「よっ、ほっ、とーいっ!」
掛け声と共に神機を振るい、侵入してきたアラガミを端から切り刻む。狭い通路で暴れまわるように倒していくものだから、返り血……というか返り液体がひどい。頭からモロに被った液体を頭を振って払い、肩で息をする背後のゴッドイーター達を振り返る。
「殲滅完了! メアリー、ロック、被害状況は?」
「民間人の死者二名、重傷者十二名、軽傷者三十名、残りは無傷だ」
「ケイちゃん、応援、ありがとー……」
防衛部所属の第四部隊、副部隊長のちょっと粗暴なロックと、隊員のゆるふわ系美少女メアリー。二人はボロボロの神機と傷だらけの身体ながらも、しっかりと二足で立っていた。
「どいたま! はいこれ二人の回復錠。後は任せてだいじょぶ?」
「当たり前だ、先輩ナメんな!」
「だいじょーぶー」
ロックはともかく、メアリーがとっても心配であるが、ここで立ち止まっているわけにもいかない。ケイは一度天井を見上げて、僅かな振動に眉を寄せた。
「ケイ」
「っうわ、なに?」
「さっさと上に応援に行ってやれ。お前を、みんな待ってるんだからな」
「いってらっしゃい、ケイちゃん」
がしり、と頭を片手で掴まれ、抗議するように見上げた二人は、柔和な笑みを浮かべていた。手を振る二人に、ケイは唇を噛み、力強く頷く。
「うん。行ってきます!」
神機を再度掴み、ケイは口角を上げて笑みを作り、その場から駆け出した。
強く、強くなりたい。もっと、誰もいなくならないくらい、誰もを守れるくらい、強く。
「―――なんて、ちょっぴり傲慢かな………」
自嘲気味に口元を吊り上げながら階段を駆け上り、一階づつ廊下を走り回ってアラガミの有無を確認する。せめてアナグラ内くらいはと方向オンチが作動しないようになっていて良かった、本当に。侵入してきたアラガミをしばき倒しながら登り詰め、ついには屋上へと転がり出た。
「ただいまタカさん!」
「お、おかえりさん嬢ちゃん」
「状況はどうなってるの?」
「とりあえずこっちゃ来い」
屋上に鎮座する砲台を好き勝手に操りながら、キヨタカが手招きするので、ケイは彼の傍らにてってこ駆けていった。金網越しに街の様子を見渡せば、籠城戦でもしていたのだかと錯覚するほどの戦闘痕が刻まれ、四方からは防壁や家屋などが壊れたことによる黒煙が立ち昇っている。
「ひどい……」
「どこの方向も大量のアラガミが押し寄せてる。どこへ行っても死にかねない戦地の上、敵のパワーアップでこっちは負傷者多数。中々に絶望的な状況だ。ところで嬢ちゃん、もののついでなんだが、ちょっと包帯巻きなおしてくれや」
「え……って、ちょ、利き腕じゃん!」
「おう。さっきから撃ち辛いったらねーよ」
「撃ち辛いってレベルじゃないよね!?」
神機を放り出して、慌てて懐に突っ込んでおいた包帯を取り出して巻き付けた。処置をしている合間にもキヨタカが神機を扱うためにひどく巻きづらいが、その程度をカバーできるくらいの技量は持っている。
「サンキュ」
「うん。タカさん、どうしよう。私、どうしたらいい?」
「ここの防衛……って言ってやりたいとこだが、今はどこも余裕がない。Bブロックへ回ってくれ。行けるな?」
言われてBブロックの方を見れば、壁に群がる数十のアラガミが見えた。Aブロックの壁は既に破れているが、そちらは先ほどからずっとキヨタカが狙撃し続けてなんとかなっている。
「わかった。大丈夫、行けるよ」
「悪いな。余裕があれば援護する」
「それより支部に侵入しそうなアラガミを撃ち落としてね! 行ってきます!」
神機を掴み、キヨタカの銃口を避けてフェンスに飛び乗り、アナグラ支部の屋上から地面へ向かって飛び込んだ。こんなところ見られたらまたソーマに怒られそうだなぁ、と頭の片隅で思いながらも、地面に着地した後に衝撃を逃がす為横へ三転する。足の駆動に問題がないことを確認して、ケイは崩れかけた居住区の家屋に登り、屋根と屋根を飛び乗って移動していく。
一分と経たずBブロックへ到達したはいいものの、出撃ゲートが壊れていたため、一度壁が壊れているAブロックから回り込むことにする。流石に防壁を登るのは面倒だし、穴をあけるのも忍びない。
当たったら何メートル吹っ飛ぶのかと呆れる威力のバレットとアラガミの攻撃が飛び交う中を掻い潜り、迅速にBブロックの外壁へ移動する。
「う、うわー……これ、私ひとりでやるの?」
思わず独り言が漏れてしまうほど、防壁の傍らは混沌と化していた。地面が盛り上がっているのかと見紛うほど密集した小型アラガミ共に、若干吐き気がこみ上げてくるが、すぐに振り切って神機を構える。地面を蹴って、大きく跳躍してから群れの中心に突っ込む。真下にいたオウガテイルを串刺しにし、すぐさま引き抜いて神機を振りまわし周りのアラガミを一掃した。舞った砂塵が払われて見えたのは、視界いっぱいに広がりこちらを睨むアラガミ共。背後には壁、退路はなし。夜中3時により視界は最悪。
