『大規模作戦なんて一年ぶりだわぁ。楽しみ~』
『いや真面目に戦って下さい』
無線からの声に耳を傾けながらインカムの調子をチェックする。
時刻は一一五八、午前十一時五十八分。正午目前のお昼時に、ケイはリンドウと共に廃ビル街の一棟三階、壁が大きく崩れて外から丸見えの劇的ビフォーアフターな場所で待機していた。神機の調子は上々、天気も晴天視界は良好、中々の作戦日和である。
『まぁ、アオイはそれぐらいで丁度良いだろう。バーサーク化されるよりはマシだ、多分』
「私アオイちゃんのバーサク姿まだ見た事ないから、ちょっと興味あるな」
『あらあら! ケイちゃんのおねだりなら、私はいつでも本気出しちゃうわよぉ?』
『ホント、ホント勘弁してくださいッス……』
べそべそと本気で半泣きになりながら、キンタが懇願するのに、全員が引きつったような笑みを浮かべた。アオイが暴走して抑え役に回るのは、バディである以上十割どころか十二割キンタである。
現在通信が繋がっているのは支部毎での最終確認の為なのだが、それが雑談に移行していくのはある種当然の事であった。
そこへ、新たに通信先が追加される電子音の後に、各支部の微かなざわめきと、ゲンの大きな咳払いがインカムに届く。
『諸君、お喋りはそこまでだ。点呼』
『こちらアルファ、配置につきました』
『ブラボー、準備完了デース!』
『チャーリー、配置につきました』
『デルタ、いつでもいけるッスよ!』
「エコー、問題ないです!」
『フォックストロット、当然準備万端だ』
『――定刻。第二次フェンリルアジア支部及び軍部合同作戦開始。東京湾包囲神機使い部隊、出撃せよ!』
『『『『「了解!」』』』』
ケイは返事をしてリンドウを見やり、軽いアイコンタクトを交わす。すっかり相棒同然となった男に後ろ手でスリーカウントし、カウントが終わると同時に飛び出した。
寸分違わぬタイミングで背後のリンドウも飛び出したのを気配で察知しながら、ケイは目下のアラガミに躍りかかる。
オウガテイル十数体、サリエル五体、グボロ・グボロ六体、コンゴウが堕天種合わせて七体、ヴァジュラ三体、クアドリガ一体。控えめに言っても相当面倒くさい戦場だ。
「報告よりコンゴウが多いな」
「七体も六体も五体も似たようなもんでしょ」
一体一体はそれほど強くもないが、いかんせん数が多い。取り合えず遠距離武器を持つアラガミから屠って行くが、攻撃が追い付かない。
「あ゛ーもううっざい!」
グボログボロの示し合わせたような同時遠距離攻撃を回避しながら、ケイが叫ぶ。人体にだけ攻撃が通るなんて反則だ。
ケイは内心で毒づきながら、神機を振るって避けつつそばにいたオウガテイルへ斬撃を食らわせる。吹っ飛んでいく塊に脇目も振らず突っ込み、一気にクアドリガまで辿り着いた。一寸の間も置かず、神機を下から上へ斬り上げる。かなり深く斬り込んだからか、クアドリガは叫び声を上げながら仰け反った。
その隙を見逃す訳はない、ケイは懐に入り込みその巨体に連続斬りを叩き込む。
「ッせいや!」
体力の限界と共に思いきり踏み込んで最後の一撃を繰り出した。
クアドリガの肉が捲れ血が吹き出し、ゆっくりとその巨体が傾く。迅速にコアを取りだし、息つく間もなく襲いかかってくるヴァジュラを避ける。
ケイがクアドリガを倒している間に、リンドウも殲滅し回っていたようで、オウガテイルは全滅していた。
「ケイ! グボロとサリエル先にやっちまえ!」
「おっけー。ヴァジュラとコンゴウは任せた」
ヴァジュラ三体とコンゴウ数体相手に奮闘しているリンドウを一瞥し、もう一度神機を構え直す。
切れたスタミナは既に回復済みだ。
まず厄介なサリエルを撫で斬りし、走り回りながらゲポラゲポラを斬りつけていく。目論み通りアラガミはケイを先に片付けようと各々攻撃態勢に入った。サリエルのビームが、グボログボロのタックルや氷の礫が飛来する。礫やタックルの直線的攻撃を避けるのは簡単だ、問題はサリエルの追尾ビームである。
