ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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3か月経っちゃったよ…
ご無沙汰しております、日昇です。

忙しくてなかなか書けませんでした…すみません…
そのくせ勉強はおろそかにしてアリシゼーション編読んでました…本当にすみません…

さて、そんな事は置いといて、今回は二十五層ボス戦です。どうぞ!


第15話 獰猛な巨人

ギルド《血盟騎士団》

 

彼らがボス攻略会議の場に現れたのは、俺と雪ノ下がヒースクリフにその名を聞いてから三日後のことだった。これまで組んでいた陣形を大幅に変更する必要があるため、もちろんすんなり加入とはいかなかった。しかし、アスナが副団長を務めているということもあり、話し合いの結果、晴れて攻略組のメンバー入りを果たしたのだ。こうして、前線を支える大規模ギルドは三つとなった。

 

そして今日、ついに俺たち攻略組は、第二十五層のボス部屋に殴り込みに行く。

 

「やっと全体の四分の一か…」

 

珍しく食堂で朝食を食べながら、俺はぼそっと呟いた。目の前でロールパン(のようなもの)を口に運ぼうとしたランが、その手を止めて俺を見る。

 

「どうしたんですか、急に喋り出して」

 

「ああ、悪い……つうか、まるで俺が普段喋らないみたいな言い方やめてくれない?」

 

「そういうつもりじゃないんですけど…」

 

なんだ、違うのか。てっきりいつも大して喋らない俺が突然言葉を発したことに驚いたのかと思った。まずこんな発想してる時点で俺がアウトなんだよな…もういいや、どうにでもなれ、俺。

 

「今回のボスを倒せば、アインクラッド攻略の四分の一は終了したことになるだろ?『やっと』なのか『まだ』なのかはよく分からんが」

 

「確かに、ここが終われば一段落済んだって感じになりますね。ただ、区切りってことで心配になってくるのが…」

 

「ああ、何かしら面倒なボス戦にはなるだろうな。十層と二十層ではその前後に比べて微妙に難易度の高かった。たぶん、今回もそうなる可能性は高い」

 

この世界の創造主たるあの天才、茅場晶彦とて、根本的な思考は俺たち一般人とそう変わらないはずだ。ならば、区切りのつく層でいらんサプライズを組み込んでくる事は充分に考えられる。何もこれは俺たちだけの考えではない。攻略組の多くのメンバーが同様の予想をしており、各自レベリングや連携強化により一層時間をかけてきた。そもそもダンジョンの難易度が高めだった事もあるが、二十五層の攻略に普段よりも時間がかかっているのには、こういった理由がある。

 

「…まるでユキノさんと入れ替わる形でアスナさんが私たちのパーティーから外れましたけど…うまくやれますかね」

 

「……どうだろうな。そこはなんとも言えん。まあでも、あいつがアスナに負けないくらい強いのは分かってるだろ?そこまで心配しなくても大丈夫だと思うぞ」

 

力量の部分でなら心配することはない。ただ、雪ノ下と会って日が浅いランとキリト、特に黒い方は、うまく連携が取れるほどお互いを把握しきれていないだろう。昨日まで俺たちのパーティーはひたすら連携強化も兼ねて迷宮区に篭っていたため、ある程度のことならこなせるとは思う。あとは上手くいくことを祈るしかない。

 

「ま、今さら何を言っても仕方ないだろ。俺たちは、まだやる事が残ってるんだ。死なないように努力するに限る」

 

「そう…ですね。早くあの子を見つけないといけませんから」

 

嫌な情報ばかりが多かったこの頃だが、それらを集約した結果、俺たちは一つの結論に辿り着きつつある。数日前、アルゴのもとに何人かのプレイヤーから同様のメッセージが届いたのだが、それは一向に受理可能にならない第八層の裏ボスのクエストに関する調査の依頼だった。情報によれば相当難易度が高いはずなのだが、レアアイテムがドロップするという噂が絶えず、それを欲しがる準攻略組の連中が後を絶たない。そのくせ現状調査は情報屋だの攻略組だのにやらせようと言うのだ。誰かが長々とクエストを受けているのは明白なのだからその場所に行けばいいというのに、そういった面倒かつ危険なことは他人に任せきりとは、虫がいいにも程がある。

 