こういう事態にならないためにバディがいるんじゃないのかなぁと独り言ちながら、神機をブンと一つ振り下げた。この程度、シンジとの訓練みたいなものだ。
*
「総員、しっかり休めよ」
はぁい、とゼリー飲料から口を離してなんとか声を出す。ちょっとばかし気の抜けた返事になってしまったのは目を瞑ってほしかった。
あれから延々襲来するアラガミと戦い続け、殲滅し終わった頃には二日が過ぎていた。ボロボロの身体を引きずって支部に戻り、エレベーターが壊れていたのを思い出して絶望していたところにシンジが帰投してきて、彼に回収してもらってどうにかアナグラ内へ入りこんだのだ。
どうやらどのブロックも朝方にはアラガミ掃討を完了できたようで、現在アナグラは負傷したゴッドイーターに加えて、疲労困憊のゴッドイーターが増えたことにより医療系の関係者や研究者まで引っ張り出されててんやわんや状態となっている。
「よっ」
「あ、リンドウ。おつかれー」
傍にリンドウが座り込み、互いをねぎらいつつ一緒にゼリー飲料をちゅーちゅー飲み込む。リンドウも身体の至ところを包帯で覆い、その激闘が伝わってくる。
「おつかれさん。Bブロック一人で支えてたんだって?」
「まーね。そっちはどうだった?」
「ウィルさんがいたからな。いや、流石タカさんの弟子。あの正確さはヘンタイの域だぞ」
「めっちゃわかる。そういえば、ツバキちゃんたちは?」
「生きてる連中が回収しに向かったとさ。一時作戦は中止らしい。軍部はぐだぐだだし、こっちも壊滅状態だしなぁ」
「まぁ、そりゃそうなるよねぇ……あ、ソーマ!」
おーい、と医療スタッフの使いっ走りとして忙しなく動くソーマを見留めて声をかけると、こちらに気付いて鬼の形相をしながら駆け寄ってきた。ぎょっとびくつきながらもにへらと笑って迎えるも、ソーマの眉間は増々深く刻まれる。
「ケイ、怪我は」
「細かい傷がいくつかって感じだから、特に手当は―――」
「……………………………………」
「じょ、ジョークだヨー。手当します、ちゃんとしますってー」
「当たり前だ。傷診せろ」
「はぁ~い……」
傷を放置して包帯を巻かなかったのが怒りの原因だったらしい。ほんとうにすぐ治るのだから、そのぶんの包帯を他の人に使えばいいのにと思うのだが、言ったら殴られそうな気がするので言わない。
ペイラーに教わったのかもしれない、手つきは澱みなく、あっという間にケイの傷には適切な処置が施された。
「ん。ありがと、ソーマ」
「どういたしまして、だ。他は」
「ないない。これで全部ですー。もう、過保護なんだから」
「お前が隠すからだろ」
「正論すぎる……」
反論の余地がミクロンもないソーマの言葉に、ケイはうーんと唸った。なんだか最近ソーマが日に日に厳しくなっている気がして、寂しいケイであった。べらぼうに嘘だけど。
「お父さんは?」
「処理で追われてる。あれは徹夜だろうな」
「うわあ」
苦い表情を浮かべながら、じゅるー、と空になりかけのゼリー飲料を啜る。甘いだけのそれは特にまずくもなく美味くもなく、軍用レーションにしてはマシな部類だ。所詮はカロリーを摂取するためだけのそれを早々に吸い尽くして、少し離れたごみ箱へシュートする。
「よし、私も怪我人の手当て手伝っちゃおうかなー!」
「コラ」
「あいたっ」
背後から叱責と共にぽかりと丸められた書類で頭をはたかれ振り返ると、そこにはケイに負けず劣らずな包帯量のシンジが立っていた。
「医療スタッフに仕事をさせろ。今のお前らは寝るのが仕事だ」
「いや、それが、なんつーんスかね、ランナーズハイ?」
「なんとなく伝わっては来るな……それでも休め。作戦は中止になったが、再開、延期がないとも限らない。身体を休めておくに越した事は無いさ。ソーマ、こいつらベッドにぶちこんでおいてくれ」
「わかった」
ソーマは右手でケイの腕を取り、左手でリンドウの耳を掴み上げた。イデデデデ! と叫ぶリンドウをお構いなしに、ずんずんと廊下を歩きだす。さすがゴッドイーターのオリジナル的な存在、怪力ってレベルじゃない。
引きずられるのは勘弁と言う事で大人しく従うことにしたケイとリンドウに、シンジが思い出したように声をかけた。
「どの部隊の部隊員も生存確認完了。怪我は多少あるが無事だとさ。安心して寝てろ、新人ども」
シンジの言葉に、ケイとリンドウは顔を見合わせた後ニッと笑みを浮かべ合った。テンションの赴くまま二人でソーマの肩に組み付く。最終的にキレたソーマが(リンドウを)拘束もろともぶっ飛ばしてオチとなった。