量は結構溜まった。

 

「へぇ、なかなかやるじゃない。私は二十五個よ」

 

「あっそ…で?何のための質問だ?」

 

「張り合い無くてやる気の起きない誰かさんに目標をあげようと思って。あと二回モンスター群を撃退して、最終的にドロップ数の多い方が勝ちね」

 

「なるほどね…負けたらどうするんだ?」

 

「街に戻ったらイオラさんのケーキ奢り」

 

「はいはい…」

 

一歩先にいるアスナに遅れないように、俺は次のエリアへと足を運んだ。自分自身もやる気が起きたのか、アスナは上機嫌に見えた。だが、斜め後ろから見る彼女の顔は、寂しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果発表。三十六対三十八で俺の負け。ケーキを奢らされるハメになった。まあ、美味くて価格が手頃と評判のイオラケーキ(巷ではそう言う)は俺も一度食べてみたかったからいいのだが。以前エギルの店で買おうと思ったら丁度売り切れており、落胆したのを覚えている。娯楽の少ないこの世界では、食べ物は至福の時間を創り出すのに持ってこいな分、美味いものの競争率は現実より激しいだろう。本来ならば入荷時刻である昼前か夕方を狙うのが定石らしいが、それを知ったのはつい最近だ。そもそも毎日入荷するわけではないので、本気で欲しい人は店の前に張り込んだりもするらしい。そこまでする気は起きないので、とりあえず今は売り切れていないことを祈るだけだ。

 

そんなことを考えながら迷宮区から主街区まで歩いてきたわけだが、どうにも異変を感じる。

 

「…街も人が少ないね」

 

「そうだな…俺たちが迷宮区に向かっている間に何かあったのか?」

 

少なくとも今朝ここを出た時は、いつもと何ら変わらない様子だった。街を歩けば何か分かるだろうと思い、とりあえず中央広場に向かう。

 

すると、広場に向かうにつれて少しの歓声とぶつかり合う金属音が聞こえるようになってきた。この音は…

 

「誰か、広場でデュエルしているな」

 

「みたいね。それもかなりのギャラリー付きで。攻略組の目を奪うほどレベルの高い戦闘って事なのかしら」

 

「かもな…とにかく行ってみようぜ」

 

そんなに凄いプレイヤーならば、一度見てみたい。しかし、現状で攻略組のメンバーを魅入らせるほどの技量を持ったプレイヤーはあまり聞いたことがない。自分で言うのもなんだが、俺とアスナがいないのだから、可能性としてはオクトとハルトあたりが戦っているのだろう。ランもかなりの上級者だが、ちょっと考えづらい。

 

そう思って広場に出ると、予想通りかなりのギャラリーの中でデュエルが行われていた。激しく動くモスグリーンのコートからして、片方がオクトなのは確定だ。何故だか知らないが、オクトの動きがいつもよりキビキビしてると思う。何というか、いつだったか俺がデュエルを申し込んだ時にあった手抜き感が、今は感じられない。デュエルしようって言うといつもすげぇ嫌な顔するんだよな、あいつ。しかし、そのオクトをそこまでにする相手とは誰なのだろう。俺は人混みの中から身を乗り出し、相手の正体を確かめようとした。

 

目に入ったのは、知らない黒髪の女性だった。

 

「…誰だ、あれ…」

 

少なくとも俺は、今まであんなプレイヤーを見たことは無い。新しく攻略組入りしたのだろうか。いや、それにしてはかなりの手練だ。見たところ、どこかのバンダナ侍と同じく刀使いのようだ。

 

「……あの人、どこかで…」

 

いつの間にか隣にいたアスナが怪訝そうに呟く。どうやら見覚えがあるらしい。

 

……ん?ちょっと待て。そういえば以前オクトにアルゴを紹介した時に、話に出たプレイヤーの特徴はなんだった?確か、黒髪に白い肌、端麗な顔にどこか鋭い目……あと慎ましい胸。そんな感じだった気がする。だとすれば、見事に眼前の刀使いと一致する。

それがオクトと戦っているということは…

 

「あれが…ユキノって人なのか?」

 

 

 

 

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~side Oct~

 

試合開始から二分ほど経過しただろうか。激しい攻防が続くが、お互いに決定打が決まらない。雪ノ下も敏捷力にステ振りしているようで、俺に負けず劣らずの速さだ。ちなみに、ソードスキルを使うのはやめた。開始から数秒後に様子見がてら単発のソードスキルを放ったが、システムアシストに全てを任せるため動きが読まれ、難なく躱されたのだ。硬直時間がほとんどない初期のスキルだったので返り討ちにされる事は無かったが、いきなり《バーチカル・スクエア》なんて使ってたら負けていただろう。

 

「はぁッ」

 

