ネメシスの慟哭   作:緑雲

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半壊

 警戒を怠らず走り続けて、真夜中を少し過ぎた頃、シンジ、ケイ、リンドウの三名は疲労で呼吸を乱しながらもアナグラ目前まで到達した。そうしてやっと、暗闇の中でも気づく。

 

「壁……壊れてない? アレ」

 

 もうもうと夜空に薄っすら立ち上る煙。その出所は目を凝らすまでもない、間違いようもなく我らがフェンリル極東支部だった。遠目からでも、崩れた壁へ続々と何かがもぞもぞ蠢いているのがわかる。アラガミが絶え間なく防壁の中へ侵入を果たしているのだ。

 呆然と呟くケイと、呆気に取られて固まるリンドウの背中を、シンジが続けざまにバシバシッと叩いて正気に戻させる。

 

「ぼうっとしてるな! リンドウ、物資等邪魔なものは捨ててけ、突撃する!」

「ッ夜通しの強行軍直後だってーのに……!」

「でもなんで防壁が壊れて……防衛部も、タカさんもキョーカンもいるのに!」

「知るか! 行くぞ!」

 

 およそ六時間にも及ぶ夜間移動の極度の緊張と疲労により力の入りにくくなった足を叱咤し、三人は全力で防壁まで駆け抜ける。道すがらアナグラへ向かうのを阻まんとするかのような小型アラガミ達を一切相手にせず、ただただ一直線に。

 時間にして五分と経たず、三人はアナグラに群がるアラガミ共に辿り着いた。まさしく地面が動いているのではと錯覚しそうになるほどのアラガミの群れ、群れ、群れ。けれど、先頭を切っていたシンジは一切の躊躇も動揺もなく埃でも払うかのように神機を振るって、殿のアラガミを五匹ほど纏めて吹っ飛ばした。ケイとリンドウも続いて神機を振るい、アラガミを屠った後に顔を上げて壁の崩れた向こう側を見やる。連なる大型アラガミのせいでよくは見えないが、飛来する光線や神機がアラガミを引き裂く音が僅かに聞こえたので、なんとか押しとどめていることを察した。

 

「シンくーん! どうしよう!?」

「蹴散らす! ケイ、リンドウ、道を作れ!」

「「了解、リーダー!」」

 

 返答する合間にも、鈍色が閃きアラガミが空を舞う。改めて考えると前衛しかいないなこのパーティ……と呆れながらも、ゴリ押しでアラガミを言葉通り蹴散らしていく。防壁があったはずの外と中の境目を超えた時、中で戦っている人物が目に入った。生きていた喜びと安堵で、ケイは喜色満面に彼の人の名前を呼んだ。

 

「ウィルー!」

「ケイ! リンドウくんも無事ですね。って、え? リーダー!? わぁー! 勝ったーー!」

「めっちゃわかるけどちょっとは隠そう!?」

 

 ヤッターー! とテンションを爆上げさせるウィリアムに苦笑いし、それほど深刻な状況にはなってないのだろうと察して更に安堵した。

 

「状況は?」

「一言で言って深刻です! ゲン教官が今いる半数を殲滅するも、負傷。タカさんが南を抑えてますが、いつまで持つか……ナツとスバル、ニーナ、ミツバが各ブロックにいます。それ以外の隊員は全員負傷、医務室で治療を受けた後戻ってくるものもいますが、半分以上が重傷です!」

「俺たち以外の攻勢部隊は?」

「諸共通信機が壊れて連絡がつかない状況です。それと、アラガミが硬くなっているとの報告が、」

 

 報告している合間にも襲い掛かってくるアラガミ数体を、シンジとケイ、リンドウが後ろ手で切り裂く。

 

「すまん。なんだって?」

「………いえ、ゴリラトリオには関係のない話でしたね」

「ゴリラ言うな」

「硬くなってるってどういうこと?」

「そのまんまです。神機の刃が通らない、もしくは通りにくいとの報告が多数、いえゴッドイーターのほぼ全員から寄せられています」

「ふむ………まぁ見当は付いてる。ケイ、お前は?」

「もちろん。これでも、ペイラー・サカキの娘だもの!」

「言ってみろ」

「ずばり、軍部の現代兵器の攻撃を呑み込んだ事による進化だね! 物理攻撃による耐性ができたんだ。神機による攻撃だって物理攻撃ではあるわけだし」

「ああ、おそらく正解だ。まったく、こうなることはわかってただろうに……司令の考えは相変わらずよくわからん」

 

 深い溜息を吐きながら、シンジは肩を回すような気軽さで神機を振るって口を開けて襲い掛かってきたアラガミを屠った。せーいっとケイが両手で神機を握ってオウガテイルを両断しながら、これからどうする? とこの中で一番官位が高いシンジを見やる。

 

「ウィル、お前の通信機は?」

「壊れてます。僕は一度アナグラに戻ったときに教官やタカさんに指示された通り迎撃してるだけです」

「……リンドウは残れ、ウィリアムとここで迎撃。ある程度殲滅し終えたらアナグラへ一旦戻り指示を仰ぐこと。ケイは俺と来い」

「了解!」

「了解リーダー!」

 

 

 

「どこもかしこ、も! アラガミだらけ!」

 

 神機を振りまわしながら進むような進軍の中、ケイが息を荒げながら呆れ返って不満を叫んだ。民間居住区にアラガミが侵入した光景なんて見たくもなかった。

 

