黒猫一匹のネタ&短編集   作:黒猫一匹

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大帝D×D 3話 天野夕麻

 

 

 

 

「天野夕麻です。よろしくお願いします」

 

 朝、学校への登校中に、他校の学校の制服を着た黒髪の美少女が、蒼真に向かってペコリと頭を下げて一礼する。

 

 夕麻と名乗ったその女子の隣では、蒼真の幼馴染である一誠が勝ち誇ったような笑みをその顔に浮かべており、蒼真へと自慢するような鬱陶しい視線を先程から向けていた。

 

「見ろ、ソーマ! 夢でも妄想でもないちゃんとした俺の彼女、夕麻ちゃんだ! どうだ、驚いたか!」

 

 一誠は上機嫌に笑いながら、蒼真へとそう言う。

 蒼真はそんな幼馴染の態度にいつもとは違う意味でウザいなと、心の中で呟き、面倒臭そうに溜息を一つ吐き、適当に言葉を合わせる。

 

「ああ、はいはいよかったな。末永くお幸せに」

 

「おう、俺は幸せになるぜ! 遂に念願の彼女ができたんだからな! あ、そうだ! なんなら今度の日曜にダブルデートでもしてみるか?」

 

「……それは、彼女のいない俺に対する当て付けか? 随分と余裕だなイッセー」

 

 彼女ができて完全に調子に乗った一誠は、蒼真へとそう言葉をかける。そんな一誠の問いかけに適当に流していた蒼真だったが、その言葉に僅かに殺意が湧く。

 そんな蒼真の態度に、一誠は不思議そうな顔をして口を開く。

 

「いないって、小猫ちゃんと付き合ってるんじゃないのか?」

 

 と、蒼真の隣で先ほどから無言で佇む小猫に視線を向けて一誠はそう訊ねる。

 

「前にも言ったと思うが、別に俺たちは付き合ってねぇよ。ただの友達だ」

 

 蒼真は一誠に向かってそう言い、隣にいる小猫に同意を求めようと視線を向けてみる。しかし、小猫は何も言わず、ただ無言で一誠の彼女である夕麻を警戒しているかのように睨み付けている。

 対する夕麻も小猫に向けて引き攣った笑みを浮かべており、妙な空気が流れていた。

 

「……どうしたんだ、小猫?」

 

 そのあからさまな小猫と夕麻の姿に蒼真は疑問に思い、小猫に小声で訊ねる。

 一誠の方も漸く二人の間に流れる微妙な空気に気付いたのか、夕麻へと同じく問いかける。

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 小猫は蒼真にそう返事をするも、夕麻への警戒の視線は解かない。

 夕麻の方も「なんでもないの、大丈夫だから」と一誠に返事をして、視線を小猫から外すと、一誠の腕に自分の腕を絡める。

 

「イッセーくん、早く行こ」

 

「あ、う、うん」

 

 夕麻はグイグイと一誠の腕を引っ張り、早く行こうとせがむ。

 突然の夕麻の態度に一誠は気押されながらもそう返事を返し、学校へ向けて歩を進める。

 そんな彼ら二人の背中を眺めながら、蒼真は隣で未だ夕麻を睨む小猫に視線を向ける。

 

「俺たちもそろそろ行くか」

 

「……そうですね」

 

 蒼真は先ほどからの小猫の態度に多少疑問に思うも、訊ねてもまた同じ返答が返ってきて教えてくれないだろうな、と思いながら、別にいいかと、疑問を棚上げにして、思考を切り替える。

 そして蒼真は仲良く腕を組んで歩く一誠と夕麻を視界に収め、改めて思う。

 

(………イッセーのやつ随分と舞い上がってるな。しかし、あの天野夕麻ってやつも相当な変わり者だな。イッセーの悪名ぐらい知っててもおかしくない筈だが……、それともやっぱりただの罰ゲームだったってオチか? ……まぁどちらにせよ普段のアイツの変態的な行動を知れば別れるのは時間の問題か)

 

 蒼真は内心で彼等が別れる事前提で話を進めていき、いざとなれば一誠にフォローぐらい入れておいておくかと考えていた。

 

 そんな蒼真の隣では、小猫が夕麻の背中を睨み付けながら、

 

 

「……なんで堕天使がここに?」

 

 

 と、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 そして、そんな彼等四人を屋根の上から見下ろしていた黒猫が二匹いた。

 蒼真の飼い猫である夜一と黒歌だ。

 

『うむ、どうやらあの堕天使の狙いはソーマでもお主の妹でもなく、あの助平顔をした男のようじゃな』

 

『……そうね』

 