上段、下段、中段と、あらゆる位置で剣を振る。たまにフェイントで刺突も混ぜたりするが、初めの一発が掠ったきりで、その後は一度も当たっていない。俺の連撃が終わった所へ、今度は雪ノ下が下段に刀を構えて飛び込んでくる。振り上げられ空を切る刀を躱し、戻るように斬り込んで来た所を剣で受け止める。鍔迫り合いとなり、今にも火花を散らしそうな勢いで互いの刃が擦れる。基本的にステータスが能力の善し悪しを左右するこの世界において、男も女も関係ない。筋力パラメータがどこまで上がっているかによって、この鍔迫り合いの勝敗も決まるだろう。しかしこちらも五分五分のようで、なかなか解放されない。自然と歯を食いしばり、気持ちだけでも力を込める。すると意外にもこれが通じたようで、僅かだか俺の剣が雪ノ下に迫る。負けじと押し返して来たのだが、ふと雪ノ下の顔を見ると、小さく歯を食いしばり、本気の殺意でもあるかのような目で交差する刃を睨んでいた。

 

状況を打開するためにこれ以上プレイヤースキルのみでパターンを増やせるとしたら、五連撃くらい繋げなければならないか。刀を受け止めていた剣を持つ手に精一杯の力を込めなんとかパリィできる体勢に持ち込む。

 

「…らぁッ!」

 

不格好だが刀を弾き、一歩後ろに下がって足を踏み込んでそのまま突進する。水平に剣を振るが、弾き方が甘かったようでギリギリの所で防御体勢を取られ、防がれる。しかしここで止まらずに逆方向に水平斬撃を加え、さらにもう一度振り払う。そのまま右回りに回転し、勢いをつけて一撃を食らわす。ここまで繋げるのに結構神経をすり減らしている気がするが、このくらいしないとコイツには勝てそうにない。その甲斐あって、ここまでの四連撃で雪ノ下の体勢が崩れた。

 

これならいける。

 

振り抜いたついでにもう一度右回転し、さらに勢いを増した剣で五連撃まで繋いだ。振り払った剣が、雪ノ下の体を切り裂かんと迫る。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~side Yukino~

 

弾かれた。今までどんな動きをしていようと頑なに三連撃までしか仕掛けてこなかったため、防ぎきったと油断してしまったのが痛かったようだ。さらに厄介なことに、比企谷くんはまだ動いている。まさか、五連撃が来るというの…?

 

このままでは負けてしまう。こんな事で負けるわけにはいかないというのに。ぐっと刀を握る手に力を込め、無理矢理に体勢を立て直す。そして、迫り来る剣と自身の身体との僅かな間に刀を滑り込ませた。

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

 

力任せに叫び、ありったけの力で剣を押し返す。がきぃん、と重く甲高い音をたて、弾き返した。劈かれるようで耳が痛いが、同様にそのせいで余計に動きの鈍った彼の隙をついて、刀を鞘に納めながら後方へと下がる。そして、それなりに距離がとれた所で鞘に手をあて腰を落として構えの姿勢に入った。そこで、体にシステム的な力が沸き起こるのを感じる。この手に頼らなければ、おそらく彼には勝てないだろう。

 

「……はぁッ…!」

 

勢いよく刀を抜き、水平に払う。すると、水色の光を帯びた刀からエネルギーの刃が放たれた。空を切り、先にいる彼に迫る。これが決まれば、彼のHPは確実に半分は削れる。私の勝ちだ。私が彼より強い事が証明される。

 

私が、これから先、彼を守ってあげられる。

 

しかし彼は、崩れた体勢でいながらも剣でエネルギー波を受け止めた。

 

「ぐ…ッ!?」

 

受け止めたはいいが、比企谷くんは衝撃で吹き飛ばされ、建物の壁にまでぶつかった。《immortal object》の紫のタグが表示されたが、オーバーな演出の土埃に掻き消された。

 

…止められた…?

 

普通なら、あの近距離で遠距離攻撃を食らったらガードなど困難なはずだ。それでも、彼は受け止めた。winner表示が出ていないということは、つまりそういう事なのだ。周囲のざわめきに促されるように、私の心中にも焦りのような感情が沸き起こる。

 

どうして───

 

どうしてあなたはいつも───

 

「…くっ」

 

刀を下段に構え、思いきり地面を蹴る。

 

いつもそうやって───

 

私はこの後どうするのだろう。まだ壁にもたれかかっているであろう彼を切り裂くのか。

 

───私の想像を超えたところにいるの?

