二月の終わり、グリフィンドール『闇の魔術に対する防衛術』の授業で。
「これが『逆血流の呪い』だ。これの『死の呪い』よりも悪質な点と、『許されざる魔法』に入らない理由を、各々の考察を交えレポートを仕上げるように」
「はい先生」
「なんだロングボトム」
「先生は人間相手に使ったことがありますか?」
「もちろんあるぞ」
その時の情景を思い浮かべているのか、眼光はいつもより更に濁って、うっとりとしている。
「なら先生の残虐性と違法性を中心にレポートをまとめたいのですが、よろしいですか?」
「……。よし、俺が手伝ってやろう。放課後ここに来い」
グリフィンドール生は沈黙を保ったまま、授業時間は終わった。
放課後、ハグリッドの小屋は久々の賑わいっぷりを見せていた。
「こんにちは、ハグリッド。しもべ妖精たちからたっくさん貰って来ました!」
「デザートもファングの餌もたっくさんね」
「も、持ってきましたぁ……」
ハンナとアーニー、エロイーズ・ミジョンは、食べ物が山盛りの大皿を抱えている。雪解けの泥水で足を滑らせないよう、三人とも細心の注意を払っている。
「おうおうご苦労さん!そんじゃ机に――並べられんか」
机は既に、シェーマスがどこかから持ち込んだ菓子類で山盛りだ。
「私たちだけで、ごめんね」
「というか、私も混ぜてもらって、本当にいいの……?」
「いいんだ。俺一人でやるつもりだったんだからな。じゃあ、始めるぞ!」
「そうしよう!」
「はい、クラッカーと室内用花火」
シェーマスがどこかから仕入れてきたクラッカーを配り、花火を設置した。
「ようし、俺がいくぞ」
ハグリッドが大きく息を吸い込んだ。
「『ハリー・ポッター応援』パーティー!始めるぞぉ!」
「「「「イェーイ!」」」」
今日ここに生徒たちが集まったのは、今は姿を隠し、闇の勢力と孤軍奮闘するハリーたち三人を、少しでも元気づけるためだ。今や唯一闇の勢力と戦うラジオ番組、『ポッターウォッチ』にこのパーティーのことを伝えたから、きっと三人に応援が伝わるだろう。
と言っても、実際にしていることは、お菓子やデザートを頬張りながら、ハリーたち三人の思い出話をするだけだが。
「そこでな、俺ぁちぃーとばかし口を滑らせたんだ。フラッフィーは音楽聞くだけでねむねむだってな」
「ハグリッドってば迂闊だなー!」
「ドラゴンに小屋を燃やされかけるのもよく分かったわ!」
「そんなこと無いですって!うっかりなんて誰でもあります!」
「君ら思ったよりずいぶん無茶苦茶してたんだなぁ~」
この五人の中では、ハグリッドが圧倒的に
トントン、誰かが小屋の扉を叩いた。五人は顔を見合わせて、頷き合った。
ハグリッドがピンク色の傘を片手に、ゆっくりと開いた。
「よおハグリッド、楽しそうじゃねえか。ちょいと小屋拝見すんぞー?」
「帰れ、アミカス・カロー」
「何のパーティーだって?」
アミカスはにやにやしながら、飾り付けた横断幕を見上げた。
「ああん?『ハリー・ポッター応援』……よおく分かった。テメエら全員『磔の呪文』がご所望なんだな。来い」
「お断りだぁつったら?」
「力づくでやるに決まって――」
アミカスの背中を、赤い閃光が貫いた。正面にばったり倒れたのを、ハグリッドが支えた。
「そのまま地面に鼻つけときゃいいんだよ、こんなやつ」
「でもようシェーマス……一応先生だし、後ろから不意打ちだし、かわいそうじゃねえか」
「その情けが命取りだよっ!」
突如アレクトが飛び出し、同じ赤い閃光を放った。
「危ない!」
ハグリッドが小屋の中の皆をかばって、『失神呪文』を受けた。
「ぉぅふっ、グロウピーのパンチの方がよっぽど効くぞ!」
巨人族の血は、失神呪文の一つや二つ軽く受け止める。
アレクトの背後からまた失神呪文が飛んでくるも、彼女は閃光を出して相殺させた。
「あたしゃ見てたんだ!二度目は騙せんぞっ!」
