ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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一週間くらいかかってしまいました…。遅れて申し訳ありません(_ _)

話全然違いますが、この前久しぶりにゲーガイル続をやりました。あーしさんルートのグットエンドに持っていけたのですが、正直な話メインヒロイン組と同等か、それ以上に感動しました。

やってない方いましたら、攻略おすすめします。



第8話 二人は、少しずつ歩みを進める。

「お邪魔します…」

 

「何をそんなにかしこまってるんだよ」

 

ええ…だって他人の部屋に入るのなんて始めてなんだもん…。あ、雪ノ下の部屋には入れてもらったことあるな。厳密には雪ノ下が住んでるマンションの部屋のリビングだけど。友達いないから人の家に遊びに行くって経験がないのよね…

 

「で、わざわざ俺の部屋まで来て、話ってなんだ?」

 

「ああ。キリト、ちょっと頼みがある」

 

そう、突然だが、俺は今キリトの部屋にいる。

 

 

 

 

 

 

 

「情報屋?アルゴのことか?」

 

「ああ。そいつに依頼がしたい。連絡とってもらえると助かるんだが」

 

《鼠のアルゴ》と呼ばれるそのプレイヤーは、アインクラッドで知らない者はいないというほど腕利きの情報屋だ。ユウキの件でも以前接触を図ろうとしたが、先に見つけた情報屋のクソ女が良心的な価格で良い仕事をしてくれるため、その必要がなかったのだ。性格は良心的じゃなさそうだが。

 

「別件で仕事依頼してる情報屋がいるんだろ?その人じゃ駄目なのか?ていうか、こんな話メッセージだけで良かったんじゃないか?」

 

「いや、駄目なんだ。両方の質問に対しての答えだが、今度の依頼についてはあの女に聞かれたくない」

 

「…信用してるのか信用してないのか分からないな…。まあいいよ。事情があるなら下手に詮索はしないさ。アルゴにはオクトたちの宿に行くよう伝えるよ」

 

キリトが素早くメッセージを打ち出した。

 

「待ってくれ。別にお前に聞かれて問題がある話じゃないから、ここに呼んでもらえないか?迷惑なのは分かってるんだが…」

 

「随分と用心だな…。でもいいのか?俺がどこで誰と繋がっているか分からないだろ?」

 

「お前は俺が情報の漏洩を気にするほど人脈ないだろ」

 

「なっ…!…ああそうだよ、どうせ俺は人脈薄いよ。お前には言われたくないけどな」

 

「…だろうな。何か俺まで悲しくなってきた」

 

ぼっち系男子同士、傷を舐め合うどころか抉り合っている。つーかキリトの場合は俺とジャンルが少し違うんだよな。性格いいのに友達が少ない。何それどこの難聴系主人公?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間潰しに十五層の攻略について話し合っていると、部屋のドアが独特なリズムでノックされた。どうやら鼠さんが来たようだ。

 

「やあキー坊。嬉しいじゃないカ、キー坊の方からオレっちを部屋にお招きしてくれるなんテ」

 

「いちいちからかうなよ…それに、用があるのは俺じゃなくてアイツだ。メッセージでそう言っただろ?」

 

あーどうしよう微妙に俺の苦手なタイプかも知れないあの女。でもキリトと仲は良さそうだし、性格に関しては悪くないのだろう。

 

「ニャハハ!分かってるヨ。攻略組の"オクト"ダロ?いやぁ、トッププレイヤーのお客さんが増えてオネーサン嬉しいゾ!」

 

「オネーサンってなぁ…お前歳いくつだよ。俺とそんな変わんないように見えるんだが」

 

「……その情報の提供はお前サンの全財産で手を打とうカ」

 

「結構です」

 

やっべぇ女性に年齢の話はタブーだったな。女は怒ると怖いからなぁ…壁とか腹とか殴ってくるし。いやそれ女っていうか平塚先生だ。そういえばあの人結婚相手見つかったかな…

