「ふわぁぁぁー……「」
あくびを噛み殺しつつ、ベッドから這い出る。
最近は夜に例の霊(朝から小粋なジョーク)が、ほぼ毎日のペースで出現する為、若干寝不足だ。守護(まも)ってくれていた愛すべきともこ達も、もういない。寂しくも心細いが、自分でなんとかしないといけないのだ。つーか最近は何か対応にも慣れてきて、屁とかで対応する手段も見つけた。
「よいしょっと」
ぽきぽき関節を鳴らしつつ、カーテンを開ける。
窓から見上げた丸い太陽の輝きは、そんな俺の寝不足を吹き飛ばすほど美しかった。
そうまるで……
「ああ、おっぱいの様におっぱいな太陽だなあ!」
(・人・)ルートafter
階下に降り、両親とおっぱいな挨拶を交わし朝食をとる(今朝はおっぱいな目玉焼きだった)
最近は両親との関係にも問題はない。以前の擦れ違っていた関係からは考えられないほどだ。多分俺も両親も不器用なだけだったんだろう。
少し歩み寄れば、よかっただけなのだ。少しの勇気を持って歩み寄った結果、こうやって普通の家族の様な絆を得ることができた。
それもこれも全ておっぱいのおかげだ。
母親の作った弁当を鞄に詰め、家を出る。
少し歩くと幼馴染である神戸小鳥の家に到着。
家の門をくぐると、二匹の犬が尻尾を振りながら俺に擦り寄ってきた。
「おっ、ペロ! ちびもす! 今日もおっぱいな毛並みだな!」
「もすっ」「わん!」
二匹は随分前に小鳥が拾ってきた犬だ。
最初こそ人間を警戒していたが、今ではすっかり神戸家の一員だ。
ちびもすの方は少し普通の犬からかけ離れている容貌をしているが、まあ特に気にする必要はないだろう。一見マンモスに見えるが小鳥が大切にしているペット。俺のとっても大切な友達だ。
「お前らのご主人様は?」
「もす!」「くぅーん」
「なるほど……まだ寝てるか」
犬語検定3級の資格を持つ俺にとって、これくらいの犬語は容易い。
「あら、瑚太郎さん」
「どうも」
ちびもす達と戯れていると、その声を聞きつけたのか家の中から小鳥の母親である理香子さんが出てきた。
少し萎縮する。
こ人のが発するなんとも言えない高貴なオーラを前にすると、俺の様な庶民は平伏せざるをえないのだ。今も肩膝をついて騎士のように応対してしまう。
「小鳥の出迎えですか?」
「へえ」
「それはご苦労、大儀でした。……家の中で待つといいでしょう。お紅茶でも飲みなさい」
「は、ははー」
へこへこと頭を下げつつ、家の中へ。
理香子さんが淹れてくれた紅茶を戴く。
ふと庭の方に視線を向けると、旦那さんがチェーンソーを使って庭をリフォームしていた。
隣家を隔てる植物の壁がおっぱいの形になっていく。うーん、おっぱい!
「相変わらず……うまし」
紅茶の善しあしなんて分からないけど、これだけは言える。
おっぱい、と。
「小鳥の婿になれば、毎日この紅茶を飲めますが? どうします?」
「ぶふっ」
むせた。
それはもう盛大にむせた。
「い、いやあのですね! お、俺たちはまだ高校生で、そういうのは少し早いかなぁ、と! 小鳥さんを軽んじているわけではなく、いずれあそういった関係になることもやぶさかではなういと想定はしているものの……」
「冗談です」
しゃなり、と優雅に口を手で隠しクスクスと笑う。
遊ばれてる。めちゃ遊ばれてる。
「おかーさーん、私のパンツどこー……って瑚太郎君」
寝起きなんだろう、目を擦りながら小鳥が現れた。
小さい雀がピヨピヨ羽ばたいてる愛らしいパジャマを着ている。
うーんおっぱいおっぱい。今日も小鳥はおっぱいだ。おっぱい過ぎて衝動的に告白してしまいそうだ。自重自重。
「あちゃー、もうそんな時間かー。小鳥さんすっかりお寝坊しちゃったよー」
「構わんよ」
「いやー、ごめんねごめんねー」
小鳥の数少ない欠点は、ギャグにオリジナル性が皆無なところだ。あと微妙に古い。
小鳥が朝食を食べ、学校の用意をするのを見届けてから、一緒に家を出る。
「じゃ、ペロ、ちびもす。いい子でお留守番してるんだよ? 帰ったら散歩に行こうね」
二匹の鳴き声を背に、門を出る。
「それにしてもおっぱいな天気だねぇ。こりゃ今日はおっぱいなことがありそうだよ」
「俺は小鳥と一緒に通学してるだけでおっぱいだけど……なっ」
「おや、こたさん。おにゃのこを口説くのが上手くなったねぇ」
「俺が口説くのは小鳥だけ……さっ」
「もうこたさんってば、お上手。でも照れちゃう……えへへ」
「ハハハ!」
こうやって小鳥とアホみたいな会話をするのは、俺の人生の楽しみのひとつだ。
こんなおっぱいな日常がずっと続けばいいのに。