そうして、別の魔法を森の茂みに打つと、茂みが爆発して隠れていたマイケル・コーナーが露になった。
「マイケル!」
「なんもねえか!」
アレクトがアミカスを介抱している隙に、全員小屋から飛び出した。
「平気さ、ちゃんと避けた。――でも、あっちは復活したね」
胸をさすりながら、アミカスが起き上がる。マグマのようにメラメラと、目に怒りが宿っている。
「ガキどもめ――後ウスノロ――馬鹿にしやがって――!」
「兄公、とっとと片付けちまおう」
両者の視線に一瞬火花が飛び交い、瞬間、双方杖を抜いた。
「『プロテゴ』!」
「私も『プロテゴ』!」
「『ステューピファイ』!」
「『エクスペリアームス』!」
「『
シェーマス、エロイーズがまず、巨大な盾の呪文を張った。その横からマイケル、ハンナとアーニーが呪詛を放つ。
「しゃらくせぇ!」
「ハエどもが!」
カロー兄妹はこれで倒れてくれない。普段は無気力に教科書を読むだけの無能教師でも、本職は歴戦の死喰い人だ。
無数の光線を盾の呪文で凌ぎ切り、負けずに何かの呪いを撃ってくる。
「や、破れそうだ――!あいつらたった二人なのに!」
「『プロテゴ』!私も手伝うわ!頑張って!」
「やっぱり俺が!」
「駄目だよハグリッド!」
「――来たようだ……!」
マイケルがキザに笑った。
「な、何だありゃあ!」
「避けろ!ぐずぐず言ってないで!」
カロー兄妹二人が真横に飛んだ。さっきまで二人がいた場所には、空から三本の光線が降ってきた。
夕方の群青を切り取ったかのように、真昼の空のようなトルコ色が浮かんでいる。
ウィーズリー家のフォードアングリアだ。
「まさか樹が邪魔で出られないとはね!」
「だから言ったでしょ!何本か切り倒してしまいましょうって!」
「君は思い切りがよすぎるんだよ。木なんて切ったらケンタウルスが何言うかわかんないじゃん」
「それは終わってからです。ほら、避けて!」
後部座席から杖を出しているのは、テリー、アンソニー・ゴールドスタイン。助手席で指示を飛ばしているのは目のいいデメルザ・ロビンズ、運転はスーザン・ボーンズ。
交差する二本の光線を、車は宙返りして全く掠らず避け切った。
「なんで箒は下手なのに、クルマはアクロバットなんだよ!」
「知らないわ!眠ってた才能が開花したのよ!私の忍耐万歳!」
この車はDAの切り札だ。数か月かけて再び空を飛べるように改造しただけでなく、入念に盾の呪文をコーティングした。
下では。
「なんじゃこりゃ!?ニキビだらけだっ!」
「あたしはただの切り裂き呪文だ。ちゃんと唾つけといたぞ」
「アレクト、おめーは地上のガキども、俺は空のハエを!」
「指図すんじゃねえよのろま!」
一時の混乱から立ち直って、カロー兄妹は連携を取り戻した。
対死喰い人新DA総出の作戦は、均衡状態に戻った。
時は少し巻き戻り、冬休み明け。ルーナは現魔法省が気に入らない記事ばかりを書く父親への人質として、どこかへ連れ去られた。
(大丈夫……きっと、だいじょうぶ)
学期初めてのDA集会は、何となしに沈んでいた。
(ルーナがいないからだわ)
彼女は変な冗談(本人は本気の割合が多い)で場を和ませるだけではなかった。議論の中で突然核心をつき、活性化させたことが一度や二度ではなかった。
新DAにおいて、彼女は彼女にしかできない役割を背負っていたのだ。
(私がするべきことは……)
どこにいるともしれないルーナを探しに行くことではない。
学校を少しでも良くすること。二人の、いやDA全員の望みだ。
それと、ルーナが最後まで気にかけていた――
「ねえみんな。今のホグワーツ最大のゆがみって何だと思う?」
「なんだい?突然」
「歪みの中心にいるのはセルウィン。私、彼女を止めたい」
「セルウィンを止めたい?」
「ええ。次にDAがやるべきことは、それだと思うの」
ジニーが面々の前に立って、力説する。