 

「で?冗談はその辺にしておいて、オレっちに依頼ってのはどんな内容ダ?」

 

「ああ、それなんだが──」

 

俺の依頼内容はこうだ。"Yukino"というプレイヤーの確認。雪ノ下と特徴が一致するなら接触し、俺が探しているという事を伝えてもらう。その上で彼女が俺との会合を望むか望まないか、望まない場合は彼女がどこへ行くのかを聞き出してもらう。最初にこれを全部話した時はストーカーか何かと勘違いされ牢獄に行くことを勧められたが、事情を話したら納得してもらえた。

 

「そんじゃ頼むわ。キリト、仲介サンキューな」

 

これで下準備は完了だ。俺は部屋を後にしようとしたが、何か思い出したらしいキリトに呼び止められた。

 

「なんだ」

 

「大した話じゃないんだけど、オクトは八層の裏フィールドボスには挑戦したか?」

 

「いや、してない。というか、正確にはしようとしたがやめた。あいつのステータス、三十層前後レベルだって話じゃねぇか。攻略組でレイド組んで挑もうって話もないし、わざわざ命を危険に晒す必要ないからな」

 

「だよなぁ…」

 

以前十層が開放されたのと同時に、八層に追加のフィールドボス──通称裏ボス──討伐クエストが現れた。普通のフィールドボスならばいきなりボスと戦闘になるのだが、この裏ボスはストーリーつきのクエスト型式という特殊なタイプなのだ。その過程で出くわすモンスターは二十五層レベル、ボスは三十層レベルと現状からして非常に理不尽なステータス設定なっているおかげで、未だクリアした者はいない。噂では、無謀にも小規模パーティーでで挑んだ準攻略組プレイヤーが何人か命を落としているらしい。しかも、ベータ時代には十層まで辿り着いていなかったため、情報がほとんどないというのもネックだ。それにも関わらず挑戦が続けられているのは、恐らくあの噂のせいだろう。

 

「本当に困るヨ。裏ボスのLAボーナスは超高性能のレア装備だ、なんて噂が各層で騒がれてるせいで、みんなあのクエストの事が頭から離れなくなってるんダ。オレっちもできるだけ確かな情報を集めようとはしてるガ、クエスト自体にまともに挑めないからナ…」

 

「確証ないのによくやるよな、ほんと」

 

これが普通のゲームならそれでいいだろう。だがこれはデスゲームだ。そう簡単には行かない。この世界で生き残るためには、まず正確な情報をたくさん仕入れなければならない。しかしそれでもおいしい噂を耳にしたプレイヤーたちは、自分の欲に流されてしまった。本能は戦闘にだけ活かせばいい、と俺は思う。うまく使い分けようぜ、理性と本能。

 

「ま、二十五層突破したあたりで、行きたきゃ行けばいいんじゃねえの?俺たちのレベルで討伐できない相手なら、攻略に勤しむ連中以外でアレを倒せるやつなんて出てこねぇよ」

 

「そうだよな…今は前に進むことだけ考えないと」

 

「そういうことだな」

 

俺は今度こそ部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

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ランと合流した俺は今、第十五層迷宮区にいる。本当はいつも通り俺一人で行くつもりだったが、ランが「オクトさんも人探しを始めるんだから、私も攻略に参加します」という訳の分からない理由をつけて行くと言って聞かないので、後衛メインで戦闘する事を条件に、少々気が引けたのだが連れてきた。

 

気が引ける、と言ったが、理由は二つ。一つは、無事にユウキに会うまではあまり危険な場所に連れていきたくなかったから。会う前に死んでしまっては元も子もない。

 