(続くさ)
確証なんてない、未来は不定形なものだが……それでも俺はこの日常が続くと確信していた。
絶対に壊れない、安穏とした日々。
外敵なんていない。この世界はそういうものだ。
すべての人がおっぱいに身を委ねた社会。永遠に続くおっぱいワールド。
(ああ、ほんとに……おっぱいだなぁ)
(・人・)(・人・)(・人・)
通学する人の群れに見知った後ろ姿を見た。
少し強めに背中を叩く。
「よっ、今日もおっぱいな朝だな――吉野!」
俺が背中を叩いた相手――吉野がギョロリと獣性を秘めた眼をこちらに向ける。
並みのパンピーなら無条件で財布の中身を差し出してしまいそうな鋭い瞳。
「天王寺、テメエ……!」
そして反転→満面の笑み。
「朝から天王寺のおっぱいな顔を見れるとはな……今日もおっぱいな日になりそうだ」
「へへ、よせやい」
「今日放課後にウチ来いよ。ママンが梨をご馳走してくれるってよ」
「ヒュウ! そいつぁおっぱいな提案だな!」
吉野家で出る梨は旨い。
髪をかき上げながら微笑む吉野に向かって、小鳥が片手をあげる。
「吉野君、おはよー」
「神戸か。フッ……天王寺と並んで横に実るお前は、何物にも変えがたい<楽園の果実(アダムフルーツ)>」
「日本語で」
吉野レベルがまだまだ低い小鳥は、度々吉野の発言に戸惑う。
今のはこういうことだ。
「俺と小鳥が並んでると、それはもういい絵になるな……吉野はそう言ったんだ」
「あらやだ。……照れ照れ」
小鳥が赤くなった頬を押さえる。
かわいい。
「ククッ、真っ赤に熟しやがって……お前らは本当におっぱいなカップルだぜ」
「やだもー。吉野君と小太郎君もいい感じだよー。くっついちゃえ、くっついちゃえー」
「フッ、よせよ。照れるぜ」
吉野がファサァと前髪をかきあげる。
こっちもかわいい。
「じゃ吉野も教室まで一緒に行こう」
「ハッ、天王寺。あんまり無粋なことは言うな。お前と神戸は二人で輝く魅惑のおっぱい、おっぱいは二つで一つ、揃ってこそのトゥルーだ。そのおっぱいは俺の様な野獣が食い荒らしていいもんじゃねえ……」
「……(やべえ、今のは意味が分からん)」
「そういうわけだ。俺は先に行かせてもらう――じゃあな、いいおっぱいを」
そう言うと吉野は去って行った。
俺もまだまだ吉野レベルが足りないらしい。
「吉野君は今日も全開だったねぇ」
「そうだな」
小鳥の言葉に同意する。
いつだって全力で世界に挑む、それが吉野という男だ。
そして俺と本気でおっぱいについて語り合った唯一無二のマブでもある。
ああ、今までも思い出す。あの川原で吉野と語り合ったおっぱいを。
お互い言葉だけじゃ飽き足らず、拳をぶつけ合った。
殴り合って、そして残ったのは価値だ。
本気で向かい合った結果、俺と吉野は同じ価値を共有した。かけがえのない価値を。
恐らくは世界が変わっても、吉野とはマブでいられる……そう信じてる。
(・人・)(・人・)(・人・)
学校に近づくと、校門の辺りに人だかりが出来ているのを見つけた。
小鳥が首を傾げる。
「なんだろうね?」
「さあ……」
人だかりに近づくと、圧倒的な熱を感じた。
物理的な熱ではない、人が放射する感情の熱波だ。
「お願いしまああああぁぁぁぁぁぁぁす!!!!」
言葉が熱を伴い周囲に伝播する。
人だかりの中心で言葉を発するのは、フード被った男。
先日ウチのクラスに転校してきたミドウだ。
「清き! 清き一票おおおおおおおおおお! 世界で一番貧乳を愛する僕に――清き一票をおおおおおおおおおおおお!」
どうやら転校初日で言っていた、生徒会長への立候補はマジだったらしい。
周囲の生徒はミドウの放つ異様な――まるでマグマを伴ったような熱気に足を止めている。
本気の感情は人の心を捉える、それを目の前の光景は体現していた。
見ればミドウだけでなく、一緒に転校してきたテンマとテンジンも人の輪の中で活動している。
「むっ、ミドウめ……いい熱気を放つ。俺もうかうかしていられんな! みんな、ミドウをよろしく頼むぅぅぅぅぅ!」
「ならば私はビラ配りである!」
「僕はおっぱいが大好きでぇぇぇぇぇぇぇぇす!!! 当選した暁には、この風祭を緑の町だけでなく、おっぱいの町としても盛り上げていこうと思ってまぁぁぁぁぁすッ!」
『おおおおー!』
ミドウの表明に、周囲の老若男女、生徒教師用務員が雄叫びをあげる。
俺も小鳥もだ。
みんなおっぱいが大好きなんだ。
校門前のおっぱいを讃える雄叫びは、おっぱい現人神である千里朱音の御神輿が到着するまで続いたのだった。