今回はソーマ視点。
ソーマは出自のため、精神年齢は年齢より高めです。そうでないと生きてこれなかったので。
え?ソーマがちょろい?気のせいじゃないですかね(震え声)
読みやすい字数てどんなもんじゃろか・・・
抱えた孤独の在処を、引出の奥にしまうのは。
誰かが開けて見つけても、触らずそっとしておいてほしいから。
俺の事を知りたいとか、気宇壮大な奴は今までにもいて。そいつらは引出の奥に手を伸ばすけど、開けても閉めず、みんな去っていった。その度に心は、慣れた手つきで片づけ、より奥深くにしまいこんでいく。無意識だったソレに気づいてからは、もう人と関わろうなんて気持ちには、ならなかった。
『いいか、お前はアラガミと戦うために生まれてきたんだ』
『泣いているだけの者に、アラガミは倒せない。それはお前の存在理由の否定だと思え』
生物学上の父の声が頭の中を反芻する。
それと共に、ソーマを弾劾し非難する囁き声や嘲笑う声。
容易く断ちがたい、憎しみと悲哀。
わかっている、ちゃんと、わかってる。
「私はケイ・サカキ。貴方は?」
女の子に、会った。
彼女は明らかに自分より歳は上で、父親とは良好な関係を築けている、温かそうな、柔らかくて壊してしまえそうな子だった。黒い髪、白い肌、手がすっぽり隠れるほど長く淡い朱色の袖付きマントを着てにこりと微笑を浮かべる少女。
壊してしまうのは本意ではないので近づかないでいたら、彼女の方から近づいてきた。
「……ソーマ・シックザール」
ケイは優しく微笑み、友達になろうと言ってきた。その言葉に嘘はなくて、つい手を伸ばしてしまいそうになった。
それを理性が自制して。
ひねくれ物め、と自らを自嘲した。またあんな思いをするのは嫌で、ただただ黙った。
そして彼女は。
「ソーマー、好き嫌いしちゃだめ。栄養が偏る、ってわかんないか、うーん、大きくなれないよ?」
何故か、隣にいた。
お昼時、多くの職員や研究員が使用する食堂の隅で、かき込むように食事をしていると、いつの間にかケイが隣に座っていたのだ。彼女は自分のフォークでソーマの皿に集められたピーマンの山を指す。
「………………‥‥………なんでいる。」
「ん? んー、お父さんはソーマのお父さんと話してるからものすごーく長そうだし、こっちに知り合いもいないし、何よりソーマがいたから!」
「……………………………………………」
にっこりと笑顔を浮かべるケイを無視し、黙々と食べ続ける。
それなのにケイは、延々とたわいもない話を続けた。まぁ私もピーマン苦手だから人の事言えないけどね、やら極東は湿気が多いから2割増しで髪が跳ねる、とか。
結局、それに一切返事をすることはなかった。無論、言われなくともピーマンは、ちゃんと食べた。
自分でも早く食べた自覚があるのに、話をしながら食べていたケイは更に早食いのようで、食べ終えたのは同時だった。トレイを返そうと立ち上がりかけたその時、食堂の扉が開き快活な声が響いた。
「おーい、ケイ! 放っておいて悪かったよー! 検査するからおいで!」
「はぁい! ソーマ、また明日」
ケイは勢いよく席を引いて立ち上がりソーマに笑いかけて、トレイを両手に椅子を蹴っ飛ばして戻して駆けていった。行儀が悪いな、と眉を顰めると、ケイは振り返って悪戯っぽく笑う。そのままケイはトレイを返却場所に返して父親であるペイラーの隣に嬉しそうに並び立つと、二人で何やら話し合いながら笑って去って行く。
仲が良いんだな、とだけ思い、その光景を見なかったことにしよう、とフードを深く被り直した。
「ソーマ!」
