【完結】ある読心術士の軌跡   作:白井茶虎

7 / 43
7 秘密の部屋は開かれたり

 ハグリッドは逃げためんどりを探しに行かず、ミリアとルーナを学校まで送ってくれた。

 

「わたし、誰がおんどりさんを襲ったか、探してみる」

「うーん、あたしもやろうかな」

「いんや、きっとキツネか何かの仕業だ。柵を頑丈にしとくから、おめえさんらはな~んにも心配せんでええ」

 

 キツネにしては、ファングのおびえ方が尋常ではなかった――そう思うも、断言はできない。腑に落ちないままハグリッドやルーナと別れた。

 

(……、気のせいだよね)

 

 きっとハグリッドの言う通りだろう。現実はそういうものだ。ニワトリの死を、頭から追い払うことにした。

 現実とは、ミリアが思うよりずっと奇なるものだ。それから数日後に“些細な事件”など吹き飛ばしてしまう“重大な事件”が起きた。

 

 ハロウィーンパーティーの後に。

 

(秘密の部屋?)

 

 管理人フィルチの猫、ミセス・ノリスが石に変えられた。

 ミセス・ノリスとはとても“おともだち”になれなかった。彼女は飼い主のことが一番で、その飼い主が生徒たちを毛嫌いし、彼女も倣って嫌っていた。友達でなかったとはいえ、ショックを受けるには十分だ。

 

(マグル生まれを、殺す?)

 

 ミリア自身は(幸いというべきか)半純血。この日から、どの寮にも少しずついるマグル生まれの生徒が、ネコを前にするネズミ以上に怯えだした。残りの生徒も、得体の知れない怪物が解き放たれたと、戦々恐々なピリピリした気配を纏っている。

 そして。

 

(スリザリンの継承者、が……?)

 

 ホグワーツの伝説に関する噂が、流れ出した。

 四人の創設者たちの友情、のちに起こる不和。グリフィンドールとスリザリンの決闘、追放――この諍いの元が『マグル生まれの入学を認めるか否か』で、『否』のスリザリンの意志を継ぐ者がいずれ現れる。その『継承者』が、スリザリンが他の創設者に隠れて作った『秘密の部屋』を開き、そこに眠る怪物を解き放ちマグル生まれを追放する――という言い伝えだ。

 一文でまとめれば、スリザリンが悪い、だ。

 

(そんなぁ……)

 

 怯えているのは、当のスリザリン生も同じ。寮の外では“襲われるはずがない”と大股で歩いているが、内心は他寮と似たり寄ったり。寮の中では“誰が継承者か”の談義を交わすが、それも恐れが発端だ。

 スリザリンが大手を振って歩いているおかげで、他寮の怒りの矛先はここに向いた。『継承者』から生徒を守るためにスリザリンを閉じ込めろ、いや追い出せ、廃寮だ――そんな内なる声は少なくない。スリザリンはますます内にこもり、他寮との溝は深まるばかり。

 

(これでいいって――おかしいよ)

 

 こっそりと恐れを打ち明けていた上級生に、それを他の寮の生徒には言わないのか、と尋ねた。すると

 

「そんなみっともない真似、出来るわけないでしょ!」

 

「だいいち、私たちの話なんて聞く気もないだろうしね」

 

 二人とも“あり得ない”で一致した。

 興奮気味にレナの意見を聞いてみると。

 

「どうどうヒッポグリフ。ま、あたしもムリって思うわ。この仲悪いの、それこそ千年続いて薄れるどころか熟成してんだし。それも寮の個性ってもんじゃない?」

 

「いくら個性でも、他の寮がこんな時にスリザリン全員を疑うのも、スリザリンが思いついた悪口をそのまま言うのも、どっちもおかしいよ」

 

「お互い控えろって言いたいわけね。それが千年の重みだって。ほら、そんなことより宿題宿題」

 

 軽くあしらわれてしまった。再びどうどうと、頬が膨れるミリアの肩を抑える。

 

(こういう時こそ一致団結――なんて、動物だけなのかなぁ)

