黒猫一匹のネタ&短編集   作:黒猫一匹

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大帝D×D 4話 堕天使

 

 

 

 

 

 バサッバサッと羽ばたきの音が、不自然なほど静かなその公園の中に響き渡った。

 羽ばたきの際、カラスのような黒い翼の羽が宙を舞い、呆然とした表情を浮かべている兵藤一誠の足元に落ちる。

 

(なんだ、あれ? 翼? え、なんで夕麻ちゃんの背中から……? 何かの演出? いや、それよりもさっき夕麻ちゃんは、俺に一体…何って言った……?)

 

 一誠は混乱する頭の中で、そのような事を考え、冷酷な笑みを浮かべる夕麻に視線を向けて、ゴクリと生唾を呑み込むと、口元を引き攣らせながら訊ねる。

 

「え、えーと、ごめん夕麻ちゃん。もう一度言ってくれないかな? なんか今日の俺、随分疲れが溜まってるせいか、幻覚や幻聴が起きてるみたい」

 

 ハハハとそう苦笑いしながら、一誠は夕麻へとそう問いかけると、彼女はなんとも冷たい、大人っぽい妖艶な声音で応える。

 

「死んでくれないかな? って言ったのよ。だから、心配しなくてもあなたの脳はちゃんと正常に働いているわ」

 

 夕麻はそう言い、固まる一誠に向かいさらに口を開く。

 

「それにしてもあなたも運が悪いわね。本当ならもう少しだけあなたとの”ままごと”に付き合ってあげてもよかったんだけど、悪魔と接触しちゃう想定外な事態になったせいで幸せな時間はもう終わり、残念だったわね」

 

 まぁ別に私個人はどっちでもよかったけど、と呟き、夕麻はその手に一本の光の槍を生成し、一誠の方に向ける。

 そして何がなんだか理解が追い付いていない一誠に向けて言う。

 

「予定よりも早くなっちゃったけど、あなたが私達にとって危険因子なのは事実。だからここで殺すけど、恨むならその身に神器(セイクリッド・ギア)を宿させた神と、人間という愚かしい種族に生まれ落ちたあなたの運を恨む事ね」

 

 そう言い終わると夕麻は、一誠が何か反応を示すよりも早くにその手に持つ光の槍を、ヒュッという風切り音がするほどの速度で投擲する。

 

 夕麻が放ったその光の槍は、そのままその場で佇む一誠のお腹目掛けて飛んでいき、その身を光の槍に貫かれる―――寸前に、横からすごい速度で現れた影によって弾かれる。

 

 

 

 ガキィィン! という金属音がその公園へと響いた。

 

 

 

「――なっ!?」

 

「――ッ!? ……え? あ、」

 

 

 突然の乱入者に槍が弾かれた事に夕麻は驚き、一誠はその金属音にビクリと体を震わせ、乱入者によって光の槍が弾かれた事に漸く気付く。

 

「悪いけど、そこまでにしてもらうよ」

 

 そこでその乱入者であり、一誠の命を救ったその少年が口を開き、夕麻を睨み付けている。その少年の姿に一誠は見覚えがあり、ポツリとその者の名前を零す。

 

「……き、木場?」

 

 そこにいたのは一誠の通う駒王学園のイケメン王子という異名を持つ、一誠とは違い女子達から盛大な人気を誇っている、木場祐斗がそこにいた。

 

 現在木場はその手に西洋剣のような剣を持っており、どうやらその剣で光の槍を弾いたようだ。

 そして木場は一誠からのその呟きに、一端夕麻から視線を外して混乱する一誠の顔に視線を向けると、いつも通りな爽やかな笑みを浮かべて言う。

 

「兵藤くん、悪いけど少し下がっててくれるかな?」

 

「あ、ああ」

 

 にこっと笑う木場に一誠は状況が全然理解できないながらも素直にそう頷く。

 そして、木場と対峙していた夕麻は、木場が彼女から一瞬目を離したその隙を狙い手に再び光の槍を生成する。

 

 

―――隙だらけよ、このマヌケが。

 