そしてもう一つは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応言っておくが今のは俺でもモンスターでもない、ランの声だ。めっちゃ騒いでる。俺に怒鳴った時なんて比じゃないくらいにめっちゃ騒いでる。そう、二つ目の理由は、ここ最近の層のMobが虫系モンスターで構成されているからだ。蜂とかカマキリとかカブトムシとかならまだいい。そんなムシキングに出てくるみたいな種類のモンスターは数少なく、大半はイモムシとかクモとかミミズとかそんなやつだ。初めて見た時の感想は単純に「キモい」だった。もう慣れたようだが、初めの頃はアスナが戦意喪失したくらいキモい。そんなわけで女の子には少々キツい相手だと思って連れてきたくなかったのだ。最初の方は「きゃー」とかそんな可愛いらしい悲鳴だったのだが、二時間くらい経った今は見ての通りだ。おぞましい叫び声を挙げながら下位モンスターに必要以上の刺突攻撃をしている。

 

「おーい、そいつもう死んでるぞー」

 

「…はぁ、はぁ……ああ、今度はゾンビが…」

 

「殺されてぇのか」

 

だんだんランの毒が天然モノじゃなくなってきてる気がする。いや、今のはアレだ。気が動転して本当に俺がゾンビに見えたんだ。きっとそうだ。

 

「…ずみまぜん…敵が思った以上に強烈な見た目で…」

 

「だから言っただろ、やめた方がいいって。たぶんあと二層くらいはこんな感じだと思うぞ」

 

「…二層…うぅ…」

 

ああもう涙目になっちゃってるよ…。今日はもうやめとこうかな…

 

「どうする?ちょっと早いが帰るか?」

 

「…いえ、あと少しでボス部屋まで行けるんですよね…?そこまで頑張ります…」

 

「そ、そうか。まあ、無理はするなよ」

 

良くやるよなぁ本当に。帰りにケーキでも買ってあげるか。 

 

 

 

 

 

 

 

辛うじてボス部屋まで辿り着くと、既に扉が開いていた。どうやら一足先に到達したパーティーがいたようだ。ランを扉の隣で休ませておいて、俺はボスの顔を拝みに行った。先着のパーティーが攻撃パターンの確認をしているようなので、それを遠目に眺める。《Cannibalism the Mantis Queen》という標記。間違いなくあのデカいカマキリがフロアボスのようだ。カマキリの女王ねぇ…。じゃあ下にいるマンティスの取り巻きはまさしく下僕だな。女王と言えば三浦は元気だろうか。葉山がSAOに囚われてしまったのだから相当なショックを受けていそうだ。と、そんな事よりボスのパターンだ。見た所攻撃手段は両手の鎌と毒性ブレス、それに脚にまでダメージ判定ありのようだ。まあ、あれなら対毒POT飲ませたタンクを二、三組交代で回して、ディーラーが打撃武器以外で攻めれば大丈夫だろう。あとはラストのパターン変化だが、そこはぶっつけ本番だ。

 

俺が分析を終えると同時に、戦闘していたパーティーが撤退してきた。どうしよう、隠れようかな。戦闘任せて見学してましたー、なんて言ったら怒られそう。と言っても隠れる場所がない。マズい…こうなったら…

 

「おう、オクトじゃねぇか!何だよいたなら少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃねぇかよぉ」

 

「い、いや、今来たとこだ」

 

「なんだ、そうだったのか」 

 

必殺、「今来たとこ」攻撃。これは隠れて長居していたのが見つかった時の対処法だ。相手がバカなほど成功しやすい。念のため言っておくが、これは決して待ち合わせより早く来た彼氏が後から来た彼女の「ごめーん、待った?」に対して言う言葉ではない。奴らはせいぜい「ああ、かなり待った」とでも言って破局してしまえばいい。リア充爆発しろ。

 

「で、どうだったんだ、クライン」

 

「ああ、今回のボスは──」

 

クライン。それがこの男の名前だ。額に巻いた趣味の悪いバンダナ、逆立った赤髪、顎に備わった無精髭、そして鎧武者のような格好が特徴の刀使いであり、ギルド《風林火山》のリーダーを務めている。デスゲームが始まる前にキリトと接触していたらしく、攻略会議の後によくアイツに話しかけているが、当のキリトは少し曇った顔で相手をしていた。何かあったのだろうか。