『最初ソーマに堕天使の気配が近づいた時は何事かと思ったが、あの様子ではソーマに近づいたのはただの偶然のようじゃのう』

 

『……そうね』

 

 夜一の言葉に黒歌は生返事をして、蒼真の隣を歩く小猫を少し寂しそうに顔で見下ろしている。

 そんな黒歌の姿に夜一は呆れたように溜息を一つ吐き、口を開く。

 

『なんじゃ、まだ妹に会う覚悟ができてないのか。お主は別に何も悪い事はしておらんじゃろう。パッパッと行って妹に誤解を解けば済むものを。お主は妹絡みだと妙な所でヘタレじゃのう』

 

『う、うるさいわね!? そんな単純な話なら何も苦労なんてしないわよ! これでも一応冥界で指名手配されてる身なんだから、慎重になるのは当然でしょ。それにいつも思うけど夜一は大雑把過ぎるにゃ』

 

 彼女達は遠くなっていく蒼真と小猫の背中を眺めながら、そのような会話を繰り広げていた。

 

『まぁなんにせよ、ソーマに危険が及ばぬのなら問題はない。儂らも帰るとするかの』

 

 夜一がそう言い、黒歌も彼女の言葉に頷き、二匹の黒猫は踵を返し、立ち去った。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 学校の午前授業が全て終了し、生徒達の喧噪が校舎の中に響き渡る昼放課。

 小猫は校舎の裏手へと移動していた。

 

 木々に囲まれるそこには旧校舎と呼ばれている、現在は使用されていない古い建物が存在している。小猫はその建物の中へと入り、二階に上がる階段を上り、二階の奥まで歩を進める。

 

 そして、彼女は『オカルト研究部』というプレートがかけられたとある教室の前まで行き、引き戸を開き室内に入っていく。

 中に入ると、そこには、床、壁、天井と、室内の至る所に多数の魔法陣と文字が描かれており、少し不気味な部屋という印象を中に入った者に抱かせるだろう。

 

「あら、小猫。昼食時にあなたがここに来るなんて珍しいわね」

 

 小猫が室内に入ると、オカルト研究部の部長であり、小猫の主であるリアス・グレモリーがそこにいた。周囲には副部長の姫島朱乃と木場祐斗が控えていた。

 

「……部長の耳に入れておきたい事が」

 

「なにかしら?」

 

 小猫の言葉にリアスは耳を傾ける。

 そして、小猫は今朝方の堕天使についての報告を行う。

 小猫の報告を聞き終わったリアスは椅子にもたれ掛かり、腕を組む。

 

「そう、堕天使がうちの生徒に接触を……」

 

 リアスはそう呟き、一端目を閉じて堕天使と報告に合ったその生徒、兵藤一誠との関係について考える。

 

 その堕天使と一誠がグルである可能性。

 何も知らない一誠を何かに利用しようと企んでいる可能性。

 一誠が所持しているかもしれない神器(セイクリッド・ギア)を狙っている可能性。

 もしくは本当に一誠に一目惚れをして近づいた可能性。

 

 頭の中でありとあらゆるいろいろな可能性を思い浮かべては消えていく。

 

「その堕天使は一体何が狙いでその生徒に近づいたのでしょうか?」

 

「さぁ、可能性はいろいろとあるけど、今の段階では判断がつかないわね。でも、これから何かが起こるという事は確かね」

 

 隣に控えていた朱乃の疑問にリアスはそう返答して、考えを纏める。

 そして視線を小猫と木場の二人に向けて口を開く。

 

「小猫、祐斗。取り敢えずはあなた達二人で、その堕天使が接触してきたという兵藤一誠という生徒の監視をお願い。もし堕天使の狙いがその子の神器(セイクリッド・ギア)だった場合はこちらで保護するわ」

 

「はい!」

「……分かりました」

 

 二人が了承の返事をして、リアスの指示通りに一誠を監視する為に部室を出ていく。

 そして部室にはリアスと朱乃の二人だけが残った。

 

「朱乃、お茶を淹れてきてもらえるかしら?」

 

「はい、部長」

 

 リアスは視線を朱乃方に向けてそう言葉を発する。

 横目でお茶を淹れに行った朱乃を視界の端に収めながら、リアスは机の上に置かれたチェスの駒を弄る。

 

「……何が狙いかは知らないけど、この街で好き勝手な事はさせないわ」

 

 ポツリと彼女はそう呟き、これからの事について再び思考を始めた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 放課後。

