「のぉ提督よ」
「何だ利根」
「ちょっと聞きたいのじゃが、あの裏にある小屋は何なのじゃ? 我輩の記憶が確かなら、昨晩まであそこは子連れ刺客のガラガラがポツンと放置されとっただけの空き地じゃった気がするのじゃが」
「ああ、アレな、お前前からまともな出撃ドックが欲しいつってたろ?」
「言うたの」
「だから作った」
「……あれが出撃ドック? 何ぞ野外何とかと言うかぶっちゃけ公衆便所みたいなあの小屋が出撃ドック?」
「いやあの形状になったのには訳があってだな」
「何だか禄でもない理由がありそうじゃが、取り敢えずその訳というのを聞かせて貰おうかの」
「それなんだが、いつも木造だと芸が無いと思って一旦石造りで作ってみたんだ」
「……それで?」
「で、完成してヤレヤレって外から見たらどう見ても公衆便所にしか見えなくてな、んで木造で作り直してみたんだが」
「それは建材のせいでそう見えていた訳ではなく、山の中にある空き地にポツンと真四角の小っさい小屋が建っておったら誰がどう見ても便所にしか見えんわな」
「一応圧迫感が無い様に小窓を作ってみたり、暖が取れる様に小さい薪ストーブとかも置いて機能面もバッチリなんだがなぁ」
「その小窓と煙突が便所のイメージを助長してると何故気付かんのか……」
「まぁ見た目はアレだが中身は本格的なんだぜ、ほら見てみろよ」
「うん? 中は板張りの小屋にしか見えんのだが……」
「あー、見た目はアレだが、ここのレバーを降ろすとだな」
「その棒はレバーじゃったのか!? てかなんじゃ部屋が降下し始めたぞ!」
「滑車とか蔓のロープとか岩とか、諸々組み合わせてトラクション式エレベーターを作ってみた、巻き上げ機は麓で放置されてたトラックのバネサスを使ってるから電力も不要のエコ仕様だ」
「在り合わせの物からやけに完成度の高い物を作りおったのう…… んでこのエレベーターはどこに通じておるのじゃ」
「まぁそれは今から説明すっから、ほら着いたぞ」
「うむ? 何と言うかこれは……妙に四角く岩肌を削った小部屋じゃの、そこに通路が二本……」
「片側は漁協の野外トイレに偽装した出口に通じている」
「山の上の公衆便所から入って漁協の便所から出撃とはエスプリが利いておるのぅ、どれ提督よ、ちょっと頭をここに寄せよ、カチ割って中身が正常なのか確認してやるから」
「ばっかお前、軍施設の設置って大っぴらにやっちまうと色々苦情が出るご時勢なんだぞ、少しでも目立たずこう……世間の隅っこでひっそりとやんねーとだな」
「何で国防の要になる鎮守府の設備がそんな卑屈かつひっそりと建造する必要があるのじゃ……」
「それに漁協に直で行ける通路があったらバイトに行くのが楽だし」
「……バイト?」
「ああ、今はブリやらヒラメやらの漁で漁師は繁忙期なんだよ、んで朝一番水揚げとか仕分けとかのバイトが結構出ててな」
「何で鎮守府の提督ともあろう者が漁師の下でバイトなんぞしとるのじゃ! 特別国家公務員が副業とかバレたらクビじゃぞ!」
「ああそれは問題ない、確かに金品を報酬で受け取ったら副業扱いでクビになるが、現物で支給して貰ってるからこのバイトはただの『お手伝い』だ」
「何か最近川魚じゃのーて海の魚が食卓に上がっとると思ったらアレはバイト料じゃったのか!? お主は一体何をしておるのじゃ!」
「あーあー落ち着け、そんなカリカリしてたら抜け毛が酷くなって下以外もツルンツルンになっちまうぞ? 落ち着け、ほら飴でも食って落ち着け、な」
「ちゃ……ちゃんと下も生えとるわバカもんが! これは制服がコレだから毎日お手入れしとるだけじゃ! ったく……んむ、これは黒飴か、懐かしい味じゃのぅ」
