ニワトリ襲撃犯探しを始めることになったミリア、ルーナ、ハグリッド。彼女らはまず、現場へ直行した。
「……別に、何もないね」
「めんどりはいるよ」
「死体は片づけちまったからな。そんじゃあ、防護の魔法かけるから下がっちょれよ」
ハグリッドはポケットからピンク色の傘を取り出した。何やらごにょごにょつぶやくと、見えない『網』が覆いかぶさった。
「こんなもんか。もう入るんじゃないぞ、バチッと来よるからな」
感覚を凝らすと、網の表面にバチバチ静電気のようなものが走っているのが分かった。触れないように、出来るだけ近づく。
「ハグリッド、ニワトリはどんな死に方だったの?」
ルーナが静かに問いかけた。
「んあ?そりゃあ……傷一つない、きれいな――」
倒れて目に光を映していないニワトリが見えて、身震いした。同時にキツネにしては余りにもおかしいと、理性が告げている。
「食べられたんじゃなかったんだ。動物は、食べる以外に殺すのは滅多にないよ」
「ああ……確かによくよく考えりゃあ不自然だな。キツネにしちゃあ、きれい過ぎるな。おまえさんの言う通りだ」
ルーナが咳払いして、得意そうな不敵な笑顔を浮かべた。
「あたし分かった。マッドシュラウドじゃないかな」
「どんな動物?」
「動物を窒息死させるのが趣味なんだよ」
「窒息魔だったら趣味で首を絞めてもおかしくないね!」
「うん、趣味だもン。ねえハグリッド、殺されたニワトリ、ぺっちゃんこじゃなかった?」
「なかった。んな動物、禁じられた森にもいねえな。飼ってみたいが」
「飼うんなら、まとわりつく恐れずに、のどの後ろの二本角の下にある逆さに生えた鱗をなでるんだ。がんばってね」
「おう、要するになで回しゃあいいんだな。よーしよし!」
「ハグリッドってワイルド!」
「それほどでもね~やぁ」
朗らかな笑いの中、ルーナが気づく。
「マッドシュラウドじゃないんなら、人間がやったんじゃないかな」
空気が沈痛に冷える。生徒の中の誰かがやったのではないかと。
「誰かがいたずらで?……許せない」
「いたずらといやあフレッドとジョージだが……あいつらはこんな笑えねえことをやらかしたりしねえし……」
「こういう人間が犯人の事件は、ゲソコンから調べるって母さん言ってたよ」
聞けば、ゲソコンとは足跡のことらしい。三人は足元を見下ろしたが、自分たちの小さかったり大きかったりするゲソコンで踏み均されている。
「じゃあ目撃者探しだ。あたし、ゴーストに襲われた日誰が出て行ったか聞いてみる。ミリアはフクロウにでも協力してもらって目撃者と逃げためんどり探し、ハグリッドは鳥小屋の見張り」
ルーナのやけにてきぱきして的確な采配に、唖然となる二人。くぐもった声で返事して、解散した。
「母さん、マグルの探偵ものが好きだったんだ~」
ミリアはふくろう小屋で、フクロウたちの取り留めのない証言を必死に聞いていた。
『昨日の夕メシうまかった』
『牛負けた』
『ハロウィーンの前々日は、カボチャつつきやったぞ』
『めんどり?見とらん』
『私見たわ。野生化めんどりを』
『んなことよりルンタタキエフってぜってーキジバトだ』
「ええっとぉ――おいしくて良かったね!牛さんは誰に負けたの?あんまりいたずらしてたらハグリッドに怒られるよ。もし見たら教えてね?野生化しちゃったの。きっとキジバトじゃないよるんたったーるんたたったー……見た?」
一羽だけ、重要な証言をしているではないか。
「ええっと、そこのもふもふシロフクロウさん!あなたです、あなた!野生化しためんどりを見たって方!」
『私はヘドウィグ。ヘドウィグっていうご主人様がつけてくれた名前があるの。こう呼びなさい、ヘドウィグ』
「はい、ヘドウィグさん。野生化しためんどりを見たって本当ですか?」
『ええ。禁じられた森の端で臆病な狼を追いかけていたわ』
「ひゃったくましい……それいつ頃ですか?」
『いつだったかしら……何にしろ、結構前だわ』
「結構前……十一月――クリービーくんが襲われた前?後?」
『その子、噂の石になったっていう?初めての人間の方よね……それより前だわ』
「半月は前……それじゃあ今はどうなってるだろう。――どうもありがとう、ヘドウィグさん!」
『お役に立てたなら良かったわ』
彼女は興味をなくしたように、ふいっと横を向いた。周りはその逆に、がやがやし始めた。
『野生化だと?戦うめんどりってか』