 運動場で運動部の掛け声が響き渡る中、廊下を歩く兵藤一誠はいつになく上機嫌だった。

 それもその筈、彼は遂に念願の彼女ができたのだから。

 廊下ですれ違う全ての男子に自慢したいほど、今の彼は浮かれていた。

 そして一誠は友人である松田と元浜の二人に夕麻を紹介した時の彼等の反応を思い出しては、思い出し笑いをする。

 

 彼等は一誠に彼女ができた事を知った時、最初は全く信じていなかったが、携帯に入っている写メとメアドを見せ、証人に蒼真にも協力してもらい、漸く彼等は一誠に彼女ができた事を知る。

 その時の彼等は、

 

「「う、うそだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」」

 

 と、大変ショックを受けたみたいで、そのまま泣き叫びながら、どこかへ消えて行った。

 

 しかしその後、すぐに戻って来ては「この裏切り者!?」「死ねぇぇぇ!?」と全身武装した彼等は一誠へと襲いかかるという暴挙に出るも、一誠の心の中には自分が勝ち組だという自負があり、心のどこかに余裕があった。

 そして現在一誠は、学校の玄関を出て、校門の前で夕麻を待っている。

 

「あ、イッセーくん!」

 

 と、そこで待ち人である夕麻が現れる。彼女は一誠の姿を確認すると、駆け足で彼の元に近づいた。そして、息を整えると一誠の顔を見上げる。

 

「ごめんね、イッセーくん。待った?」

 

「ううん、大丈夫。俺も今来たところだったからそんなに待ってないよ」

 

「そう、よかった」

 

 一誠の返答に夕麻はホッと一息つく。

 そんな彼女の態度を見て、一誠は彼女ができた時に自分が言ってみたい台詞第一位がうまく言えた事に内心でガッツポーズをとる。

 

「ねぇイッセーくん。ちょっと寄り道して帰らない?」

 

「寄り道?」

 

「うん、ダメかな?」

 

「全然そんな事ないよ! うん、寄り道して行こうか」

 

 夕麻の言葉に一誠は二つ返事で了承する。

 そして二人は腕を組み、歩を進める。背中から感じる男子達の嫉妬と驚愕の視線を浴びながら。

 

(ふっふっふ、まさか彼女ができるだけでこんなにも人生が変わってみえるとは思わなかったぜ。今度の日曜に夕麻ちゃんをデートにでも誘ってみようかな?)

 

 そのような事を考えながら、一誠は背後の男子達、特にこちらを血の涙を流しながら睨みつけている松田と元浜の二人に向けて、「お前らも早く彼女ぐらい作れよ」と余裕の態度で言い放ち、視線を彼らから夕麻へと戻す。

 背後では、発狂したかのように叫び声を上げている二人の声が聞こえたが、一誠は彼らを無視して歩いて行った。

 

 

 

「あ、イッセーくん。あの公園に寄ろ」

 

 暫くの間、二人で楽しそうに会話をしながら歩いていると、夕麻が近くの公園を指さしてそのような事を言ってくる。

 

 二人はそのまま公園へと入ると、そこで一誠は自分達以外誰も人がいない事に気づく。

 いつもなら小学生ぐらいの子供達が遊んでいたり、お爺さんお婆さん達がウォーキングをしていたりとそれなりに騒がしい公園の筈であるが、今は不気味なほど静かであった。

 

 そのことに一誠は多少疑問に思いながらも、特に気にする事もないかと、疑問をその頭の中から追いやり、夕麻に引っ張られる形で公園の奥へと入っていく。

 そして、噴水広場の前まで移動すると、夕麻は一誠と組んでいた腕を放して、噴水の近くに移動する。

 そして一誠の方へと振り向き、口を開く。

 

「ねぇ、イッセーくん。いきなりだけど私のお願い聞いてくれるかな?」

 

「お願い? ……うん、勿論いいよ! なんでも言ってよ。俺にできる事なら何でもするから!」

 

 いきなりの夕麻のお願いに首を傾げた一誠だったが、すぐに了承して先を促す。

どうやら、一誠の頭の中ではエッチな方向へと話が進んでいる為か、その顔はだらしなく歪められていた。

 そんな一誠の態度に夕麻はにこっと笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「そう、じゃあ………、死んでくれないかな?」

 

 

「………………………、え?」

 

 

 夕麻が何を言ったのか理解できなかったのか、一誠はすぐには反応を返せなかった。

 そして、夕麻の言葉をもう一度聞き返そうと、口を開いた時、

 

 バサッと何かが羽ばたくような音が聞こえた。

 

 音の方に視線を移すと、そこには、カラスのような真っ黒な翼を生やし、先ほどの可愛らしい笑みとは似ても似つかない残虐な笑みを浮かべた夕麻の姿があった。

 

 

 


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