六駆と煙草の鎮守府   作:久要平生

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煙草は二十歳になってから(再三)

響は提督に依存する姿が似合う

電ちゃんは見た目と中身が破綻する可愛い


セブンスター、JPS、アメスピ

 

 

「またここに一服しに来ていたのか、司令官」

 

 いつものように穏やかに広がる水平線を眺めながらセブンスターを燻らせていると、背後から声をかけられた。

 

「……なんだ、響か」

 

 顔だけそちらに向けて確認し、しかしすぐ目線を海へ戻した。雷と違って、響はお説教をしにここまで来たわけではない。寧ろ俺が誘ったと言っても良い。

 

「なんだとはご挨拶だな。いつもいつもフラフラとどこかへ行ってしまう司令官を探す私の身になって欲しいね」

 

「それに、屋上は立入禁止だと言ってるじゃないか」

 

 知らんな。とぶっきらぼうに返すと響は大仰に溜め息を吐いた。

 

「はぁ、まったく」

 

「困った司令官だ……っと」

 

 やれやれと言った風に、しかし彼女は俺の隣に腰を下ろした。視界の隅で、海風になびく銀白の髪が、傾き始めた陽を反射してキラキラと輝いて見えた。

 

「……隣に座ると臭いが移るぞ」

 

 今更言う必要もない忠告も当然鼻で笑われる。

 

「は、分かっててそう言ってるんだろう?」

 

 まあな……。

 

「寒いだろ、もっと寄れ」

 

 季節はとうに冬。スカート着用の響には風が肌に痛い程に冷たいはずだ。

 

「あぁ、寒いな。分かっているなら中に入ればいいんじゃあないか?」

 

 屋上の入り口を顎で指しながら言われたが、その発言した本人にその気は無いだろうに。お互いに本心を赤裸々にさらけ出すのか恥ずかしくて、こうやって茶番を演じている。

 

「……冗談だよ」

 

 黙っていると、先に響が折れた。

 

「膝の上に……良いかな」

 

 

 

「……暖かいな、司令官は」

 

 今、俺がかいた胡座の上に響が座り、更に俺の白い上着を二人羽織りしている。そうしながら、響が襟のバッヂを手で弄ぶ。

 

 その歳で冷え性か?からかう様に投げかけた言葉に、彼女は軽く笑って返した。

 

「相変わらず失礼だな君は」

 

「……頭が煙草臭くなりそうだ」

 

 響の後頭部は、身長差から俺の顎あたりにある。当然煙を吹きかける形になってしまう訳で。

 

「まぁ、嫌いではないよ」

 

「モノ好きな奴だ」

 

「私なんかに気をかける司令官も大概だがね」

 

「まあな」

 

 

 

 

 

「……吸い終わったかい?」

 

 ああ。吸殻をモモの缶詰めの空缶に投げ入れ、相槌を打つ。

 

 これがいつもの合図。

 

 

 響が顔をこちらに向ける。顎をくい、と上げ目を瞑って、何かを待つように……。

 

「……ん」

 

 親が愛娘にするような、優しいキス。

 

「……煙草臭いね」

 

「……私の息も……煙草臭くなってしまうかな」

 

 嬉しそうに、そう言う。

 

「ふふ……暁に勘違いされて怒られてしまいそうだ」

 

 倒錯している、と非難されても仕方ない。

 

「……少しは心配してくれても罰は当たらないよ」

 

「今更な話だ。それに響が吸おうが吸うまいが、電はあんなだからな」

 

 歪んでしまっているのだ。

 

「確かにその通りだ。昨日も3カートン程買い込んでいたのを見たよ」

 

「得た金の殆どを注ぎ込んでいるんじゃないのか、あれ」

 

「かもね……」

 

 最早、どうにもならない程に。

 

 

 

「……」

 

「どうした」

 

「もう一度、いいかな」

 

 妬いたのか。自らの姉妹の話であっても。いや、だから尚更なのだろう。

 

 わざとらしく怒ったふりをする響。

 

「あぁ、そうだ。私は嫉妬深いんだ。二人きりの時に私達以外のヒトの話を聞きたくはないな」

 

「……なんてな」

 

 一転、破顔してそう言うが、その瞳の奥には仄暗い情念の炎を灯していた。今では慣れてしまったが、初めはぞっとしたものだ。

 

「誤魔化せてないぞ」

 

 あえて軽く返す。俺も彼女自身も、全て理解した上での言動。いつかこの関係が破綻する事など承知の上で、しかし、今の小康状態を甘んじて享受しているに過ぎない。

 

「五月蝿い。……顔、寄せて。遠い」

 

 はいはい、と雑に返し背を曲げる。

 

「面倒臭そうなのを隠しもしないんだね。まぁいいけど……んむっ」

 

 喧しいお姫様を口を塞いで黙らせる。

 

「……あっ、む。ちょっと、待ってくれ……舌、は……」

 

 悪戯心に、いきなり口内に舌を侵入させる。油断していたのか歯で防がれることはなかったが、驚きに目を見開いている。

 