その翌日のまたしても昼食時、彼女は帰り際の宣言通りやってきた。ひらひらと片手(というか片袖)を振りトレイを持って駆け寄ってくる。てっきりあの研究員らしき父親から聞かされたものとしていたが、どうやら違ったらしい。ほかの職員のソーマに向けられる気味悪そうな視線や、自身に向けられる困惑の視線をものともしていない。大物なのか鈍感なのか、と呆れていると、ケイはさすがに気が付いたのか首を傾げている。
「どうしたの、ソーマ? おなか減ってるの? 便秘?」
「違うッ!」
なんて失礼なヤツなんだ、思わず無視することも忘れ声を上げると、ケイはそれをわかってるのかわかってないのか言葉をつづけた。
「ソーマ、食堂で大声出しちゃいけないんだよ」
「お前が出させてるんだろっ、というか走ってきたお前が言うのか!」
「いいからいいから、早く食べよう」
人の話聞けよ、というのは大分時間が経った後思い返してみての感想である。にこにこと掴みどころのない笑顔を浮かべながら、躊躇いなくソーマの手を握って引き、食堂の空いてる席に座った。力を籠めるのに躊躇して、結局握り返せない。
いつもの端の席ではなく、真ん中よりやや奥側程度の場所。もちろん近場にいた職員たちは困惑し、さり気なく逃げるように席を変えていった。
それを意にも介さない様子のケイを見て、やっぱりただのバカだ、と溜息を吐く。
そしてやっとはっとして口を押えた。つい返答するように大声を出してしまった。眉根を寄せるソーマに気づかず、ケイは昼食をもぐもぐと咀嚼していく。
「昨日も思ったけど、食堂のごはんって、何気に美味しいよね。手作りなのかな?」
「…………………………………………‥‥‥‥………………………………………」
「もし冷凍食品みたいに大量生産系統の方法だったらそれはそれですごいかも」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
「っていうかここの施設広いよねー。今日も食堂来るのも1時間くらいかかったんだー」
……そういえば彼女はどこに住んでいるのだろう。一般居住区なら、1時間という数字は、まぁ頷ける。関係者居住区なら……ものすごく迷えばそれくらいかかるかも知れない。
「あ、私が住んでるのは研究者居住区なんだけど」
「なんでだ!!」
研究者居住区は食欲の感覚が極端に薄い研究者が多いので、少しでも近場にあれと、一番遠い部屋でも食堂まで歩いて5分程だ。道も一本道だし、むしろ迷う理由がない。
どこでどうやれば迷うんだ、思わずまた声をあげてしまった。
「え、迷わない?」
「一度もない!」
「そうかなぁ……道が入り組んでて……」
「入り組むまえに食堂に着く!」
「うう、やっぱり私が悪いのかぁ」
眉を下げてどよりと暗いオーラを放つ少女は、不貞腐れたようにフォークに刺さった野菜をちびちびと齧る。すると、今の雰囲気がなかったかのようにぱっと顔をあげ向き直った。
「そういえば、ソーマってどこで訓練してるの?」
「第8訓練所だ……………は?」
「え、ソーマってゴッドイーターになるための訓練してるって聞いたけど、違うの?」
「…………知ってたのか」
「うん」
もくもくと食事を口に含みながら、なんでもないことのように首を傾げながら頷いた。けれど察するに、ソーマの異常さは知らないのだろう。
そのことになんとなく緊張を抜きながらも、胸のつかえがとれることは、なかった。
その翌日も、その翌々日も、その次の日も、彼女はソーマを見つけると駆け寄ってきた。
それは訓練帰りもあったし、夕食や昼食の時だったりした。昼食に会えない日は、どうやら自らの方向オンチに四苦八苦しているらしい。
彼女は、何時だって何処でだって、ソーマに笑いかけた。それに苦笑を返して、彼女の振る話題に意識をせずとも返すようになるのに、そう時間はかからなかったように感じる。
ああそうだ、期待、している。
期待しているんだ、彼女に。
ケイなら、『ソーマ』を知っても、離れて行ったりしないんじゃないか、と。
