これから俺はどうなるんだ――?スリザリン寮四年生、キース・イングロッドは嘆いた。
スリザリンの上級生たちが、ハリー・ポッターを中心とした秘密の会合を抑えた。別にそこまではぶっちゃけると対岸の火事だった。
しかし、学校を追放されたのはポッターではなくダンブルドア『元』校長。後釜はよりにもよってアンブリッジ。
(少なくとも俺は困る)
彼女はスリザリンを贔屓するので、利用しやすいと寮受けは良かった(子ども扱いは鬱陶しいことこの上ないが)。
だが、教師として見れば有害だ。どうやらホグワーツ生無能化を目指しているらしく、自らの“夢”に最重要と思われる『闇の魔術に対する防衛術』の授業が、名前だけ立派な手の運動と化してしまった。去年受けた、闇祓いに化けた『死喰い人』の授業の方が、余程有意義だった。そのため寮の中で自主訓練に励んでいたが、もしも、万が一、新校長の無能化計画が全ての授業に広まれば……。
(奴らは馬鹿だ)
これもポッターが見つかったせいだ。『防衛術』の自習をしたければ、自分だけでやればよかったのに、他寮まで巻き込み大型化させてしまってアンブリッジに目をつけられた。
ダンブルドア元校長は、グリフィンドール贔屓が酷かった(自分が入る一年前の『寮対抗杯の惨劇』は、今も語り草だ)が、授業の阻害はしなかった(防衛術の教師選びの点ではイカレていたが)。
その、先行き不安の新校長に、呼び出されてしまった。
「よ~く集まったわね!優等生のみんな!」
とてもそうは見えない人間も何人かいる。例えばドラコ・マルフォイの両脇にいるでかいの(×2)とか。
「そこのあなた、そんな緊張しなくていいのよ?もう、みぃんな笑って笑って?」
言われて、おずおずと口の端を上げた。笑顔が自然体なのは、同じ四年生のセルウィンくらいだ。
「あなたたちは、わたくし直々に選り抜いた、精鋭たち。このわたくしによる新体制における特待生よ」
部屋の中がざわついた。
「ある人はスリザリン内の首席」
キースとセルウィンに目を向けた。
「ある人は監督生」
はーい、と年上の女子学生が手を挙げた。確か彼女は、五年生のパンジー・パーキンソン。
「そして、またある人は……わたくしに積極的に手を貸してくれた、見識の明るい子たち」
マルフォイが胸を張った。習って、後ろの二人もふんぞり返った。
「このみんなで、わたくしと共に、ホグワーツを浄化しましょう。――そんなに不安がらなくていいのよ、キース・イングロッド君。あなたの、いいえあなたたちの将来は光り輝いている!なんてったってこの私に目をかけられ、魔法省の後ろ盾を得て、大臣にさえ名前を覚えてもらう立場となったもの!」
作り笑いが、本物の歓声に変わった。
「静かになさい。あなたたちはわたくしに次ぐ地位を手にした、生徒たちの頂点に立つ『選ばれし者』。監督生を含めた全生徒に点数を加算し、減点する権利を与えるわ。対する義務は一つ、わたくしと共に歩むこと。愚かなことに、新校長による新体制を望まない、魔法省にたてつく生徒は多いわ。その生徒を排除し……わたくしを守って?」
本気でかわいいと思っているのか、アンブリッジは少女の様にウインクした。
「名付けて『尋問官親衛隊』……行きましょう、共に明るい明日へ!」
ノリノリに答えた者と、無理に合わせて遅れた者は、半分半分。
ピンク色に染まった部屋から出ると、悪夢から覚めたような気分になった。全て夢のようだったが、胸に光る銀の『I』バッジは本物だ。
バッジを渡された時、セルウィンと共に四年生の監視を命令された。監督生でも“見識があった”訳でもなく『尋問官親衛隊』に選ばれたのは、監視の目を増やすためだったようだ。
「よく耐えたね。途中で気絶するかと思った」
後ろから声をかけられた。終始笑顔を崩さなかったセルウィンだ。
「ああ、我ながら。おまえは良かったな、将来が約束されて嬉しいんだろ?」
「別に。どうせあの人一年しか持たないよ。『防衛術』の授業まだ降りてないから」
「校長に専念って体で一年引退かもな。あーお先真っ暗」
「そういう可能性もあるね。……でも、結局は最後にダンブルドア校長に頼ることになりそう」
は?と後ろに振り返った。彼女の笑顔は崩れていない。まじまじと顔を覗いても、人工的な笑顔には見えなかった。
「おまえどっちなの。アンブリッジ派かダンブルドア派」
言ってから、慌てて辺りを見渡す。
