ネメシスの慟哭   作:緑雲

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早くも二文字サブタイに心が折れそう


日常

 エントランスは休憩所と消費品売り場も兼ねているため、ゴッドイーターたちが談笑している姿や屯っている姿もよく見られる。

 そういうわけで出撃前である朝のエントランスはがやがやと今日も騒がしく、その中でもとびきり五月蠅いのが第一部隊の連中だ。

 

「コラッ! ソーマ! お前は訓練生だろうが!」

「嫌だ、俺も行く!!」

「八歳児が生意気言うな!」

「今年で九歳だ!」

「あらあら~」

「可愛いッスね~」

「おいおい、まだゴネてるのか、お前のとこの弟は」

「弟言うな!!」

 

 リンドウが到着した頃には、その騒動はすっかり出来上がっていて、他の部隊の連中もやんややんやと面白おかしく眺めていたり囃し立てている。

 そこで、珍しく所在なさげに立っている同期の小さな姿を見つけ、リンドウはその頭に肘を置いて寄りかかった。

 

「よっ、どうしたんだ?」

「リンドウ。んー、いやーウチの子がね、おっと」

「ケイ! ケイからも何か言ってくれ!」

「いや私はソーマに来てほしくはないかな」

「なんでだ!」

「ケイ、こいつは?」

「昨日話した子。ソーマ、挨拶」

「~~…………ソーマ・シックザール。訓練生だ。」

「そう、訓練生。わかるわね、ソーマ」

「……………………………………………………」

 

 いかにも憮然といった、苦虫をまとめて百匹ほど噛みつぶしたようなソーマは、ケイの言葉の意味が理解できたのだろう。不貞腐れたようにそっぽを向いた彼に、ケイは困ったように微笑んだ。

 

「ちゃんと帰って来るから」

 

 しゃがんでソーマに目線を合わせ、ね、と首を小さく傾げる。

 増々もって口を尖らすソーマは何も言わず、やや間を置いて小さく頷いた。

 

「つっても、今日はリーダーと姉上とだろ?しかも俺もいる。まぁ生きては帰れるよな」

「あはは、リンドウは不安要素しかないけど」

「大分マシにはなったぞ」

「ツバキちゃん!」

「やっと揃ったか」

「遅れてすみません」

「いいさ。さあお前ら、ミーティングの時間だ並べー」

「了解」

「ソーマ、またね」

「………………ん」

 

 

「今回の任務は、コンゴウ四体、グボロ・グボロ三体の殲滅及びコア回収だ。場所は鎮魂の寺。そうそう事は起こらないだろうが、油断はしないこと。今回はお前ら二人の連携の練習だから、俺たちはあくまでその補佐だ。便宜上俺が指揮をするが、それぞれ別のポイントでアラガミを殲滅する。危なくなったらすぐ通信を繋ぐこと。あまり突っ走らない事。そう遠くまで行かない事」

 

 特にケイ! と名指しで念を押され、はぁい、と苦笑いで返したのは記憶に新しい。

 装備を整えて、神機を担いで指定されたゲートに向かえば、既にシンジがジープに乗り込んでいて、ケイは神機を荷台に放り投げて飛び乗った。神機の反動でジープが大きく揺れる。

 

「うおっ、自分の半身投げんな」

「えー、二機持ってるのに半身も何もないよ。精々三分の一身程度じゃないと」

「そういう意味じゃない」

 

 びしっ、とシンジの力の割には軽いデコピンがケイの額を弾く。そこを擦りながら支部の方を見れば、神機を手を振るようにこちらへ左右に振るリンドウと、それを窘めるツバキの姿が見えた。

 

 

「にしても、姉上の言う事がわかるヤツだったなぁ、ソーマってのは」

「………ツバキちゃん、何言ったの。」

「ソーマについては見た方が早いと言ったんだ」

 

 ゴトゴトと荷台に揺られながら、リンドウが同じく荷台に乗るケイを揶揄うように笑う。リーダーたるシンジが運転し、ツバキがその助手席に座っている。鎮魂の寺はそう遠くではないが、それでもジープで一時間はかかる。

 

「見た感想は?」

「マセたクソガキだなぁと」

「ひどい言いようだね!?」

「あとお前のこと好きすぎね?」

「ああ、それだけ分かってればソーマについての理解は八割方合ってる」

「ツバキちゃん!?」

「来月から遠征任務入れるのに、あんなんで大丈夫なのか」

「大丈夫でしょ……………たぶん。お父さんもキョーカンもいるし…………」

 