今まで通り、笑って駆け寄ってくれるんじゃないかと。
「ソーマ!」
「……今日は迷わないで来れたんだな」
「にゃっ、そ、そうだよ?」
口笛を吹き目をそらす彼女を見て、ああ誰かに案内してもらったんだなと悟った。
ケイは人懐っこく研究員だろうが誰だろうが気にせず話しかけるし、とても分かりやすいので、見かねた職員が声をかけてくれたのだろう。それにしても、いくらなんでも分かりやすすぎる。そこが彼女の良いところでもあるのだが。
「ソーマ?」
「…………なんでもない」
「ボーっとしてないで行こ。空いてるトコは~」
握られる手を、それでも握り返せなかった。
第八訓練場はソーマの独壇場だ。
現在作られている訓練場の中で最も新しく、最も奥にあるのがここである。
新しい割に他とスペックが変わらず、その上単身訓練ばかりなため、元々あまり利用者は少なかった。それを幸いと思い、ソーマはここを好んで使っている。
人が来ないのは良いことだ、邪魔はされないし、ふとした瞬間の静寂が心地いい。その直後に訪れる寂寥には見なかったふりをして、今日もソーマは神機を振るう。六歳のソーマはゴッドイーターではないが、因子は持っている。だから既に自分専用の神機もあるし、それを使う事も出来た。
模擬アラガミを吹っ飛ばし、ポリゴンみたいにボロボロと消えて行く様を眺め、さあもう一体、と構えた時、軽い空気の音と共に背後の扉が開かれた。
「あっ、ソーマだ。ってことはここ、第八訓練場?」
「ッ………お前か」
一瞬だけ固くなった体の緊張を解き、振り返った。赤いマントを大きく揺らして、ケイが開かれた扉から笑顔を覗かせている。
言動から察するに、また迷いでもしたのだろう。
「それがソーマの神機?」
「ああ」
青みがかった銀色の神機が鈍く光を反射する。
ケイはてってこと軽い足取りで近寄り、白い指でつーと刃を撫でた。
「綺麗に手入れされてるね」
満足そうに頷く姿は、まるで神機を実際に自分でも手入れしているようだった。ケイがじろじろとソーマの神機を隅から隅まで眺めていると、ブン、という鈍い機械音と共に模擬アラガミが顕在された。
「下がっていろ」
「うん」
気が抜けるような軽い返事を打ち祓うように、神機を握りしめる。
プログラミングされた動きしかできないアラガミはそれでもそれなりに強く設定されているので、常人には十分危険だ。模擬アラガミのワンパターンな攻撃を掻い潜って、顎から股下を掻っ捌く作業を淡々とこなしていく。神機を振るのは嫌いじゃない、自分が強くなっている実感が持てるから。
一番弱いオウガテイル型なので、五分と経たず終わった。部屋備え付けの端末をいじって模擬アラガミの発現を止め、ようやく一息吐く。
ケイを見れば、彼女はじっとソーマを見つめていた。
恐怖で固まってしまったのだろうか、それともソーマと他のゴッドイーターとの違和感に気づいたのだろうか。やはり彼女の前で神機を振るのは軽率だったかもしれない。
ソーマが何も言えずただ立ち尽くしていると、ケイは強いんだね、と静かに笑った。
それから、ケイは時々第八訓練場に来ては、ソーマの訓練を眺めるようになった。いつも扉の傍に座り込んでは、じーっとソーマの姿を見つめている。
訓練が終わった後にぽつりぽつりとする話は日を追うごとに段々と長引き、次第にソーマは訓練前にケイを待つようになった。
ある日、どうしてゴッドイーターになる為の訓練をするの、とケイに問いかけられた。ソーマは何も考えずに、それしかないからだ、と適当に答えた。
事実、そうする以外ないからだ。
なのにケイはそれから、度々その質問をするようになった。
「ソーマは、どうして今日も訓練をするの?」
「これしかないからだ」