 

「──ってな感じだ。油断はしねぇが、特別心配する事はなさそうだな」

 

「だな。今日の夕方にでも会議を開いて、明日の午後にボス戦ってとこか」

 

「おうよ!」

 

よし、それじゃあやる事も終わったし、帰るか。

 

「そうだオクトよぉ。おめぇさん、例の裏ボスの話は聞いたか?」

 

またそれか…何でみんな俺が帰ろうとするとその話になるの?

 

「話って…何か新しい情報でも入ったのか?」

 

「ああ。何でも、また挑戦しようとしたバカがいたらしいんだけどな、クエストが受注出来なくなってたそうだ」

 

「……よく分からんが、考えられるのは二つだな。あのクエストが複数のパーティーで別々に受注ができない仕様で、先客がいた場合。もしくは期間限定ってとこか」

 

しかしどちらも微妙だ。前者なら数時間で受注可能になるはずだし、後者はフィールドボス相手のクエストに対しては似合わない。

 

「だよなぁ。ま、気にしてもしょうがねぇか。俺たちはひとまず明日のボス戦だ。今回もよろしく頼むぜ!」

 

「あいよ。じゃ、俺はそろそろ帰るわ」

 

そう言って、俺はランに声をかけてその場を後にした。余談だが、クラインのフレンドリーな態度は、俺は意外と嫌いじゃない。よく友好的に話しかけてくるが、下手に踏み込んでくることもない。絶妙な加減で丁度いい具合に収まっているのだ。強化版戸部とでも言ったところだろうか。もちろん、いい方向に。その人柄があっての事か、規模では劣るものの、《風林火山》は他の有力ギルドより連携が上手く機能している。なんかアレだな。一緒にラーメンとか行ってみたい。この世界でラーメン見たことないけど。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日午後三時。俺たち攻略組メンバーは、カマキリ共が陣取るボス部屋に足を踏み入れた。例の如く、俺たちの役目は取り巻き潰しだ。権力者たちはどうしてもキリトにLAを取られるのが嫌らしい。もっと平和にやろうぜ、ほんと。そんなんだから毎回手こずってキリトやアスナに助太刀されるんじゃん…。あ、ちなみに俺も一回だけLA取ったぞ。前々回のボス戦だったか、ムカデとイモムシが合体したみたいな吐き気がするほどキモいモンスターで、近寄りたくなくて遠くから投剣スキル用のピックを投げまくってたら偶然取れた。あの後キバオウにめっちゃ睨まれたなぁ…。ちなみにその時のドロップ品は今俺が着ている《コート・オブ・モスシルク》という防御属性高めのコートだ。一応そのムカデイモムシの吐く糸で作られたという設定らしい。色は名前の通り結構濃いめのモスグリーン。全体的にマジで名前のまんまだな…。設定はともかく名前に手抜き感が見て取れる。

 

「よし、みんな準備はいいな?昨日確認した通り、タンクはB隊、D隊がバフの期限やボスの動きに応じてローテーション。A隊、C隊は積極的にボスに攻撃して構わない。残りの隊は取り巻きを頼む。以上だ!何か確認したいことはあるか?」

 

問題ない。作戦に関しては全く問題ない。だが、昨日の会議からおそらく半分以上のメンバーがずっと気になっていた事がある。誰もその件に触れようとしなかったが、隣にいたハルトが手を挙げた。

 

「ごめん、一つだけいいかな。《cannibalism》の意味、あれから分かった人はいたか?」

 

沈黙。結局誰も分からなかったか。この世界のアイテムやモンスターなどは、全て日本語表記ではない。そのため読めても意味が分からない場合がたまにあり、今回もその一例だ。正直分からなくてもいいのだが、もしそれが戦闘パターンに関連してくるとなると、知っていると知っていないとでは大違いだ。そのためこうして確認の手が入ったわけだが、分からないものはいくら考えても分からない。