しかし、あのクエストが目障りであるとともに魅力的なのは攻略組とて同じだ。そのため、この調査は論争の末、二十五層攻略後にALSと俺たちのパーティーによって行われることになった。ちなみに論争というのは、行くか否かではなく、ALSとDDAのどちらが調査に当たるかである。どちらか一方でなければ、攻略が完全に停滞してしまうからだ。

 

さて、前置きが長くなったが、ここでユウキ捜索に当たる俺たちの結論を言おう。それは、このクエストの受理者がユウキであるという事だ。なぜなら、彼女はしばらくの間圏内で目撃されておらず、最後に目撃された日と裏ボスクエストが受理不可能になった日がかなり近いためである。そう考えた俺たちは、ALSの連中に頼んで調査に加わることになったのだ。ものすごく嫌な顔をされたが、ランが事情を話して必死に頼んだ結果、出しゃばった真似をしないことを条件に同行が認められた。

 

とまあそんなわけで、目先に一つの目標がある俺たちは、そう易々とくたばるわけにはいかないのだ。いや、何にせよ死にたくはないけど。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「みんな!ついに俺たちはこのボス部屋まで辿り着いた!ここを突破できれば、アインクラッドの四分の一が攻略されたことになる!これは我々にとっても、下層でクリアを待つ人々にとっても、前身を促す希望になると俺は思う!今回はクウォーターポイントなだけあって厳しい戦いが予想されるが、みんな、精一杯戦ってくれ!」

 

松明の灯りだけの薄暗いボス部屋の前で、リンドが大きく声を張った。ちなみにクウォーターポイントというのは、全百層に及ぶこの城を四分割した際の分割点を指す。ここにいるのはDDA、ALS、血盟騎士団の三ギルドと、俺、雪ノ下、ラン、ハルト、キリトなど何人かのプレイヤーだ。今までソロで活動していた連中の一部が血盟騎士団に加入したため、俺たち無所属プレイヤーの規模は今までより小さくなっている。

 

「…雪ノ下。お前、初のボス戦がクウォーターポイントなわけだが、本当に良かったのか?たぶん、他のボスと比べ物にならんくらい強いぞ」

 

「そんなこと何度も聞かされているわ。承知のうえで来ているのよ。それに、血盟騎士団の何人かもボス戦は初めてでしょう?私だけ引き下がるわけにはいかないわ」

 

「いや、でもな…」

 

「……あなただけ行かせておいて、ただ待っている私の身にもなりなさい」

 

「………!」

 

顔をやや背けながらの雪ノ下の発言に、俺は返す言葉が見つからなかった。またこれだ。また俺は人の立場を理解していなかった。もし反対に、俺が待たされる側だったらどうだ?きっと落ち着いてなどいられなかっただろう。雪ノ下なら大丈夫だろうと思いつつも、無事に帰還する彼女を見るまで、何かあったんじゃないか、まさか死んでしまったのではないか、と余計な事を考えるのだろう。似ているけど違う、違うけど似ている、そんな俺たちだから、少し考えれば分かったはずなのだ。

 

「……悪い。一緒に向こうの世界に戻るんだったな」

 

「ええ。それに私はあなたが変な無茶をしないように見張るつもりでもあるのだから、ここで別行動なんて有り得ないでしょう?」

 

そこまで来るともう保護者のレベルだ。下手をすれば俺の実の母親よりも保護者らしいことをしそうだな、こいつは。

 

俺たちが会話しているうちにリンドの長々とした演説が終わったらしく、ボス部屋の扉が開かれる重苦しい音が聞こえてきた。ついに、剣士の行く手を阻む迷宮区の主との御対面だ。偵察隊の報告によれば、その姿は二つの頭をもつ巨人。両手に大型の斧を構えているが、攻撃方法として武器の他に脚も使うらしい。その名は、《The Truculence Titan》。名は体を表すとはよく言ったものだ。見るからに獰猛そうな巨人が、俺達の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

「作戦通りに行くぞ!A、B、C隊は先行してくれ!」

 

アタッカー集団のA、C隊と、それより少し前にタンク担当のB隊が、ボスに向かって行く。今回は取り巻きのザコがいないため、パーティースイッチを基本とした戦法が採用されている。ちなみに、血盟騎士団からはアスナを始めとするアタッカー数名、盾持ちのヒースクリフを始めとするタンク数名がこのボス戦に参加しており、それぞれC隊、E隊に配属された。俺たちはというと、ほかのソロプレイヤー一人を加え、F隊としてアタッカーを担当している。

 

