Double Servant -Poetry of Brimir- 作:ねずみ一家
礼拝堂の中。ルイズは式場の道を、ワルドと共に歩いていた。
ルイズの頭にはアルビオン王家から借り受けた新婦の冠があり、肩にかけられているのは道中で付けていた真っ黒なマントではなく、純白の、乙女のマントだった。
それだけでも充分な美しさを湛えていたルイズだったが、何やら考え込みながら、ワルドと共に始祖ブリミル像の前で待つウェールズ皇太子の元へと歩いていく。
ワルドはルイズが緊張していると思っていくつかの言葉を投げかけていたが、当のルイズは無反応だった。
ウェールズの元に辿り着き、ワルドはルイズと共に一礼をする。
ウェールズは明るい紫のマントを羽織り、頭には七色の羽のついた帽子をかぶっていた。
それらは王族を象徴する由緒正しい代物である。
この場には三人しかおらず、ウェールズお付きの兵士たちは礼拝堂の外に控えさせてあった。
「では、式をはじめる」
ルイズはその言葉を聞きながらも、どこか他人事のような、霧の向こうで起きている出来事のような、そんなぼんやりとした感覚に包まれていた。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズへ視線を移した。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・」
ルイズは、何故こんなにも気が重いのか分からなかった。
ワルドは、いつも自分を助けてくれていた。憧れだった。好きだったはずだ。
それなのに、どうして・・・。
「・・・愛し、そして夫とすることを誓いますか」
ルイズはウェールズの顔を、そしてワルドの顔を見た。
ワルドはルイズの表情に気付き、にこやかに笑いかけてくる。
でも、それはさっきまで見ていたリウスの笑顔とは、少し違っているように思えた。
「・・・」
誓いの言葉を言おうとしたが、ルイズは何故か口に出すことができなかった。
本当に、いいのだろうか。
「新婦?」
ワルドはルイズを見つめたまま、目を細めて笑っている。
「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときは、ことがなんであれ、緊張するものだからね」
にっこりと笑って、ウェールズもルイズへ語りかける。
「これは確かに儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し・・・」
ウェールズの言葉が頭の隅で鐘のように鳴り響いている。
ルイズは未だにぼんやりとした様子で、目の前の光景を見つめていた。
-それは、あなたが本当にしたかったことなの?
夢の中で、カトリーヌはそう言っていた。
本当にしたかったこと。この光景は、私の本当にしたかったことなのだろうか。
ワルドとの結婚は憧れだった。昔の自分にとって、確かに憧れだったはずだ。
でも、今は・・・?
-何をするにしても、私の目的は変わらない。
ルイズの頭に、先程のリウスの言葉がよぎった。
目的・・・。私の目的は、何だったんだろうか。
リウスを元の世界に帰してあげたい。
立派なメイジになりたい。
だから、ワルドと・・・結婚を・・・?
-そうじゃな。視野を広く持ちなさい。
静かに、しかし確信を持った老人の声が聞こえてくる。
それはリウスの夢で見た、あの先生の声だった。
-自分がどうしたいのかを、視野を広く持ちながら常に考えなさい。
その答えは君自身が知っているはずじゃよ。
自分がどうしたいのかを・・・、私自身が・・・。
「ルイズ?」
ルイズが気付くと、ワルドが顔を覗き込んでいた。
ウェールズも怪訝な表情を浮かべている。
「どうしたんだい? ルイズ、気分でも悪いのか?」
「違うの・・・」
自分がどうしたいのか・・・。目的・・・。本当にしたかったこと・・・。
いくつもの言葉がルイズの中で一つになり、それがルイズにとっての真実になっていった気がした。
「そうじゃないの、ワルド」
決意を湛えたルイズが、ワルドの顔を正面から見る。
「ワルド。私は、あなたと結婚できない」
「あれ?」
『イーグル』号の艦上で、舷縁に寄り掛かっていたリウスが呟いた。
「どうした? 相棒」
それを聞きとがめたデルフリンガーが呑気な声を上げる。
リウスの左側の視界がぼやけている。
まるで真夏の陽炎のように、艦上からの風景と何かの映像が重なっているような、変な感覚だった。
「いや、目が・・・」
「疲れてんだよ、寝てなかったんだろ?」
「まあ、そのせいかな・・・」
まだ納得していないようにリウスが首を傾げていると、鍾乳洞にある港がざわめき始めている。