 

 森に嵐が近づいてくると、普段話さず仲も良くない動物たちが盛んに情報交換し合う。天敵同士なら甘いことは言ってられないが――スリザリンとグリフィンドールの関係は、そうじゃない。話も通じれば、一緒に授業だって受けられる。

 

(帽子の歌の続きって、これなのかも)

 

 グリフィンドールとスリザリンの決裂――それは今にまで続いている。

 

(やっぱり、悲しいな)

 

 他寮に何もちょっかいをかけていないスリザリン生は、ミリア以外にも多い。差別の目は、蛇の紋章のローブを着る者全員“平等に”向けられる。

 

(もう!これも――スリザリンさんと意地悪なひとのせいだ!)

 

 憤慨して、筆圧が上がる。レポートに穴が空いてしまった。

 

『ぬー、なにか悪いことしたかーい?』

 

(イカさん、あなたじゃないの。……人間のおともだちを作るのは、むずかしいなって)

 

『みんな同じかっこして、仲よさそうだべー』

 

 大イカは、今日もゆうゆうと泳いでいる。

 

 

 

 とうとう、人間の被害者が出た。ミセス・ノリスの事件の二週間後、スリザリン対グリフィンドールのクィディッチの試合があった夜。コリン・クリービー――何度も授業を共に受けた、同学年のグリフィンドール生だ。

 

(嘘でもざまあみろなんて言っちゃダメなのに……)

 

 上級生の誰かがグリフィンドール生にそう口出しして、呪いをかけられる事件があった。今医務室で唸っているので、これ以上何かを言うつもりはないが。

 

 

 

 スリザリンへの嫌疑は、少しおかしい形で別の場所へ逸れて行った。

 きっかけはロックハート先生が主催した『決闘クラブ』。相も変わらず魔法が苦手で、すみっこで事の成り行きを見守っていると、突然悲鳴が上がった。

 気配に集中すると、大広間の真ん中に動物が出現している。

 

『びっくりした!なんだいなんだい!』

 

「私にお任せあれ!」

 

 続いてロックハート先生の叫び声。バーンと大きな音がして、宙に飛び上がった蛇が見えた。

 

『ばーんって!痛いよ高いよ高いのダメだよっ!』

 

(かわいそう)

 

 落ち着かせに行く役目は自分かな、と生徒の中をかき分けて騒ぎの真ん中へ急ぐ。三か月くらいの学校生活のおかげで、人ごみにも随分慣れてきた。

 と、次は静まり返った。

 

『手を出すな!去れ!』

 

『こわい!こわい、でもおそっちゃダメだよね』

 

 ミリアではない誰かが、蛇を止めていた。ほっとしたのは、ミリアだけだった。

 

(あいつ、パーセルマウスだ!)

(あのハリー・ポッターが?なんで?)

(うっひょー闇の魔法使いかっけー!(だがなりたいとは言っていない))

 

 メガネの上級生――ハリーは、蛇とは話せても恐らく心の声が聞こえていない。蛇に牙を向けられていたらしいハッフルパフの上級生に、笑いかけていた。

 

「いったい、何を悪ふざけしてるんだ?」

 

 彼が叫んだ。悪いことに、助けられたとは思っていない。

 ハリー・ポッターはあなたを助けようとしただけだ、唇の裏側まで出て、結局出せなかった。擁護すればこの敵愾心がミリアに向く。これに晒されるだけの勇気が、咄嗟に出ない。

 口を上下させているうちに、事態は収拾されていく。気まずいままハリーは友達に連れられ、襲われたと思い込む彼は大勢の友達に囲まれて寮へと急いだ。蛇は、スネイプ先生が

 

『バイバーイ』

 

 消してしまった。ミリアはスネイプ先生に飛びついた。

 

「あの、あの!ポッターさんは、へびで襲おうとしたんじゃないんです!助けようとしてたんです!わたし、聞きました!」

 

「静かにしたまえ。周りに聞こえるだろう」

 