 いつもはポーカーフェイスだから、そういった感情的な表情に僅かな優越感を覚える。

 

「まっ、ほほろのじゅんびら……ぷぁ、あむっ……ん」

 

 この驚いた顔は、普段隠された、俺によって露見した表情なのだ、と。

 

 

 

 

 

「……非道い人だ」

 

 そんなことを数分続けたら、口を離した途端にじろりと睨まれた。油断している方が悪い。

 

「言ってくれるじゃないか。次は私が主導権を握ってあげるからね。覚悟しているといいよ」

 

 主導権ねえ……何の主導権を握るんだ。言ってみろ。

 

「それは、まぁ、その……あれだ、うん」

 

 自分から言い出しておいて、問い詰めると頬を朱に染める。こんな質問で顔赤くするようなウブな間柄でもなかろうに。

 

「五月蝿いな。不意打ちに弱いんだ。分かっているだろう」

 

 さあな。

 

「はぁ……そろそろ戻ろう。流石に長居しすぎた。指先が凍りそうだ」

 

「ああ、そうだな」

 

「言いながら次の煙草を出すんじゃない」

 

 ちっ。大袈裟に舌打ちし、煙草を仕舞う。

 

「困った人だよ、まったく……」

 

「さぁ、戻ろう。雷が心配している」

 

 

 

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 

「あっ、司令官!それに響も!どこに行ってたのよもう!書類溜まってるんだからね!」

 

「Я сожалею、すまない」

 

 まったくだな。サボタージュとは頂けんな。

 

「私は司令官に怒ってるの!」

 

 コントじみたいつものやり取りに満足したのでからかうのをやめ、分かった分かったといなす。

 

「一時間で仕上げるから許せ」

 

 勿論俺一人でではなく、響と二人でこなしての一時間である。じとりとした視線を感じるが気にしない。

 

「最初からそうしなさいよね!」

 

 まだプリプリと怒る雷に響が苦笑する。

 

「雷……матьみたいだ」

 

「まー……なんて?」

 

 お母さんみたいだ、とのことだ。ロシア語は簡単な単語しか分からないが、響はそれを知っててあえて俺が分かるレベルの言葉をたまに使う。

 

「お母さんて……たしかに、司令官は手のかかる子供みたいなものよね」

 

 失礼な話だが実際そうだから言い返せない。

 

「でも、見た目で言えば私は娘だし、歳で言えばおばあちゃんよ?」

 

 俺に聞くな。

 

「鈍いね、司令官は」

 

「全くだわ」

 

 呆れたように言われても、今ので何を察しろと。俺に女心は分からん。

 

「もういいわ。そんなことよりさっさと執務に取り掛かってね」

 

「ああ、まかせろ」

 

 

 

 

 

「疑問なんだが、執務中でも吸うのなら、わざわざ他の場所に吸いに行く必要はないのではなかろうか?」

 

 書類に判を捺していると、不意にそう質問された。

 

「と言うより、吸いながらだと書類に臭いが移ってしまうよ」

 

「あぁ、今思い出したんだが、この前伝令の人に書類が煙草臭いと言われたんだった」

 

「書類の臭いなんて分からんだろ」

 

 紙に付着する臭いなんてたかが知れてるのではなかろうか。

 

「意外と分かるものだよ。吸っていない人は特にね」

 

「そんなものか」

 

「そんなものさ」

 

「そか」

 

 机に置かれたJPSの箱から、一本取り出し火をつける。

 

「やめる気は無さそうだね」

 

 まあな。

 

 それに、俺が何処か別の場所に一服しに行く事で得があるのは俺ではなくむしろ響だろう。

 

「そんなことは……ある、ね。偽っても仕方ないな」

 

「嘘吐いても分かるしな」

 

「それは嘘だね。今まで吐いた嘘が……と言っても数えるほどしか無いけど……他の子にバレたことは無いよ」

 

「俺には分かるんだよ、俺には」

 

「司令官は特別だとでも?」

 

「特別だろ……響にとって」

 

 勿論、俺にとってもお前は特別だ。と続け、ニヒルに笑う。

 

「よくそんな歯の浮くような事を言えるね」

 

「浮かれているからな」

 

「上手いこと言ったつもりだろうけど、今のは酷いよ」

 

 いつも通りだろう。今に始まったことでもない。

 

「それもそうだね」

 

 

 

 

 

「疑問なんだが、何故火災報知器が作動しないんだい?」

 

 暫くして、再び質問される。

 

「吸いすぎで部屋に雲が出来ているんだけど。壊れてるんじゃないのかい?」

 

 天井を仰ぎ見る。白い火災報知器が部屋の中央に設置してある。たまに赤いランプが点滅し、正常に作動していることを伝えていた。だが、

 

「執務室のはダミーだからな。すり替えておいた」

 

 まだ響が建造されていない頃の話だ。知らなくても無理はない。

 

「いや、それは……流石にどうかと思うよ」

 

「雷も認めてるから大丈夫だ」

 