「ああ、休憩の時におばちゃんがやたら飴とかせんべいとかくれるんだよなぁ」
「最近茶菓子が妙に豪華じゃのと思っておったらそこもバイトが絡んでおったのか……時に提督よ」
「何だ」
「この通路は漁協に通じておるのは理解したが、もう一本の通路はどこに通じておるのじゃ?」
「ああ、こっちは地下のブランチマイニング場に繋げてるんだが」
「だから唐突にマ○ンクラフトのネタをぶっ込むでないわ! 何ぞ室内が不自然に四角いと思ったらまたそのネタなのか!? って良く見たらカマドにチェストまで完備しておる!?」
「上まで採掘したモン持ってって精製すんのも面倒だしな、ここを採掘拠点にしてだな……」
「だからリアルでは幾ら地下を掘っても鉱石なんぞ殆ど出んからな! マグマも地下渓谷も存在せんからな!」
「なん……だと、じゃスケさんや匠対策に木の剣とか作ったのは無駄だったってーのか……」
「本気か!? 本気でやっておるのかお主は!?」
「いやこの前泉源周りを整備してたらよ、石炭がゴロゴロ出てきたからコレはイケるんじゃないかと……」
「と言うか人力で温泉掘り当てたり石炭採掘したり、なんじゃお主は一体何者なのじゃ」
「いやぁ、この勢いで工廠とかおっ建てて鎮守府機能を拡張しようと踏んでたんだがな…… その為に執務棟も増築したのに……」
「……待て、今何と?」
「あ? いや基地機能の拡張するのに色々執務棟(ログハウス)が手狭になるっつってただろ、その拡張の第一段階をな、ほらこっちだ」
「ん……なんぞログハウスが妙に……うーわ、歪なログハウスがいつの間にか二階建てになっておる!?」
「土地は有限だからな、無作為に横方向へ広げるより縦に拡張できる物は積み上げた方が効率はいいだろ?」
「むしろ一階が歪なせいで、二階が微妙に傾いとるのはヤバいとは思わんのか?」
「まぁあそこは宿舎だから多少は問題無いだろ」
「宿舎?」
「ああ、お前前から俺と雑魚寝は嫌じゃー嫌じゃーつってたろ?」
「言うたの」
「あれ、お前の部屋だから」
「我輩の個室とな!? マジか!」
「おう、まだ内装はベッド位しかねーけどその辺りは追々とな」
「おお……ついに我輩にもプライベート空間が、の、のう提督よ、早速中を覗いて見ても良いかの?」
「ああいいぜ」
「おお……中々広いではないか、そしてベッド、やっとムサい提督との同衾生活にピリオドが……ん? このベッド何だか妙に……」
「色々悩んでみたんだが、室内レイアウトとかベッドとかは海外のオシャレ建築を参考にさせて貰った」
「のう提督よ」
「何だ?」
「このベッドというか、藁にシーツをおっ被せてみました的なモノと、脇にある丸い窓というのは……」
「スイスの山頂にある閑静な山小屋のイメージをだな」
「そう言えばお主昨日ハ○ジのDVD見ておったな? これはあのア○プスの少女の部屋なのか!? 無駄に再現率が高いこのみすぼらしさはわざとなのか!?」
「窓からはアルプスは見えんが漁港を一望できるオーシャンビュー、そして脇にはア○ムのもみの木も完全再現してみた」
「うーわ! 何じゃこの巨木は!? 昨日はなんも無かった場所にクソでかい木が生えとるではないか!?」
「ああ、とりあえず雰囲気作りは大事だからな、植林してみた」
「してみたってお主、一晩でこんな巨木が生えてくるとかおかしいじゃろ!? 一体何をしたのじゃ!?」
「いやほら、ウチの建築って基本木造だろ?」
「……それで?」
「んで敷地内の木が枯渇しちまってなぁ、どうしようかって相談したら先輩からこれ、『明石園芸誰でも植林シリーズ』ってキットが送られて来てだな」
「サブロオォォォォォォォォォォ!」