序盤はレイドを二つに分け、まずA、B、C隊が先行して攻撃を行う。D、E、F隊はいつでもスイッチできるように構えながら、敵の行動を分析。スイッチ後は役割を入れ替えて同様に事を進める。そこから、レイドリーダーであるリンドの指示で全体の動きを変更するかどうかが決まる。今回の作戦の大まかな流れはこんな感じだ。とはいえ、今のところボスの様子は偵察隊の報告通りなので、あまりすることがない。

 

「油断はできないけど……想像していたよりは険しい戦いにならずに済みそうか?」

 

ハルトが落ち着き払った声が左側の背後から聞こえた。確かに、一撃のダメージが比較的大きい事を除けば、あの巨人の強さは今までのボスと大差ない。少なくとも現段階では、大して苦労せずに倒せる気はする。しかし、もしどこかで回復でもしてきたら?平時の挙動に未確認のものがあったら?パターン変化後が恐ろしく強かったら?考えすぎかもしれないが、希望的観測は間違いなく隙を生むだろう。

 

「あんまそういうこと言うんじゃねぇよ。フラグ建っちまうぞ」

 

そう言うと、今度は右側の背後からいつもより微妙に低いランの声が続いてきた。

 

「あの、オクトさん。フラグとか言われると本当にそんな気がしてきて、無駄に不安になるんですけど…」

 

「え、何それ?俺が悪いの?」

 

「…あなたたち、いつもそんなに喋りながら戦闘してるの?」

 

横目で冷ややかにこちらを見る雪ノ下に、まさか、と答えつつ俺は視線を戻した。このたった数秒のやり取りの間にボスが突然凶暴化した──もともと凶暴なのだが──などという事はなく、前衛組が順調に敵のHPを減らしている。そろそろ一本目のバーが空になりそうなので、スイッチの指示が出るはずだ。

 

「よし、交代だ!スイッチ!」

 

リンドからの指令に答え、前衛の三隊が素早く後退し、反対に後衛の俺たちが前へ出る。俺たちF隊は、動き出すのと同時に発動準備をしたソードスキルを、ノックバックにより硬直したボスに叩き込んだ。スキル発動後の硬直に見舞われる俺達の間を、D隊が再び数歩引き下がったボスに向かって突進していく。後半組の出だしとしては好調だろう。

 

そう思った矢先、よろめいていたと思っていたボスの左脚に力が加わり、床にヒビが入るのを見た。何か来る、と悟った時にはもう遅く、ボスの右脚が勢いよく蹴り出される。そのつま先には、隠しナイフのような尖った武器がついていた。

 

「ぐぁぁッ!」

 

悲痛な叫びと共に蹴り飛ばされた、あるいは切り飛ばされたプレイヤーたちが、俺たちの頭上を超えてフロアの床に叩きつけられる。HP全損とまではいかなかったようだが、かなりの衝撃とダメージを受けたはずだ。

 

「……おい、何だよあれ」

 

驚愕とともに俺が呟くと、近くにいたキリトが同じく驚きを隠せないような口調で答えた。

 

「信じられないけど…たぶんあのボスは、HPバーが一本減るごとに攻撃パターンを変えてくるんだろうな…」

 

「マジかよ…」

 

「あの攻撃は重そうね……剣で弾くのはたぶん無理だわ」

 

両手で構えた刀を握り直しながら、雪ノ下が言った。刀身が薄く細い刀はもちろんだが、俺やキリトが使っているような片手直剣でも、あの蹴り技を弾き返すのは難しいだろう。そのくらい、先ほどの一撃は強烈に見えた。避ける以外に対処法は無さそうだ。

 

強烈な一発をお見舞いした巨人は、両手の斧による攻撃を再開せんと、腕を大きく振り上げた。どうやら、追加パターンは先ほどの蹴り技だけで、それ以外は変わらないようだ。タンクに斧の相手を任せ、俺たちは再びボスに切り込んだ。

 

「せあぁぁぁぁ!」

「はぁ…ッ!」

 

キリトと俺が先行し、その後に雪ノ下とハルト、最後にランという順で、間髪入れずに攻撃を重ねる。敵のHPゲージが辛うじて目に見える程度で減少するが、やはり通常攻撃ではノックバックは与えられず、巨人は何事も無かったかのように左右の斧を順に水平に振り払った。剣に左手も添えてガードするも、反対にこちらは衝撃がかなり大きい。ダメージはほとんど無いが、軽く後ろに吹っ飛ばされる。確認したわけではないが、おそらく剣の耐久値が大きく削られたはずだ。そう長くは持たないだろう。