 

 ニヤリとその顔にあくどい笑みを浮かべて内心でそう罵ると、夕麻はそのまま木場に向かい襲いかかろうとする。

 しかしそこで、夕麻の背後から現れた小猫が拳を握り、がら空きの背中目掛けて不意打ちのストレートを放つ。

 

「ッ!!?」

 

 夕麻は寸前で背後の小猫の存在に気付き、その顔を歪め、盛大に舌打ちをすると、木場への攻撃を即座に中止して小猫から放たれたその拳をギリギリで躱し、背中の翼を広げ、空へと飛び立つ。

 

 バサッバサッと羽ばたき音がその場に響き、上空へと退避した夕麻は憎々しげに木場と小猫の二人を睨み付ける。

 

「こ、小猫ちゃんまで、なんでここに?」

 

 一誠は小猫の姿に僅かに目を見開きながらそう言うと、その声に小猫は一瞬だけチラリと一誠の方に視線を移すと、特に何かを言う訳でもなく、すぐに上空でこちらを睨む夕麻の方へと視線を向け直す。

 そこで木場が油断なく夕麻の一挙一動を見ながら、口を開く。

 

「二対一の状況だけど、まだやる気かい?」

 

 木場のその言葉に夕麻は敵意と殺意の混ざった眼で木場を射抜くも、現在の自分の置かれた状況を理解している為か、睨むだけで再び襲いかかるような事はしない。

 

 一対一なら兎も角、二対一のこの状況では夕麻の方が分が悪い。さらに他に悪魔が現れれば夕麻に勝ち目は確実になくなるだろう。

 そこまでを思考した彼女はその顔を歪める。

 

「……こんな事ならドーナシーク達を連れてくるべきだったわね」

 

 夕麻はそのような事をぼやき、一誠を殺すという目的も達成できず宿敵である悪魔に背を向けて逃げる事になるというのは彼女のプライドが許さない。

 

(だけど、今は大事な計画の前段階。ここで悪魔達と派手に揉めると計画にいろいろ支障をきたす恐れがあるし、今はまだまずいわね)

 

 夕麻は内心でそのような事を呟き、計画とプライドを天秤に掛け、憎々しい限りだがここは一端引く事を選んだ。

 

「……取り敢えず、今日の所は引いておくわ」

 

 夕麻は木場と小猫の二人にそう言い、次に視線を一誠の方へと向ける。

 

「命拾いしたわね、イッセーくん。でも次に会うような事があったら、その時は確実にあなたを殺すわ」

 

 そう言葉を吐き捨てるように言い、彼女はそのままどこかへと翼を羽ばたかせて飛んで行った。

 

 一誠は去って行く夕麻の後ろ姿を呆然とした表情で眺めていたが、そこで漸く我に返ったのか、近くにいた木場に詰め寄る。

 

「お、おい、これは一体どういう事だよ! なにがなんだかサッパリで全然訳が分からねぇよ!?」

 

 一誠の問いかけに木場は去って行く夕麻から一誠へと視線を移す。

 

「取り敢えず、詳しい事情の説明とかは全部僕達の部長がしてくれると思うから、まずは僕達と一緒に着いてきてほしい」

 

「……部長?」

 

 木場の言葉に一誠は訝しがりながらも聞き返す。

 そして木場はそんな一誠の言葉に頷き、口を開く。

 

 

「そう、僕達オカルト研究部の部長、リアス・グレモリー先輩がね」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 日が傾き、夕暮れの太陽が町を照らす時間帯。

 小鳥遊蒼真は商店街で買った、食材の入っている買い物袋を手に持ちながら、帰宅していた。その際、小腹が空いた蒼真は袋の中に入っている饅頭を口に放り、食べ歩きという行儀の悪い事をしながら歩を進めていた。

 そこで喉が渇いた為、近くの自販機まで移動し、小銭を入れてジュースを取り出す。

 取り出したジュースの中身を一気に飲み干してゴミ箱に空き缶を捨てて、帰路に着こうとしたその時、

 

 蒼真の前方から紺色のコートを着用し頭部にはシルクハットを被った男が現れ、その場に立ち止まっては蒼真へと視線を向ける。その目はどこか睨むように蒼真を見ていた。

 

(ん? なんだこのオッサン? なんかすごいガン見してるんだが、…もしかして親父の知り合いかなんかか?)

