ニワトリの首を絞めた犯人は、ジニー?めんどりが証言してくれた容姿は、全てジニーに合致した。
「おい――そりゃあ本当か!?いや、いや。ミリアを疑ってんじゃねえ!けんどなぁ……翻訳間違えだとかじゃねえか?」
「めんどりさんは、確かにそう言ってた。ハグリッド、他にいないの?わたしたちくらいの歳で、グリフィンドールの赤毛の女の子」
「おらん。二年生としてもだ」
「信じられないけど、ジニーが犯人だと思った方がいいよ。あたし、やったか聞いてみる」
「ルーナ――それ、わたしがやるよ。……スリザリンだから、嫌われちゃってる。ルーナはなるべく仲良くして、あの子と一緒にいてほしいな」
「……あんたがいいなら、そうする」
「おい、生徒同士で疑うとか嫌うとか、すんじゃねえ!俺ぁ大人だ、セキニンってやつがあらぁ」
「ハグリッドは鳥小屋の見張りだよ」
「うん、それがいい。ハグリッドにしかできないもン」
「けどなぁ!」
「「見張り」」
「……どうしてもか?」
「「どうしても」」
ハグリッドはどっかり座った。
「……分かった、分かった。分かったからそんな目で見んでくれ。これだけは約束だぞ。ジニーが本当にニワトリを殺したとしても、ちゃんと理由を聞くまでは嫌わんでやってくれ」
彼は優しい。ジニーに何か、ニワトリを殺すだけののっぴきならない事情があると、信じて疑わない。
「……うん」
「あの子とは、友達でいたいなぁ……」
ルーナのつぶやきは、全員の物だった。
クリスマスという行事は、他と比べて格段に輝いている。事件の中学校に居残った数少ない生徒たちのために、教員たちは煌びやかな飾りつけを施して、しもべ妖精たちは豪勢な料理をこれでもかと並べてくれた。
時折グリフィンドールのテーブルに目を向けながら、一段豪華なご馳走を口に運ぶ。ジニーは多くの兄弟たちと一緒に楽しそうに――でも少し顔色が悪い――食べている。
机にデザートが並んだ。彼女が寮に戻ってしまう前に、話をしなければ。カスタードプディングを飲み物の様に吸って、クリスマスツリー型のキャンディーをポケットにねじ込む。大広間の反対側にあるグリフィンドールのテーブルまで、一息で走った。
「――?どうかした?」
「はぁ、はぁ――ジニー、ちょっとお話があるの。食べ終わってからでいいから、一緒に来てくれない?」
「今からでもいいわよ。行きましょ」
椅子から立って、出口へと向かう。レイブンクローのテーブルを見ると、ルーナがいつもの大きな目でこちらを見つめている。心配してくれているのだ。
(だいじょうぶ)
ジニーから見えないように、小さく頷いた。安心してくれたようで、ケーキにかぶりついた。
「寒いわね――空き教室にでも入る?」
「じゃあ、そこの箒置き場にする?狭いけど」
「いいわ、そうしましょう」
二の腕をさすりながら、箒置き場になだれ込んだ。
「ひっついてるから、あったかいね」
「おしくらまんじゅうよ。兄さんとよくやるの」
「へぇー」
「そういえば、ミリアは兄弟いるの?」
「いない。お母さんと、お父さんだけ」
と、たくさんの“おともだち”。彼らのおかげでちっとも寂しくなかった。
「寂しくなさそうね。一人っ子ってのも、案外いいのかも。――それで、話って?」
「ええっと……」
「なあに?話しにくいこと?」
意を決して、ジニーの瞳を見た。
「ジニーは、ニワトリが殺されたっていうの、知ってる?」
穏やかな気配が、恐怖に変わった。
「……知らないわ」
ローブに付いた大量のニワトリの羽が見えた。こもる感情は、恐怖と疑問。
「本当に、知らないんだ」
「知らない、知らない。知らない知らない知らないッ!」
箒の山に突き飛ばされた。
「っ!ごめん!大丈夫!?」
「――平気。怪我してない……」
立たせてもらったが、手はすぐに振り払われた。
「あたしを疑ってるの?」
「……。うん」
正直に。
「あたしじゃない。ニワトリを殺したのは、あたしじゃないわ。探偵ごっこするぐらいなら、箒の練習でもすれば?」
その声は震えていた。背を向け走ったのも、涙を隠すためだ。
(本当に、ジニーが……?)