 

こんな事で、私は彼を守っていけるのか。その証明は、本当に彼を斬ることで成立するのか。

 

答えが、分からない。

 

気付くと、砂埃の発生源から自分までの距離は僅かになっていた。止まることはできそうにない。時間切れだ。

 

斬るしかない。

 

「…はぁぁッ……ッ!?」

 

下段から刀を振り上げようとした刹那、私の眼前に何か鋭いものが飛び込んで来た。今にも私に突き刺さりそうだが、寸前でピタリと止まっている。私は金縛りにでもかかったのかのように動けなくなった。逃げようにも、走れない。

 

剣だ。私の攻撃を受け止めた、彼の傷だらけの剣。それがまさに、今私の目の前にある鋭利な物体。その根本に漂う砂埃が、剣が飛び出してきた勢いでみるみる晴れていく。

 

そこには、消耗しきった身体で項垂れたままこちらに剣を向ける男の姿があった。その両脚を見ると、足首のあたりから下が無くなっていた。

 

部位欠損だ。彼は、先ほどの攻撃を受け止めきれてはいなかった。なんとか軌道をそらし、直撃を避けていたのだ。それはそうだ。あれは格下とはいえ急所に当たれば三人を同時に一撃で倒せる代物なのだから、そう簡単に受け止められるはずがない。おそらく彼のHPは、勝敗の判定が下るか下らないかのギリギリの所で止まっているのだろう。

 

そんな状態で、彼は私に剣を向け続けた。なんという意志力なのだろう。これはもう、疑いなく───

 

「…私の…負けだわ…」

 

中途半端な所で止まっていた手から力が抜け、その中からするりと刀が抜け落ちた。既にギャラリーは静まり返っており、落ちた刀の乾いた音が響く。目の前の男がそれに動じる様子はない。

 

「…あなたは、なぜそんな状態でも戦うことをやめないの…?」

 

まだシステム上の決着はついていないが、俯いたままの彼に問う。

 

「…別に痛いわけじゃねぇし、動いたらHPが減るわけでもないからな」

 

そんなことを聞いているのではない。 それはこの男自身も分かっているはずだ。ひたすら理性的な振る舞いを見せる彼に、どこか懐かしさを覚える。私は今、おそらく苦笑いでもしているのだろう。

 

「相変わらずね…。もう少し素直に喋れないものかしら」

 

「お前にだけは言われたくないな」

 

そう言って顔を上げた彼の目には、僅かだが涙が浮かんでいるように見えた。たぶん、見間違いではないだろう。とても珍しいものを目の当たりにしたはずなのだが、それについては対して気にならなかった。それよりも、彼がなぜ今ここで、そんな表情を見せるのか、それが気になった。

 

「…どうして、あなたが泣くの…?」

 

「………両脚斬られたからな」

 

「痛くないって言ったじゃない」

 

「………そういうお前は、なんでだ?」

 

そう言われて、自分の頬に手を当てる。濡れていた。全く気づかなかったが、何故なのだろう。負けたから?

 

「さあ……どうしてかしらね」

 

口角が自然に上がるのを感じる。そんな私に反応してか、彼の顔にも微かな笑みが浮かんでいた。いつもの奇妙な薄気味悪いものではない、汚れのないような笑みが。

 

その後数秒続いた沈黙を破るように、電子音が時間切れを告げた。私の頭上に《Winner》という表示が出現する。確かに、システム的に判断すれば、HPの残存量が多い私の勝利だ。ぼーっとその白い文字列を見つめる私の耳に、短いため息が聞こえた。

 

「……守ろうなんておこがましかったって事か…」

 

「え?」

 

未だにギャラリーが静まっているため、その呟きがはっきりと聞こえた。

 

「…俺は守りたかったんだ…あの部屋を。そのためにはまず帰らなきゃならなくて、その時まで一緒じゃなきゃいけない奴がいる。だからまず、その一人でも守って行こうと思ったんだけどな…。やっぱり敵わねぇよ」

 

「比企谷くん…」

 

同じだった。きっと私が涙を流した理由もそれだ。彼は元の世界に揃って帰るために、私を守って闘おうとしていたのだ。

 

「…確かに、システム的には一応勝者は私ね。けれど、私はあなたに勝ったなんて思っていない。さっきも言ったけど、むしろ負けたと思っているわ。…あなたのその覚悟が、あなたを動かしたのでしょう?」

 

「さあな…」

 

「私もね、比企谷くん…あなたを守りたいと思った。いつもあなたは変な所で無理をするから。それが見ていて辛かったのに、今まで私はどうする事もできなかった。ただ話せばよかったのに、どうしてもそれができなかったの」

 

簡単に見えて、難しい。傷つけてしまうと思ったから。その末の選択は、結果的に彼を傷つけただろう。誤った選択でそんな結果を導いてしまったことを、ひどく後悔している。

 

