「のう提督よ、ちょっといいかの?」
「あん? どうした利根」
「ちょっと買い物に行こうと思ってガレージに行ったのじゃが、我輩の車が消えておっての、もしやお主何かまたやっておるのか?」
「ああそれな、ちょっと事情があって色々整備してたんだけどよ」
「のう提督よ、いい加減その事情があってというワンパターンは我輩そろそろどうかと思うのじゃが……して? 何がどうなっとるのかの説明は聞かせて貰えるんじゃろうの?」
「おう、ほらこの前お前の車改装しただろ?」
「うむ、あの無駄にタイヤがくそデカイチョ〇Q的なアレじゃな」
「それそれ、実はあれタイヤはデカくしてたけど、エンジンはノーマルのオート三輪のままだったんだよ」
「ふむ、まぁあの車体のサイズじゃと積めるエンジンの大きさは限られてくるのは道理じゃの」
「でよ、動力に対して駆動軸やら動輪が大き過ぎてよ、エンジンがパーになっちまった」
「そりゃあんな単車に毛が生えたような古いエンジンを使こうて軍用車両染みたタイヤを転がそうとしたら、まぁそうなるのも当たり前じゃな」
「だから修理するよりいっそハイパワーのエンジンを積んだ方がいいって事で、色々作り直してた訳だ」
「作りなおしとか何をしとるのじゃそれは……して、車は今乗れる状態になっておるのか?」
「おう、もう完成はしたんだけどよ、ちっと忙しくて俺が作業してる暇が無かったから、今回はイッポリートがその辺り担当したから」
「ほぉ? 今回は妖精さんが整備したのか、それじゃお主がやるよりも安心できるの」
「……あのな、利根、そろそろお前も現実っつーもんを直視しろよ、妖精なんぞこの世には居ないし、しつこく妖精妖精言ってっとアイツらだってあんまいい顔しねーぞ?」
「その言葉はそっくりそのまま返すわバカモンがっ! いい加減お主もあ奴らの見た目とか異常性を認識してじゃな……」
「だーかーらぁぁ、な? どこの世界に納豆とかしめ鯖大好きな妖精なんぞ居るんだよ、ファンタジー要素皆無じゃねーか」
「随分渋い趣味しとるのイッポリート!? てかはいはいもういいわ、この事を言いだしたらいつまで経っても話が終わらん、して我輩の車はどこにあるんじゃ? 早く買い物に行きたいのじゃ」
「ああ車な、工廠の中にあるだろ、ほれ」
「うむ、それじゃ早速……ってのう提督よ」
「あん? どした?」
「ちょっと聞いてもいいかの、このボンネットからの……上半分はみ出しとるこの物体はなんなのじゃ?」
「あ? 何だってそりゃぁエンジンだろ?」
「我輩何と言うか、物凄くこの物体に見覚えがある気がするんじゃが……これはもしや」
「栄21型、OHV14気筒星型エンジンだな、因みに馬力は1150PSあっから、これでモンスタータイヤ履いてても走行は余裕だぜ?」
「余裕だぜ? じゃないわっ!? 何でオート三輪に零戦のエンジンが乗っかっとるのじゃ!? 何でこんな代物を車に積もうと思ったのじゃ!?」
「ん? ああそれイッポリートって何でか戦闘機のレシプロエンジンしか知らないらしくてな、まぁそれしか作れねぇんなら仕方ねぇなって事でそんな感じになった」
「って良く見たらイッポリートが着とるそれ飛行服ではないか!? こ奴もしや艦載機妖精か!? だから飛行機のエンジンの事しか知らんのじゃないか!?」
「だーかーらぁぁ、コイツは妖精じゃなくてイッポリートだっつってんだろ!」
「取り敢えずそんなのはどうでも良いわっ! それよりこの車の有様はどうするんじゃ! こんなのでまともに走るのか!?」
「えーっと、確か走る時はスロットルレバーがアクセルの代わりになってんのと、あとエナーシャでグルグルしねーとエンジン掛かんねぇんだったか」
「戦闘機の始動方法まんまではないか!? これ一人じゃエンジンは掛けられんぞ!? てか出先で再始動する時はどーするのじゃ!」
「あ? いやお前ここで始動したらよ、出先から帰ってくるまでエンジン掛けっぱでいいんじゃね?」
「色々不便過ぎるじゃろ……て言うかダッシュボードに照準器まで乗っておるし、イッポリートは一体何がしたいのじゃ……」
「ああそう言やお前、町に買い物行くんだよな」
「うむ、ちょっとシ〇ムラへ新作をチェックしにの」
「何か言ってる事はオシャレっぽいけど、目的地がシマ〇ラって色気もクソもねぇな」
「一々人の趣味に口を出すでないわっ! 〇マムラの何が悪いと言うのじゃ! ったく、それで? 何か用事でもあるのか?」
「ああそうそう、ついでに買ってきて欲しいモンがあんだけどよ、えっと……あったあった、ほらこれメモな」
「何々……何じゃこれは、バ〇クリンにバ〇にバス〇ルクに……何じゃこれは、全部入浴剤ではないか、こんなに大量のブツをどうするつもりなのじゃ?」
「あーそれな、ほら、ウチって一応温泉風呂だけどよ、泉質が今一つじゃねぇか」
「ふむ、確か前に検査したらギリ温泉って微妙な結果が出たんじゃったか」