 

 男の態度に蒼真は不審に思いながらも取り敢えずは訊ねてみる。

 

「……えーと、なんすか?」

 

 蒼真がそう問いかけるも、男は無言を貫くばかりで口を開こうとせず、蒼真の方へと静かに歩を進め近づいてくる。

 

 その事に蒼真はまさか不審者じゃないだろうな、などと思いながら、無言でこちら徐々に近づく男を見ていると、どうにもそれっぽい事に気付き、男と距離を取る為に一歩後ずさりしつつ、そのまま逃げる準備を始めた時、

 

「おかしなものだな。気配は人間のそれだが、貴様からは何故か胸糞悪い悪魔の匂いがするぞ。となると、貴様は悪魔の関係者か」

 

 男はそこで立ち止まり、蒼真を睨み付けながらそう言葉を発した。

 蒼真は悪魔という単語にピクリと反応する。悪魔の存在を知っている事から目の前にいる男がただの人間ではないと、自分から話しているようなものだった。

 

「という事は、オッサンも悪魔の関係者か?」

 

 蒼真がそう男に訊ねると、男は先程よりも鋭い視線で蒼真を睨む。

 

「貴様、私が悪魔の関係者だと……? 本気で言っているのか?」

 

「え、違うのか?」

 

 男の言葉に蒼真は首を傾げながらそう問うと、男はその瞳に殺気を乗せて蒼真を射抜くと、バッと男の背から、黒い翼が出現した。

 

 そこで蒼真は男の翼が、前に小猫に見せてもらった翼と種類が違う事に気付く。

 小猫の持っていた翼は、蝙蝠のような翼だったのに対し、目の前にいる男の背から生えている翼はカラスのような形をしていた。

 

「アンタ、その翼……悪魔じゃないのか……?」

 

 蒼真は困惑しながらもそのような事を言うと、その言葉に男はさらに殺気を強める。

 

「どうやら貴様は何も知らんようだな。……うむ、なるほど。貴様は悪魔と契約をしているだけの者か。それならば悪魔の事は知っていても、私のような存在を知らないのも合点がいく。ならば、貴様はここで殺しても特に問題はなさそうだな」

 

 一人でそう納得し、男はその手に光の槍を生成する。

 ブゥンという重たい音が空気を揺らした。

 蒼真は男の手に現れた光の槍に目を丸くして驚くも、男がそのまま蒼真に向かい光の槍を投擲しようとする動きを見て、蒼真は反射的に横に飛んで回避しようとしたが、

 

「ぐはぁっ!?」

 

 完全には回避できず左の脇腹に男が投げた光の槍が刺さる。

 蒼真は刺さっている光の槍を見て、それを抜こうと手に持った瞬間、その槍は自動的に消えた。そして消えると同時に左の脇腹から血が噴き出す。

 ドクドクと流れる血を手で押さえ、蒼真はあまりの痛さに両膝をその場に着いて呻き声を上げる。

 

「急所は外れたか…。しかし貴様等人間にとってはその程度でも相当な深手なんだろう? ならば次は避けられまい」

 

 男の言葉に蒼真は苦しそうに顔を歪めながら男を睨む。

 そんな蒼真の様子に男は口元に冷笑を浮かべる。

 

「しかし知らなかったとはいえ、下賤な悪魔如きと一緒にされたままというのも胸糞悪い話だ。だから貴様には手向けついでに特別に教えておこう。

 我が名はドーナシーク!! 至高で高貴なる堕天使の一人だ!! この私の手によって直々に殺される事をせいぜいあの世で自慢するんだな」

 