「誰も聞いてないよ」
「じゃあ遠慮なく聞こう」
「秘密。ただアンブリッジ先生は長続きしないって予想」
「どうして」
「魔法省は忙しいから」
「忙しいってそれが普通だろ」
せっかく手にしたホグワーツ内部への切符を、そう易々と手放すとは思えない。
「おまえ話す気あんの?」
「無い」
「うぜ。時間無駄にした」
さっさと帰って防衛魔法の練習をしよう。
「あ、ちょっと待って!一つだけ!同学年のよしみで!」
「……あんだよ」
「強権振りかざして、あんまり虐めちゃだめだよ。全部あなたの身に返ってくるから」
「うざい上におせっかいなんだな、優等生さんは」
「口に出すだけって楽だから」
やはりこの女には、相手に理解される事柄を話す気は無いらしい。
「俺はアンブリッジ反対派が起こす暴動を鎮圧できなくて、ダンブルドアが戻るに一票。どっちの予想でも長くないんだから、そんな復讐呼び込むような真似しないよ」
それに、特に何も悪事を働いていない人間が苦しむ姿を見ても、楽しくない。笑った後の悪人が、因果応報で地獄に落ちる様子を見るのが一番楽しい。
その日を楽しみにしながら、キースは努力を続ける。
キースの予想の一段目は、当たった。ホグワーツの生徒たちが暴れ出した。正確には双子のウィーズリーの、ドラゴン型花火が。教師たちは、数多い省令を盾に“花火を除去する権限があるか分からない”と言い出し、非協力的。暴れ回る花火の束はアンブリッジと『尋問官親衛隊』が相手する羽目になった。花火を除去しようと魔法を唱えると、逆に増えていく仕組みだった。そのおかげでキースは
「どうやって消せばいいのか分かりません」
「邪魔しないで!あぁーもう!」
初日から親衛隊としての仕事をサボることに――
「何ぼーっとしてるの?」
サボろうとして――
「イングロッド君、お仕事」
セルウィンに捕まった。
「花火は俺にはどうしようもない。勝手にやれ」
「花火じゃない。モンタギューさん」
彼は今のクィディッチキャプテン。そして親衛隊の一人だ。
「今朝から行方不明なんだって。一緒に探してくれない?」
「一人で行け」
「暇な親衛隊全員に、捜索命令が出てる」
「ちっ」
どこかに姿を隠し、暇をつぶそうと考えたが、セルウィンがひょこひょことついて来る。
「向こう行けよ」
「一人じゃ危ないよ」
「何で」
セルウィンがかがみ、その手がローブを引っ張り後ろに転んだ。先ほどまで頭があったあたりに、ウィーズリーの花火が通った。
「ほら」
「……」
礼を言うのも癪なので、ふん、と鼻を鳴らしておいた。
「モンタギューさん、どこにいると思う?」
「知らねーよ」
「私、誰がやったか分かったかも」
「じゃ、そいつに問い詰めるんだな」
「聞かないの?」
「めんどくさい」
緩い微笑みを、初めて崩した。困ったような表情を見て、ざまあみろと思った。
「花火のウィーズリーさん。真っ先に会いに行って、点を引きに行きそうな人」
「ああ……」
同学年で同じクィディッチの選手同士、彼らのいがみ合いは有名だ。気の短いモンタギューなら、彼らにIバッジを見せびらかすついでに減点しに行きそうだ。見せびらかされた、悪い方向に行動力の高い双子のウィーズリーは、モンタギューをどこかに閉じ込めるか危害を加えるか、平気でするとも考えられる。
「私一人で行っても、茶化されるだけなら運がいい方」
「俺が一緒でも同じだ」
「それもそっか。諦めて地道に探そう――」
セルウィンが立ち止まった。目の前には古い棚があるだけだ。
「人の気配がした……魔法の気配も……」
「何、妄想?」
「あれ、消えた」
「何言ってんだ」
キースは、とりあえず棚を開けた。暗闇があるだけで、中身は空っぽだ。
「ほら、何もねえ。こんなとこ、さっさと行くぞ」
「う~ん――だめ、もうちょっと!」
セルウィンはローブを掴んで離さない。じっと空の棚を見つめている。
「おい、いい加減に――!」
「しっ!」
思わぬ気迫に声を呑んでしまう。なし崩しに共に耳を澄ますことになり、やがて――
「――ぃ、誰か――」
かすかに、棚の“奥”から声が聞こえた。奥も何も、手を伸ばせば背面に触れられる、何の変哲もない棚のはずなのに。
「モンタギューさんですか!?」
「――すけて――」
声の調子は変わらない。途切れ途切れで、悲鳴のように暗い。
「ゴーストが隣で叫んでんじゃねーか?本当にモンタギューだとしても、声も届かない俺らにはどうしようもない」