少し遠目に見えるマリーガラント号にも、どやどやと避難民たちが乗り込んでいた。
どうやらそろそろ出港するのだろう。
「・・・結局、嬢ちゃんは来なかったな。まあ落ち込むなよ。相棒」
リウスは左目を擦りながら、デルフリンガーの言葉にも答えずにぼんやりと港の様子を眺め続けていた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
いきなりの展開に、ワルドもウェールズも唖然とした顔をしている。
「その通りでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」
はっきりとそう言い切ったルイズに、ワルドの顔がさっと朱に染まる。
ウェールズは首を傾げ、困ったような顔をしながらワルドに声をかけた。
「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」
しかし、ワルドはウェールズに見向きもせず、ルイズの手を強く掴んだ。
「・・・緊張してるんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がない」
握られた手に少しばかり痛みを感じながら、ルイズは毅然としてワルドを見た。
「本当にごめんなさい。私はあなたと結婚したいんだって、そう思ってた。思い込もうとしてた。
でも、違うの。本当に、ごめんなさい。私はちゃんと、リウスに・・・」
そこまでルイズが言った瞬間、ワルドは怒りのこもったような表情を浮かべた。
ルイズの手を握るワルドの右手が小刻みに震えている。
「・・・あの使い魔に、何か言われたのか?」
俯きながら横に首を振るルイズを見て、ワルドはルイズの肩を両手でつかんだ。
ルイズはそのあまりにも強い力に顔を歪める。
「世界だ、ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためには、きみの力が必要なんだ!」
ワルドの表情はいつもの優しげな顔ではなく、まるで爬虫類のようなものへと変わっていた。
豹変したワルドに怯えながら、ルイズは大きく首を横に振った。
「・・・わたし、世界なんていらないわ」
「僕には君が必要なんだ! 君の力が! 君の魔法が! 全てを手にしよう、ルイズ!」
そのワルドの剣幕に、ルイズは言いようのない恐怖に駆られていた。
あの優しかったワルドがこんな顔をして、叫ぶように話すなんて、夢にも思わなかった。
「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! きみは始祖ブリミルにも劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう! きみは自分で気付いていないだけだ!
君はいつか才能に目覚める! 目覚めるんだ! 立派なメイジになりたいと言ったのは、君だっただろう!?」
怯えながらも、ルイズはずっと感じていた違和感の正体に気が付いた。
ワルドの笑顔とリウスの笑顔が違う理由。
二人が見ていた目的は、違っていたのだ。
そして、ルイズは昨日のリウスの姿を思い出していた。ワルドから守るように立つリウスの背を。
今のルイズには、あの時のリウスの言葉が初めて理解できたように思えていた。
イーグル号の艦上はざわざわと落ち着かない雰囲気に包まれていた。
避難民の収容もそろそろ終わるのだろう。リウスのいる甲板は多くの人達でごった返している。
「ああもう。何なのよ、いったい」
リウスが霞む左目をもう一度擦った。
「なんだ相棒、まだぼやけるってのか?」
「うーん、何なのかしら。急に目がこんなになるなんて」
「目が大事なら、あんまり擦らない方がいいぜ」
-担い手を守れ。なんとしても。
誰かの声が聞こえた気がして、リウスはきょろきょろと周りを見回した。
「何? デルフ」
「だからよ。目は擦らない方がいいって」
リウスは首を傾げた。デルフリンガーにはさっきの声が聞こえなかったようだ。
幻聴が聞こえるなんて、本当に疲れているのだろうか。
ふと自分の左手が視界に入る。
違和感を覚えて左手を見ると、武器も持っていないのにガンダールヴのルーンが光り輝いていた。
ほのかな光が徐々に強まっていき、その光に合わせるかのように ますます左目の視界が歪んでいく。
そうしていると、次第に左目が像を結んでいった。
「これは・・・?」
リウスは驚いたように声を上げた。
左目の視界は、まるで誰かの視界のように別の場所を映していた。
「ワルド・・・? ここは、礼拝堂? これは・・・ルイズの視界・・・?」