 

「…そうか」

 

ハルトが残念そうに手を下ろす。

 

「仕方ないさ。その件はここで忘れて、戦いに集中しよう。じゃあ、開けるぞ」

 

そう言って指揮者の男はボス部屋の扉を開け、「突撃!」と大きく叫んだ。それに合わせて、一斉に走り出す。

 

「うーん…」

 

「どうしたんだ?アスナ」

 

「思い出せそうで思い出せないのよ、あの名前の意味。何回か辞書で見たことあると思うんだけどなぁ…」

 

「この世界にも辞書置いてあれば良かったですね。でももう、考えても仕方ありませんよ」

 

「そうなんだけど…あー、スッキリしない!」

 

「落ち着けよ…。どうしてもイライラするなら、カマキリ集団に当たってくれ」

  

不機嫌そうなアスナをキリトとランが宥める。気持ちは分からないでもないが、どこまで完璧を求めてるんだコイツは。

 

愚痴を聞いている間に全員が配置につき、時を同じくしてカマキリ共が動き出した。予定した通りの動きで、タンクが鎌を受けている間に片手剣、短剣、槍を主武装とするプレイヤーが攻撃を繰り出していく。

 

そしてこちらはこちらで、相変わらずの舞踏会である。

 

「はぁッ!」

 

「せやぁッ!」

 

キリトとアスナ、二人の攻撃が炸裂し、瞬く間にマンティスの身体が砕け散る。キリトは無駄なく素早い斬撃。アスナは華麗に的確に急所を突く刺突攻撃。この情景はたぶん映像化したら金が取れるんじゃないだろうか。いつもそうだが、思わず見とれてしまう。しかしこいつらいつも口喧嘩している(というかアスナが一方的にキリトに突っかかっている)のに、戦闘時の連携は見事なんだよなぁ。不可思議現象ですぞ、タケル殿。

 

「オクト、こっちも来るぞ!」

 

ハルトの声で我に帰り、こちらに向かってくるマンティスを見据えて剣を構える。

 

「まずは俺が行くよ」

 

ハルトが駆け出し、水平に剣を振り払って一撃目をお見舞いする。続いてその手を戻す様に二撃目。下段から剣を振り上げて三撃目。その剣を振り下ろして四撃目──が繋げられるはずだったが、そこで片腕の鎌にガードされ、もう片腕を振り上げられる。その際に僅かに掠ったようで、ハルトのHPゲージが微かに減少する。

 

「オクト頼む!」

 

「了解」

 

敏捷力と筋力を惜しみなく発揮し、ハルトの身長を優に超えるほどのジャンプをして鎌を弾くため剣を払う。ガィィン、と金属同士がぶつかり合う音とともに、俺とマンティスの身体が互いに仰け反る。いつもならここから体勢を立て直すところだが、今日は、今日からは違う。

 

「ラン、スイッチ!」

 

「はい!」

 

仰け反った勢いで地面に水平にして浮いている俺の上を、ランが剣を引き気味にして飛んでいく。片手剣使いのくせに刺突攻撃が好みらしく、放物線状の落下の勢いを活かして深めの連続突きを食らわせる。そして、地面に着地すると同時にまた剣を引き、眩しいライトエフェクトを纏わせる。

 

「はあぁぁッ!」 

 

《レイジ・スパイク》がマンティスの柔らかい身体を貫通し、激しく四散させた。

 

「すごいな…とても初めてのボス戦とは思えない」

 

「ボス戦って言っても、やってる事はいつもと変わりませんからね」

 

ハルトの賞賛を受けてランは謙遜しているようだが、ボス部屋はまた空気がいつもと違うのだ。その中でいつも通りに戦えているランは、やはり凄いと俺も思う。

 

「次、来るぞ!」

 