「たぶん認めてるんじゃなくて諦めてるんじゃないかな」

 

 物は言いようだな。

 

「それを自分から言っているようでは世話ないね」

 

 

 

 

 

「さて、そろそろこっちは終わるよ」

 

「ああ、俺の分ももう終わる」

 

「……まさか、タイミング合わせてたのかい?」

 

 ばれた。適当に誤魔化すとしよう。

 

「ま、最期は一緒がいいだろう?」

 

「下品なネタは頷けないな」

 

 睨まれた。流石に今のはよろしくないか。すまん、と素直に謝る。

 

「まあ良いけど……早く終わらせられるなら、私の分も少し貰ってくれればもっと早く終わるのに」

 

「善処しよう」

 

 笑顔でそう返す。

 

「その気はゼロのようだね」

 

 分かっていた事だろうに。

 

「まぁね」

 

 

 

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 

「電及び暁、帰投したのです」

 

「帰ったわ。今回も完璧な戦果よ!褒めても良いのよ?」

 

 だるそうな声の電といつも通り賑やかな暁が執務室に並んで入ってくる。

 

「お疲れ様。いつも通り風呂沸かしてあるからな」

 

 二人の頭を撫でながらの会話。

 

「もう、いいって言ってるのに。被弾も無いのよ?」

 

 ニコニコ顔の暁と反対に、電は一瞬目を鋭く細め、数歩下がった位置に立つ響を一瞥した。

 

 恐らく俺の身体から響の匂いを感じ取ったのだろう。ヘビースモーカーなのに良く鼻が利くものだと思う。

 

 一方で響はどこ吹く風だ。

 

「入リたくないならいいが、潮風で髪が痛むぞ」

 

「あっ、そ、それは困るわね……じゃあ、お言葉に甘えて。もちろん、電も入るわよ?」

 

「え?」

 

「えっ」

 

 完全に自分は無関係だと思い込んでいたのか、電は何を言ってるのか分からないとでもいうようなすっとぼけた声をあげる。暁も断られるのは意外だったらしく、こちらは驚きの声を発した。

 

「あぁ、後で行くのです。先行ってて下さい」

 

 誰が見ても明らかな口だけの約束だったが、そこは暁。疑いもせずにそれを鵜呑みにする。

 

「あ、うん。じゃあ、暁は先行ってるからね。絶対に来てよね!私一人じゃ怖……じゃなくて、電も髪を労らないと駄目よ?」

 

「なのです」

 

 

 

 とたとたと暁が去り、しかし電は残る。

 

「体よく追っ払ったな。何かあるのか」

 

「司令官さんには筒抜けなのですね。ま、今更なのですが……」

 

 電の双眸が先程のように細く尖る。

 

「話と言っても大層な事でもないのです……電達が行っている遠征、簡単すぎではありませんか?」

 

「遠征と言うには余りにも近場しか行ってないのです。練度から考えてももっと遠くに行って良いかと」

 

 それはそうだ。彼女達に行かせてるのは、要はただのパトロールだ。必然的に近場になる。それに……

 

「お前、戦いたいだけだろ」

 

 電の事は俺が最も理解している。

 

「さぁ、何のことなのです」

 

 核心を突いた筈の問いにも、電はニヤリと口角を上げるだけで動揺もしない。

 

「司令官さんの考えは分かりませんが……そうですね、暁ちゃんはもっと経験を積ませた方が良いのでは?」

 

 嘘だ。俺が電を知っているように、電も俺を知り尽くしている。その上でこの発言だ。

 

「今のままではいざって時に役に立たない可能性も考えられるのです」

 

 半分は本心だろう。もう半分は録でもない理由だろうが。

 

「実の姉にきつい奴だな。まだ暁には早いんだよ」

 

「ま、さっさと経験積ませようとした結果が電や響ちゃんなのですから、気持ちは察しますが」

 

「存外、甘い男なのですね。司令官さんは」

 

 言ってろ。

 

「じゃ、また後で。なのです」

 

 雑な挨拶と共に、暁の向かった方向とは逆に歩きだす電。

 

「そっちは風呂場じゃないぞ」

 

「お仕事の後の一服なのです。何か問題でも?」

 

「暁が泣いてるぞ」

 

「電は司令官さんと違って甘やかす気は無いのですよ。では失礼します」

 

 こちらを振り返りもせずにアメスピを持った手を振り、電は歩き去った。

 

 

 

 

 

 ……はあ。

 

「大変そうだね」

 

 俺と電のやり取りを静観していた響がようやく口を開く。お前も電と似たようなもんだろうが。

 

「それもそうだね。ふふっ」

 

 二人とも、俺に似たのか、それとも元からこうなのか……困った連中だ。

 

「私達がおかしいんじゃなくて暁や雷がマトモすぎるだけじゃないか?」

 

 かもな。

 

「少なくとも、私は司令官と似た者同士なのは嬉しいよ」

 

「はぁ……」

 

 マトモに答える気も失せ、溜め息で返すのだった。

 




地の文付けたらめちゃ長くなった
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