 頭痛を堪えるように、ケイは深刻そうに頭を抱えた。

 来月に入れば、ケイとリンドウは遠征任務を主に活動することになる。教育係も取れ、先輩ゴッドイーターにくっついて世界各地の護衛任務やら殲滅任務やらに当たるのだ。

 軍部は未だにゴッドイーターの力を拒否してるらしいが、既に民間ではゴッドイーターの活用は珍しくない。

 それほど、世界は逼迫してきていると言う事だ。

 普通はもう少し研修期間は長いのだが、ケイとリンドウはどちらもかなり筋が良く、異例のスピードで一人前のゴッドイーターになりつつある。

 話している内に着いたらしく、ジープが止まりシンジが着いたぞ降りろーと声を掛ける。

 さながら遠足の引率者のようだ。

 一方ケイたちも各々好き勝手に返事してわらわらと荷台から飛び降りる。

 

「危険を感じたらすぐ連絡すること、散開!」

 

 シンジとツバキ、ケイとリンドウに分かれ、ポイントへ移動する。鎮魂の寺はそう広くはないので、その分アラガミが密集すると戦い辛い。

 

「おーいケイ、こっちだ」

「………………………むーん」

「お前、ホントに方向音痴だよなぁ」

「誰にでも得意不得意はあるの!」

 

 言いながらもちょっと凹んだ様子のケイに、リンドウは小さく笑い声を零す。

 照りつける太陽が眩しく、手で傘を作って空を仰いだ。

 リンドウの記憶の中のこの場所は、冬の印象が強い。

 雪の降りすさぶ中、姉上と、幼馴染の少女と、この廃寺でかくれんぼやらおにごっこやらをよくしたものだった。

 今ではもう、面影が残るのみだ。

 

「もうすぐ夏だねー」

「そうだなぁ。夏になったら、海でも行くか」

「神機背負って?」

「ははっ、違いねぇや」

 

 この世のどこにも安息の地などない。

 アラガミは何処にでも沸くし、海からもやって来る。

 のんびりビーチではしゃげるなんて、もう十何年も昔の話だし、何十年も先の話だろう。

 曲がり角に差し掛かって、そっと角から顔を出せば、開けた場所でコンゴウが一体資材を貪っていた。リンドウに目配せして、背後に回るようにこっそりと近寄る。

 今すぐぶった切りたい衝動をおさえ、静かに足を進めて二人良いポジションを取った。

 せーの、と踏ん切ってコンゴウの右腕に刃を斬り込ませる。

 それと殆ど同時に左腕に斬りかかるリンドウを視界の隅で捉えてくすりと笑みを漏らした。

 やっぱり私達息ピッタリだねバッチグーだね。

 同時に急所を切り裂かれたコンゴウは醜い叫び声をあげてよろめく。しかし、流石にたった二発で倒れるコンゴウではない。一瞬身を縮こませた後、力をためるように身を屈めた。二人はそれぞれの方向に飛びのき、舞うように攻撃を繰り出すコンゴウの拳から逃れる。

 直後、別方向から似て非なる叫び声が複数響き、二人は目だけをそちらへ向けた。

 右の家屋の屋根に一体、左の曲がり角に一体、そして、今まさに上空から落下してきて二人と不意打ちを喰らったコンゴウの間に立ちふさがるように降り立った一体。

 

「一気に来てくれるなんて、親切ね」

「全くだ。いけるか、ケイ」

「誰にもの言ってんの、右と左は任せたよ!」

「オーライ!」

 

 後ろに一切の不安を抱かず、二人は別方向に力強く地を蹴って高く跳びあがった。

 

 

「実際、どうなんだそっちは」

 

 戦闘の音を察知して、地を這うグボロ・グボロがドタドタと忙しない足音を立てて駆けていく。

 それを大穴が開いた建造物の屋根の上から眺めながら、シンジは傍らのツバキに問いかけた。

 

「悪くないです。が、大丈夫でしょうか。コンゴウ四体にグボロ三体の乱戦は、いくらなんでも早すぎるのでは?」

「なに、やばそうになったら手を貸すさ。…………それに、早めなきゃならない理由もあるしな」

 