「じゃあいい。ばいばい」
先ほどまであれほどきつく握られていたローブが、はらりと降りた。ローブのしわを伸ばして、キースは背を向けた。
曲がり角まで来て一度だけ振り返ると、セルウィンは必死に呼びかけていた。
新校長就任二日目。キースたち親衛隊はまた呼び出された。場所は『旧』校長室前。アンブリッジ新校長は興奮気味で、鼻息荒くまるで闘牛だった。
「ダンブルドアが帰ってきたわ!」
アンブリッジはガーゴイルの像を叩いた。
「駄目元でコイツに『隠密探知呪文』をかけていたのだけれど、見事引っかかったわ!二度目はまだ!まさに今、旧校長室にダンブルドアがッ!」
鼻息で飛んでいきそうな勢いだ。生暖かいそれがキースの腕に当たり、不愉快な気分のまま質問のため挙手した。
「『隠密探知呪文』ということは、実際にはダンブルドアと確定した訳ではありませんよね」
「どうだっていいわ!どの道今この状況下で旧校長室に入れるということは、ダンブルドアの命を受けた誰かということよ!」
それもそうだろう。曲がりなりにも現校長すら拒絶するガーゴイルなのだ。
「あのう、校長」
マルフォイが手を上げた。
「なんです?ドラコ」
「出口を固めたのは見事な術策と思います、ええ。――でも、本当にダンブルドアがいるとして、僕たちはどうすればいいのでしょう?」
中にいる相手は、本当に学生風情が囲んで止められる相手なのか?件の元校長は、大臣と補佐、闇祓い二人の手から逃れられるとんでもない魔法使いだ。
「あ~ら、心配ないわ。彼は生徒を特別大事に思っているようだから」
何人かの顔色が悪くなった。つまりアンブリッジはこう言いたいのだ。自分の盾になれと。さすが『新校長直々に選んだ優等生』、ひそひそ話だけで、実際に指摘する脳筋はいないが(あるいはそもそも気づいていないか)。
「あなたたちは常に何人かでここを見張りなさい。奴が出てきたら、引き止めつつ、この――」
アンブリッジの部屋に何枚も飾ってある、猫の皿を壁に掛けた。
「猫ちゃんにそれを伝えなさい。すぐわたくしに伝わる――」
バチン!
「きゃぁッ!」
早速、盾がご入り用になった。でかいマルフォイの取り巻き二人を壁に、隙間からガーゴイルを伺う――が、微動だにしていない。床の塵もそのままだ。
親衛隊たちは音がした後方――旧校長室の反対側の廊下を振り返る。
部屋の中のダンブルドアではないと分かった瞬間、アンブリッジはニタニタしながら杖を構えた。
「誰かしらぁ?そこにいるのは!」
そして、信じられないほどの速さで曲がり角へ走ると、拘束呪文を放った。
「ひゃっ!わ、私です」
馴染みある声。嫌な予感のままキースが覗くと、案の定
「ミス・セルウィン!大遅刻じゃないですか!」
「すみません、モンタギューさん探してて……」
「そんなの放っておいて、招集を優先なさい!」
後ろから舌打ちが聞こえた。それは場を騒がせたセルウィンに向けてか、あるいは――
その後者の意味など考えもしていないのだろう。アンブリッジは紐を解き、甘い声を出した。
「罰として、最初の見張り番はあなたにしましょう。一人じゃだめだから、それと……」
パーキンソンが手を上げた。
「おんなじ学年で仲もいいイングロッド君がいいと思いまーす!」
「それがいいわね!イングロッド君、お願いね?」
ほら見ろ、とばっちりが来たじゃないか。
そこから解散となり、セルウィンと二人取り残された。ここに居残る大まかな事情を説明してから、尋ねた。
「あのでかい音は何だったんだ?」
心当たりはあった。両親の『姿現し』がほぼそれと同じ音だった。しかしホグワーツの中では絶対に使えない。
「花火。追いかけられて、なんかよく分からない魔法撃ったら、なぜか消えちゃった」
「くっだらね」
キースたちが見張っている間、ガーゴイルの像が動くことはなかった。
その代わり、セルウィンがずっと探していたモンタギューは見つかった。五階のトイレに頭から突っ込んでいたそうだ。
アンブリッジ新校長、大演説!の巻。マジしんどかったっす。
キース君はまたもやオリキャラ。14歳中二病真っ盛り!言い訳すれば同年代のスリザリン生は『あいつ、バカよ』のシーカー、ハーパー君だけ。とても尋問官親衛隊には選出されなさそう。
なお、オリキャラはミリア、レナ、キースの三人です。これ以上出しません。だから許して