「のぉ提督よ、ちょっと良いかの?」
「あ? 何だ利根」
「いやこの前の無人販売所の脇にの、見慣れん小屋がいきなり生えておるのじゃが、お主あれに心当たりは無いかの」
「あーあれな、あれは大本営施設要綱で設置するべしって書かれてる鎮守府施設の一つだ」
「施設要綱ぅ? なんじゃそれは」
「お前知んねーの? ほら、拠点っつーのは執務棟とか工廠とか軍務をしてくのに必要な施設があるだろうが」
「うむ、そうじゃの」
「んで、大本営では基地機能を維持するのには最低限どれだけの施設が必要で、どういった形で設置しろってテンプレが用意されてんだよ」
「ほぉ、なる程の、要するに拠点に必要な施設を規格化してそれを纏めておるのがその施設要綱という物になるのじゃな」
「まぁそういう事だ、んでその要綱に書いてんのを参考にすっと、拠点の最低単位として必要なのは、執務棟、工廠、入渠・出撃ドックって事になってんだよ」
「ふむふむ」
「んでウチに照らし合わせてみたんだけどよ、今ウチには執務棟(ログハウス)、工廠(自動車整備工場)、入渠施設(岩風呂)、出撃ドック(各種)と一応は揃っているように見える」
「と言うかそのカッコの中に書かれている単語は、誰がどう聞いても海軍施設とは関連性の欠片も無い物じゃと言われてもおかしくない状態になっておると思うのじゃが……」
「まぁその辺りはな、ほら、形から入って後々状況に合わせた改修をしてくって事でどうよって思ってんだがよ」
「一部改修しても軍の施設化が無理な有様になっとると思うのは我輩の気のせいなのかの……」
「何言ってんだ、一応この資料は基本的な部分は押さえてあっけど、現場じゃそこから色々と状況に合わせて色々改修してっから、割と拠点によって施設の配備状況はまちまちなんだぜ?」
「まぁそれは海域の状況次第じゃから、全部の拠点が同じというのは確かに効率的では無いのかも知れんの」
「だろ? ウチも状況に合わせて施設改修は都度やってきてっからな」
「……のう提督よ」
「あ? なんだよ」
「都度改修て、何の施設をどう改修しておると言うのじゃ」
「そりゃお前、先ず執務棟は利便性を増す為に二階建てにして、電化製品の充実、そして拠点の活動資金の中心となるキッチンの大型化をしただろ?」
「それは生活環境の整備を整えて、商売用の道具を用意しただけと言えなくもないの……」
「次に母艦やお前の出撃の効率化の施設も設置したし」
「スッポンポンで入らねばならん落とし穴とか、出撃してしまうと山道を牽引して戻さねばならん母艦射出用の斜面のレールか」
「入渠ドックの拡張と高速修復剤用の投入システムの配備も完了した」
「ブランチマイニングで湧いた温泉で岩風呂を拵えて、千と〇尋の神隠し的ギミックを仕込んだ結果、マッパで錦鯉のため池に落とされる危険性が生まれてしまったのじゃったの」
「そんで工廠」
「主に村のジャパ〇バスの整備工場と化しておる」
「まぁ大体の拡充は進んだって事で、今度はこの要綱に書いてある優先度がやや低い施設関係もそろそろ手を付けていこうって事にしたんだよ」
「お主我輩の言葉を聞いておったか? ここの施設は一応名称は付けられておるが何一つ軍務的に使用できる建物にはなっておらんではないか!」
「あ? 何言ってんだお前、さっき俺が言った事聞いてなかったのか?」
「は? 何がじゃ」
「要綱はあくまで基本的な部分しか押さえてなくて、実際の施設は環境に合わせて対応するモンだっつったろ?」
「その対応する環境を軍務ではなく生活に合わせておるのがそもそもおかしいと言うておるのじゃ!」
「しかたねーだろ! ウチじゃゲンナマはねーし食いモンも自給自足なんだからよ! 仕事する前に生きる為の色々整えねーと死んじまうだろーがっ!」
「その整え方の方向性が全て極端に突き抜けていると何故お主は気付かんのかの……」
「まぁそんな訳で我が鎮守府(倉庫)も食堂施設を作ってみた」
「食堂施設ぅ? ってもしやあの……」
「おう、無人販売所脇のアレ」
「はぁ? 何でごはんを食う場所が執務棟からこんな離れた場所に……ってのう提督よ」
「ん? なんだ」
「この食堂、何でシャッターが閉まっておるのじゃ?」
「何でって今営業時間外だからな、従業員は裏のドアから入るよーになってんだけど」
「営業時間ん? って良く見れば「提督食堂」って謎の看板が掛かっておるのじゃが……」
「おう、今からシャッター開けっからちっと待ってろ」