「ああ、ウィルが守っていたCブロックからの侵入はないが、それ以外の防衛がガバガバだ。……チッ、エレベーターは死んでるか……ケイ、俺はDブロックへ応援に行く。お前はアナグラ周辺を警戒、かつ中の安全を確保しろ。民間人もここに押し込められてるはずだ」

 

 コントロールパネルを操作して電気系統を復旧させようと試みるも、失敗したらしい。シンジは低く舌打ちした後ケイに命令を下して神機を担ぎなおした。ケイもピッと簡易敬礼を返して頷く。

 

「了解! ………………ん? 待って、エレベーター死んでるのにどうやって入れと?」

「登れ、以上。健闘を祈る」

「……え? ええええぇぇぇええ!?」

 

 冗談でしょ!? と悲鳴を上げるケイを置き去りに、シンジはさっさと走り去った。無慈悲すぎる。

 口元を引き攣らせながらも残党らしいアラガミを無意識に地に伏せさせつつ、ケイはアナグラを見上げた。アナグラはこうしてアラガミがハイヴ内に侵入してきた場合に備えて一階二階周辺には窓やとっかかりは作られていない。つまり、シンジの言う通り、中へ入るにはエレベーター以外では登るしか手段はないのである。

 

「マジで………?」

 

 最悪、と心中でつぶやきつつ、やるしかないか、と覚悟を決める。登攀途中で飛行型アラガミに襲われたら、その時はもう年貢の納め時にするしかない。一つ大きく息を吐いて、ケイは神機を握りなおした。

 

 

「ソーマ、民間人の数はどうなってるんだい?」

「十万五千八百七人。確認できていないのは約九千二百人だ。それにアナグラはそこそこに収容できる施設であるにせよ、限界が近い。九千人もの人間をあと詰め込めるか……」

「さあ。いざとなったら私の権限で第一級秘匿地帯も解放するさ」

「………後で本部に大目玉を食らうぞ」

「なんとかなるよ。それより、現時点で動けるゴッドイーターがいない事の方が問題だね……」

「博士ー!」

「ユウナくん。怪我人の治療状況はどうなってる?」

「オペレーターとフェンリル関係者で手当に当たっています。しかし、各階に侵入してきてるアラガミを押しとどめているゴッドイーターへの交代も、治療も出来ないのが現状です」

「参ったな……」

「……俺が出る」

「それは許可できない。ヨハンからの命令もあるし、君の身体がまだ出来上がってないという理由もある。なにより、ケイに怒られそうだしね」

「ここを守るためなら、アイツだって―――」

 

 ソーマの言葉が言い終わらないうちに、ドカァン、と大きな破壊音が鳴り響き、アナグラが地響きの如く揺れた。よろめくペイラーとユウナを他所に、敏感にその音の源の方向を察知できたソーマが窓へ走る。ソーマたちがいる場所からそう遠くない、そしておそらく下からだ、と判断したソーマが対アラガミのコーティングがされた窓から下を覗く。すると、そこには。

 

「――――ケイ!?」

 

 神機を壁に突き立てて、それにぶら下がるケイの姿があった。彼女のすぐ脇には、アラガミの攻撃の跡が大きく口を開けている。ソーマの言葉に、ペイラーとユウナも窓に駆け寄った。

 慌てて窓を開けて彼女の名前を叫ぶと、ケイはぱっとこちらを見上げてニッと笑った。

 

「ただいまーソーマ! 帰ってきたら支部が半壊してた私の話、聞く? あ、お父さんにユウナも!」

「いいから上がってこい! 何をしてるんだそんなところで!」

 

 ケイに向かって手を目いっぱい手を伸ばす。彼女からも伸ばされる手を掴もうと身を乗り上げた時、ケイの表情が一瞬で鋭くなった。足が振り上げられ、神機を物理法則を無視して壁から抜き、壁を蹴り上げて上へ跳ぶ。

 ソーマ達より上空にまで到達し、今にも光球を放たんとするザイゴートをたたっ切った。しかし、神機と体が壁から離れてしまったことで、ケイの身体は完全に落下に入る。

 けれども、幸いゴッドイーターと遜色ない身体性能をしているソーマが、寸でのところでケイのフードマントを掴んだ。

 

「ケイ!」

「ッう……ありがと、ソーマ……ちょっと乱暴だけど、助かった」

「落ちてくる方が悪い! 危ないだろうが!」

「いやー、窓開けちゃうソーマに言われたくないなぁ。まぁいいや、丁度良いから引き上げてー」

「ケイ、無事かい?」

「元気元気ー! 夜通し走ってきたからちょっぴり疲れてるけどね、十分動けるよ!」

「全く聞き流せない話が聞こえた気がしたけど、それでも今は戦力が惜しい」

「りょーかい、蹴散らせば良いんでしょ? どこから?」

「地下エリアが最も緊急性が高いです! 民間人も多数収容されているのに、アラガミが次から次へと湧いてきて、ゴッドイーター達が奮戦してくれていますが……それと三階のエントランス、七階の広間にも飛行型アラガミが……」

「オーケー。地下から、上へ駆け上っていけばいいんだね?」

「ああ。どうか無事で」

「……回復薬が足りないんだから、怪我もするなよ」

「アハハ、ダイジョーブダイジョーブ! ケイ・サカキ、出撃します!」

 

 




レゾナンドオプスとやらでウィリアムという方が出るそうで。やべぇや、改名すべきかな? いやウィリアムの名前登用したのわいが先やし……めっちゃエネルギッシュそうな方でしたねウィリアムくん……こっちは省エネというかクール()な感じですのに……
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