「生徒が生徒を制裁する。これこそが今のホグワーツが抱えている最も大きな歪みよ。セルウィンを止めても次はカロー、カローを止めても次はスネイプ――きりが無いのは分かってるわ。でも元のホグワーツに戻るまで戦うって私は決めた。みんなも同じ思いで応じてくれたのよね?」
「止めるつってもどうするんだ?手足を縛ってこの部屋に監禁するか?」
キースが声を上げた。
「それは最終手段――どうしても避けたいけれど。まずは『武装解除』――杖を奪おうと思うの。オリバンダーが失踪して、今の魔法界は杖不足気味だから、上手くいけばそれだけでセルウィン部屋を無くせるわ。杖を取り上げた上で、話をしてみる。説得できれば万々歳」
ジニーは冗談めかして両手を上げた。
「説得にはカロー兄妹が邪魔。それで……言い出しっぺの身分だからとっても言いにくいんだけど……囮になってもらえないかしら」
「陽動作戦だね。説得する間カロー達を引き付けておく」
ざわつく前に、ネビルが補足した。
「そうそれ、陽動作戦。なるべく安全に、なるべく長く、あいつらを引き付ける方法、みんなで考えてくれないかしら……」
大人の死喰い人二人、場合によってはスネイプも含めて三人。真正面から戦えば、誰も傷を負わないという展開は望み薄だろう。
そこで三グループに分けた。
一つ目は、カロー兄妹を引き付ける役。出来れば兄妹別がいいが、派手にやり合うことを考えると学校内に二か所も戦場を作る訳にはいかない。
二つ目は、スネイプを見張る役。当日校長室の窓に『幻視魔法』をかけて、戦場を見せないようにする。その後はガーゴイル像前で見張り、出てくるようなら金貨で知らせる。
三つ目は、本隊。セルウィンを説得、場合によっては拘束する役目だ。
一番危険度の無いスネイプ係に、やはりというのかキースが名乗り出た。その代わり車の修理を終わらせ、戦闘に使う案を出した。彼曰く、もう少しで動くところまで来ているそうだ。この日からDAの『武器』修理が始まった。
「この辺でカロー兄妹とやり合う!?」
他の生徒を巻き込まず、人目につかず――真っ先に思い浮かんだのが、ハグリッドの小屋だ。実行日には森で隠れていてくれないかと頼みに行った。
「どうしてもっちゅうんならな……」
ハグリッドは前々からどうにかしてハリーを元気付けたいと思っていた。パーティーを開き『ポッターウォッチ』で放送してもらうというのは考えたが、危険だからと止められていた。
それを開き、ハグリッド自身もそこにいるという条件で、場所を提供してくれた。
「パパ、やっぱり未練があったのね」
車の改造者であるジニーの父の助言もあり、一か月半で車の修理を完遂させた。
その間に、秘密裏に勧誘活動をして、新たにエロイーズとデメルザがDAに加わった。
後は実行あるのみ。
ネビルがわざとカローの気に障る発言をして、セルウィン部屋に送られる。
ハグリッドの小屋付近で『ペット』が暴れて危険だと噂を流し、生徒たちを遠ざけさせる。
『ハリー・ポッター応援』パーティーが開かれている、数が多いと密告し、カロー兄妹二人をセルウィンから引き離す。
今のところ、全てクリアしている。
「ロングボトムさん、楽しい作戦だね」
セルウィンはネビルの目を覗いて、にっこり微笑んだ。
「な――何のことだよ!?」
「私は好きでやってるのよ?説得なんてむりだって、初めから言っとくね」
「『エクスペリアームス』!ネビル、無事!?」
ジニーが開けざまに『武装解除』を放った。しかし以前のように、杖で相殺された。
「ばればれだよ、ウィーズリーさん。それと三人の増援おねえさん」
「何!?この子!」
「絶対見えない位置にいたのに――」
「ハーマイオニーのハーマイ抜きより怖いじゃない!」
曲がり角からパーバティ、パドマ、ラベンダーがぞろぞろと出てきた。
「みんな仲良く、医務室に送ってあげる!」
ミリア・セルウィンの杖から、まばゆい光球が放たれた。