『それより問題はニワトリ襲撃犯ですよええ。ホグワーツ鳥連合副会計長としては見逃せませんねえやはり』
「ホグワーツ鳥連合?すてきだね!会計ってどんなことするの?」
『やたら目つきの悪いめんどりだったら見たよ!ほらメンちゃんとデートしたあの夜!』
『ミミ子……内緒だって』
「ミミ子さん、それはいつ?」
『んーとねえ、初雪の夜!七日前!』
『メン一郎――キサマ抜け駆けしおったなッ!』
『それも七日も前にッ!!』
『ホグワーツ鳥連合の名のもと制裁を加えることに賛成する』
「こらー!メン一郎さんも目撃者なんだから、制裁はまた今度!」
『ミィちゃんどうせならやめさせろよ!』
「ホグワーツ鳥連合の言うことだから、仕方ないよ」
『そーだそーだ』
『『『そーだそーだ!!!』』』
襲撃があった日に出入りした生徒はさっぱりだったが、めんどりについてはいくつか重要な目撃証言を聞けた。ミリアは一度戻って報告すると決めた。
鳥小屋に異常はなく、ルーナもこれといった収穫は無かったそうだ。ミリアが持ち帰った手掛かりから、森にいるという野生化めんどりを保護することが決まったが。
「わたし、森に入れない……」
「じゃあ、あたしとハグリッドだね」
「いんや、ルーナも駄目だ。森の奥まで行かにゃあならん。今日から探すから、見つかったらフクロウ送るかんな」
「分かった。待ってるね」
「ペガルニュンペーがいるみたいだから、気をつけて」
「ぺがる何某とやらは見たことねえな。けんど大丈夫、森は俺の庭だ」
ミリアとルーナは、力強い後ろ姿のハグリッドに、見えなくなるまで手を振った。
冬休みに入り、外はすっかり雪景色だ。学校の中はとても寂しく、クリスマス休暇に残ったスリザリン生は、ドラコとその腰ぎんちゃくさん(×2)のほか、二、三人だけだった。スリザリンの怪物が解き放たれている影響が、ここに出ている。
ハグリッドは通常業務(モミの木やヒイラギを切り倒すといった)の合間を縫って、めんどりを探して森に入ってくれているが、話を聞けば難航しているそうだ。“森の賢者”にめんどりは見なかったか尋ねてみても、星のことしか教えてくれないとか、森に棲む“おともだち”が、やたら気が立っているとか。
クリスマスの日、『捕まえた』という連絡がとうとう入った。玄関前でルーナと合流し、ハグリッドの小屋へと走った。
「おう、お二人さん!やったぞ!」
ハグリッドは、傷だらけだ。頬には何かの生肉を貼り付け、手には汚れた包帯を巻いている。
「は、ハグリッド!そんなに怪我して……」
「手強かったみたいだね」
「おうよ。やっこさん毒グモに囲まれてて九死一生絶体絶命だったぞ」
「え、じゃあそれは毒グモに……?」
「いんや、クモは俺の友達だ。全部、連れて帰ろうとしたやっこさんにやられた。いやーミリアの言う通り、凶暴化しとったわ」
親指でさした先に、やたら目つきが悪いめんどりが入る柵――いや檻があった。
『出さんかオノレ!』
暴れに暴れている。彼女に近づき、話しかける。
「こんにちは、お元気そうですね」
『どこ見とんじゃ節穴かワレ!オラぁ不機嫌じゃッ!』
「あの、ここに戻ってもらったのは実は、あなたの夫を襲った犯人を教えてほしいからなんです。あの日誰が入ってきたか、教えてくれませんか?」
『出せ』
「あの――」
『出せ。話はそれからじゃ』
くいっと出口をくちばしで指した。
「ハグリッド、出したら教えてくれるって」
「ミリア――おめえさん、まさか本当に、動物の言葉が?おめえさんの言う通り、やたら目つきの悪いコイツが森にいたがよう……」
「ハグリッド、まだ信じてなかったの?」
「る、ルーナ、仕方ないよ。信じなくっても」
「……ああ、俺も今から信じる。だから犯人が誰か聞いてやってくれ!」
ハグリッドが、腕で顔をかばいながら柵をあけた。
『ヒャッホウ!娑婆じゃ!』
「めんどりさん!」
『オラぁ約束を守る漢じゃ。めんどりだがな。旦那を襲ったのは赤毛の女子生徒じゃ』
「寮――制服のここは、何色だった!?」
胸の蛇のシンボルをニワトリに見せる。
『赤。グリフィンドールというんじゃろ?恐らく一年――ちびっ子だ』
ほんじゃらー、とめんどりは滑空しながら森に入って行った。
「ミリア、なんて言ってた?」
「めんどりさんは、赤毛の女子生徒って!グリフィンドールの、たぶん一年生って言ってた!」
「それって――ジニー?」
その条件に合致するのは、彼女だけだ。