 そして男、ドーナシークは再びその手に光の槍を生成し、苦しそうに顔を歪めながらもドーナシークを睨む蒼真に向かい構える。

 そんなドーナシークの姿に蒼真は内心でクソッタレと悪態をつきながら、随分と呆気ない最期だったなと、そのような事を思いながら、ドーナシークを見据える。

 

「さらばだ、人間よ」

 

 ドーナシークが呟き、光の槍を投擲しようとしたその時、

 

 

 

 

 

「――そこまでにしてもらおうかのう、堕ちた天使よ」

 

 

 

 

 

 どこからともなく聞こえた女性の声。蒼真やドーナシークがその声の元に視線を向けるよりも早く、ドーナシークの元にまるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で現れた褐色肌に紫色の髪をポニーテールにしたグラマラスな美女が現れた。

 

「なっ!?」

 

 その突然の事に目を見開いて驚くドーナシーク。

 対する褐色肌の美女はそのままドーナシークを勢いよく蹴り抜く。

 ドーナシークは行き成りの事に防御や回避はおろか、何の反応も示す事も出来ず、その蹴りをまともに受けてそのまま吹き飛び、壁に激突する。

 

 そしてそのダメージから苦しそうに吐血を吐くドーナシークを尻目にその女性は倒れる蒼真に近寄り、心配そうな雰囲気を醸し出して彼を見下ろす。

 

 

「すまぬ、ソーマ。少々遅れた」

 

 

 その女性は蒼真にとっては全くの見覚えのない女性であったが、見下ろす女性と目が合って、この人は大丈夫だと、妙な確信と安心を覚え、蒼真の意識はそこで途切れた――。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「う、………ん。………、ん?」

 

 

 蒼真の意識が徐々に覚醒していき、重い瞼を開けると、彼の視界には闇色の空が映った。

 星一つも存在しない夜の闇の中に三日月型の白い月が爛々と輝いている。

 その白く輝く三日月を蒼真は暫くの間、呆然と眺めていたが、次第に意識が完全に覚醒すると、先程までの出来事を思い出す。

 

 そして蒼真はガバッとその身を起こし、ドーナシークと名乗った堕天使と、蒼真を助けた褐色の女性がどうなったかと周囲に視線を向ける。

 

「え? ……なんだ、ここ?」

 

 周囲を見渡していた蒼真は、ついそのような言葉が口から漏れる。

 

 現在、彼の目の前にある光景は先程まで見ていた住宅街ではなく、どこまでも続く白い砂漠だけが続いており、その砂漠から所々枯れ技のような白い枝が砂漠から生えていた。

 

 突然の出来事に混乱する蒼真だったが、この白い砂漠はどこかで見た事があると、気付くと、頭を抑え、どこで見た光景なのかを思い出そうと頭を捻る。

 

「見覚えのある砂漠だ。でも、一体どこで……?」

 

 声に出してその疑問を口に出して言うと、背後から掛けられた言葉に蒼真の思考が停止する。

 

 

 

 

 

「――フン、漸くお目覚めか。随分と呑気なものじゃのォ」

 

 

 

 

 

 その声を聞いた瞬間、蒼真は思い出した。この白い砂漠の事を。

 

 そう、ここは蒼真の夢の中に出て来た『虚圏(ウェコムンド)』と呼ばれる場所だ。

 そして背後から掛けられた声にも聞き覚えがあった。

 

 蒼真はおそるおそる声の方に振り返ってみると、そこには骨状のパーツで組み立てられた玉座のような椅子に腰かけた老人がいた。

 

 その身に白い死覇装を纏い、頭には王冠のような仮面の名残を着け、右目付近や左頬には傷が存在しており、その身から溢れる覇気は周囲の者を威圧するような圧迫感が存在する。

 老人は蒼真を見下ろしながら、眉を顰め口を開く。

 

「それにしても、なんじゃあの体たらくは。あの程度の蟻如きに遅れを取りおって。それでも儂の力を継承する者か」

 

 そこには、いつも蒼真の夢に出てくる、一人の老人、『老い』という死の形を司る第2十刃(セグンダ・エスパーダ)、バラガン・ルイゼンバーンがいた。

 

 

 


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