提督と利根さん、とか。   作:zero-45

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じゅうななにちめ

 

 

「のぉ提督よ」

 

「何だ利根」

 

「お主は何をしておるのじゃ?」

 

「あん? 何をって見て分かんねーか? インナー縫ってんだよ」

 

「インナー……とは、下着の事かの? 何でお主が下着なんぞを手縫いしておるのじゃ? それすら買えん程ウチは財政が逼迫(ひっぱく)しておるのか?」

 

「いや下着じゃなくてインナーだっつーの、ちょっと事情があってな、吸水性素材でコレ作らなきゃなんねーんだよ」

 

「また事情が出おった……と言うかインナーも下着も同じ物ではないのか? 吸水性素材……とは汗をこう、普通の布よりも多く吸収してくれる素材じゃったか」

 

「そそそ、今使ってるこの布は元々潜水服の内側に張り付いてるヤツで、むっちゃ水分を吸収してくれんだよ、ゲンさんに使わなくなった作業用のウエットスーツを分けて貰ってよ、そいつから引っぺがしたヤツで作ってんだ」

 

「ふむ? ウエットスーツの中張りじゃと? で? そんな物を継ぎ接ぎして何を作るつもりなんじゃ」

 

「だから言ってるじゃねーか、インナーだって、着ぐるみの」

 

「……のぉ提督よ」

 

「あんだよさっきから提督提督って提督の大安売りみてーによ」

 

「我輩は今着ぐるみという海軍とは物凄く剥離した名称を初めて聞いた気がするのじゃが、それは気のせいじゃったかの?」

 

「あん? 何がどう気のせいだって? いやこれ着ぐるみ着る時に着用するインナーだけど、それがどうした?」

 

「それがどうしたとかお主こそどうしたのじゃ!? 何で海軍の拠点で司令長官ともあろう者が着ぐるみのインナーという微妙に一般的じゃないブツな上に軍務とは掛け離れたモンなんぞをこさえておるのじゃ!? ぜんっぜん海軍との繋がりが見えてこんぞ!?」

 

「あーそれな、事情があるっつったろ?」

 

「……何じゃその事情って、言うてみよ」

 

「それな、この前村にリターン就職で二世帯程若い夫婦が越してきたっつったろ?」

 

「言うておったの」

 

「んでそこにはガキんちょがいるっつったろ?」

 

「うむ、言うておったの、あの対テロ用バルカンファランクス装備の狂ったジャパ○バスはその者達を送迎する為にこさえたんじゃったか」

 

「おう、んでな、そこのガキ共が通う幼稚園なんだけどよ、何か色々催しモンとかする時だけでもいいから、保護者に協力して貰えないかって通知が来たらしいんだよ」

 

「協力て、どういう事なのじゃそれは」

 

「んや、そこってここいらじゃ唯一の幼稚園らしいんだが、少子化の煽りを受けてて預かる子供が減ってきてるらしくてな、財政が結構厳しいらしいんだよな」

 

「ふむ、まぁあそこも町と言うにはギリギリの規模じゃしのう、その辺りは苦しいのかも知れんの」

 

「まぁな、んで一応村からは幾らか寄付って形で支援はするそうなんだが、ほらウチって現生(ゲンナマ)がねーだろ?、だからその寄付は捻出できねぇしよ」

 

「あー……何で海軍拠点のウチが幼稚園の支援をと言いたいが、まぁ地域密着型拠点を目指すってこの前お主は言うておったしの、それでゼニ以外の面で何か支援をしようと?」

 

「まぁそういう感じだ、んで何か現生(ゲンナマ)以外で欲しいモンあるかって聞いてみたんだがよ、お遊戯とか運動会で使うマスコット的な何かとか、そんな感じの物が欲しいってリクエストがあったモンでな」

 

「ああそこで着ぐるみに繋がるのじゃな、なる程のぅ」

 

「んであの手のヤツって着たまんま動くのって結構ハードでな、特に汗対策とかはちゃんとしとかねーとすぐ中がビショビショになるし、カビちまって長く使えねぇ」

 