「いやいやちょっと待つのじゃ……ってうーわ! なんじゃこの駅そば染みた構えの室内は、てか何故我輩と提督しか利用せんのに椅子がこんなにも並んでおるのじゃ?」
「あ? 何でってお前、椅子が無きゃ客は立ち食いしなくちゃなんねーじゃねーか」
「客ってなんじゃ客って!? ここは食堂施設ではないのか!?」
「んだようっせーな、表に看板掛かってたろーが」
「看板? あの提督食堂……ってまさか」
「食堂施設を作る計画を実行に移すのはいいんだけどよ、利用者がお前と俺、んでピエトロとイッポリートだけだとほら、勿体ねーから時間限定して営業してみっかと思ってよ」
「普通食堂施設と言うのは着任しとる者が多いからそれに対応する施設を必要とするのじゃ! 施設を作ったら持て余してしまうからそれを客商売に転用するという流れは誰がどう考えても目的の真逆を進んでおるではないかっ!」
「んでこれがお前用の服な」
「服ぅ? 何で唐突にそんな物が出てくるのじゃ…… これは、黒のワンピに白い半袖シャツとエプロンに……うん? なんじゃコレは」
「あ、それ魔族コス用のツノな」
「そう言えばお主昨日異世〇食堂のDVDを見ておったな? コレはアレか、ドラゴンとかドワーフが扉を開けたら食堂でした的なアレを作ろうとしたのか!?」
「俺の事はシェフと呼べ」
「ガタイが良いからお主のみ無駄に再現度が高い状態になっとるの!? てか目指したのが洋食屋なのに何で店が駅そば状態になっておるのじゃ!?」
「隣の無人販売所との親和性を考慮したらこういう形になった」
「切っ掛けがファンタジーなのに落着点がやたらとリアルなのはどうなのじゃそれ……」
「ちゃんと賄いも出すからな、取り敢えず今日はクジャクカレーだ」
「食堂にごはんを食べに来るという軍事施設の存在意義が既に欠如しておるではないかっ!? て言うか〇世界食堂的賄いと言うならそこはチキンカレーではないのか!? クジャクカレーって何じゃクジャクカレーて!」
「ゆくゆくはピッチーを増産する計画もあるが、先ずは来店者数が掴めるまでどの程度素材を準備する必要があるか判らんからな、暫くは地産地消路線でいくことにした」
「ピッチー増産てあの卵をぶつけて孵化させるというマ〇クラ的なアレでか!? と言うか地産地消て要するに野山で狩って来たブツを材料にするという事では無いか!」
「その辺りが整うまでシーフードフライとかも仕入れ数が読めんからな、暫くは錦鯉に頼る事になると思う」
「錦鯉は淡水魚じゃからシーのフードではないわっ! 寧ろアレは観賞用で食用ですらないからなっ!」
「肉はまぁ……猪肉に熊もあるし、まぁ暫くは肉の日も乗り切れるだろう、後の問題は野菜だと思ってる」
「ここは異〇界食堂じゃのーて、狂ったジビエ食堂ではないのかの……」
「あ? 何言ってんだお前看板見て来いよ、ちゃんと提督食堂って書いてんだろーが」
「そこで狂ったオリジナル要素を前面に押し出してくるでないわっ! 寧ろ鎮守府の施設なのに何で利用者である我輩が給仕する側に回らんといかんのじゃ……ったく」
「あ? んなもん働く者食うべからずだ、お前労働も無しにメシが食えると思うなよ?」
「我輩は艦娘でお主は海軍提督じゃと何度言えば判るのじゃ!? 労働目的は防衛活動であって食堂経営では無いのじゃぞ!」
「お前なぁ、国を守る組織の基地が表向き飲食店に艤装してるってのはな、由緒正しき形態なんだぞ」
「何じゃそれは、我輩そんな訳判らん話は初耳じゃぞ」
「例えば戦隊シリーズ一作目のな、ゴ〇ンジャーのバックアップ組織であるイーグル日本ブロックの基地ってよ、一階がカレー屋で地下がゴレンジャーの基地になってたりするし」
「そんな昭和中期の特撮ネタを持ち出しても最近の若者には通じんじゃろうがっ! それにあの店はフルーツパーラーであってカレー屋ではないわっ! 黄レンジャーが毎度毎度カレー食ってただけであそこはカレー屋ではないならのっ!」
「なんかやたら詳しいのなお前、まぁそういう訳でここは軍事拠点を隠蔽する為に活動する提督食堂って事で」
「何で軍の防衛施設である鎮守府が食堂という体で隠蔽せねばならんのじゃ! 寧ろ既に村とかにはここが何かというのは周知されておるではないかっ!」
「鎮守府じゃなくて海軍倉庫な、てか村の連中ここが軍事拠点って理解してねーからよ」
「……何じゃと、ではどういう感じで村の者達は我輩らを見ておると言うのじゃ」
「あー、俺ん事は都会から越して来た何でも屋のニーチャンって言ってたなぁ」