「それよ、ほらこんな何もねぇとこでお前、楽しみつったらメシと風呂しかねぇじゃねーか」
「お主の場合DVD鑑賞やらオーパーツ作りやらと他に色々謳歌しとる様に見えるんじゃがな、それで? この入浴剤を風呂に入れて癒されようという事か」
「そそそ、日替わりで色々試してみようと思ってな」
「しかし提督よ、あの岩風呂は基本24時間源泉から引いた湯が張りっぱなしで、中身の入れ替えは出来んのじゃろ? 入浴剤を入れたら湯が循環して入れ替わるまで結構時間が掛からんかの」
「おう、だからちょっと風呂のシステムを構築してみた」
「……風呂のシステムぅ? 岩風呂にシステムってなんじゃそれは」
「いやほら今までたまに風呂掃除する時って、湯をかき出したり流れ変えたりして結構重労働だっただろ?」
「まぁいっぺんに7~8人入れる広さじゃからの、それは仕方あるまい」
「そりゃそうなんだけどよ、その辺りの不便さを放置するのは何かモヤモヤするっつーかよ」
「またお主の気になったら仕方が無い病が出おったか、それで? その岩風呂システムというヤツはどういう物なのじゃ」
「それな、ほらそこのドア開けてみ」
「そこのドアて……うーわ、また断崖に新たなドアがはまっておる!? ここにそのシムテムが……ってのう、提督よ」
「あん? どした?」
「この何と言うか、無駄に縦方向に高い空間と言うか、ハンドルがはっ付いた番台染みた台と言うか、紐が垂れ下がりまくっておる壁面というか……」
「おう、気分に応じてここに入浴剤を入れてだな、ハンドルをこうグリッとしたら風呂に薬湯がダバーっと……」
「そう言えばお主昨日千と千尋の〇隠しのDVDを見とったな!? これはもしや油屋の例の釜ジイが棲むあそこか!? てか何でウチの風呂は源泉直で湯が供給されとるのにボイラーなんぞが設置されとるんじゃ!?」
「ああそれな、そこに一旦源泉引き込んで温度調整をしつつ、入浴剤もそこで混合してダバーする仕組みになっている」
「攪拌タンクかこれ!? て言うか何じゃこの足元に転がっとる黒くて丸っこいモフモフは」
「あ? そりゃボイラー室なら癒しのマスコット、ス〇ワタリがセットなのは当然だろ?」
「〇スワタリってうーわ、良く見るとこれつぶらな瞳とか足とか付いとる!? こんなキモいのが床一面にゴロゴロしとったら癒されるどころか逆に落ち着かんじゃろうが……」
「薬湯を変更したい場合ここから札を差し出す」
「ここからって、お主……この部分、こっちから風呂が丸見えになっとるではないか」
「ん? 何か問題あっか? てかいつもお前が着てるハレンチ制服の方がマッパよりも色々アウトなんだからよ、今更そんなのは気にする事ねぇだろ」
「ぶっとばされたいのかお主はっ! ハレンチ制服てなんじゃハレンチ制服て! これは大本営指定のちゃんとした制服じゃといつもいつも言うておろーがっ!」
「そしてこの紐を引っ張ると湯船のお湯がダバーっと排出されるから、薬湯の入れ替えも可能となる」
「我輩のツッコミを無視するでないわっ! ……ってうーわ! 風呂の湯が一瞬で排出されおった! てか提督よ……」
「ん? 何だ?」
「一瞬で湯が無くなってしもうたんじゃが、これ……風呂に浸かっておる時に間違ってダバーされたらどうなるんじゃ?」
「ああそれな、ちゃんとその辺り安全対策はとってあっから心配すんな」
「……安全対策ぅ?」
「おう、湯は下水道へ流れていくが、人間は下の池にドボーンする仕組みになってるから怪我はしねぇ」
「下の池ってあの錦鯉の養殖池か!? 何でそこで排水溝に人が吸い込まれる作りになっとるんじゃ! もし排出されてしもうたらこの寒空の下池へ叩き込まれて大惨事じゃろーがっ! 安全以前に事後処理が壊滅的におかしいと何故気付かんのじゃ!」
「いや、薬湯が綺麗にダバーされて事後清掃が不要な環境を作り出す状態を成立させるなら、湯船の容積から排出される薬湯の量を逆算し、それに重力加速を乗算した結果、排水溝の位置と形状の理想形がこうなってしまったからそれは仕方ない」
「目的の為にそれ以外の結果全てを切り捨てるでないわっ! お主の物作り基準はいつもおかしいというのを何故気付かんのじゃ……て言うか提督よ」
「あ? まだ何かあんのか?」
「これ、もし池ポチャしてしもーたら後はどうするのじゃ」
「どうするとは?」
「戻ってくる時はどうするのじゃと聞いておる」
「あ? どうするもこうするも徒歩で戻ってくるに決まってんだろ? 何だお前空でも飛べんのかよ」
「何で風呂からダバーされて錦鯉の池に叩き込まれた挙句、その後裸でトボトボと山道を戻ってこんといかんのじゃ! 事後処理雑過ぎじゃろーがっ!」
「ああその辺りは一応手は打ってあっから心配すんな」
「……何をどう手を打っておると言うのじゃ……」
「この前先輩とこからお前宛にお歳暮が届いててな、その一部を池の脇に設置しておいたからよ、ほらこれと同じダクトテープ」
「サブロオオォォォォォォォォオオオオ!」