 

「今や!D隊行くで!」

 

体勢を立て直したD隊──ALSのメンバーのみで構成されている──のリーダー及びこの後半組の統括を任されているキバオウが、自身も駆け出しながら指示を出した。斧を振りきっている巨人は数秒の間は無防備なため、絶好の攻撃機会だ。無事に一撃浴びせたところで、D隊が下がった。そこへヒースクリフ率いるE隊が、盾を構えて突撃する。前半組の戦闘から考えれば、水平斬撃の次は両手の斧を同時に振り下ろしてくるはずだ。しかし、何を思ったのかE隊は縦一列に並んだ状態でD隊の前に出た。

 

「何しとるんやアホ!次の攻撃は…」

 

キバオウの言葉が終わるより先に、巨人は左脚を踏み込む。それが確認されたのとほぼ同時に、ヒースクリフの声が響いた。

 

「来るぞ!構えろ!」

 

直後、先ほどと同じ蹴り技が繰り出された。足先のナイフの矛先はE隊の後方にいるD隊のようだが、がぁん、という鈍い音が響き、その軌道がずれた。縦に並んだE隊が、総動員で脚を押しのけたのだ。当然、ボスはその巨体を保持するバランスを失い、大きく後ろによろめく。距離的にはD隊が再び突っ込むべきなのだが、ヒースクリフたちの的確な動きに唖然としたのか、キバオウ他数名が口を開けたまま固まっている。

 

「D隊!チャンスだ、行け!」

 

後方から聞こえたリンドの声で我に返ったキバオウたちはすぐさま剣を構え直し、各々のソードスキルを放った。

 

「グオオオオオォォォォ!」

 

巨人は苦痛かあるいは怒りの込められた雄叫びをあげ、後方に引き下がる。その後、今度こそ両手の斧を振りかぶった。それを合図に俺たちF隊は一斉に駆け出す。同時にD隊の前に出ていたE隊が盾や斧を構え、振り下ろされた巨大な刃を弾いた。

 

「行くぞ!」

 

キリトのかけ声を受けた俺とハルトを合わせた三人が、微妙に足りない距離を補うべく、同一のソードスキルを放つ。片手剣上段突進技《ソニック・リープ》。一気にボスの足元まで飛び込み、そこに深く剣を刻み込んだ。これにより稼いだ時間で後から追いついてきた雪ノ下の《緋扇》とランの《ホリゾンタル・アーク》が続き、ボスのHPゲージは残すところ二本と三割程度となった。

 

硬直から開放されると再び通常攻撃のラッシュへと戻り、じわじわと敵の体力を奪っていく。

 

「今減っているゲージが0になれば、一旦後退できるのよね?」

 

雪ノ下が問いかけてくる。

 

「ああ、あと少しだ」

 

「分かったわ」

 

そう言うと、雪ノ下は刀を鞘に戻し、後方へと移動した。お前本当に俺の話聞いてた?と一瞬思ったが、別に一足早く後退したわけではない。後ろで再びボスに体を向けた雪ノ下は、腰を低く落とし、右手を刀の柄に、左手を鞘に当て、目線をわずかばかり上にあげる。そして、刀を一気に引いて振り払った。抜刀術衝撃波斬撃技《電光斬》。ランを襲撃した三人の首を、そして俺の両足首を切り落とした、あの技だ。

 

「はあぁぁぁぁぁッ!」

 

振り抜かれた輝く刀から、恐ろしい速さで白い衝撃波が放たれる。目指す先は、巨人の首。目下のプレイヤーに意識が集中していたであろう敵は、唐突に飛び込んできた輝く刃に反応しきれず、もろに喰らってしまった。一気に体力が減少し、ついに二本目のHPゲージも尽きた。それを確認した俺たち後半組は即座に後退し、ボスが怯んでいる間を利用して前半組と入れ替わった。

 

「おそらくまたパターンが変化する!まだ攻撃はするな!防御体勢で囲め!」

 

そう言い放ったのはリンドだ。正しい判断だろう。死人こそ出なかったが、先ほどのようにスイッチ直後に大ダメージを喰らうのは、流れに支障をきたすため極力避けたい。

 

「グオアアァァァァ!」

 

