提督と利根さん、とか。   作:zero-45

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はつかめ

 

「のう提督よ、ちょっと聞きたい事があるのじゃが」

 

「なんだ利根? 今ちっと手が離せないんだけどよ」

 

「いやその有様を見てたら何となく忙しそうなのは理解出来るんじゃが、敢えて聞かせて貰おう、お主は何をしておるのじゃ?」

 

「あ? 見て分かんねーか? サンタ衣装を縫ってんだよ」

 

「やっぱりか……やたら真っ赤で目に優しくない布でなにやらチクチクやっておると思ったが、やはりサンタ衣装なのか……」

 

「おう、ちょっとした事情があってだな、どうしてもサンタ衣装を作らなきゃならなくなった」

 

「また事情が来おったか、先に言うておくが我輩はそんなの着んからな、絶対着んからな」

 

「あぁ? 誰がお前用だっつったんだよ、これは俺用の衣装だっつーんだ」

 

「……提督用とな? 何故お主がサンタ衣装を着らんといかんのじゃ?」

 

「うん? あーこの前よ、ひよこ園のバサーに参加しただろ?」

 

「あぁアレな……クソ熱い炎天下の下でリアル熊の着ぐるみ着せられて、我輩死ぬかと思ったぞ」

 

「あれが色々ウケたらしくてな、今度のクリスマス会もぜひサンタとして参加してくれないかってリクエストがあってな」

 

「なる程の、確かにそういう会ならガタイの良いお主がサンタとして参加するのは納得じゃ」

 

「あ? 何言ってんだ? お前も参加すんだよ」

 

「……なんじゃと?」

 

「だーかーらぁ、ひよこ園のクリスマス会、お前も参加するんだって」

 

「待つのじゃ、サンタは提督がするのじゃろ? なら我輩が参加せんでもメンツは足りとるではないか、もしやダブルサンタとかそういう企画を考えておるのか?」

 

「ばっかおめーサンタって言ったらジジイだろ? ババアがサンタなんて聞いた事もねぇよ」

 

「何じゃババアて! 我輩そんなに年は食っておらんわっ! てかサンタじゃなければ我輩はどういうポジで参加すると言うのじゃ!」

 

「あーそれな、お前の衣装は既に用意してある、ほらそこに」

 

「そこ? そこってこの不自然に白い布を被せたこれか……ってうーわ! 何じゃこの……やたらと可愛気の皆無な……鹿?」

 

「ああ、このヘンってトナカイなんぞ居ねぇからな、この前狩った鹿の毛皮をちょっと細工してだな、トナカイ的な着ぐるみを作ってみた」

 

「待つのじゃ! そこで何故リアル鹿を使ったのじゃ!? そこはもっとデフォルメしたファンシー的な何かとか、夢のある造詣の物を作れば良かろうが!」

 

「ばっかお前最近のガキは目が肥えてんだよ、ヘタに作り物臭いモン持ち込んだら場が興ざめになっちまうだろうが」

 

「こんなリアル鹿を持ち込む方がドン引きで興ざめになるじゃろうがっ! お主忘れたのか? この前のバザーで通報されて、警察と猟友会が幼稚園に出動してきた事を!」

 

「あれ結局誤解だったっつって、最後は笑い話で済んだじゃねーか」

 

「猟師のおっさん連中は皆微妙な顔してただけで、誰も笑っておらんかったわっ!」

 

「警察からもお咎めは無かっただろ?」

 

「海軍の提督だから多目に見られただけじゃバカモンがっ! 普通幼稚園に熊が出没したら警告無しで射殺されても文句は言えんのじゃぞ、ほんにその辺り考えてから行動せよといつも言うておろうが……」

 

「うん? あーたかが38口径なんぞ喰らっても屁でもないだろーが」

 

「艦娘の我輩ならいざ知らず、人間の提督が言うのはどうなのじゃそれは」

 

「実際本当の話なんだから仕方ねーだろ、てかそれよりそのトナカイの着ぐるみ、フィッティングはしとけよ? 後で寸法直ししないといけねーんだからよ」

 

「フィッティングってなんじゃフィッティングって……ていうか提督よ」

 

「ん? どした利根」

 

「これ……リアルなのは鹿皮使ってるからしょうがないのじゃが、何故に二足歩行タイプになっとるのじゃ」

 

「あ? お前足四本あんのか? ねーだろ? だったらそういう改造は必要じゃねーか」

 

「て言うかモノがリアルなだけにこの改造はキモいわっ! しかもリアル鹿頭の下から我輩の顔が出るタイプにしておるがの、これどう見ても悪魔崇拝のサバト的な参加者に見えてヤバいとは思わんのかっ!」

 