「ふむふむ、だから吸水性のインナーなのじゃな、して、お主は着ぐるみの製作をしておるのじゃろう? 何の着ぐるみを作っておるのじゃ?」

 

「熊」

 

「……ほぉ熊か、まぁあの手のマスコットには定番のチョイスじゃの、してそこのインナーは複数枚あるようじゃがその着ぐるみは一つでは無いのじゃろ?」

 

「ああ、取り敢えず二体用意して、インナーは予備含めて5枚かなって考えてる」

 

「ほぉ二体か、それで? 熊の他は何の着ぐるみを作っておるのじゃ?」

 

「熊」

 

「……うん? それはさっき聞いたのじゃが、熊と何の着ぐるみなのじゃ?」

 

「だから熊つってんだろ、熊と熊の着ぐるみ、二体の熊だよ」

 

「あー……それはもしやその幼稚園が熊に因んだ名称であったり、一体はオスでもう一体はメスとかのセットとか、そんな風味の感じなのかの?」

 

「あ? いや幼稚園の名前はひよこ園っつー名前だし、熊は二匹ともオスだが?」

 

「はぁ? 何でそんな熊に熊を被せるよーな事をしておるのじゃ?」

 

「あ? んなモン材料の都合で仕方なしにだな、ほらそこにあるだろ?」

 

「材料の都合? ってうーわ怖っ!? 何じゃこれはまごうこと無きリアルな熊……て言うか提督よ」

 

「ん? 何だ?」

 

「これってもしやお主が仕留めた熊の毛皮を使(つこ)うて作っておるのではないのか?……」

 

「おう、狩った熊から剥いだ毛皮で着ぐるみを作ってみた、両方ともオスだったからダブっちまったがそこはまぁ仕方ねーって諦めてもらうしかねーな」

 

「待て待て待て待て、お主コレ幼稚園のマスコットとして使うのじゃろ?」

 

「おう」

 

「て言うか、いたいけな幼児の前に出すにはこの熊はリアルが過ぎるじゃろ!? こんなのが幼稚園で徘徊しとるの見たら子供がトラウマになってしまうわバカもんが!」

 

「何だよさっきからワーワーうっせぇな、ちゃんとその辺りは事前リサーチしてっから大丈夫だっつーの」

 

「……事前リサーチ?」

 

「おう、本格的に作る前にな、頭だけ作って是留舵(ぜるだ)紗音瑠(しゃねる)に見せてみたんだがよ」

 

「何じゃそのゼルダとシャネルて」

 

「あん? いやそりゃ村に越してきた田中家の長男長女の名前だけど?」

 

是留舵(ぜるだ)紗音瑠(しゃねる)って子供の名じゃったのか……何と言うか……うん、そうか……それはまた……うん」

 

「ん? 何だどうしたいやにびっみょーなツラして」

 

「ああいや何でもない……それで? その子供に熊の頭を見せてみたと?」

 

「おお、したらよ、紗音瑠(しゃねる)はカワイイって頭に抱き付いてスリスリしてたし」

 

「カ……カワイイじゃと? このモノホンを使用した熊の頭をか?」

 

「おお、んで是留舵(ぜるだ)なんかは「今からサッカーしようぜ、ボールはこの熊な」つって蹴り始めるしよ」

 

「大丈夫かその是留舵(ぜるだ)!? どんな幼稚園児なんじゃそれは暴力的にも程があるぞ!?」

 

「まぁあの辺りの年頃ってヤンチャなモンだからなぁ」

 

「ヤンチャで済ますには色々とおかしかろその幼稚園児!? て言うかあの修羅の村の血筋じゃからそんな感じじゃないのか!? どうなんじゃその辺り!?」

 

「あ? いやお前が何言ってるのか分かんねーけど、ゲンさんとかおトヨさんとかからのウケも良かったしよ、まぁ着ぐるみに関しては大丈夫なんじゃね?」

 