 後半の言葉は、すぐ近くで戦闘しているらしいケイとリンドウの破壊音で掻き消され、ツバキには届かなかった。

 ドガァン、バキバキバキ、と家屋が崩壊する音が耳に届く。

 人がいないからってぼんぼこ壊しやがってまったく、ケイはともかく、リンドウにとってここは故郷みたいなもんじゃないのか。過った負の考えを引き裂くようなその騒がしい音に、シンジはふっと苦笑を漏らして二人がいるであろう砂塵が舞う方向に目をやった。

 

「派手にやってるなぁ」

 

 

 一方、ケイとリンドウはというと、三体のコンゴウを地に堕とし、一体が捕食か何かに行ったために逃したところだった。

 すぐに追おうとしたところで、先ほどぶっ壊した家屋が目に入る。

 

「わあ、やっばい。これ誰の家だろう」

「家じゃねーよ、ここも寺の一部」

「えっ、知ってるの? って、わ!」

「ん? うおっ!」

 

 地面に暗い緑が渦巻き、二人は反射でその場から飛びのく。

 コンゴウ一体を逃したと思ったら、今度はグボロ・グボロの来襲だ。

 うげっ、と二人舌を出して苦い顔をし、再度神機を構える。

 

「ちゃんと一発で仕留めろよ」

「当然」

 

 ご丁寧に二体並んだグボロ・グボロが咆哮を上げる。

 対するケイとリンドウもそっくり二人並び立つ。

 最早掛け声どころか、目配せすらいらなかった。

 元々相性が良かったのだが、今回の戦闘で増々それが鋭くなっている。それがとても心地よくて、ケイは口元に笑みを浮かべた。

 その一瞬後、ズゥゥン、と二体のグボロ・グボロが同時に地に伏せる。

 二人がぶった切ったのだ。

 

「コアを回収回収ーっと」

「んーー、グボロは流石にイマイチだな。」

「研究職からすれば、グボロ・グボロだって大事な資料なのだよ、リンドウくん。似てた?」

「似てねー」

 

 神機を捕食モードにしてコアを回収し、逃げたコンゴウを狩ろうと駆け出しながら冗談を交わす。

 似てないと一刀両断されたケイは口を尖らせながら思い出したように先ほどの会話を引っ張り出した。

 

「ちぇ。そういえば、さっき聞いたけど、リンドウはここ知ってるの?」

「まぁな。ガキの頃、ここらへんに住んでたんだ。姉上とサクヤと、よくここで遊んだもんだ」

「じゃあ思い出の場所だ。壊しちゃってごめんね、リンドウ」

「構わねぇさ。本堂の扉なんざ、俺ガキの頃何回壊したか分からんくらい壊したし」

「それはリンドウは反省した方が良いと思う」

 

 うっせーやい、と小突き合いながらシユウを探して駆けまわる。

 ケイはもしかしたら着いた頃にはシン君たちが倒してくれてたかもなぁ、と甘い考えをぼんやり抱くが、これは二人の訓練なので残念ながらそれはありえない。五分ほど周囲を彷徨ったところで、ケイは先に行こうとするリンドウの後ろ襟を取って陰に引っ張り込んだ。ぐえっ、と蛙が潰れたような声を出す相棒にしーっ、とジェスチャーしてちょいちょい、と資材を捕食しているコンゴウを指差す。

 

「お、不意打ちできそうだな」

「うん。やっちゃおっか、リンドウ!」

 

 ニッ、と二人不敵に笑みを浮かべ合って神機を構える。

 この短時間で二人は、足取りを合わせて、呼吸を合わせる作業を、相手を顧みることなく熟した。

 不躾な通信機器なんかより、テレパシーみたいな超能力よりずっと自然に。

 今度は心の中だけでせーのと言って、二人とも全く同じタイミングで飛び出し、コンゴウを横と縦にぶった斬った。そのまま二振り目をその巨体に刻み込んだところで、コンゴウは悲鳴を上げる隙すら貰えず絶命した。もうもうと黒い煙が立ち上る翼の生えたそれはゆっくりと残った胴体を地に投げ出した。

 

「任務完了、と。シン君たちに連絡入れなきゃ」

「リーダー達、結局まったく介入してこなかったな………これ、新人に任せる仕事じゃねーよ」

「ねー。ほんと、シン君ってばスパルタなんだから」

 

 リンドウはコアを回収しながら、ケイはインカムで通信を繋がせながら肩を竦めた。

 

 




なかよし第一部隊とタカさん、最早吹っ切れてるソーマ、見守る保護者、いつか相棒になるふたり
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