「一々うっせーなぁ、その辺りカワイイ的な細工はしてあっから安心しろ」

 

「……カワイイ的な細工とな?」

 

「おう、その鼻の部分ちょっと押してみ」

 

「む? 鼻の部分だけ妙に意味あり気に膨らんでおると思ったらこれはスイッチになっとったのか? ってうーわ! 何じゃこれ鼻が赤く光っておるぞ!」

 

「サンタのトナカイって言えば赤鼻だって昔から決まってるからな、その辺り再現する為鼻の部分にLEDを仕込んでおいた」

 

「仕込んでおいたじゃないわっ! お主コレを見て何も感じんのかっ!」

 

「あ? なにがだよ?」

 

「モノホンの鹿の鼻が赤く光るんじゃぞ…… 変にギミック仕込んだりしたら逆にホラーじゃろうが……」

 

「因みにもう一度鼻を押すと、レインボーに輝く仕様になっている」

 

「変なトコに気遣いせんでも良いわっ! 何でリアル鹿フェイスの鼻が七色に輝かねばならんのじゃ! 色々とおかしかろうがっ!」

 

「光量調節も出来るからな、部屋を暗くすると辺りをライト的に七色に照らす事も可能だ」

 

「鹿の鼻で三段オチにせんでも良いわっ!」

 

「本当はもっと手が込んだ仕掛けを仕込みたかったんだけどな、まだ作らにゃならんモンが多くて手間を掛けらんねーんだよ」

 

「これ以上変な仕掛けは仕込まんで良いわ…… てか他に作る物? まだ何か用意する物があるのか?」

 

「ああ、この前の熊の着ぐるみ、ゲンさんトコの朝市で好評だっただろ?」

 

「あれな…… 子供に蹴られるわ、やたらと写真強要されるわ散々じゃったぞ……」

 

「それでよ、今回はクリスマス衣装ってんで、サンタ衣装も売り子の分作らなきゃなんなくなったんだよ」

 

「魚市場の朝市でサンタがブリを売りさばくのか、想像したら何やらシュールな絵面(えづら)じゃのぅ、しかしまぁ黒騎士が売り子をするよりも幾分マシかも知れんな」

 

「あ? 何言ってんだお前、フルプレートは猟師衣装なだけで、サンタコスとは別じゃねーか」

 

「何じゃそれは、お主らの衣装とかコスに対する基準が今一我輩には理解ができんぞ」

 

「だーかーらぁ、フルプレートは仕事する時の制服、サンタ衣装はその上に着込む特別なコスチュームなんだよ」

 

「……提督、ちょっと確認させてくれんかの」

 

「あ? 何を?」

 

「先ずあの漆黒のフルプレートが漁師連中の仕事着じゃと」

 

「第八亀丸船員のユニホームな」

 

「ああもう亀とかその辺りはどうでも良いわ、で? サンタのコスチュームはそれ以外の特別な衣装と言うことで良いのかの?」

 

「そうだな」

 

「で? その漁師共は当日、どういう形でそのサンタ衣装を着るのじゃ?」

 

「は? どう着るってどういう意味だよ?」

 

「そのまんまじゃ、見た目がどうなっとるのかを聞いておる」

 

「あー、いつもの格好に、サンタコスを羽織って……」

 

「何で朝市であヤツらはフルプレート装備して、その上からサンタコス被ってブリを売る必要があるのじゃ……」

 

「ブリだけじゃねーぞ、正月前だから養殖のヒラメとかその辺りの高級魚も並ぶからな」

 

「誰が取り扱い魚類の話をしておると言うのじゃ! どこの世界に黒騎士がサンタになって魚をラッシャイセーするんじゃと聞いておるんじゃ! 色々と盛り過ぎじゃろうが!」

 

「まぁ最近あの手の朝市じゃインパクトが無いと人が集まらねぇって話だし、色々苦労はしてんだろうな」

 

「その苦労の方向性が迷子になっておると、何故お主らは気付かんのか……」

 

「てかサンタコスで思い出した、お前去年のプレゼント、一度も着なかったろ」

 

「当たり前じゃ、何じゃあのサンタ衣装は……前だけ長くて後ろがマイクロミニて……」

 

「それでな、既製品に手ぇ加えるのも気が退けたんだが、気に入らねぇなら仕方ねぇって事で仕立て直したから」

 

「……なんじゃと? 作り直したのか?」

 

「おう、その辺りどうすればいいかデザイン的なモンをセンパイとこに連絡して聞いてみたんだけどよ、いっそ前も後ろと丈を揃えてみたらどうかって事で、超マイクロミニにしておいたから、あ、それとそれ用の絆創膏はこれな、型紙と一緒に届いたから」

 

「サブロォォォォォォォォォォオオオオオ!」

 

 

 


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