左目に映った光景には、目を吊り上げて、恐ろしい表情でルイズの肩を掴むワルドが映されていた。
自分が今まで冒険の中で幾度となく見てきた、殺意のこもった目をしながら・・・。
その光景に、リウスは全身の血の気が一気に引いていくのを感じていた。
ワルドは、ルイズを・・・。
瞬間、リウスはバッと顔を上げた。
人混みをかき分け、今にも出港しそうなイーグル号から飛び降りる。
周りの人々が驚きの声を上げる中、着地したリウスは鍾乳洞の港からニューカッスル城に繋がる道へ走り始めた。
「お、おい! どうした相棒! もう船が出ちまうぜ!」
「ルイズを助けに行く!」
「言ってること違うじゃんかよ! 王子様も守ってくれるんだろ!」
「私が間違ってたわ! ルイズ連れて、さっさと逃げるわよ!」
城に繋がる階段を駆け上がるリウスの背で、デルフリンガーが楽しそうに笑い始めた。
「そうこなくっちゃな! ムチャクチャだが、それでこそ俺の相棒だ!」
「その手を離したまえ、子爵!」
ウェールズが豹変したワルドへと杖を向けていた。
「ルイズ! 君の才能が必要なんだ! 僕と来い! 僕と来るんだ、ルイズ!」
「わ、わたしは、才能のあるメイジなんかじゃない・・・」
「君が気付いてないだけだ! 僕が目覚めさせてやる! 僕と来い、ルイズ!」
「三度目はないっ! その手を離せ、子爵!!」
その言葉に、ワルドはやっとルイズから手を離した。
ワルドはルイズに向けて、どこまでも優しい笑みを浮かべている。
しかしその笑みは、既に嘘で塗り固められた仮面のように感じられた。
「・・・リウスくんの言った通りだったな。子爵、君は一人でグリフォンに乗って帰りたまえ。間に合うかは分からぬが、ラ・ヴァリエール嬢は外の兵士に避難船まで送らせる」
厳しい目付きで睨み付けてくるウェールズを見て、ワルドはおどけたように肩をすくめた。
「殿下、貴方もですか。どいつもこいつも、あの女の言うことを鵜呑みにするとは・・・」
そしてワルドはルイズへ目をやった。
ルイズは湧き上がる怒りに震えながら、ワルドを強く睨み付けている。
「こうまで僕が言ってもダメかい? 僕のルイズ」
ルイズの記憶と全く同じように、優しくワルドは語りかけてくる。
しかしもう、この人は自分の知っているワルドではなかった。
「ワルド・・・何があなたを変えたの?」
言葉の端々にルイズの拒絶が強く含まれていた。
しかしワルドはルイズの質問にも答えず、優しく笑ったままだ。
「やれやれ。この旅で、君の気持ちを掴むために随分努力したのだが・・・」
「いやよ、誰があなたと結婚なんてするもんですか。あなたが大事にしているのは、ありもしない魔法の才能だけ。あなたは、私のことなんかちっとも見てないじゃない!」
ルイズの明らかな拒絶にもワルドは優しく微笑みを浮かべている。
「ヴァリエール嬢からゆっくりと離れたまえ。おかしな動きをすれば、即座に私の魔法が君を切り裂く・・・。誰か! きてくれ!」
ウェールズが外の兵士に向けて声を上げる。
しかし、外からは何の物音も聞こえてこない。
ワルドはルイズに背を見せると、ゆっくりとルイズから離れていく。
「まったく・・・僕としたことが散々な結果だ。ならば、最後の目的だけでも達成するとしよう」
「目的・・・?」
ルイズが顔を強張らせた。
「そうだ、目的だ。二つの目的は達成できなかった。そうとなれば、最後の目的は達成する。今、ここでだ」
ワルドはゆっくりと歩いていく。
そしてワルドが小さく呟いた瞬間、その残像が残るかのように、目の前には三人のワルドが存在していた。
「偏在・・・!」
「最後の目的は・・・。貴様だ、ウェールズ」
三人のワルドがウェールズに向き直る前に、ウェールズは本体と思われるワルドに向けてエア・カッターの魔法を放った。
しかしワルドは二つ名の閃光のように杖を引き抜くと勢いよく宙へ浮かび上がる。
そのままウェールズの魔法を避けると、風のように三人のワルドがウェールズへと襲い掛かった。
ウェールズは迎撃しようと再度魔法を唱え・・・。
次の瞬間には、ウェールズの背から胸を、青白く光るレイピア状の杖が貫いていた。
身体を走る衝撃の中、咄嗟にウェールズは短く息を吸おうとしたが、息をすることは出来なかった。
自身の胸からはエア・ニードルの魔法に包まれた杖が生えている・・・。
それでも、ウェールズは怒りに満ちた声をワルドに向けて上げようとする。
「きさ、ま・・・!」
「さらばだ、ウェールズ」
襲い掛かる三人のワルドの杖が、ウェールズの身体を次々に貫いた。
その時・・・、ウェールズの脳裏には、広大なラグドリアン湖の美しいほとりが映されていた。
-風吹く夜に。
あの、美しい湖。
自分が最も幸福だった日々。