「みんな聞いてません!みんな勘違いしてるんです!あの人、悪いことしようとしたんじゃないって言ってあげて――」

 

「くどいぞセルウィン。何故そう必死になる?ポッターが蛇語を話し、生徒らがそれを見たまでが事実だ。それ以上を憶測するのは、生徒の自由だ。何よりその証言をすれば君が蛇語を理解できることも公になる。今の時期スリザリンで蛇語を話せる生徒が出れば、折角ポッターに向いた矛先が、どこへ向くか考えたまえ。それとも我輩にその任を負えと?」

 

「ち、違います。先生――」

 

「ならば話は終わりだ。我輩は忙しいのでな」

 

 ふいっと横を向いて、すっかり人が去った大広間に、机と椅子を次々と置いた。

 あの時、咄嗟に口をつぐんだのは、正解だったのだろうか。ミリアはもやもやしたまま、寮への道をとぼとぼ歩いた。

 

 

 

 それから間もなく、また生徒が襲われた。聞けば、蛇にかまれそうになってハリーに助けられた、ハッフルパフの彼(後、グリフィンドールの寮付きゴースト)だそうだ。

 その現場に居合わせたようで、疑いの目はますますハリーに向けられた。

 

(……)

 

 ミリアが何を考えているか、スネイプ先生は察したようだ。閉心術の授業で、突然言われた。

 

「継承者探しに出ようなどと考えるな。ポッターと君は無関係だ」

 

「でも――!」

 

「スリザリンから一点減点。実行に移しでもすれば、減点では済まさんぞ」

 

「……わかりました」

 

 今日の閉心術は、特別下手だった。

 

 

 

「ルーナは、ハリーさんが継承者だと思う?」

 

「見てないから知らないもン」

 

「ごめん、そうだよね」

 

 フクロウの餌らしい黒いつぶつぶを、一粒放った。

 

「でも、違うと思うな」

 

「どうして?」

 

「ミリアだってヘビの言葉分かるんだよね?パーセルタングは闇の魔法使いの証じゃあないもン」

 

「……うん、ありがと」

 

「なんでありがとう?」

 

「うーん……きぶんかな」

 

 手に残った餌をリズミカルに投げる。全てフクロウの誰かがキャッチした。

 

「おお、芸でも仕込んだか。見事なもんだなぁ」

 

「ハグリッド!仕込んでなんてない、みんな自然にできたんだ!」

 

「おはよう、ハグリッド」

 

「おはようお二人さん」

 

 フクロウたちがいっせいに騒ぎ出す。いつものように見回って、ハグリッドの小屋へお邪魔する運びとなった。今日のルーナの靴は、両足ともそろっている。

 

「今日はな、鳥小屋に魔法かけんだ。つまらんだろうが見たいか?」

 

「魔法?鳥小屋に?」

 

「もしかしてまた、ニワトリが襲われたの?」

 

 ルーナが大きな目を瞬かせて尋ねた。

 

「ああ、その通りだ。俺がせぇっかく柵頑丈にしたっていうのに……」

 

 もじゃもじゃ頭をガシガシとかいた。

 

(ハグリッド、困ってるなぁ――そうだ!)

 

 ミリアが今抱えているもやもやを吹き飛ばす妙案が閃いた。

 

「ね、わたしが探すよ」

 

「何をだ?」

 

「ニワトリを襲った犯人!」

 

 今はどんな形でも、人のためになることがしたかった。

 

「ダメだ!だぁめだ!噛まれでもすればどうする!」

 

「じゃあ、あたしも付き合ったげる」

 

「ルーナがいても駄目だ!」

 

「なら、ハグリッドも一緒に!これならだいじょうぶだね!」

 

「まあ、俺がいりゃあ、ニワトリいじめ野郎なんざこうやってこうだが――」

 

「なぁんだ、問題ないじゃん」

 

「でしょ!三人で『ニワトリ襲った誰か探し隊』、けっせーい!」

 

「おー」

 

「お、おー!」

 

 三人は右腕を上げた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。