俺たちがポーションを飲み干して完全に回復したのとほぼ同時に、ボスが天井に向けて雄叫びをあげた。そして、今度は両脚を力強く踏み込む。

 

「来るぞ!」

 

誰かがそう言って、前半組のプレイヤーたちが構える。俺たち後半組も、敵の動きを目に焼き付けんと意識を集中させる。そして──

 

 

俺たちプレイヤーの何倍も大きい図体を持つ巨人は、その見てくれからは想像出来ないような速さで飛び上がった。空中で素早く身体を逆転させ、天井に足をつける。その瞬間、ほんの一瞬の事だが、俺は気づいてしまった。

 

ボスの目線が、前半組に向けられていない。

 

そう、それはつまり──

 

「…まずい…!」

 

俺が頭で何かを理解するより前に、キリトがそれだけ口に出す。しかし、もう遅かった。巨人は、斧を構えてこちらに飛び込んできていた。

 

「なっ…」

 

とても逃げ切れる勢いではない。さらに、突然の出来事に思考が追いつかないために、俺たち後半組のほとんどが防御の体勢を取れなかった。

 

「ぐあぁぁッ!」

 

「うわぁぁぁッ!」

 

様々な悲鳴と共に、俺たちは吹き飛ばされた。地面に叩きつけられた後に身体を見ると、斧に切られた部分に赤いダメージエフェクトが深く刻み込まれている。そして目線を隣に移すと、俺以上に深手を負った雪ノ下が横たわっていた。

 

「……おい、大丈夫か…?」

 

「…大丈夫…ではないわね。手首と脇腹をやられたわ」

 

「みたいだな。…ったく、これじゃあ前衛も後衛もあったもんじゃない」

 

ボスが荒く息を吐きながらゆったりと体勢を立て直しているおかげで何とか会話が出来ているが、早くここから動かないとまずい。剣を杖がわりに立ち上がり、同じく身体を起こそうとしている雪ノ下に肩を貸す。

 

「オクトさん、ユキノさん!」

 

声の聞こえた方向に目を向けると、ランがこちらに駆け寄ってきていた。どうやら、俺たちほど大きなダメージは受けなかったらしい。

 

「ラン、無事だったか…」

 

「はい、なんとか。待っててください、今ポーションを出します」

 

ランの生存に安堵した後、視界の端に表示されているパーティーメンバーのHPを確認する。ハルトはランと同程度のダメージで済んだようだが、キリトはそこそこ大きく体力が削られている。一応様子を見に行きたいが、今はそれどころではない。

 

「よし、急いでボスから離れるぞ」

 

俺と雪ノ下はランからポーションを受け取り、走りながら一気に飲み干した。駆けつけた前半組のメンバーにクラインを含む《風林火山》からのプレイヤー見つけ、完全回復までの時間をいでもらうよう簡単に頼み、適度に敵から距離を取る。

 

「もう、全体攻撃に切り替えるしかないんじゃないかしら」

 

「かもな。下がって回復だの観察だのってしてたら、また狙われかねない」

 

さてどうしたものか、と考えていると、同じく考え込んでいた様子だったランが口を開いた。

 

「あの、さっきの攻撃なんですけど、メインのターゲットにされていたのってユキノさんなんじゃないですか?」

 

「え……私が?」

 

「はい。見たところ、ユキノさんの受けたダメージが一番大きいんです。それに、私の目測と記憶が間違ってなければ、斧が振り払われた方向に向かうにつれて、プレイヤーのダメージの規模が小さくなっていました」

 

「…最後に大技かましたから、ヘイト値が増大したってことか…」

 

前衛を無視して後衛に攻撃を仕掛ける動き自体は、そういうアルゴリズムとしてプログラムされているのだろう。しかし、その対象は過去の戦闘データからヘイト値を基準として割り出される。そうなれば、あの抜刀術はおろか高位のソードスキルすら、そう易々とは使えなさそうだ。

 

「本当に、どうしたもんかね…」

 

そう呟きながら、俺は暴れ狂うボスを見据えた。

 

 

 

 




少し字数を減らしてしまいました。この頃は1万字前後をノルマにしてるんですが、ちょっと厳しかったです。

あと、サブタイトルを考えるのがめんd…難しくなってきたので、以前申し上げたようにテイスト変えました。時間見つけて既出の話数の分も変更します。勝手ですみません。

次話を投稿するのはまただいぶ先になりそうですが、頑張りますので今後もよろしくお願いします。

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