「……概ねその部分は間違ってはいないのが反論し辛いのぅ」
「んでお前の事だけど……まぁそれはアレだ、その……」
「……何なのじゃ、何故そこで口篭る」
「あーその、な、ほら、お前自主的に近海の哨戒とか色々やってんだろ?」
「うむ? まぁそれ程危険は無いと言うてもやはりそれはゼロではなかろ? なら艦娘である我輩としては使命を全うする為できる限りの事はせんといかんというのは道理では無いか」
「まぁその一本気なお前の性格は大事な部分だってのは分かってんだけどよ、ほら、お前哨戒に出る時いつも漁協のオバチャン達とかに挨拶してんだろ?」
「まぁの、いつもかりんとうとか飴ちゃんくれたりと世話になっとるから挨拶くらいはせんとの」
「んでその時によ、いつも海の平和は任しとけ的な事を言ってたりしてるらしいじゃねーか」
「そんな大層な言い方はしとらんがの、まぁニュアンス的にはそういう事を言った事もあったかもしれんの、それがどうしたのじゃ?」
「あー……うん、なんつーかお前ってよ、山の上の便利屋んとこの妹で、ちょっと厨二が入った可哀想な娘的な……」
「どうしてそうなっとるのじゃ!? 我輩は海の上を航行したりたまに砲撃訓練したりしとるじゃろっ!? どこからどう見ても艦娘ではないかっ!?」
「村のモンの艦娘ってイメージってよ、長門とか大和って感じのこう……ゴッツイ感じみたいでよ、小型のヤツに対する認知度はゼロみたいなんだよなぁ」
「幾ら村民の属性が修羅じゃからって艦娘に対する認知度までが大艦巨砲主義のみって脳筋にも程があろっ!? 寧ろ我輩が厨二で可哀想な、しかも提督の妹ってどうなのじゃそれ!?」
「そう言や来年の成人式にな、お前も参加したらどうだって話来てたぞ」
「は? 成人式ぃ? なんじゃ突然話の流れが飛びおったが……と言うか我輩もう二十歳を超えておるぞ?」
「いやほらお前ってさ、そういう行事に参加した経験って無いだろ?」
「まぁ普通艦娘であるならそういう物に関わる機会は無いの」
「んで村のモンと世間話してた時によ、まぁ色々お前の話とかになったんだけどよ」
「……ふむ?」
「仮にも若い娘っ子がよ、一生にそう何度も無い晴れの行事に一度も参加してないって可哀想じゃねぇかって、だから思い出作りって事でどうよって話が出てんだけど」
「あ~……そうか、何やら色々村の者には気を使わせてしまったみたいで申し訳ないの……」
「まぁ折角の申し出だしよ、俺としてもお前にそういう思いで作りの時間も必要なんじゃねーかって気持ちもあったりするしよ……まぁそんな訳でどうよ?」
「その気遣いはまぁ……確かに嬉し……い、ってのう提督よ」
「あ? 何だよ」
「この村の成人式というのは確か……」
「ああ、例の神社からバンジーするヤツな、最近は村も古い慣習を見直して男女平等って考えを取り入れたらしくてな、男も女も全員バンジー参加って事になってっから」
「なってっから、じゃないわっ! どうして我輩が自然に参加する流れの話をしておるのじゃ! 何で古い慣習を見直したら修羅化が更に進む事になってしまっとるんじゃ!? 寧ろそこはバンジーという狂った行為を是正する所ではないのかっ!?」
「え、参加しねーの?」
「当たり前じゃ! 何で我輩があんな海上50mの断崖から飛ばねばならんのじゃ!? 前半のホロリとする話からどうしてオチがそんなハードな物へ変化するのじゃ!」
「あー……まいったな、成人式用の晴れ着とかもう発注しちまってんだけどよ、参加しねーってなるとキャンセルするしかねぇか」
「……成人式の晴れ着じゃと? お主そんな物を用意してたのか」
「おう、ほらこのカタログの48Pに載ってるコレなんだけどよ」
「なになに……明石セレクション通販カタログとな? えっと48ページ48ページ……って、のう……提督よ」
「ん? どした」
「どした? じゃないわっ! 何で成人式の晴れ着が振袖とかじゃのーて腰蓑一丁なのじゃ……」
「あ? んなもんバンジーすんだからそれに合わせた正装すんのは当たり前だろ、それに衣装は腰蓑だけじゃねーぞ」
「……腰蓑が果たして衣装というカテゴリに入るのかどうかという議論は取り敢えず横に置いておくとしてじゃ、他に何があると言うのじゃ」
「いやそれ発注した時によ、利根も女性なんだから気をつけてやれってほら、バンソーコ、先輩んとこのお勧めでセットにしてあっから安心しろ」
「サブロオオオォォォォォォォオオオオオオオ!!」