ケイはくるくる舞い、上手く岩や廃墟を壁にしてそれらを回避した。
「数の暴力ってこういうのを言うんだろうなぁ」
「しみじみしてねぇで動けこのやろー!!」
「分かってるっつー………の!!」
壁から飛び出し直ぐに神機を振るうと、気配通り読み通り、その場にいたサリエルにまともに当たった。
そのまま神機を深く穿ち、サリエルの体を両断。ついでにコアまで破壊してしまったらしく、両断されたサリエルはそのまま黒い靄を放ち地面に黒く溶けた。
やべーまた父さんに嘆かれると脳内で呟き、すぐにそんなどうでもいいことは頭の外へ追いやって跳躍する。二体のサリエルの脳天に熱い一撃を入れ、最後の2体を仕留めにかかる。
そこに、グボログボロの氷の礫が横から連続で飛んできた。避けたらこの勢いを失うと本能で理解したケイは、咄嗟にタイミングを合わせて足を畳み、礫を無理矢理足場に仕立てあげて再度跳躍した。
流石に予想外だったのだろう、狼狽えたサリエルの胴体に神機を思いきり押し込み、ぐるりと捻った。実際にはもっとえげつない音が鳴ったのだが、割愛。
サリエルはあと1体、グボログボロは半死半生みたいのが4体に無傷が2体。迫り来る攻撃を最小限の動きで避けながら、一番効率の良い倒し方を考える。シンジはそんな事を考えながら倒しているらしいが、ケイには合わなかったようで、3秒で面倒だと切り捨てて、いつも通り突っ込むことにした。まず死に損ないのグボログボロを撫で斬りにしていき、間髪入れず無傷の方へ向かう。飛んでくるビームはシールドを展開する時間が惜しかったので、神機のブレード部の平で強引に防御した。遠心力の力を借りてぐんっ、と一振りし、グボログボロの目を潰した。ゴッドイーター特有の馬鹿力で振り抜き、口から尻尾までを裂く。絶命したグボログボロを台にして高みの見物を決め込むサリエルにブレードを届かす。足を切断された痛みに、サリエルは甲高い叫び声を上げ地に臥せった。回復する間も与えず、その項垂れた首を飛ばす。コア回収を手早く済ませ、やぶれかぶれに連続タックルしてくるグボログボロを迎え撃った。ヒレを削ぎ尻尾を魚を切るように軽く斬る。死にかけの体だが、それでもグボログボロはケイ目掛けて突っ込んできた。捨て身の一撃だった。けれどもケイはその必死さに冷徹な目を向け、そのかっぴらいた大口に神機を捩じ込む。コアを直接掴んで強引に切り離した。グボログボロは、電池が切れた時計のように動きを止め、事切れた。
周りはアラガミの血や、あらゆる体液の臭いが充満している。取り合えず任されたノルマは終わったので、リンドウいるだろう方向へ足を早めた。
ケイが着いた頃には、既に半数を殲滅していた。雷球を撃とうとしていたヴァジュラに飛び付き、背中に真一文字の傷を付ける。怯むヴァジュラの脳天を神機で貫き、顎まで貫通。地面に頭が縫い止められる形で、ヴァジュラの最後の1体が絶命した。ずるり、とコアを回収し殘間に神機を抜き取り、ヴァジュラだったものから飛び降りる。
「やっと来たかよ!」
「うん、待たせた」
残りはコンゴウ4体。
この短時間で悉くの同類を殺された事で、彼らは二人にある種の畏れを抱いているように見えた。その体は震え、目には暗い未来が見えている。アラガミにもそんな感情があるのか、もしくはただの本能か。
ケイはリンドウの隣に並び、両者共ちゃきり、と神機を構え直す。
「ちゃっちゃと終わらせるぞ、ケイ」
「りょーかい、相棒」
すっかり鍛えられたケイとリンドウのコンビにコンゴウ4体なんて壁にもならない。
さっさと片付け、途中で来たアラガミの群れも適当に葬り、二人の任務は一旦完了だ。中間リザルトの時間までは体を癒す事がある意味任務である。