ケイはソーマの答えに、いつも苦笑気味に微笑むだけだった。訓練の終わりにその応答をして、食堂へ行って一緒に夕食を食べる。
そんな日々が日常に変わり、ケイがアナグラに来て三か月が経った頃。
珍しく、ソーマが訓練場へ着く前にケイが訓練場の中で一人佇んでいた。
朱色のマントは時を止めたかのように微動だにせず、いつも軽快に揺れる黒髪はずっしりと重く流れている。
震える程うつくしい姿だった。
まるで一振りの剣のような、アラガミを倒すことしかできない神機のような。
思わず止めた息が、ケイがこちらを振り返る事でまた動き始める。ケイはソーマに微笑んで、またあの問いをした。
「ソーマはどうして、今日も訓練をするの?」
切っ掛けも何もあったもんじゃない。
ただその日に偶然、そんな気分になっただけだ。
少しだけ考えてみようという気になった、それだけ。
「――それしか、生きていい理由を見つけられなかったからだ」
幼き日の父親の声が何度も蘇る。
結局のところ、ずっとソーマはそれに囚われ続けたままだった。
ケイは変わらず微笑みを浮かべ、今度は全く違う、まるで脈絡性のない質問をした。
「ソーマの願いは何?」
言葉の意味が良く捉えきれなかった。
願い事、願いとはいったいなんだろう。
誰かに願う事なんて、何一つだってないのに。
「特にない」
正直にそう答えると、ケイはほんの少し悲しそうに、また微笑った。
その日から、ケイとのお決まりの応答はそれに変わった。それからさらに二か月経ち、ソーマの神機が大きなメンテナンスに出されることになった。ケイと話す時間はあれからも少しづつ少しづつ増え、今では長話をしても苦痛には思わない。ふとした瞬間の彼女の笑顔が、瞼に焼き付いて離れなくなった。でも嫌な気分でもなくて、なんなら大きな声で歌でも歌ってしまえそうな程の気分の良さ。この感情に名前を付けるとしたら、ケイはどんな名前を付けるだろう、そう思っていた矢先、事件は起こった。
以下前日譚↓
少女がケイになって4年が経ち、ペイラーによってこの世界の事、そしてケイの持っていた神機についての凡そを教わった。
医学にも通じているペイラーに軽い検査をしてもらった所、ケイはどうやら推測通り6歳らしかった。
4年経った今では、もう10歳である。
ただし受け答えや頭の回転は確実に10歳のものではないが。
ケイが記憶を失っているから詳しい事は分からないし、知らないとしても大した問題ではない、という事で、無理にでも記憶を戻そうとするのは諦めた。
ちなみにこの4年でペイラーが与えた知識の9割はアラガミについてだったのは、完全な余談である。
ケイは嫌な顔ひとつせずにこにこ聞いていた。
よく出来過ぎた娘である。
そして4年かけてこの世界の実情をきっちり理解したケイは、自分のすべきことも当然のように理解した。
12になったらゴッドイーターになりますと言ったケイに、すっかり情の移ったペイラーはせめて13!13!と言い募り、1時間ほどの激闘を経て13からの約束となった。
しかも「お父さんの手助けがしたくて」と、腕輪を隠すための長く口の広い袖ではにかみを隠しつつ言うものだからすっかり頭を抱えてしまったのである。
閑話休題。
さてようやくケイがこの施設――ペイラーの所属するアラガミ研究機関ロス支部に慣れて、研究施設の人々とも子供らしく無邪気に仲良くなった頃。
「ケイ、転勤することになった。」
唐突なペイラーの話に、ケイは一瞬だけ固まった後、恐る恐る口を開いた。
「私も一緒に行けるんだよね?」
「勿論さ! むしろケイに嫌がられたらこの話は蹴るくらいのつもりだよ。」
「それはそれで大人としてはおかしいような。でも、ずいぶん急だね?」
「そうかい? まぁ、ちょっと友人に誘われてね。」
少し癖のある黒髪をさらさらと撫で、ペイラーは意味ありげに笑う。