「ランちゃん、次は私と行く?」

 

「はい!お願いします!」

 

アスナとランが次の敵に向かって走り出した。その様子を俺たち男性陣はポーションを飲みながら見ていたのだが、不意にキリトが呟いた。

  

「なんか、眼福だな」

 

「はぁ?まあ確かに美少女二人だが、やってるのは剣を使った生き物の殺害だぞ?」

 

「後でそれあの二人に言うぞ」

 

「待って、やめて」

 

「ははは…。おっと、こっちにも次が来たぞ」

 

俺たちは空になった瓶を投げ捨て、三人でマンティスに立ち向かった。俺達の戦いはここからだ!いや、終わらないよ?

 

しかし思うのだが、今回のボス戦は取り巻きの数が普段より多い気がする。倒しても頻繁にポップするもんだから、さっきみたいに無駄口叩きながら休んでられる暇はかなり少ない。裁ききれない量ではないが、長引くと集中力が乱れそうだ。

 

 

 

 

 

戦闘開始から十分ほど経ち、たった今ボスのHPゲージが残り一本となった。相変わらず下僕カマキリの数は多いが、あと二、三分もすれば終わるだろう。

 

「パターン変化来るぞ!一旦引け!」

 

一層での悲劇以来、HPバーが残り一本になったら一度引き、落ち着いて変化を見るようになった。おかげであれから死者は出ていない。

 

案の定今回もパターンが変わるようで、女王カマキリが奇声をあげる。どうでもいいが、カマキリに鳴き声はあるのだろうか。ない気がする。話が逸れたが、どうやらあの奇声には威圧効果があるらしく、足を踏ん張らないと後ろに飛ばされそうな勢いだ。さて、どう変化する…?

 

 

ボスはまだ奇声を上げているが、取り巻きのカマキリ共が女王の方へと集まり出した。味方には威圧効果が効かず、逆に集合の合図になっているのか。集団戦法に切り替わるのか?随分と単純だな。そう思ったが、ボスの動きは俺の予想とは全く異なっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女王は、下僕を喰い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…!?」

 

突然の行動に、その場にいるプレイヤー全員が固まった。今まで、ボスが配下のモンスターを食べるなどという行動に出たことはない。驚きを隠せない俺たちを他所に、女王カマキリはマンティスを喰い続ける。すると残り一本だったHPバーが二本目いっぱいまで回復し、それだけならまだしも、身体が一回り大きくなり、鎌の付いた腕が二本から六本に増えた。無茶苦茶だ…

 

「なんだよあれ…」

 

「気持ちワリィ…」

 

やっと我に返ったプレイヤーたちがざわめく。捕食シーンが妙にリアルなため、見ていると気分が悪くなってくる。ランを見ると、ギュッと目を瞑ったうえに顔を背けていた。無理もない、マジでキモいもんな、あれ。

 

「……あっ!」

 

うおぅ!ビックリした…。なんだアスナか。パーティーメンバーである俺たち含め、アスナの周りにいたプレイヤーが俺と同じようにビクッと肩を震わせた。心臓に悪いよ…

 

「なんだよ急に」

 

キリトが尋ねる。

 

「…思い出したの。というより、思い出させられたのよ。《cannibalism》の意味」

 

「…ああ、なるほどな」

 

ここまで言われたら誰でも分かるだろう。この状況から察するに、あの言葉の意味は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『共喰い』よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう告げたアスナの顔は、状況に反して嬉しそうだった。お前どんだけ思い出したかったんだよ…

 

 

 




今回は完全にオリジナル回です。戦闘描写とか結構適当になってしまいましたが、共喰いカマキリ、いかがだったでしょうか。

確かカマキリって、出産の前後(どっちだっけ?)にメスがオスを食べるんですよね。状況は違いますが、その習性を元にこの設定にしました。

次の更新はできるだけ早く出来るように頑張ります…

ではでは。
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