ミリアよりも、ルーナやハグリッドよりも、ジニー自身が一番疑っていた。
前の知らないは嘘だった。ニワトリが殺された事実と、ローブに付いたニワトリの羽という心当たりを知っていた。
後の知らないは本当だった。ニワトリを絞め殺す指は、一度も見えなかった。それをやった誰かの姿も。
(どういう意味なんだろう……)
次の日、ルーナとハグリッドには“知らないと言っていた”と言葉通りのことだけを報告した。そして、この件からはしばらく距離を置くと、告げた。
ミリアも、ジニーと同じことを、胸に秘めた。
(っていっても、なにしよう……)
廊下をさまよいながら、ミリアは頭を抱えた。
ジニーのことが気になって、宿題にも呪文の練習にもまるで集中できない。だから外に出たのだが、寮の中で考えていることを悶々と繰り返しているだけだった。
(……ここは?)
無意識にたどり着いたここは、図書館。
(そうだ、あの本あるかも)
冬休みになってから、一度も来ていなかった。一時はある本を読みたくて通い詰めた。
(ホグワーツの歴史――あった!)
大きな隙間の中に、一冊だけ。家に帰る誰かが、返したのだろう。
分厚いその本を両腕で抱えて、えっちらおっちら机に置く。
(――スリザリン――秘密の部屋……)
残念ながら、噂以上の何かは書かれていなかった。そもそもの話、あの噂はここから発せられたのだろう。
創設者四人の友情、諍い――スリザリンの追放。
(あれ?そういえば、どうして――残った創設者さんは『スリザリンの寮』を残したんだろう)
諍いの元は、『マグル生まれの入学を認めるか否か』。決裂し、スリザリンが去って、現代は多くのマグル生まれの生徒がホグワーツに通う。
この本の言葉を借りるなら、『スリザリンが掲げた『純血主義』は敗れた』。なら、その『純血主義』は何故今に残る?そしてスリザリンの名と、純血主義が色濃い寮まで。
ミリアはふと気づいた。『純血主義』の言葉以上の意味を知らないことに。
(純血主義、純血主義……これかな)
手に取ったそこそこ分厚い本の題名は、ずばり『魔法使いと純血主義』。
(純血主義とは、魔法族の血こそを至高とし、非魔法族を排他する思想――)
この本には、それを否定することばかりが書かれていた。マグル出身の優秀な魔法使いの存在、新しい血を入れないことの不利益、近親相関を繰り返したある家の末路――そして。
(歴史上最悪の、闇の魔法使い?……アナグラムだ。ヴォ、ル、デ、モー、ト?)
ほんの十一年前までに猛威を振るった、通称『例のあの人』。大量のマグルや、マグルと関係を結んだ『血を裏切る者』を殺戮した、名を呼ぶことさえ恐れられた男。十一年前に赤子だったハリー・ポッターに敗れ、死んだとされている。
(それでポッターさんは有名なんだ)
母はマグルで、父とはろくに話さない。娘が生まれた頃に終わった闇の時代について言い渋った気持ちも、分かる。
あとがきには、著者自身の主張が寄せられていた。
『彼こそが純血主義の体現者だ。サラザール・スリザリンが提唱した千年前ならまだしも、現代にどれだけ即していない主義か、お分かりいただけただろうか。
グリフィンドール寮特有の傲慢と承知で書かせてもらう。現代にスリザリン寮は必要なのか?この寮はご存知の通り、多くの闇の魔法使いを輩出してきた。この寮に通った者全員が悪人と決めつけているのではない。この寮に入れられたからこそ、闇へと足を踏み入れてしまった生徒は少なくあるまい。寮は隔離施設ではないのだから』
ミリアはとても嫌な気分になった。この人の主張は間違ってはいないが、それでも不愉快な気分だ。
地下の石壁の中という、牢屋のような場所で暮らしていけるのは何故かを、この人は知らないのだろう。スリザリン特有の“暖かさ”があるからだ。身内意識というのだろう――外の敵対心から身を守るように、外を拒絶し内にこもる――ハリネズミのような。それは間違っているかもしれないが、寮内で結束する力は四寮一だろう。
他寮に対し、過剰に嫌がらせをする人もいる。それは否定しようのない事実だから、『悪い寮』ではないと胸を張れない――それが一番、悔しかった。
以下、読まなくてもいい補足
スリザリンの中は別にほのぼのアットホームなわけではありません。家柄意識や貴族意識が強いので、寮の中でも縄張り争いやら線引き競争などに興じています。
しかしギスギスの中でも『寮の外では同じ穴の狢』『味方になり得る』と、多少の気安さを持っています。そこにミリアは安らぎを見出しているのだと思います。たぶん。
以上、捏造設定でした。