「それでもあなたはやり直す道を探してくれた。私がそれを跳ね除ける理由はない。その道であなたがまた無理をすることが無いように、私はあなたより強くあらなければならないと…そう、思ったから…でも…」

 

私にそこまでの力はなかった。悔しさもあるが、何だか彼が張り合ってくれているようで、少し嬉しかった。

 

「…俺自身が言ったんだよな……一緒に『本物』を探していくって。だから、俺たちの間にそんな一方的な関係はいらなかったんだ」

 

「そうね……ねぇ、比企谷くん」

 

意思の力において、私は確実に負けた。彼は、私が思っていたより純粋に強かった。だから、私が彼をただ「守る」などという事は、筋違いなのだろう。なら、せめて───

 

「この世界で……私は、あなたの隣で戦ってもいいかしら…?」

 

……我ながら随分と大胆な事を言ったものだ。下手をすれば意味を取り違えられる危険があるのでは、と気づいたのは先の話だ。この男にそんな心配をする必要は皆無だが。

 

目をそらさずに、彼からの返答を待つ。

 

 

 

 

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~side Oct~

 

勘違いを誘うような恐ろしい問が突きつけられた。しかし、長年の経験で今の言葉にそういった意味が含まれていないのは分かる。こいつは、俺を守るつもりでいた。俺がこいつを守ろうとしたように。どちらかが上で、どちらかが下。その位置関係がはっきりしないと、守る側と守られる側を明確に決定できないのだと、俺たちは思いこんでいたのだろう。方法は、それ以外にもあったのだ。

 

今の俺は、それを望んでいる。

 

「……俺の許可が必要か?」

 

親しみと皮肉と、あと確認の意を込めて、昨夜言われた言葉を返す。俺も雪ノ下も、理由がないと、誰かからの許可がないと、悪く言えば言い訳がないと動けなかった。そんな俺たちが、きっと今、自分の心に従って行動しようとしているのだ。それを確かめたかった。さっき俺が両脚を失ってもなお剣を突きつけたのは、理性の化け物とまで言われた俺が見せた意地だ。心が求めるまま、負けじと動いた、本能の欠片だ。俺自身の確認はこれで充分だろう。

 

「…ふふっ」

 

俺の意図する所を理解したのか、雪ノ下は笑みを浮かべた。

 

「そうね…いらないわ、そんなもの。ただ、少しあなたの真似でもしてみようかしら」

 

「は?」

 

「私は私自身のために動くわ。私があなたと一緒に元の世界に還って、また三人でやり直すために、最善だと思うことをする。どうかしら?」

 

「………」

 

いや、どうかしら?じゃねぇよ。随分と開き直りやがったなこいつ…

 

「…俺の真似してたらいつか俺みたいになるぞ」

 

「それは困るわ。別にあなたになりたいわけではないもの。だから、もし私が誰かさんみたいに突っ走って崩れそうになっていたら、その…」

 

ここまで頑なに視線を逸らさなかった雪ノ下が、頬を紅潮させながらそっぽを向く。

 

「止めて…支えてもらえるかしら」

 

そう言って俺に手を差し伸べる。どこか気恥しくなった俺が目を泳がせると、視界に飛び込んで来たのは再生が完了した両脚だった。もう立てるな。

 

伸べられた手を握る。

  

「…分かったよ…あまり期待しない方がいいけどな。それと、一連の台詞をそっくりそのまま返してやる」

 

立ち上がりながら、そう答える。見たか雪ノ下、俺はそのむず痒い感覚を覚えそうな台詞を言わずに真意を伝えたぞ。これこそがコミュ障のなせる技だ。

 

「…ふふっ…ええ、いいわ。私の方は別に期待してくれてもいいのだけれど」

 

逸らされていた視線を戻し、軽く上品なウインクをしながら返された。不覚にも心臓の鼓動が早くなった気がする。発作でも起こしたらどうしてくれるんだ。

 

「そんじゃあ、まあ、なんというか……頑張ろうぜ」

 

「…ええ。そして、揃って還りましょう、あの部屋に」

 

握っていた手を握り直し、握手する。しばらく黙っていたギャラリーから様々な賞賛の声が飛び交った。こちらの事情は知らないだろうが、なんとなく、俺たちの再スタートが祝われたような気がした。

 

守って守られて、お互いに支え合う。ありふれたようで縁のなかった、そんな道の第一歩を、俺たちは今日踏み出した。

 

 

 




仲直り完了です!良かった!

ところで、数日前に活動報告にも書いたのですが、新生活準備等で忙しいため、執筆活動を何週間か停止すると思います。もしかしたら時間を見つけて少しずつ書いていくかもしれませんが、いずれにせよ次か次の次の更新はさらに遅れると思いますので、ご了承くださいorz

それでは、また次回お会いしましょう。
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