「リザルトまであとどれくらいだ?」
「十分」
「まじかよ。あー、暇だ」
「怪我もないしね。仮眠を取るにも微妙だし」
「寝れるかここで」
「リンドウならいけるでしょ」
「俺は野生児かなんかか」
周囲を警戒しつつも手持ち無沙汰気味に過ごし、十分後きっかりに通信が入った。
『へいへーい、こちらフォックストロット。How do you read?』
「こちらエコー。聞こえてます」
『オーケーオーケー、戦況は?』
軽い調子のそれは疑いようもなくキヨタカのそれだ。
ゲンはどうしたのだろうと首を傾げつつ、ケイは報告のために口を開く。
「第一陣オールグリーン。ケイ、リンドウ両名共に掠り傷ひとつなし」
『上出来』
「タカさん、キョーカンは?」
『アナグラが襲撃を受けてそっちに出払ってる』
「ゲッ。帰還しようか?」
『いらんいらん。ゲンだけでいけンだろ。それより、アラガミの数が総じて想定より多い』
「あっ、こっちもだったよ。誤差程度だけど」
『どこもかしこもだ。シンジとパッティが駆けずり回ってなんとかなってるが、事態は深刻。チャーリーにはベータが行ってる。つーわけで戦線の穴を埋めてるアルファへ急行されたし』
「自分ではやらないんだね。で、シン君って今どこ?」
『そこから北に二十キロ。旧渋谷だ。ナビいるか?』
「リンドウ! こっから渋谷まで運転できる?」
「お前以外は全員日本全国津々浦々の地図頭に入ってるっつの」
『着いたら連絡しろよ。どこも未だ戦闘中だが、でけぇ怪我はない、心配すんな。俺も着いてるしな』
「そりゃあ、鷹の目がいて死人がいたら守護神は降板でしょーよ」
『誰だそんな似合わねェ名前付けたアホは』
「キョーカンでーす」
『よーし任務終わったらアイツ絞める。手伝え嬢ちゃん』
「あいあいさー」
気の抜けた会話を続けながら運転席にリンドウが乗り込み、ケイは助手席に乗り込んだ。
『合流次第戦闘行動及びその他状況に合った活動へ移行、復唱不要。んじゃ、ヨロシクー』という通信を最後に無線を切って、リンドウに車のキーを投げ渡す。エンジンが動く音が景気よく鳴り響き、車が動き出した。いつ聞いてもでかいエンジン音だ。よくアラガミが寄ってこないものである。
ケイは足下から地図を引っ張り出し、渋谷の位置を確認した。
「うーん結構遠い」
「こっからじゃ1時間かからないぐらいだ。ぶっとばせば三十分で着くだろ」
「リンドウの運転荒いんだからやめて! 安全運転でよろしく」
「へいへい、お姫様」
相も変わらず座り心地の悪い車に辟易しつつ地図を後部座席に放り投げる。
「それにしてもシン君がね。着いてる頃には終わってるんじゃないの」
「有り得るな」
ピンチという言葉がおおよそ当てはまらない第一部隊の隊長を思い浮かべ、リンドウは真顔で頷いた。
一時間経たないあたりで目標ポイントに到着し、ケイとリンドウは神機を引っ付かんで手早く車から降りた。辺りは綺麗なもので、アラガミの死体なんかは見当たらない。ついでに人の気配も。
ケイとリンドウは周囲を警戒しつつも、駆け足で廃墟の合間を走り抜けた。アラガミの死体や血、いろんな体液の残骸を目印に、それらが多い方へ進んでいく。
五分ほど走ったところで、アラガミの激しい鳴き声と、誰かが戦っている音が聞こえた。曲がり角を曲がった先に、見慣れた隊長の姿。
「シン君!」
「リーダー!」
「来たか」
シンジは神機を振るいつつも、平然とした声を出した。夥しい数のアラガミの死体を踏みつけ、アラガミにずらりと囲まれている。次々と絶え間なく繰り出される攻撃をものともせずに回避し、小枝でも振るかのように軽い調子で神機が振るわれた。
「疲れてるなら私前衛やろっか?」
「いや、平気だ。二人とも、援護を頼む。畳み掛けるぞ」
「りょーかい!」
「了解!」
リーダーの平坦な号令に威勢良く返答し、地を蹴って神機を振るった。