かつての合言葉を口にすると、必ず彼女ははにかんだ笑顔と共に、この言葉を返してくれるのだ。
-水の誓いを。
ぶるぶると震える身体を無理やり動かし、ウェールズは目の前のワルドへ杖を向けようとする。
「レ、レコン・キスタ・・・、貴様を、彼女の元へは・・・」
ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れる。
ウェールズの背にいた四人目のワルド、そしてウェールズに襲い掛かった三人のワルド達が、深々と突き刺さった杖を引き抜いた。
「ウェールズ様!」
悲鳴に似たルイズの叫びと共に、ウェールズは力無く床へと倒れこんだ。
ワルドと偏在達は黙って物言わぬウェールズを見つめている。
血だまりが、礼拝堂の床に広がっていく。
「油断が過ぎる。王族といえどもこの程度か、呆気ないな」
「どうして・・・、トリステイン貴族であるあなたが、どうして!」
「・・・我々レコン・キスタはハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟だ。我々に国境はないのだよ、ルイズ」
そしてワルドは両手を広げ、まるで演説をするかのように笑ってみせた。
「ハルケギニアは我々の手で一つとなり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ!」
がちゃりと礼拝堂の扉が開いた。そこには血に塗れた白い仮面の男。
その男は後ずさったルイズへとゆっくり近付いていく。
白い仮面を外したその男は、ワルドだった。
「一つ目の目的は、あの愚かな姫の手紙だった。しかしマザリーニ枢機卿は腹心の僕ですら信頼していなかったという訳だ。手紙を処分するなど、僕は聞いていなかったのだからな」
本体のワルドを除いた四人のワルドは、何かを警戒するように礼拝堂の各所に移動していく。
ルイズは凍りついたように動かないまま、恐怖と怒りで震えていた。
「二つ目は、ルイズ。君だ。しかし君は僕の元には来ないと言う。さて、今はどう思っているんだい? ルイズ」
「昔は、昔のあなたはそんな人じゃなかった! 何があなたを変えたのよ! ワルド!」
「月日と、数奇な運命のめぐり合わせだ。それが君の知る僕を変えたが、今ここで話すつもりはない。さあ、どうするのかな? 僕の可愛いルイズ」
ワルドの目に怪しげな光が宿る。
まるで小さな動物を見るかのような、そして何の容赦もなく手を下すような目。
初めて見るその目の光が強烈な殺意であることに気付き、ルイズは冷たい恐怖が体中に這い上がってくるのを感じていた。
今すぐ、恐怖に膝を折ってしまいたくなる。
さっきまでの怒りすら忘れて、命乞いをしたくなる。
そんなルイズの頭に、リウスの言葉が聞こえた。
-あなたは、立派よ。ルイズ。
ルイズはキッとワルドを睨み付け、力強く答えた。
「・・・ふざけないで! 誰が裏切り者のあなたとなんて、行くもんですか!!」
しかしワルドはまるでルイズの言葉を予想していたように軽く笑い、目を細めてルイズを見下ろしている。
「流石は僕の花嫁だ、この期に及んでも折れないとはな。しかし、言うことを聞かぬ小鳥は首を捻るしかない。そうだろう? ルイズ」
恐怖をねじ伏せながら、さっと自身の杖を掴んだルイズはワルドめがけて杖を振ろうとした。
しかしワルドはなんなくルイズの杖を弾き飛ばすと、ルイズめがけて風の塊を放つ。
ルイズは風の塊に吹き飛ばされ、その勢いのまま床を転がっていく。
身体中を走る痛みに呻きながらも、ルイズは身を起こして自分の杖の元へと走った。
「ウィンドブレイク」
続く広範囲の突風に、ルイズは紙きれのように吹き飛ばされた。
また、地面に叩きつけられる。朦朧としながら辺りを見回しても、自分の杖は見当たらなかった。
「ルイズ、あの使い魔を呼んでみたまえ。もしかしたら助けにきてくれるかもしれないぞ」
ワルドはゆっくりと地面に倒れるルイズへ近付き、またエア・ハンマーを放った。
ルイズは壁に叩きつけられ、蒼白な顔のままワルドを力なく睨み付ける。
「・・・しかし、もう時間切れだ」
残酷な笑みを浮かべながら、ワルドは呪文を詠唱し始める。
ワルドの周囲の空気が歪み、魔法の電撃が集まっていく。
「い、いや・・・」
ルイズは呻いた。死にたくないと心から思った。
でも、リウスを呼びたくない。
呼んでしまえば、リウスは帰れない。
元の世界に帰れなくなってしまう。
「さらばだ、ルイズ」
呪文が完成し、ワルドがルイズに向かって杖を振り下ろそうとした瞬間・・・。
石柱が轟音と共に礼拝堂の壁を突き破り、外から現れた黒い影がワルドに向かって襲い掛かった。