「やっぱ血筋じゃろそれ!?」

 

「んでよ、今度何匹か仕留めてくるから追加で作ってくれって言われたから、これの他にまだ何枚かインナー作っとかなきゃいけねーんだよなぁ」

 

「追加!? 仕留める!? 何を!?」

 

「ん? 熊だろ?」

 

「それで着ぐるみ使って何をするのじゃ!?」

 

「あん? いや漁協のマスコットとして地域活性化とかなんとか、ゲンさん達がやるっつってたな」

 

「リアル熊がマスコットの漁業協同組合てお魚要素が皆無ではないか!? 色々とおかしかろ!?」

 

「何か人を呼び込む為に産地直送の朝市とか計画してるらしいぞ、第八亀丸の連中が中心で」

 

「……黒騎士が売り子で、かつリアルの熊がマスコットとして練り歩く朝市とか我輩想像が追いつかんのじゃが……」

 

「バイト料は弾むって言われたから、朝市の時は業務が昼からになっちまいそうだよな」

 

「バイト? 何がじゃ?」

 

「あ? 熊の中身だよ、夏は養殖中心だから冬みたいな漁のバイトは少ないし、まぁ仕方ねーよな」

 

「バイトするのが当然みたいな前提で話をするのはやめんか! 何じゃ中身て!」

 

「あ? 熊の中身だよ」

 

「言わんでも分かるわそんなもん! 何で海軍の提督ともあろう者が黒騎士市場で熊の着ぐるみバイトなんぞせんとならんのじゃ!」

 

「うっせーな! お前バイトしねーとお魚が食卓から消えちまうんだぞ? それ理解してんのか?」

 

「お主この前肉肉言うておったじゃろ!? 今度は魚とか変わり身が早過ぎじゃろーが!」

 

「ばっかお前肉だけじゃ栄養バランス取れねーだろーが! 魚にはドコサヘキサエン酸が含まれてんだぞ! 魚食わねーとバカになるんだぞ!」

 

「……そう言えばお主昨日なんぞTVショッピングで怪しいサプリのCMをマジマジと見ておったの、またヘンな物に影響されおったか!」

 

「ドコサヘキサエン酸のどこが変だっつーんだよ」

 

「ヘンなのはDHAじゃのーてお主の頭の中身じゃ! いつもいつもTVとかDVDの影響モロに受けておるでは無いか!」

 

「ってお魚はな! DHA摂取だけじゃなくて物々交換の通貨としても使うんだぞ! ウチはお魚とかお肉が枯渇すると食卓が寂しくなるだけじゃなくて福利厚生とかも薄っぺらくなっちまうんだからな!」

 

「福利厚生って何じゃ! そんなもんウチには無かろーが!」

 

「いやDVDの購入費とか」

 

「それはお主の趣味じゃろうが」

 

「おやつのケーキの材料とか」

 

「それは大事じゃ、うん、それならお魚とかお肉の確保はせんといかんの」

 

「だろ?」

 

「て言うか提督よ、今作ってるインナーじゃがの、それ何ぞ他のと造詣が違っておるようじゃが……」

 

「あん? ああこれはお前用のヤツだ」

 

「……何で我輩用のブツが用意されとるのじゃ」

 

「うん? いや今度の幼稚園のバザー俺一人だけじゃ熊一匹だけになるだろ」

 

「待つのじゃ! 何で我輩も参加枠に計上されとるじゃ!?」

 

「子供に夢を与えるのも軍人の務めだぞ、利根」

 

「なんでいきなり正論をぶちかますんじゃお主は! むしろこんなリアルベアーは村民以外から見れば恐怖の対象にしかならんわっ!」

 

「あ、ついでに軍の広報がその触れ合い活動取材しに来るつってたから」

 

「は? 広報? 取材?」

 

「おう、先輩とこに肉送った時に世間話でこの事言ったらよ、折角だからって広報の青葉よこすってよ」

 

「サブロォォォォオオオオオォォォォ!」 

 

 

 


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