彼がこうして笑うときは良い事3割面倒事7割なので、ケイは少しだけ困ったような顔をするが、支度してきますとすぐに自室へ走り去った。
「良い子だなぁ」
ここ1年で何回か極東支部に訪れたときに会った子供。
過ちの証、誰からも受け入れられず、誰も受け入れない眼をした子。
ケイなら、あの子と仲良くなれるかもしれない。
親の欲目を含んでいたかもしれないけれど、それでも希望を抱いた。
以前はそれなりに自分でも片付けていたのだが、ケイが来てからは気が利く彼女によって殆ど綺麗に整頓されてしまっている。
早い話が大の大人が甘やかされたのだ。
研究員もその被害にあっているのを見ると、稀に見るダメ人間創造機だった。
荷造りを開始して早々書類の山に唸りつつも片付けていると、予想より4881秒ほど早くケイが応援に駆けつけた。
「思ったより早く終わっちゃった。物が少なくて」
「うーむ、一応4年もいたんだけど、そうか。あんまり外には連れ出してあげられなかったからなぁ」
「不便はしてないよ」
「うん、でも今の研究が一段落したら、一緒に買い物に行こうか」
「期待しないで待ってるね」
可笑しそうにくすくす笑いながらもテキパキ手早く書類を片付けていく手つきは慣れたもので、自前であろうファイルに類別され片付けられていく。
2、3時間ほどしたところで部屋に散乱していた書類は全てファイリングされ終え、あとは大きな家具と日用品、それとケイの持っていた神機を詰め込むだけとなっていた。
「君の神機はこっちで研究資料として私の部屋に届くようにしておくよ。向こうに勝手に開封しないよう言っておくからね」
「うん、よろしくお願いします!」
「記憶がなくとも、これはやっぱり君の半身なのかい?」
たまに手入れをするところを見ると大事にしているのは明らかだが、聞いたところその理由はケイ自身でも分からないようだった。
神機の手入れは的確で慣れていて、幼いケイがするには違和感の沸く光景だ。
「どうかな。でも、これを触ると、時々失くした記憶が思い出せそうな気がして」
さらりと神機を撫でて意識を遠くするケイはあんまりに大人びていて、恐ろしく思った。
まるで振り返ったら消えてしまう陽炎のような。
ペイラーの視線に気づいたのか、ケイはペイラーを見上げてにこりと笑う。
「だーいじょうぶ!記憶がなくても、過去がなくても、なんとかなるもの!」
微妙にズレた回答を寄越すケイに、ペイラーは笑って彼女の頭をくしゃりと撫でた。
それから2日ほど経過して、とうとう極東へ移り住む事になった。
4年過ごした研究所は、ケイには感慨深いのではないかと少し時間をあげたが、どうやらそうでもないようで。
むしろけろりとしたケイが涙する研究員たちを宥めている光景の方をよく見た。
あまり感傷的ではない性格なのかもしれない、と考えを改めて飛行機に乗り込んだ直後、ぼろぼろと涙をこぼし始めたものだから、大層驚いた。
どうやら心配かけないように気丈に振る舞っていたらしい。
落ちる涙を拭おうともしない彼女は、窓の外を口をへの字にしながら見つめている。
ペイラーはケイの頭を出来うる限り優しく撫でて、彼女の寂しさが和らぐよう祈った。
泣き止んだ後、涙を拭いつつケイは首を傾げた。
「そういえば、お父さんの友人ってどんな人?」
「ヨハネス・フォン・シックザール。私の昔の研究仲間さ。6年前まではよく一緒に徹夜して研究に耽ったものだよ。今は支部長補佐なんだけどね、彼」
「どうして、6年も会わなかったの?ロスには来てないみたいだけど」
「ああ、研究員たちから聞いたのかな。ま、少し事情があって、ね。それにここ1年は割と会ってたよ。出かけてただろう?」
「お父さん、行く場所を言った事なんて一回もないじゃない」
ぷうと頬を膨らませるケイの頭を、宥めるようにぽんぽんと撫でた。